ギルド防衛戦で、転んだり、かすり傷を負った軽症者たちは何人か出た。
また、噛まれた事で、ゾンビへと転化した者が、一人だけ出てしまった。
「ようやく、静寂が訪れたか? 向かいのデパートも終わったようだな?」
「皆さんっ! デパートとの通信が途絶えました、向こうは陥落したかも知れません」
ショーンは、バリケードに背中を預けて、へたりこむと愚痴った。
それから直ぐに、受付嬢ホブゴブリンが現れると、駐車場に響く声で新たな情報を伝えた。
「はあ? 何だって、まさか連中は…………」
「ショーン、向かいから何か来るにゃ?」
ショーンは、顔色を青くさせながら立ち上がり、鞘に納めた剣を抜く。
その左側で、バリケードに登った、ミーは遠くから走ってくる、ゾンビ軍団らしき影を見つける。
「おおいっ! 高級デパートは殲滅した~~~~!? た、助けてくれーー!!」
ボロボロになった、中年冒険者が走ってくるが、その後ろから大集団が迫る。
こうして、左斜め向かいにある高級デパートからも、ゾンビ達が現れ始めた。
「うわあ~~~~!? ぎゃああああっ!! ぐ、ガガ?」
「グゲロッ!」
冒険者は、ギルド手前の鉄条網や、死体が山と化している状態を見て、早々に右側へと逃げていく。
きっと、ここは塞がれているから入られないし、ゾンビ集団に負けたように見えたのかも知れない。
そんな彼を背中から、何かの黄緑色をした粘液が襲い、体を溶かしてしまう。
次いで、彼もゾンビの仲間入りを果たしたらしく、集団に近付いていく。
「今のは、ヤバかったな…………と言うか、またかよっ!! ミー、スバス、やるぞっ!!」
「それしか無いにゃっ!!」
「やるなら、やる、道を切り開かねば…………」
こうして、冒険者ギルドを目指すゾンビ達が、再び大群として、津波のごとく押し寄せた。
恐怖と混乱などが、冒険者や傭兵たちに広がる中、彼等も臨戦態勢を整えた。
ショーンは、剣と盾を構えて、敵を迎え討つため、真剣な顔つきになる。
ミーは、棍を力強く振るい、スバスも懐から何かを取り出す。
「皆さん、他の避難所からの情報によると、特殊感染体として、スピットゲローが確認されましたっ! このゾンビは遠方から強酸を飛ばすので、注意して下さいっ!!」
受付嬢ホブゴブリンは、城壁から冒険者や傭兵たちに向かって叫ぶ。
「あのゲロ吐き? 名前が、あんのか?」
「ショーン、くるにゃっ!」
ゾンビの大集団が迫る中、ショーンはバックラーを前に出して、酸による攻撃を警戒する。
ミーは、棍を真っ直ぐ構え、大群を前にしても、動じる事はない。
「奴らが、鉄条網まで来たぞっ!」
「すぐに射たなきゃっ!」
ワシントンは、弓を構えて矢を放ち、リズは魔導杖から火炎玉を放つ。
他の冒険者や魔法使いたちも、ライフルや氷結魔法で、駐車場を目指すゾンビ達を、一斉射撃する。
だが、鉄条網に溜まった死体の上を飛び越えて、連中は走ってきた。
フレッシャー&ジャンピンガー等も、その中には当然ながら混じっている。
「この先から来るな…………おっ?」
肩を銃で射たれて、ゾンビが倒れる中、ショーンも身構えている。
すると、ゾンビ達の中から武器を持った、冒険者らしき人物が現れた。
傷だらけの体には、軽鎧を着込み、ブロードソードとラウンドシールドを持っている。
だが、よろよろと不自然に動き、顔も精機がないので、どこか怪しい。
「この野郎っ! てめえっ! ゾンビだなっ!」
「グガガッ! ゴッ!」
ショーンは、ショートソードを袈裟斬りを、二回も喰らわせて、ゾンビ化した冒険者を蹴っ飛ばす。
やはり、彼の予感は当たっており、倒された奴は致命傷であるにも関わらず、すぐに立ち上がった。
それだけでなく、同じようなタイプの敵が、前方から二体も現れた。
片方は、両手にグレイブを持ち、もう一人はロングソードを両手に握る。
「はあ、高級デパートを守っていた連中は、ゾンビの仲間入りしたのかよっ! コイツは不味いなっ!」
「グガガッ! ガア、ガアッ!」
「グゴゴッ!? ガガガガガガッ!!」
「ギャアアアア~~~~!!」
立ち塞がる、三体を前にして、ショーンは一歩ずつ引き下がる。
そんな彼を狙い、ゾンビ化した冒険者たちは、連携攻撃してきた。
ブロードソードが横凪に振るわれ、グレイブによる刺突が顔へと放たれる。
