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第9話 ギルドから撤退しろ



 ショーン達は、かなり奮闘して、ギルド防衛戦を行っていた。


 だが、抵抗むなしく、押し寄せるゾンビの群れを前にして、彼等は撤退を決意した。



「お前らは? さっきの奴等だなっ!」


「グアアアアーー!!」


「ギャアアアアーーーー」


 バックラーを構える、ショーンの左右に、ウォーリアー達が、よろよろと歩いてくる。


 槍使いは、コルセスカを振るい回し、賢者の方はナイフを投げてくる。



「やってられるかっ!」


 だが、ショーンは相手にせず、勝負する事なく、一気に逃走を開始した。



「ショーン、早くしろっ! むっ! このっ!」


「こっちよっ! 早く来てっ!」


「今そっちに行くぜっ! 何とか、それまで援護してくれっ!」


 スバスは、煙幕弾を投げた後に、ゾンビ達に向かって、鉄球を振り回す。


 リズも、マジックロッドから、何回も火炎魔法を放って、敵を寄せ付けないようにする。



 二人とも、ギルド城門から、他の冒険者や傭兵たちが、撤退できるように援護している。


 もちろん、ショーンも逃げ遅れたら大変なので、急いで走っていく。



「ゲロロ~~~~」


「ああっ!!」


「ガガガガアアッ!」


「ぎゃあっ!?」


 スピットゲローが、斜め上に向かって、放射した酸を背中から浴びた、女性冒険者が転んでしまう。


 フレッシャーに飛び掛かられた、男性エルフは背後から後頭部を殴られまくる。



「地獄絵図じゃねえかっ! おらっ! 邪魔だっ! 退けっ!」


 ショーンは、早歩きするゾンビの首を後ろから切り飛ばし、走りながらフレッシャーを蹴り倒す。


 そして、ウォーリアーを左腕のバックラーで、勢いよく殴り倒す。



「ショーンッ! 早く、早く、早くしてっ!」


「もう、我々は撤退するぞっ!!」


 リズは、マジックロッドから火炎魔法を噴射しながら、ゾンビが城門に近寄れないようにする。


 スバスも、導火線に火を着けた爆弾を幾つか投げつけると、右側の城門を閉めてしまった。



「分かってるっての? お前ら、先に行けっ! 俺を構うなっ!」


「でもっ! 置いて行けないわっ! うわっ!」


「助太刀いたすわっ!」


 ショーンの到着を待つ、リズに向かって、いきなり、ジャンピングガーが飛びかかってきた。


 しかし、その背後から、サヤが突き出した、薙刀により、奴は後頭部を串刺しにされてしまった。



「行くわよっ! ほら、早くっ!」


「え、ちょっ! ショーン、中で待っているわっ!」


「ああ、大丈夫ですよっと? 邪魔だっ!」


「グオオッ! ゲロロロロッ!」


 サヤは城門の中へと、リズの手を引っ張りながら避難していく。


 スピットゲローの口から勢いよく放たれた、強酸を、スライディングしながら、ショーンは避ける。



「この野郎、脚を切ってやるぜっ!」


「グアアッ!! ギョッ!!」


 膨れ上がった不気味な腹を揺らす、スピットゲローの体は、衣類が自身から出た強酸で溶けている。


 それは、緑色に光り、ヌルヌルのテカテカとしていて、かなり気色悪く見える。



 スライディングを続けながら、ショーンは奴の右足を斬った。


 それと同時、立ち上がる前に、その頭へと、ショートソードを刺し込んだ。



「はあ、早くしねーーとっ!」


「うわっ! 来るな、このおおっ!!」


「ヤバイわっ!」


 両手に握る、ピストルを何度も撃ちながら、白衣を纏う、トロールは後退し始める。


 青紫のロングコートに、黒いスカートを履いた、サキュバスは、必死で逃げながら叫ぶ。



 二人を襲うのは、大群を成した、無慈悲なゾンビ達だ。



「不味いな、連中を助けないとっ!」


「ショーン、こっちよっ!」


「ショーン、もう逃げないと、不味いぞっ!」


 ショーンは、城門まで無事に着いたが、後ろで戦っている二人を見捨てる訳にはいかない。


 だが、そんな彼に対して、ギルド内部の廊下から、リズとマルルン達が声をかけてきた。



「アイツらを見捨てられるかっ! おっ! これなら…………? お前ら、頭を下げろっ!!」


 木箱の上に置いてある爆弾を見つけた、ショーンは、それを両手に握る。


