ショーン達は、かなり奮闘して、ギルド防衛戦を行っていた。
だが、抵抗むなしく、押し寄せるゾンビの群れを前にして、彼等は撤退を決意した。
「お前らは? さっきの奴等だなっ!」
「グアアアアーー!!」
「ギャアアアアーーーー」
バックラーを構える、ショーンの左右に、ウォーリアー達が、よろよろと歩いてくる。
槍使いは、コルセスカを振るい回し、賢者の方はナイフを投げてくる。
「やってられるかっ!」
だが、ショーンは相手にせず、勝負する事なく、一気に逃走を開始した。
「ショーン、早くしろっ! むっ! このっ!」
「こっちよっ! 早く来てっ!」
「今そっちに行くぜっ! 何とか、それまで援護してくれっ!」
スバスは、煙幕弾を投げた後に、ゾンビ達に向かって、鉄球を振り回す。
リズも、マジックロッドから、何回も火炎魔法を放って、敵を寄せ付けないようにする。
二人とも、ギルド城門から、他の冒険者や傭兵たちが、撤退できるように援護している。
もちろん、ショーンも逃げ遅れたら大変なので、急いで走っていく。
「ゲロロ~~~~」
「ああっ!!」
「ガガガガアアッ!」
「ぎゃあっ!?」
スピットゲローが、斜め上に向かって、放射した酸を背中から浴びた、女性冒険者が転んでしまう。
フレッシャーに飛び掛かられた、男性エルフは背後から後頭部を殴られまくる。
「地獄絵図じゃねえかっ! おらっ! 邪魔だっ! 退けっ!」
ショーンは、早歩きするゾンビの首を後ろから切り飛ばし、走りながらフレッシャーを蹴り倒す。
そして、ウォーリアーを左腕のバックラーで、勢いよく殴り倒す。
「ショーンッ! 早く、早く、早くしてっ!」
「もう、我々は撤退するぞっ!!」
リズは、マジックロッドから火炎魔法を噴射しながら、ゾンビが城門に近寄れないようにする。
スバスも、導火線に火を着けた爆弾を幾つか投げつけると、右側の城門を閉めてしまった。
「分かってるっての? お前ら、先に行けっ! 俺を構うなっ!」
「でもっ! 置いて行けないわっ! うわっ!」
「助太刀いたすわっ!」
ショーンの到着を待つ、リズに向かって、いきなり、ジャンピングガーが飛びかかってきた。
しかし、その背後から、サヤが突き出した、薙刀により、奴は後頭部を串刺しにされてしまった。
「行くわよっ! ほら、早くっ!」
「え、ちょっ! ショーン、中で待っているわっ!」
「ああ、大丈夫ですよっと? 邪魔だっ!」
「グオオッ! ゲロロロロッ!」
サヤは城門の中へと、リズの手を引っ張りながら避難していく。
スピットゲローの口から勢いよく放たれた、強酸を、スライディングしながら、ショーンは避ける。
「この野郎、脚を切ってやるぜっ!」
「グアアッ!! ギョッ!!」
膨れ上がった不気味な腹を揺らす、スピットゲローの体は、衣類が自身から出た強酸で溶けている。
それは、緑色に光り、ヌルヌルのテカテカとしていて、かなり気色悪く見える。
スライディングを続けながら、ショーンは奴の右足を斬った。
それと同時、立ち上がる前に、その頭へと、ショートソードを刺し込んだ。
「はあ、早くしねーーとっ!」
「うわっ! 来るな、このおおっ!!」
「ヤバイわっ!」
両手に握る、ピストルを何度も撃ちながら、白衣を纏う、トロールは後退し始める。
青紫のロングコートに、黒いスカートを履いた、サキュバスは、必死で逃げながら叫ぶ。
二人を襲うのは、大群を成した、無慈悲なゾンビ達だ。
「不味いな、連中を助けないとっ!」
「ショーン、こっちよっ!」
「ショーン、もう逃げないと、不味いぞっ!」
ショーンは、城門まで無事に着いたが、後ろで戦っている二人を見捨てる訳にはいかない。
だが、そんな彼に対して、ギルド内部の廊下から、リズとマルルン達が声をかけてきた。
「アイツらを見捨てられるかっ! おっ! これなら…………? お前ら、頭を下げろっ!!」
木箱の上に置いてある爆弾を見つけた、ショーンは、それを両手に握る。
