ショーンとスバス達は、駐車場の入口付近で息を調えていた。
二人と対峙する敵には、体格のいいゾンビであり、奴は近寄ると豪腕を振るいまくる。
筋肉質で、かなり立派な姿は、アスリートや軍人などと言った、職業の人間を思わせるようだった。
「どうする、ショーン?」
「ギャッ!」
スバスが、話しながら鉄球を回転させて、横から攻めてきた、ウォーリアーを吹き飛ばす。
その間に、ショーンは立ち上がり、直ぐに後ろに飛んで、距離を取った。
「計画した通り、先に注意を惹き付けるっ! それで、俺が前に出るっ! スバス、その隙に後ろから攻撃してくれ」
「分かったっ! 全力で支援してやるっ!!」
ショーンが、一気に走り出すと、スバスは頷きつつ、鉄球を勢いよく回転させ始めた。
「こっちだ、巨大ゾンビッ!」
「ウガアアアアッ!?」
声に反応した、体格のいいゾンビは、ショーンに向かって、路上を揺らして歩いてくる。
対する彼は、素早く右側に避けて、攻撃される奴の背後に回り込んだ。
「チッ! 体を
「グオオオオオオッ!」
しかし、体格のいいゾンビは予想以上に素早く動き、後ろに振り向きながら豪腕を振るう。
ショーンは、ボクサーパンチ並みに強い一撃を、回避しながら左側へと、サイドステップする。
スバスは、奴の気が
真っ直ぐ投げ飛ばされた、トゲだらけの黒玉は、背中に直撃した。
「グオオ、グオオ、グオオオオッ!」
「はっ! まだ、死なないのか?」
スバスは、精一杯の力を込めて、強烈な打撃を叩き込んだ。
までは良かったが、体格のいいゾンビは思ったより硬い皮膚を持つ。
こうして、彼による必殺技は見事に阻まれ、期待したほどの効果は上げられなかった。
「くそ、コイツは中々頑丈だなっ! 厄介な相手だぜ」
「しかし、不死身ではない…………傷を負わせてはいるっ!」
ショーンが叫び、二人は再び息を合わせ、武器を握りしめて、なんとか連携を試みる。
「ガオオーーーー!!」
豪腕を、滅茶苦茶に振り回しながら、体格のいいゾンビは前に出てくる。
奴の動きに合わせて、ショートソードを真っ直ぐ向けた、ショーンが注意を引きつける。
その間、スバスが隙を狙い、再度鉄球を投げる機会を伺う。
二人は、この強敵を倒す事に集中しながら、緊張しているため、ともに冷や汗を体中から垂らす。
「行くぜぇ~~! イカれゾンビ野郎っ!!」
「グアアアアアアアアッ!!」
「この隙に、俺がっ!! うわっ!!」
ショートソードで、ショーンは見事に腹を切り裂いたが、体格のいいゾンビは動じない。
オマケに奴を目掛けた鉄球による打撃は、右腕に弾かれてしまい、スバスは慌ててしまう。
「グアアーーーー!!」
「やっべ…………」
体格のいいゾンビは、ショーンに対して、両腕を組んで、また上から重たい一打を放たんとした。
しかし、ショートソードで、二撃目に移ろうとしていた彼だが、今度は避けられそうになかった。
「グアアアアーーーー!!」
「不味いっ! うわーーーー!」
「今にゃっ!?」
「行くよっ!」
体格のいいゾンビは、両腕を頭上に掲げ、思いっきり振り下ろす。
これを尻餅を突いた、ショーンは避けられず、眼前にまで、二つの豪拳が迫った。
しかし、ミーの放った、頭部に対する強烈な一撃により、奴は体を揺らす。
そして、これを好機と捉えた、フリンカが両手で回転しながら振るった、ロングソードが直撃した。
「ウオオッ!? ウガアアアアーーーー!!」
だが、体格のいいゾンビは、胸筋に大きな裂傷を受けながらも、未だに動き続ける。
「グオオ、グオオオオ~~~~」
「しまったな…………」
よろめきながら歩く、体格のいいゾンビは、咆哮を上げながら、右拳を素早く突き出した。
そうして、バックステップで後ろに飛びはねながら、ショーンは盾を前にだす。
「ゴアッ!」
「ぐああああ?」
しかし、渾身の一撃は運良く止められたが、それでも衝撃を受けた、ショーンは後ろに倒れた。
今の攻撃は、凄まじく強烈な地震が起きたかと思うほど、周囲に響いた。
「く、体中が
「まだ、戦わね…………ん?」
「ゴアッ!!」
打撃の力を押さえきれず、ショーンは体を震わせながら、何とか立ち止まる。
スバスも、鉄球を投げようと、じっと動かず、額から冷や汗を滴しながら、奴を睨んでいた。
二人は、まだまだ長期戦が続くと思ったが、いきなり銃声が鳴り響き、体格のいいゾンビは倒れた。
「あんたら~~? 後ろのチンピラ達は、ゾンビが来たから撤退して行ったぞ」
「さあ、はやく中に入ってくれ」
全身緑色の防弾ベストを着た、リザードマンは、大型ライフルを下げて、屋上から話しかけてきた。