そして、頭上からロングソードによる重たい一撃が、振り下ろされた。
「うわっ! このっ! うげっ!」
ブロードソードによる剣激を、ショーンはバックラーで受け止める。
そして、顔を僅かに剃らして、グレイブを使った、鋭い突きを回避する。
だが、ブロードソードだけは避け切れず、眼前に血にまみれた刃が迫る。
しかし、何故か分からないが、それが彼の頭に当たる事はなかった。
「ショーン、気をつけろっ! コイツらは、他のゾンビと違うっ!」
「ウワッ!?」
「危ないから、一人では戦わないでくれにゃっ!」
「グガッ? グゲゲッ!!」
「分かってるよっ!? だが、助かったぜ? マルルン、ミー!!」
マルルンの振るった、スパタは思いっきり、ブロードソードを振るう冒険者ゾンビを切りつけた。
その下から斜め上へと、放たれた一撃は、首を撥ね飛ばす事に成功した。
一方、ミーの戦混による打突は、グレイブを付き出した奴を、弾き飛ばす。
そして、再び立ち上がった瞬間に、二撃目を顔に当てて貫通させた。
二人の反撃で、ショーンは助かった事により、体勢を立て直す。
「一対一の戦いだっ! 俺と似たような装備をしやがって、クソ野郎っ!!」
冒険者ゾンビを前にして、ショーンは剣を突きだしたが、盾に攻撃が防がれてしまう。
そして、今度は奴の方が、ブロードソードで反撃してくる。
「やらせるかっ! うらっ! うらあっ!」
「ガアッ! ギ…………」
ショーンは、バックラーで切っ先を弾き、次に刃を敵の頭へと押した。
それにより、強引に軌道と攻撃を跳ね返された、冒険者ゾンビは頭が斬られて、後ろに倒れた。
「冒険者のゾンビ化? 厄介な連中が出てきやがったな…………」
「ブッ! ブッ!」
「ぐあっ!? さ、ささ酸がっ! ぐああああ…………」
「ギュアアーーーー!!」
「うごっ! ぐうう…………?」
ショーンは、辺りを冷静に見渡し、戦況が不利になっている事を確認する。
ギルドの冒険者や傭兵たちは、ゾンビ軍団を食い止めるために、必死で立ち向かっていた。
だが、余りにも敵の数が多く、また勢いに乗った攻勢により、味方にも多数犠牲が出始めていた。
スピットゲローの口から、酸が連続で放たれ、槍使いの肩や腕に当たって、肉を溶かしてしまう。
冒険者ゾンビのフランジメイスによって、殴られた賢者が、地面に倒されてしまった。
「くっ! このままでは、みんな死んでしまうっ!」
ショーンは、ゾンビを蹴り飛ばし、ジャンピンガーの顎に、ブロードソードを差し込む。
それから、彼は高級デパートの方を睨み、愚痴を溢してしまう。
「不味いわ…………皆さん、また新たな情報ですっ! 各地で冒険者たちが、ゾンビ化した、ウォーリアーが暴れているようですっ! 彼等の武器はゾンビの血で濡れており、その攻撃を喰らうと、感染しますっ!」
受付嬢ホブゴブリンは、状況を把握して、冒険者たちに新たな情報を伝える。
「我々はゾンビ達に勝てませんっ! 高級デパートからのゾンビ達を引き付けつつ、民間人が非難するまで、何とか食い止め…………ぎゃっ!」
「な? どうしたんっ! ぐっ!」
「ガアーーーー」
作戦を、駐車場で戦う冒険者たちに指示していた、受付嬢ホブゴブリンだったが。
スピットゲローの酸に殺られたか、ジャンピンガーに襲われたか、分からない。
後ろを見ている余裕のない、ショーンは前から襲ってきた、フレッシャーを相手する。
スウェイを繰り返して、敵の攻撃を回避して、すぐに彼はバックラーで反撃する。
「グワッ!!」
「うらっ!」
弾き倒した、フレッシャーに追い討ちを仕掛け、ショーンは頭を踏み潰す。
「皆さん、遂に城壁の上まで、ゾンビが来ましたっ! どうやら、フレッシャーやウォーリアー達は若干の知性があるようですっ! 我々も直ちに退避しますっ!」
「冒険者の皆さん、城壁から援護しますっ! 貴方たちも、すぐに退避して下さいっ!」
ギルド男性職員と受付嬢リザードマンたちは、指示を下すと、手製の爆弾や煙幕弾を投げつけた。
それは、駐車場の鉄条網とバリケード周辺に落ちて、爆炎と灰煙を噴出させる。
「これで、若干は足止めできるか?」
「グアアーー!!」
「ガアアアアーーーー」
ショーンが爆風から身を守らんと、バックラーを構えると、周辺にウォーリアー達が現れる。
それは、先ほど酸や血濡れた武器に殺られて、転化した、槍使いと賢者たちであった。