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第7話 後退する冒険者たち


ショーンは、ゾンビ達が向かってくる中、奴等にショートソードを向けて待ち構える。



「グオオオオーーーー!?」


「グルアア~~~~~~~」


「チッ! しつけぇーーなっ!」


 死体を飛び越えて、ギルド城門付近に後退した、冒険者たちを目指して、ゾンビ達が走ってくる。


 特に、何度もフレッシャー達が群れの先頭を駆けていき、喉元に喰らいつかんと突撃してくる。



 ショーンは、ショートソードを後ろに引いて、盾を構え始めた。



 すると、蠢く大量の亡骸たちは、いきなり大爆発に巻き込まれた。



「グアアアアッ!?」


「ウオオーーーーーー」


「ぐっ! やったか?」


「上手く行ったわね?」


 吹き飛ぶ、フレッシャー達を見ながら呟く、ショーンの背後から女性が、暗黒魔法を放つ。


 その小さな暗黒球が、木箱に火薬を積めた、箱型爆弾に当たる度に、真っ赤な火柱が上がる。



「カーニャ、助かった」


「マルルン、まだ気を抜かないでっ!」


 マルルンと言われた、灰鎧を着ているゴブリンは、ゾンビの首を跳ね飛ばしながら前に出た。


 青紫のロングコートに、黒いスカートを履いた、カーニャと言われた、サキュバスは前を睨む。


 紫ショートパーマから右側からだけ、巻き角を生やした、彼女の青目は、敵に怒りを向けている。



「下がれ、まだまだ来るぞっ! うわっ!」


「ギャアアッ!!」


「グアアアアアア~~~~~~!!」


「うぎゃっ! このっ! ぐぅっ!?」


 ジャンピンガーにより、上空から奇襲された槍使いが馬乗りにされて、殴られ続ける。


 フレッシャーの爪で、メイスを振るわんとした、女性僧侶は、左頬を切り裂かれてしまった。



「この離れやがれっ!」


「グガッ!!」


「はあ、はあ、助かったぜ」


「退けっ!」


「ギキィーーーー? ギギーー」


「助かりまししあ、アア?」


 白人冒険者の握る大剣ツヴァイヘンダーで、ジャンピンガーは、額から串刺しにされた。


 それにより、槍使いは動かなくなった死体を何とか、思いっきり蹴り飛ばした。



 アラブ系戦士は、投げ棍棒を、フレッシャーの頭に当てて、よろけさせた。


 だが、フレッシャーを倒すには至らず、さらに女性僧侶もゾンビ化してしまった。



 彼女は、顔を斬られてしまったので、ウイルスが脳まで素早く達した。


 これにより、直ぐさま、アンデッドへと変貌を遂げてしまったワケだ。



「うわっ! 来るなっ! 来るなっ!」


「このっ! クソがっ!」


「ギャーーーー!? グア?」


「ウアアア?」


「不味いな、これ以上は…………」


 投げ棍棒を投げて、アラブ系戦士は後退をしつつ、彼の右隣から、傭兵は釘バットを振るう。


 ショーンは、ついに犠牲者が出始めた事で、敵に対する警戒心を、さらに高めた。




「グガッ! グガッ!」


「うわっ! 離せ、このゾンビ野郎っ!」


「やめろ、コイツッ!!」


 一匹のフレッシャーが、ショーンが構えるバックラーに噛みついた。


 その横から、マルルンは右手に握るスパタで、ゾンビを斬り捨てる。



 そうしている間に、ギルド城壁や駐車場に設置された、パープル色の水晶玉が作動する。


 彼方此方あちらこちらから、ゾンビ達を狙って、紫色のレーザーが放たれる。



「ギャッ!!」


「グオオッ!!」


 水晶自体は、戦争やテロに備えて、ギルドが防衛用に設置した、自動レーザー武器である。


 交差するように何回も放たれる、レーザーは低威力だが、確実にゾンビ達にダメージを与える。



 これが、城壁には、普段からライトにも使うために配置してある。


 また、駐車場の左右にも、何本か置かれた、ポール上部にも載せてあった。



「とうとう、最後の防衛線まで退いて来てしまったか?」


「急げっ! 椅子やテーブルを持ってくるんだっ!」


 ショーンは、駐車場の残り三割にまで、自分たちが後退してしまった事を悟る。


 通常のゾンビに加え、ジャンピンガー&フレッシャー達による進撃は止めるのが難しい。



 そんな中、ギルドの城門から、背もたれ付き椅子や円形テーブルなどを、冒険者たちが運んでくる。


 こうして、バリケードを兼ねた置き楯が出来て、多少は敵の進軍速度を、止める事ができた。



「これで、一般ゾンビ達は進みづらくなるっ! しかしっ! オラッ!」


「ガアアアアアア~~~~!! ギャッ?」


 上空から急降下してきた、ジャンピンガーの顎に、ショーンは鋭い膝蹴りを食らわせる。


