沿岸警備隊の事務所で、ショーン達は話し合っていた。
「はあ、事情は分かったが? 次に襲撃されるとしたら、チンピラどもは仲間達を増やして来るかも知れない」
「ゾンビだって、いつ襲ってくるかは分からないわよ?」
「そこで、提案なんだが? ここにある食料や水を君達に与える代わりに、要塞化を手伝ってくれないか?」
「私達の通信機は故障しているし、ここは資材不足で、バリケードすら作れない…………それに武器もないから」
ショーンは、チンピラ達が再度襲撃してきた場合に、今度は負けるだろうと考える。
リズも、ゾンビ達が押し寄せれば、高級デパートや冒険者ギルドみたいに拠点が潰されると思った。
エドガーは、二人に対して、物資の取引を持ちかけてきた。
カルメンも、不足する拠点防衛用の材料を求めて、持ってきて欲しいと頼む。
「で…………今は、リザードマンのクレンショー、ヒューマンのダビド達が、外を見張っている? それで、資材を集めに行って欲しいんだが」
「二人は、監視カメラを監視室から眺めているわ? それから申し訳ないけど、何人か見張り役に残ってくれないかしら? 私達だけじゃ、警備が足りないのよ」
「はあ~~? つまり、俺達に武器やバリケードの材料を集めてこいと言うワケだな? あと、警備かの人員も残せと」
「しかし、食料や水だけでは報酬として、足りないぞ」
エドガーとカルメン達は、ゾンビ&チンピラ達の襲撃に備えなければ成らないと答える。
それを聞いて、ショーンは面倒ごとを頼まれたと思い、ワシントンは相応の品物を要求した。
「通信機が直せれば、他の避難所と連絡が取れるわ? あと、ここが無事なことを報せられたら、民間人が集まってくる」
「そうなれば、より安全な避難所に行けるかも知れない、また民間人が増えれば、職人や商人から武器を強化して貰えるだろう」
「なるほど…………たんなる人助けで、終わらないのは確かだな? 俺達にも利はある」
カルメンとエドガー達は、要塞化を手伝えば、様々な支援を行えると話す。
二人の答えに、ワシントンは頷きつつ、両腕を組ながら眼を瞑る。
「じゃあ~~仕方ないっ! どのみち、俺達で行くしかないか? マルルン、ここの警備は任せたぜ」
「いや? ここは俺達が引き受けよう」
ショーンは、これが自分たちの仕事だと思い、マルルンに警備を任せようとした。
しかし、彼も同じ冒険者として、危険地帯に行く責任を丸投げする事はできない。
「マルルン? 行くのも危険だが、ここに留まるのも同じだ…………いつ、チンピラ連中が襲ってくるか、分からんからな」
だが、ショーンは自分たちが行くと言って、マルルンを説得する。
「だから、俺達が無事に帰るまで、ここを守ってくれ」
「ショーン…………そう言うことなら、任せてくれ」
ショーンの説明を聞いて、マルルンは事務所を警備することにした。
「と? その前に~~行くのは午後からだな? それまで、飯を提供してくれよ」
「カップ麺くらいしかないが、今は災害時だから我慢してくれよ」
呑気な事を言いだした、ショーンの言葉を聞いて、エドガーは奥に向かって行った。
それから、数時間後、昼食を済ませた冒険者たちは、廊下に
「なあ? 俺が、どんどん勝手に話を進めちまったが、文句は無いか?」
「どの道、お使いには行くしかないからな…………それに、彼等と利害は一致している」
「まっ! 文句を言っても、仕方ないにゃ」
「それに、私達は冒険者だからね? 危険は承知の仕事だしさ?」
ショーンは、外から見えぬように、カーテンが被せられた、窓辺に立っている三人に声をかけた。
ワシントンは、狩猟弓を背中から取り出しつつ、真面目な顔で答えた。
ミーも、準備万端だと言うような表情で、歩きだし、戦混を両手に握る。
フリンカは、面倒くさそうな態度を取りながらも、次なる戦いを覚悟して、窓から背中を離した。