 そして、すぐに彼は、何個も敵に向かって、それを投げまくった。



「ぐわっ!」


「ぎゃっ!」


「早く走れっ!!」


 白衣を纏うトロール&カーニャと言われた、サキュバス達は、ショーンの言葉を聞くと走り出す。



「よし、お前らで最後だな…………」


「カーニャ、ゴードン? 無事だったか?」


 ギルド内に、二人が入った後、ショーンは城門を閉めて、ゾンビ達が侵入しないように鍵をかけた。


 一方、マルルンは無事な仲間たちの様子に安堵すると、奥に向かって走った。



「みんな俺に着いてこいっ!」


「逃げ場は、こっちよっ!」


「しかし、どうやって逃げるんだよ?」


 慌てて走る、マルルンとリズ達の後ろを、三人は追ってゆく。


 ショーンは、何処に行くのか知らず、それを先導する二人に質問した。



「グオオオオッ!!」


「ギャアアアアーーーー」


「ガアアアアアア」


「ウオオオオ~~~~!!」


 だが、その瞬間に、前方から大量にゾンビ達が勢いよく走ってきた。



「しまった、裏口を突破されたかっ!」


「こっちよっ!」


「二人とも、避難経路を知っているんだろうな」


「いや、知ってるんだろう」


「じゃないと、私達は前から…………」


 マルルンは急に立ち止まり、リズは急いで十字路を左側に曲がる。


 その後に続く、ショーンは額や髪から冷や汗を滴しながら、逃げ道を聞いてみる。



 聞く必要はないと、ゴードンが言うと、カーニャも金髪ロングパーマを振って、後ろに振り向く。


 その目に映った光景は、ギルド城門を強酸で溶かしつつ破壊して、ゾンビ達が侵入する姿だった。



「この先よっ!」


「はっ! 倉庫だな?」


「そうだ? ん…………」


 リズは誰よりも速く走り、それを追っている、ショーンは倉庫と書かれた看板と、ドアを目にする。


 マルルンは、そこでも爆発音や魔法を放つ音を聞いて、いったい何だと思う。



「ショーン、遅いぞっ! コイツらは倒したっ!」


「後は、逃げ込むだけにゃっ!」


「先に行くっ!」


「もう、無理ね…………行くわよ」


 スバスとミー達は、左側の通路から現れると同時に、ドアへと逃げ込む。


 ワシントンとサヤ達も、開かれた倉庫の中へと、素早く退散していく。



 そんな中、ショーンは後ろに振り向いて、逃げ遅れた仲間が居ないかと確認する。



「はあ、はあ、助かった…………」


「何とかなったわね?」


「おっし? 逃げ込めたっ!」


 彼が後ろを気にしている間に、ゴードンとカーニャ達は、どうやら倉庫に入ったようだ。


 そして、最後の一人となった、ショーンは直ぐにドアを絞める。



 もちろん、彼は鍵をかけた上に、木箱を重ねて、ゾンビ達が突破しづらいようにする。



「こっちよ、さっきの説明だと、端にある木箱が入口らしいわ? これを退かせば…………」


「隠し階段かっ!!」


 リズとマルルン達は、大きな木箱を動かして、隠し階段へと入っていく。


 他の仲間たちも、続々と階段へと走っていき、やはり、ショーンが最後となる。



「不味い、このままじゃ俺だけ、ゾンビに喰われちまうっ!!」


 焦った、ショーンは直ぐさま、階段に飛び込んで、木箱を引っ張った。


 こうして、彼が脱出経路を塞いだ瞬間、ゾンビ達が、ドアをブチ破った。



 だが、そこに獲物の姿はなく、何も見つけられなかった連中は、ぎゅうぎゅう詰めになった。


 押し合い、へし合いを繰り返す動く死者たちの鳴き声は、地下にまで響いてきた。



「マジで、助かった…………」


「ショーン、こっちに来てね?」


 ショーンは階段に座り、深く息を吸い込み、上で暴れているゾンビの声に耳を澄ます。


 それから、リズの案内で、オレンジ色に光る円形電球が、ぶら下げられた地下道を歩いていく。



「ショーン、無事だったか?」


「良かったにゃっ!」


「お前らも無事だったか?」


 ワシントンとミー達を含む、何人かの生き残りが、地下道に残っていた。


 そんな彼等に、ショーンは疲れた表情で、何とか声をかけるのだった。
















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