そして、すぐに彼は、何個も敵に向かって、それを投げまくった。
「ぐわっ!」
「ぎゃっ!」
「早く走れっ!!」
白衣を纏うトロール&カーニャと言われた、サキュバス達は、ショーンの言葉を聞くと走り出す。
「よし、お前らで最後だな…………」
「カーニャ、ゴードン? 無事だったか?」
ギルド内に、二人が入った後、ショーンは城門を閉めて、ゾンビ達が侵入しないように鍵をかけた。
一方、マルルンは無事な仲間たちの様子に安堵すると、奥に向かって走った。
「みんな俺に着いてこいっ!」
「逃げ場は、こっちよっ!」
「しかし、どうやって逃げるんだよ?」
慌てて走る、マルルンとリズ達の後ろを、三人は追ってゆく。
ショーンは、何処に行くのか知らず、それを先導する二人に質問した。
「グオオオオッ!!」
「ギャアアアアーーーー」
「ガアアアアアア」
「ウオオオオ~~~~!!」
だが、その瞬間に、前方から大量にゾンビ達が勢いよく走ってきた。
「しまった、裏口を突破されたかっ!」
「こっちよっ!」
「二人とも、避難経路を知っているんだろうな」
「いや、知ってるんだろう」
「じゃないと、私達は前から…………」
マルルンは急に立ち止まり、リズは急いで十字路を左側に曲がる。
その後に続く、ショーンは額や髪から冷や汗を滴しながら、逃げ道を聞いてみる。
聞く必要はないと、ゴードンが言うと、カーニャも金髪ロングパーマを振って、後ろに振り向く。
その目に映った光景は、ギルド城門を強酸で溶かしつつ破壊して、ゾンビ達が侵入する姿だった。
「この先よっ!」
「はっ! 倉庫だな?」
「そうだ? ん…………」
リズは誰よりも速く走り、それを追っている、ショーンは倉庫と書かれた看板と、ドアを目にする。
マルルンは、そこでも爆発音や魔法を放つ音を聞いて、いったい何だと思う。
「ショーン、遅いぞっ! コイツらは倒したっ!」
「後は、逃げ込むだけにゃっ!」
「先に行くっ!」
「もう、無理ね…………行くわよ」
スバスとミー達は、左側の通路から現れると同時に、ドアへと逃げ込む。
ワシントンとサヤ達も、開かれた倉庫の中へと、素早く退散していく。
そんな中、ショーンは後ろに振り向いて、逃げ遅れた仲間が居ないかと確認する。
「はあ、はあ、助かった…………」
「何とかなったわね?」
「おっし? 逃げ込めたっ!」
彼が後ろを気にしている間に、ゴードンとカーニャ達は、どうやら倉庫に入ったようだ。
そして、最後の一人となった、ショーンは直ぐにドアを絞める。
もちろん、彼は鍵をかけた上に、木箱を重ねて、ゾンビ達が突破しづらいようにする。
「こっちよ、さっきの説明だと、端にある木箱が入口らしいわ? これを退かせば…………」
「隠し階段かっ!!」
リズとマルルン達は、大きな木箱を動かして、隠し階段へと入っていく。
他の仲間たちも、続々と階段へと走っていき、やはり、ショーンが最後となる。
「不味い、このままじゃ俺だけ、ゾンビに喰われちまうっ!!」
焦った、ショーンは直ぐさま、階段に飛び込んで、木箱を引っ張った。
こうして、彼が脱出経路を塞いだ瞬間、ゾンビ達が、ドアをブチ破った。
だが、そこに獲物の姿はなく、何も見つけられなかった連中は、ぎゅうぎゅう詰めになった。
押し合い、へし合いを繰り返す動く死者たちの鳴き声は、地下にまで響いてきた。
「マジで、助かった…………」
「ショーン、こっちに来てね?」
ショーンは階段に座り、深く息を吸い込み、上で暴れているゾンビの声に耳を澄ます。
それから、リズの案内で、オレンジ色に光る円形電球が、ぶら下げられた地下道を歩いていく。
「ショーン、無事だったか?」
「良かったにゃっ!」
「お前らも無事だったか?」
ワシントンとミー達を含む、何人かの生き残りが、地下道に残っていた。
そんな彼等に、ショーンは疲れた表情で、何とか声をかけるのだった。