「ショーン、今まで何をやってたのっ?」
「色々しながら、コイツらと一緒に、ここを目指してたんだっ!」
要塞を改築した、冒険者ギルドは三階建ての建物だが、二階は凸凹の壁に囲まれている。
そこから、リズが声を掛けてくると、ショーンは大きな声で返事をした。
「知り合いか?」
「どうやら、暴徒じゃなそうだが…………」
「ええ、彼は職場の同僚で、いつもは警備員として働いているわ」
「そうか、おいっ! そこに居ると、ゾンビ達を匂いで呼び寄せる、だから移動しろ」
「はやく、ギルドの中に入るんだっ!」
狙撃手は、ライフルを下げながら、弓兵も矢を弦から離しながら呟く。
リズは、彼等にショーン達が悪人ではなく、知人である事を伝えた。
魔法使いは、魔導杖を振るって、駐車場に立ち尽くす、四人を近くに呼ぶ。
ギルド職員も、建物内に入るように伝えると、何処かへと走っていく。
「お前たち、中に入れっ!」
「急がないと、ゾンビが来るっ!」
「分かってるぜ」
「今、そっちに行くよ」
ギルド正面の城門が開かれると、中から冒険者と傭兵たちが、手招きをしてきた。
ショーンとフリンカ達は、二人の元へと、素早く向かってゆく。
「アアアア」
「ウアアアア」
「うわ、ゾンビが来やがったっ!」
「ヤバいにゃっ!」
ギルドの駐車場外側に設置された、鉄条網に何体か、ゾンビ達が引っ掛かる。
そんな光景を見ながら、ワシントンとミー達は、自身らの走る速度を上げた。
「はあっ! お前ら、早く入れっ!」
「分かってるよっ! ふぅ」
「ここなら安心だにゃ…………」
ショーンが中に入ると、ワシントンとミー達も逃げ込んだあと、城門を閉め始めた。
「よっと、重たいな」
「私も手伝うよ」
「よし、後はコイツでっ!」
ショーンとフリンカ達が、城門を左右から閉めると、傭兵が鍵を掛けた。
また、ゾンビ達が二重に設置された、バリケードを越えてきた時のために、ドアノブに板を載せた。
こうして、冒険者ギルドの入口は、再び固く閉ざされてしまった。
「もう、安全だと思いたいが…………」
「ショーン、あっちで話をしましょう」
ショーンが何気なく呟いたら、リズは左側の廊下を指差した。
「分かった、ギルドの受付だな」
ショーンは言われた通り、ギルド内の受付場所へと向かう。
彼も、ここには何回か来ているので、内部構造は大体だが分かっている。
「はい、確認しました」
「うぅ? 足を挫いた」
「武器を運ぶぞ」
「まさか、ゾンビと戦争になるとはな」
受付嬢のホブゴブリンは、固定電話から受話器を取ると、両手で持ちながら相手と離す。
足を負傷した冒険者は、カウンターの前で、背中を預けた状態で、苦しそうに座っている。
傭兵と魔法使いたちは、大きくて細長い木箱を抱えながら、二人して歩いていく。
「ショーンじゃないか? 生きてたんだな?」
「よお? スバス、お前も来ていたか?」
カウンターの手前に、左右六個ずつ並べられた背凭れ付きベンチには、スバスが座っていた。
オレンジ色のターバンを被る彼も、ショーンと同じく、警備員として働く冒険者である。
「知り合いか?」
「友達かにゃ?」
「奴は、スバス・フォート…………ルドマン商会の警備員で、俺の飲み仲間だよ」
「宜しくなっ!」
ワシントンとミー達は、黄褐色肌の男性を前にして、誰だろうかと不思議がる。
それを見て、ショーンは紹介しないと成らなかったと思って、二人にスバスのことを説明する。
上下に、黒スーツを着ており、漆黒の短靴を履いた彼も、二人に握手しようと右手を出してきた。
「まあ…………取り敢えず、あっちのテーブルの場所に座りましょう? 互いの名前と紹介を済ませましょう」
「そうだな、フリンカの言う通りだ」
こうして、六人は円形テーブルを囲みながら、冒険者ギルドに来た理由を互いに語った。