 それにより、奴は奇襲攻撃に失敗して、そのまま地面に落ちた。



「止めだっ! うらっ!」


「ギャッ!!」


 ショーンは、フレッシャーが立ち上がる前に、ショートソードを頭に突き刺した。



「他は? はっ! この、クソ野郎っ!」


「うおおおおっ! っと…………」


「ギャアアーー!?」


 ショートソードを振るって、ショーンは背後で戦っていた、フレッシャーの背中に斬りかかる。


 それにより、ラウンドシールドを構えていた、マルルンは窮地から救われた。



「マルルンだったか? 無事だよな?」


「ああ…………それより、あんた、ショーンだろ?」


 ショーンは、マルルンに声をかけると、向こうも此方の名前を聞いてきた。



「ルドマン商会に、腕の立つ冒険者が居ると聞いてな? 噂と同じ姿だったから直ぐに分かったよ」


「そうか、それで俺の事を知っていたのか?」


 マルルンは迫り来るゾンビを、斬り捨て、ショーンも襲いかかるフレッシャーを蹴飛ばす。


 二人だけでなく、様々な冒険者や傭兵たちの活躍により、戦線が崩れる事はない。



「コイツを喰らえっ!」


「死にやがれっ!」


「今のは、ワシントンだな?」


「テアン、やったみたいだが?」


 バリケードの向こう側に対しても、射撃武器や攻撃魔法などが、続々と放たれまくる。



 ワシントンが狩猟弓から、矢を放つ姿が見えるが、彼は次矢を放つべく、背中に手を伸ばす。


 その隣右には、クロスボウに矢をセットするアジア系である男性が目に映った。



「これで、一般ゾンビは殺られていくな?」


「ああ、だが、まだまだ来るぜっ!?」


 ショーンとマルルン達は、駐車場に設置された、バリケードを睨む。


 組み合わせられた、背凭れつきの長椅子&円形テーブルは、ゾンビ達を足止めしている。



 そこから、連中は手を伸ばすが、冒険者が振るう長剣やハンマーで攻撃されてしまう。


 また、ギルド城壁の凸凹からも、銃撃や魔法などが放たれて、敵を殲滅していく。



「マルルン、来ますよっ!」


「サヤッ! 分かった」


 桜鼠色の和服に黄色い胴鎧を着た、女性冒険者が、薙刀を真っ直ぐに構える。


 黒髪ロングヘアで、前髪を揃えている、黒茶色の目を細める彼女は、凛とした印象を受ける。



 そして、白い足袋の下に履かれた、草履ぞうりが地面を蹴る音がした。



 そして、マルルンも名前を呼ばれると、ラウンドシールドを構えた。



 次いで、直ぐに、ジャンピンガーとフレッシャー達が、勢いよく襲いかかってきた。


 前者は、上空から降ってきて、後者はバリケードを、よじ登ってくる。



「はあっ! 私の刃に殺られなさいっ!」


「ギャアッ!?」


「殺す前に、転ばしてっと」


「グアア? グオッ!」


「凄いな、俺も負けてられねーーぜっ!」


 サヤと言われた女性は、上空から落下してきた、ジャンピンガーを薙刀で真っ二つに切り裂いた。


 マルルンも、ラウンドシールドで、フレッシャーの頭を弾いて、後ろに倒れさせる。



 ショーンは、二人の活躍振りに自らも負けまいと、ショートソードを振りまくる。


 そして、ジャンピンガーの頭を跳ねとばし、フレッシャーを斬り捨てる。



 こうして、冒険者たちの活躍により、徐々にゾンビ達は、数を段々と減らしていった。



「グアアアアーーーー」


「ギュオオオオッ!!」


「うわ、二体同時に相手するのかっ!」


 ショーンは、両手で力強くショートソードを握って、フレッシャー達を切り裂こうと構えた。



「ショーン、危ないっ! 盾を掲げてっ!」


「ギャッ! ギャアアアッ!?」


「グルルルルァァッ!! グッ! ウ…………」


「おわっ! このっ! 助かったぜ、リズ」


 その時、リズが魔導杖から火炎魔法を放って、フレッシャーを倒す。


 バックラーを構えていた、ショーンは残る一体の額を斬ってしまった。



「はあ、はあ…………これで、終わりか?」


「ショーン、もう敵は見えないわ」


 こうして、最終的に、ショーンとリズ達の奮闘が実を結んだらしく、駐車場から敵は一掃された。


 これにより、ゾンビ達による襲撃は、ようやく鎮静化されて、戦闘は終わりを迎えた。



 冒険者ギルドの建物は無事だったが、二人を含む冒険者たちは長く続いた戦いで疲れきっていた。



「リズ…………やっと、終わったんだな?」


「ええ、もう、ギルド内に戻ってきて」


 ショーンとリズ達は、疲労困憊していたが、彼等は互いに労い合った。

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