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第5話 ギルド防衛戦の始まり

「ショーン、今まで何をやってたのっ?」


「色々しながら、コイツらと一緒に、ここを目指してたんだっ!」


 要塞を改築した、冒険者ギルドは三階建ての建物だが、二階は凸凹の壁に囲まれている。


 そこから、リズが声を掛けてくると、ショーンは大きな声で返事をした。



「知り合いか?」


「どうやら、暴徒じゃなそうだが…………」


「ええ、彼は職場の同僚で、いつもは警備員として働いているわ」


「そうか、おいっ! そこに居ると、ゾンビ達を匂いで呼び寄せる、だから移動しろ」


「はやく、ギルドの中に入るんだっ!」


 狙撃手は、ライフルを下げながら、弓兵も矢を弦から離しながら呟く。


 リズは、彼等にショーン達が悪人ではなく、知人である事を伝えた。



 魔法使いは、魔導杖を振るって、駐車場に立ち尽くす、四人を近くに呼ぶ。


 ギルド職員も、建物内に入るように伝えると、何処かへと走っていく。



「お前たち、中に入れっ!」


「急がないと、ゾンビが来るっ!」


「分かってるぜ」


「今、そっちに行くよ」


 ギルド正面の城門が開かれると、中から冒険者と傭兵たちが、手招きをしてきた。


 ショーンとフリンカ達は、二人の元へと、素早く向かってゆく。



「アアアア」


「ウアアアア」


「うわ、ゾンビが来やがったっ!」


「ヤバいにゃっ!」


 ギルドの駐車場外側に設置された、鉄条網に何体か、ゾンビ達が引っ掛かる。


 そんな光景を見ながら、ワシントンとミー達は、自身らの走る速度を上げた。



「はあっ! お前ら、早く入れっ!」


「分かってるよっ! ふぅ」


「ここなら安心だにゃ…………」


 ショーンが中に入ると、ワシントンとミー達も逃げ込んだあと、城門を閉め始めた。



「よっと、重たいな」


「私も手伝うよ」


「よし、後はコイツでっ!」


 ショーンとフリンカ達が、城門を左右から閉めると、傭兵が鍵を掛けた。


 また、ゾンビ達が二重に設置された、バリケードを越えてきた時のために、ドアノブに板を載せた。



 こうして、冒険者ギルドの入口は、再び固く閉ざされてしまった。



「もう、安全だと思いたいが…………」


「ショーン、あっちで話をしましょう」


 ショーンが何気なく呟いたら、リズは左側の廊下を指差した。



「分かった、ギルドの受付だな」


 ショーンは言われた通り、ギルド内の受付場所へと向かう。


 彼も、ここには何回か来ているので、内部構造は大体だが分かっている。



「はい、確認しました」


「うぅ? 足を挫いた」


「武器を運ぶぞ」


「まさか、ゾンビと戦争になるとはな」


 受付嬢のホブゴブリンは、固定電話から受話器を取ると、両手で持ちながら相手と離す。


 足を負傷した冒険者は、カウンターの前で、背中を預けた状態で、苦しそうに座っている。



 傭兵と魔法使いたちは、大きくて細長い木箱を抱えながら、二人して歩いていく。



「ショーンじゃないか? 生きてたんだな?」


「よお? スバス、お前も来ていたか?」


 カウンターの手前に、左右六個ずつ並べられた背凭れ付きベンチには、スバスが座っていた。


 オレンジ色のターバンを被る彼も、ショーンと同じく、警備員として働く冒険者である。



「知り合いか?」


「友達かにゃ?」


「奴は、スバス・フォート…………ルドマン商会の警備員で、俺の飲み仲間だよ」


「宜しくなっ!」


 ワシントンとミー達は、黄褐色肌の男性を前にして、誰だろうかと不思議がる。


 それを見て、ショーンは紹介しないと成らなかったと思って、二人にスバスのことを説明する。



 上下に、黒スーツを着ており、漆黒の短靴を履いた彼も、二人に握手しようと右手を出してきた。



「まあ…………取り敢えず、あっちのテーブルの場所に座りましょう? 互いの名前と紹介を済ませましょう」


「そうだな、フリンカの言う通りだ」


 こうして、六人は円形テーブルを囲みながら、冒険者ギルドに来た理由を互いに語った。