「と言っても、普段は対魔物の警備しかしてないんだけどね…………でも、行くしか無いなら行くわよ」
「だからと言って、何もしないで、ゾンビに食われるか? それとも、チンピラ達に殺されるか? それを待つだけなのは、性に合わん」
リズは、マジックロッドを右肩に担ぎながら、カーテンの隙間から外を眺める。
そして、スバスは座して死ぬ気はないと言いつつ、火薬を小さな木箱に入れる。
「スバス…………幾つか、ギルドから材料を持ってきてたんだな? まあ、ここに居る連中は、大体が冒険者だもんな? よし、文句が無いなら行くとするかっ! ん?」
みんな行く気である事を確認した、ショーンは出発しようとするが、そこに誰かが近づいた。
「行く時間だな? ショーンと言ったか? 通信機が故障する前に、聞いた情報によると、新型のゾンビが出たらしい」
「名前は、マッスラーよっ! さっき、クレンショーが仕留めた奴だと思うわ」
「あのマッチョマン、マッスラーと言うのか? まあ、次は頭を狙ってやる」
エドガーとカルメン達から、ゾンビに関する新たな情報が、ショーンに提供された。
「資材を集めるために向かって欲しいのは、近くにある建築現場なんだが? そこから、パイプや鉄板などを運んできて、貰いたいんだ」
「それから、パソコンショップに行って、電子機器を持ってきて欲しいんだけど…………」
「そう言えば、スマホは使えないのよね? 国から報道規制されてるのかしら?」
「いいや、基地局が何らかの理由で破壊されたか、故障したんだろう? ゾンビやチンピラが暴れてるくらいだし、連中が何かしたのかも知れない…………電子機器に関しては、俺に無線機を見せろ」
エドガーとカルメン達は、地図を見せながら、行き先と欲しい物を教えた。
リズが考えた疑問点に、スバスは冷静に考察しながら答えた。
「こっちよ、無線機の調子が悪くてね?」
「故障した、パーツが分かったら、替えのを持ってくる」
「そういや、スバスは手先が器用だし、PC関係に詳しかったな」
「彼が居れば、心強いわね?」
スバスとカルメン達は、奥の通信機が置いてある部屋に向かって行った。
ショーンとリズ達は、その後ろ姿を眺めながら、二人とも呟いた。
「スバス、入口で待ってるからな」
「ショーン、済まないが待っててくれ」
ショーンは、スバスの背中に声をかけると、彼は振り返りながら答えた。
それから、彼等は入口の方へと、みんなで向かっていった。
「おん? お前ら、マルルンはどうしたんだ」
「マルルン達は、後ろ側の警備に行ってます…………私達は、貴方たちの無事を祈ってますよ…………」
「ここの見張りは、俺達に任せてくれ」
「エナジードリンクを頼むわ、私の魔力が切れそうだし」
「エナジードリンク…………私にも必要だから持ってくるわね」
ショーンの質問に、入口を警備していた、ジャーラは答えたあと、両手を組んで祈った。
テアンは、入口から外を見張りながら、クロスボウを構えていた。
カーニャだけは、エナジードリンクを頼んだが、これは魔力補充に欠かせない物だ。
リズも、火炎魔法を発射する際に、魔力を消費するため、出来れば持って来ようと考えた。
「無事を祈ってくれるとは嬉しいなっ! ま、とりあえず、先にパソコンショップに向かってくる」
「ドリンクな? 自動販売機を壊すか、店から持ってくるか…………これは、非常事態だから仕方ないだろう」
「それより、外は戦場だから気をつけなきゃ成らないにゃーーよっ!」
「おっと、置いてかないでくれよ」
ショーンが、入口のドアから抜けると、ワシントンとミー達が、後に続いた。
これから向かう、パソコンショップは、道路の右側を、暫く進んでいけば見えてくる。
だが、荒廃しきった路上を、再び進むのは、かなり危険を伴う。
それでも、彼等はスバスが合流したあと、駐車場から出ていくのであった。