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第12話 沿岸警備隊事務所での戦闘


 ショーンとスバス達は、駐車場の入口付近で息を調えていた。


 二人と対峙する敵には、体格のいいゾンビであり、奴は近寄ると豪腕を振るいまくる。



 筋肉質で、かなり立派な姿は、アスリートや軍人などと言った、職業の人間を思わせるようだった。



「どうする、ショーン?」


「ギャッ!」


 スバスが、話しながら鉄球を回転させて、横から攻めてきた、ウォーリアーを吹き飛ばす。


 その間に、ショーンは立ち上がり、直ぐに後ろに飛んで、距離を取った。



「計画した通り、先に注意を惹き付けるっ! それで、俺が前に出るっ! スバス、その隙に後ろから攻撃してくれ」


「分かったっ! 全力で支援してやるっ!!」


 ショーンが、一気に走り出すと、スバスは頷きつつ、鉄球を勢いよく回転させ始めた。



「こっちだ、巨大ゾンビッ!」


「ウガアアアアッ!?」


 声に反応した、体格のいいゾンビは、ショーンに向かって、路上を揺らして歩いてくる。


 対する彼は、素早く右側に避けて、攻撃される奴の背後に回り込んだ。



「チッ! 体をひねるのも速いなっ!」


「グオオオオオオッ!」


 しかし、体格のいいゾンビは予想以上に素早く動き、後ろに振り向きながら豪腕を振るう。


 ショーンは、ボクサーパンチ並みに強い一撃を、回避しながら左側へと、サイドステップする。



 スバスは、奴の気がれた一瞬を見逃さず、鉄球を振り上げた。


 真っ直ぐ投げ飛ばされた、トゲだらけの黒玉は、背中に直撃した。



「グオオ、グオオ、グオオオオッ!」


「はっ! まだ、死なないのか?」


 スバスは、精一杯の力を込めて、強烈な打撃を叩き込んだ。


 までは良かったが、体格のいいゾンビは思ったより硬い皮膚を持つ。



 こうして、彼による必殺技は見事に阻まれ、期待したほどの効果は上げられなかった。



「くそ、コイツは中々頑丈だなっ! 厄介な相手だぜ」


「しかし、不死身ではない…………傷を負わせてはいるっ!」


 ショーンが叫び、二人は再び息を合わせ、武器を握りしめて、なんとか連携を試みる。



「ガオオーーーー!!」


 豪腕を、滅茶苦茶に振り回しながら、体格のいいゾンビは前に出てくる。


 奴の動きに合わせて、ショートソードを真っ直ぐ向けた、ショーンが注意を引きつける。



 その間、スバスが隙を狙い、再度鉄球を投げる機会を伺う。


 二人は、この強敵を倒す事に集中しながら、緊張しているため、ともに冷や汗を体中から垂らす。



「行くぜぇ~~! イカれゾンビ野郎っ!!」


「グアアアアアアアアッ!!」


「この隙に、俺がっ!! うわっ!!」


 ショートソードで、ショーンは見事に腹を切り裂いたが、体格のいいゾンビは動じない。


 オマケに奴を目掛けた鉄球による打撃は、右腕に弾かれてしまい、スバスは慌ててしまう。



「グアアーーーー!!」


「やっべ…………」


 体格のいいゾンビは、ショーンに対して、両腕を組んで、また上から重たい一打を放たんとした。


 しかし、ショートソードで、二撃目に移ろうとしていた彼だが、今度は避けられそうになかった。



「グアアアアーーーー!!」


「不味いっ! うわーーーー!」


「今にゃっ!?」


「行くよっ!」


 体格のいいゾンビは、両腕を頭上に掲げ、思いっきり振り下ろす。


 これを尻餅を突いた、ショーンは避けられず、眼前にまで、二つの豪拳が迫った。



 しかし、ミーの放った、頭部に対する強烈な一撃により、奴は体を揺らす。


 そして、これを好機と捉えた、フリンカが両手で回転しながら振るった、ロングソードが直撃した。



「ウオオッ!? ウガアアアアーーーー!!」


 だが、体格のいいゾンビは、胸筋に大きな裂傷を受けながらも、未だに動き続ける。



「グオオ、グオオオオ~~~~」


「しまったな…………」


 よろめきながら歩く、体格のいいゾンビは、咆哮を上げながら、右拳を素早く突き出した。


 そうして、バックステップで後ろに飛びはねながら、ショーンは盾を前にだす。



「ゴアッ!」


「ぐああああ?」


 しかし、渾身の一撃は運良く止められたが、それでも衝撃を受けた、ショーンは後ろに倒れた。


 今の攻撃は、凄まじく強烈な地震が起きたかと思うほど、周囲に響いた。



「く、体中がしびれるぜ…………」


「まだ、戦わね…………ん?」


「ゴアッ!!」


 打撃の力を押さえきれず、ショーンは体を震わせながら、何とか立ち止まる。


 スバスも、鉄球を投げようと、じっと動かず、額から冷や汗を滴しながら、奴を睨んでいた。



 二人は、まだまだ長期戦が続くと思ったが、いきなり銃声が鳴り響き、体格のいいゾンビは倒れた。



「あんたら~~? 後ろのチンピラ達は、ゾンビが来たから撤退して行ったぞ」


「さあ、はやく中に入ってくれ」