「埠頭を夜間警備していたら、悲鳴が聞こえたり、避難勧告が出たから、慌てて逃げている時にゾンビを見たわけなのよ」


「警備している時は、ゾンビを見なかったし、津波が出たから避難勧告が出たと思ったくらいだが? まさか、アンデッドモンスターが出るとはな」


 リズとスバス達が語る通り、最初は誰もが、パンデミックだと思わなかった。


 しかし、次第にアンデッド達の数は増え始め、各地で冒険者や民間人を襲った。



 それにより、ゾンビ達の存在を確認して、冒険者ギルドや自治体は、避難勧告を放送した。



「俺達は、そんな放送を聞かなかったな?」


「そうね? 何でかしら? 不思議だわ」


「一部地域は…………と言うか? この沿岸部は変電所が故障したか? 爆発したらしい」


「ゾンビに襲撃されたのかしら?」


 ショーンとフリンカ達は、確かに非難しろと言う放送を聞いてない。


 その理由だが、スバスが耳にした噂を話すと、リズは険しい顔で、攻撃を受けたと考察する。



「まあ、盗賊やチンピラ達も暴れているくらいだしな」


「確かに連中なら、やりかねない…………」


「皆さん、大変ですっ! 灯台からの情報によると、ゾンビの大群が、こちらを目指していると報告が有りましたっ!」


 ショーンは、犯罪者たちが略奪や放火を行い、それにより変電所が破壊されたと考える。


 ワシントンも、両目を瞑りながら、暴れ回る暴徒化した群衆を想像して、静かに呟く。



 そんな中、ギルドの受付嬢である、ホブゴブリンが血相を変えて走ってきた。



「戦える人達は、今すぐ戦闘配置に着いて、下さいっ! 手先が器用な人は、罠の設置とバリケードの補強をお願いしますっ!」


「何だってっ!」


「これは、大変だにゃっ!」


「不味いわ…………」


 ホブゴブリンの言葉を聞いて、ショーンは直ぐに椅子から立ち上がった。


 ミーとリズ達も、それぞれの武器を手にして、ギルド防衛戦に加わるべく動き出す。



「今すぐ、行くわっ! 二階に上がるのよっ!」


「遠距離から、駐車場の連中を援護しなければっ!」


「駐車場の入口を守るんだっ!」


「避難民を奥に行かせろっ! 外は、私達がやるよっ!」


 クロスボウを抱えた、ギリスーツを着ている女レンジャーは階段の方へと走っていく。


 二連散弾銃を背負った、ポンチョを着た、猟師も後に続いて、素早く駆け出していく。



 長槍パイクを構えたまま、黒鎧に身を包んだ、冒険者は、駐車場へと移動していく。


 両手に、小杖を持った魔法使いも、同じく外を目指して走り出した。



「俺達も行くぜっ! 冒険者の連中と一緒に、真っ向から戦うぞっ!」


「ああ、避難民を守るのが冒険者って、モンだからねっ!」


「やってやるにゃっ! ゾンビくらい、頭を叩き割ってやるにゃっ!」


「よっし、重い腰を上げないと成らんようだな…………」


 ショーンとフリンカ達は、椅子から立ち上げると同時に、冒険者たちに混じって走る。


 ミーとスバス達も、前を走る二人を追って、疾走していく。



「私は、上から火炎魔法で援護するわっ!」


「俺も、弓を使って敵を狙撃するからな」


「分かった、二人は二階から敵を倒してくれ、そっちは任せたぞっ!」


 リズとワシントン達は、遠距離攻撃が得意としているため、二階から援護しようと言うのだ。


 そんな二人と、ショーンは別れながら城門から駐車場へと出ていく。



「まだ、時間があるっ! 色んな罠を設置するんだっ!」


「長椅子も、バリケードに使えるから運んで来たぞっ!」


 大工らしき男が、小さな木箱を駐車場のコンクリートに、次々と置いていく。


 大柄な冒険者は、両脇に、背凭れ付きの椅子を抱えて走ってきた。



 こうして、バリケードは強化されていき、冒険者たちも迎撃体制を整える。



「よっし、来るなら来い…………準備は出来てるぞっ!」


 ショーンは、駐車場のど真ん中に立ち、遠方から聞こえてくる、唸り声に耳を傾けた。


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