「埠頭を夜間警備していたら、悲鳴が聞こえたり、避難勧告が出たから、慌てて逃げている時にゾンビを見たわけなのよ」
「警備している時は、ゾンビを見なかったし、津波が出たから避難勧告が出たと思ったくらいだが? まさか、アンデッドモンスターが出るとはな」
リズとスバス達が語る通り、最初は誰もが、パンデミックだと思わなかった。
しかし、次第にアンデッド達の数は増え始め、各地で冒険者や民間人を襲った。
それにより、ゾンビ達の存在を確認して、冒険者ギルドや自治体は、避難勧告を放送した。
「俺達は、そんな放送を聞かなかったな?」
「そうね? 何でかしら? 不思議だわ」
「一部地域は…………と言うか? この沿岸部は変電所が故障したか? 爆発したらしい」
「ゾンビに襲撃されたのかしら?」
ショーンとフリンカ達は、確かに非難しろと言う放送を聞いてない。
その理由だが、スバスが耳にした噂を話すと、リズは険しい顔で、攻撃を受けたと考察する。
「まあ、盗賊やチンピラ達も暴れているくらいだしな」
「確かに連中なら、やりかねない…………」
「皆さん、大変ですっ! 灯台からの情報によると、ゾンビの大群が、こちらを目指していると報告が有りましたっ!」
ショーンは、犯罪者たちが略奪や放火を行い、それにより変電所が破壊されたと考える。
ワシントンも、両目を瞑りながら、暴れ回る暴徒化した群衆を想像して、静かに呟く。
そんな中、ギルドの受付嬢である、ホブゴブリンが血相を変えて走ってきた。
「戦える人達は、今すぐ戦闘配置に着いて、下さいっ! 手先が器用な人は、罠の設置とバリケードの補強をお願いしますっ!」
「何だってっ!」
「これは、大変だにゃっ!」
「不味いわ…………」
ホブゴブリンの言葉を聞いて、ショーンは直ぐに椅子から立ち上がった。
ミーとリズ達も、それぞれの武器を手にして、ギルド防衛戦に加わるべく動き出す。
「今すぐ、行くわっ! 二階に上がるのよっ!」
「遠距離から、駐車場の連中を援護しなければっ!」
「駐車場の入口を守るんだっ!」
「避難民を奥に行かせろっ! 外は、私達がやるよっ!」
クロスボウを抱えた、ギリスーツを着ている女レンジャーは階段の方へと走っていく。
二連散弾銃を背負った、ポンチョを着た、猟師も後に続いて、素早く駆け出していく。
長槍パイクを構えたまま、黒鎧に身を包んだ、冒険者は、駐車場へと移動していく。
両手に、小杖を持った魔法使いも、同じく外を目指して走り出した。
「俺達も行くぜっ! 冒険者の連中と一緒に、真っ向から戦うぞっ!」
「ああ、避難民を守るのが冒険者って、モンだからねっ!」
「やってやるにゃっ! ゾンビくらい、頭を叩き割ってやるにゃっ!」
「よっし、重い腰を上げないと成らんようだな…………」
ショーンとフリンカ達は、椅子から立ち上げると同時に、冒険者たちに混じって走る。
ミーとスバス達も、前を走る二人を追って、疾走していく。
「私は、上から火炎魔法で援護するわっ!」
「俺も、弓を使って敵を狙撃するからな」
「分かった、二人は二階から敵を倒してくれ、そっちは任せたぞっ!」
リズとワシントン達は、遠距離攻撃が得意としているため、二階から援護しようと言うのだ。
そんな二人と、ショーンは別れながら城門から駐車場へと出ていく。
「まだ、時間があるっ! 色んな罠を設置するんだっ!」
「長椅子も、バリケードに使えるから運んで来たぞっ!」
大工らしき男が、小さな木箱を駐車場のコンクリートに、次々と置いていく。
大柄な冒険者は、両脇に、背凭れ付きの椅子を抱えて走ってきた。
こうして、バリケードは強化されていき、冒険者たちも迎撃体制を整える。
「よっし、来るなら来い…………準備は出来てるぞっ!」
ショーンは、駐車場のど真ん中に立ち、遠方から聞こえてくる、唸り声に耳を傾けた。