 全身緑色の防弾ベストを着た、リザードマンは、大型ライフルを下げて、屋上から話しかけてきた。


 その隣からは、同じく防弾ベストを着ている金髪男性が、ショーン達を手招きする。



「分かった? 今、そっちに行く」


「どうやら、終わりか…………」


「ふぅ~~? これで、全部ゾンビを倒せたにゃ」


「終わったようだけど、まだ気は抜かないで」


 ショーンとスバス達は、二階建てである沿岸警備隊の建物へと歩いていく。


 ミーとフリンカ達も、体中の緊張を解いて、二人に着いていった。



「敵影は無し、だな」


「今の所は…………ね」


「こっちだ、こっちに着てくれ」


 左右から攻めてきた、ゾンビ達を牽制していた、ワシントンとリズ達も武器を下げた。


 そして、ドアの隙間から沿岸警備隊員らしき男性が、声をかけてきた。



「今、ドアを開けるわ」


「中に入ってくれ」


「分か…………うわあ、ゾンビだっ!」


「ショーン、下がれっ!」


「援護するわ」


 沿岸警備隊員であろう、女性と男性たちは、自動ドアを開けると、みんなを手招きする。


 それから、先頭を歩いていた、ショーンは二人の姿を見ると驚いてしまい、即座に剣と盾を構えた。


 ワシントンは、狩猟弓を構え、リズも火炎魔法を放とうと、マジックロッドを敵に向けた。



「ま、待てっ! 私は、アンデッド族のゾンビよっ! 暴れ回っている連中とは関係ないわ」


「私だって、感染してないぞっ! 吸血鬼なだけだからな」


「なんだよ…………脅かすなよな? 見た目が、ややこしいんだよ」


「まあ、話しは中でしようじゃないか、ここは危険だ」


 そう言って、女性と男性たちは、開かれた自動ドアの前で、すばやく両手を上げた。


 ショーンとワシントン達は、とにかく建物の中に入ろうと早歩きで、入口に向かっていく。



 他の仲間たちも、ゾンビが襲撃してこないかと、警戒しながら進んでいった。



「こっちの会議室に来てくれ…………そこで、話そうか? 私は、エドガーだ」


「私は、カルメン…………後ろで戦っていた、お仲間たちも、すでに待機しているわ」


「ああ、分かった?」


「そこで、状況を話して貰いましょう」


 エドガーとカルメン達の後を、ショーンとリズ達は着いていく。


 すると、会議室と書かれた板が見えて、その下にあるドアが開かれた。



「ショーン、無事だったかっ!」


「どうやら、そちらも終わったようですね」


 会議室には、テーブルがコの字型に置かれており、パイプ椅子も幾つかあった。


 そして、マルルンとジャーラ達が、入ってきたばかりのショーン達を歓迎した。



「マルルン、ジャーラ? そっちも無事だったか? チンピラどもは?」


「ああ、向こうは銃撃に引き寄せられた、ゾンビ達を前に、撤退していったからな」


 ショーンの言葉に、マルルンは疲れたと言うような顔で話す。



「まあ、それを今から説明するわ? 私達の四人は沿岸警備隊員として、ここに駐在していたわ」


「そこに、いきなり、ゾンビによる災害が発生したので、避難民を受け入れる準備をしていたんだ」


 カルメンとエドガー達は、奥にあるパイプ椅子に座り、沿岸警備隊事務所の状況を説明し始めた。



「しかし、民間人が訪れる事はなく、ひたすら我々は待機していたんだ」


「さらに、災害発生時…………殆どの隊員は、二隻の巡視船で、海に出ていたわ」


「それで? さっきのチンピラ達に襲撃された理由は、武器が目当てなんだろうな」


「あとは、ゾンビも音に銃撃に寄ってきていたぞ」


 エドガーとカルメン達は、昨夜の出来事を淡々と語ってゆく。


 そして、ショーンとワシントン達は、二人に対して質問する。



「それなんだが、君達が推測した通り、奴等は銃器や魔導杖まどうじょう、それから軽鎧や防弾ベストを盗みに来たんだろう」


「それで、音によって、ゾンビが集められてたのよ…………と言っても武器や弾薬なんて、そんなに無いのよ? それらは船の方に積んであるし」


「民間人は、何で集まらなかったのかしら?」


「ここも、物資は少ないが少なくとも、安全ではあるが?」


 エドガーとカルメン達は、疲れきった表情をしながら質問に答える。


 民間人が居ない事を、リズは不思議に思い、ゴードンも同じ考えを口にした。



「集まらなかった理由は、冒険者ギルドや高級デパート方面に、避難民は向かったからだろう? あちらの方が施設の規模が大きい」


「それから、向こうの方から聞こえた派手な爆発音で、大量のゾンビ達が、向かって行ったから…………」


「なるほど…………民間人も、ここや向こうまで、行きたくても、危険すぎて行けなかったか」


「そりゃ、ゾンビが暴れ回っている状態じゃあ~~家から出られないだろう」


 エドガーとカルメン達は、ここに民間人が居ない理由を答えた。


 昨日の激しい戦闘を思い出した、ショーンとワシントン達は、二人が話した事に納得した。

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