その隣からは、同じく防弾ベストを着ている金髪男性が、ショーン達を手招きする。
「分かった? 今、そっちに行く」
「どうやら、終わりか…………」
「ふぅ~~? これで、全部ゾンビを倒せたにゃ」
「終わったようだけど、まだ気は抜かないで」
ショーンとスバス達は、二階建てである沿岸警備隊の建物へと歩いていく。
ミーとフリンカ達も、体中の緊張を解いて、二人に着いていった。
「敵影は無し、だな」
「今の所は…………ね」
「こっちだ、こっちに着てくれ」
左右から攻めてきた、ゾンビ達を牽制していた、ワシントンとリズ達も武器を下げた。
そして、ドアの隙間から沿岸警備隊員らしき男性が、声をかけてきた。
「今、ドアを開けるわ」
「中に入ってくれ」
「分か…………うわあ、ゾンビだっ!」
「ショーン、下がれっ!」
「援護するわ」
沿岸警備隊員であろう、女性と男性たちは、自動ドアを開けると、みんなを手招きする。
それから、先頭を歩いていた、ショーンは二人の姿を見ると驚いてしまい、即座に剣と盾を構えた。
ワシントンは、狩猟弓を構え、リズも火炎魔法を放とうと、マジックロッドを敵に向けた。
「ま、待てっ! 私は、アンデッド族のゾンビよっ! 暴れ回っている連中とは関係ないわ」
「私だって、感染してないぞっ! 吸血鬼なだけだからな」
「なんだよ…………脅かすなよな? 見た目が、ややこしいんだよ」
「まあ、話しは中でしようじゃないか、ここは危険だ」
そう言って、女性と男性たちは、開かれた自動ドアの前で、すばやく両手を上げた。
ショーンとワシントン達は、とにかく建物の中に入ろうと早歩きで、入口に向かっていく。
他の仲間たちも、ゾンビが襲撃してこないかと、警戒しながら進んでいった。
「こっちの会議室に来てくれ…………そこで、話そうか? 私は、エドガーだ」
「私は、カルメン…………後ろで戦っていた、お仲間たちも、すでに待機しているわ」
「ああ、分かった?」
「そこで、状況を話して貰いましょう」
エドガーとカルメン達の後を、ショーンとリズ達は着いていく。
すると、会議室と書かれた板が見えて、その下にあるドアが開かれた。
「ショーン、無事だったかっ!」
「どうやら、そちらも終わったようですね」
会議室には、テーブルがコの字型に置かれており、パイプ椅子も幾つかあった。
そして、マルルンとジャーラ達が、入ってきたばかりのショーン達を歓迎した。
「マルルン、ジャーラ? そっちも無事だったか? チンピラどもは?」
「ああ、向こうは銃撃に引き寄せられた、ゾンビ達を前に、撤退していったからな」
ショーンの言葉に、マルルンは疲れたと言うような顔で話す。
「まあ、それを今から説明するわ? 私達の四人は沿岸警備隊員として、ここに駐在していたわ」
「そこに、いきなり、ゾンビによる災害が発生したので、避難民を受け入れる準備をしていたんだ」
カルメンとエドガー達は、奥にあるパイプ椅子に座り、沿岸警備隊事務所の状況を説明し始めた。
「しかし、民間人が訪れる事はなく、ひたすら我々は待機していたんだ」
「さらに、災害発生時…………殆どの隊員は、二隻の巡視船で、海に出ていたわ」
「それで? さっきのチンピラ達に襲撃された理由は、武器が目当てなんだろうな」
「あとは、ゾンビも音に銃撃に寄ってきていたぞ」
エドガーとカルメン達は、昨夜の出来事を淡々と語ってゆく。
そして、ショーンとワシントン達は、二人に対して質問する。
「それなんだが、君達が推測した通り、奴等は銃器や
「それで、音によって、ゾンビが集められてたのよ…………と言っても武器や弾薬なんて、そんなに無いのよ? それらは船の方に積んであるし」
「民間人は、何で集まらなかったのかしら?」
「ここも、物資は少ないが少なくとも、安全ではあるが?」
エドガーとカルメン達は、疲れきった表情をしながら質問に答える。
民間人が居ない事を、リズは不思議に思い、ゴードンも同じ考えを口にした。
「集まらなかった理由は、冒険者ギルドや高級デパート方面に、避難民は向かったからだろう? あちらの方が施設の規模が大きい」
「それから、向こうの方から聞こえた派手な爆発音で、大量のゾンビ達が、向かって行ったから…………」
「なるほど…………民間人も、ここや向こうまで、行きたくても、危険すぎて行けなかったか」
「そりゃ、ゾンビが暴れ回っている状態じゃあ~~家から出られないだろう」
エドガーとカルメン達は、ここに民間人が居ない理由を答えた。
昨日の激しい戦闘を思い出した、ショーンとワシントン達は、二人が話した事に納得した。