裁判が終わってからも、ショーンは映画の主人公みたいに、黄昏ながら放浪している暇はなかった。
OLP本社部隊やライルズ達に雇われた、殺し屋と刺チンピラ連中から、常に命を狙われたからだ。
「はあ、はあっ! しつこい奴等だっ!」
「待てぇ~~~~!?」
「逃がすなーー!!」
夜の路地を、ボロい格好をした、ショーンが必死で走り抜けていく。
その後ろを、クモ人間と白人たちが、しつこく追いかけてくる。
「何処に行っても、奴等は追って来やがる? オーシャン・リザードは、どうしても俺を消したいらしいな…………」
「まて~~!!」
「逃げ足の速い奴だっ!」
曲がり角を曲がってから直ぐに、ショーンは大きなゴミ箱の陰に身を潜めた。
クモ人間と白人の二人組は、もちろんチンピラであり、狙いは暗殺である。
「行ったか? ライルズ、スザンナ…………」
婚約者を奪われた挙げ句、裏切りにあって、職と地位まで失った。
それを思いだしながら、ショーンは路地をフラフラと歩きつつ、歩道に出る。
そこには、薄暗い公園が広がっているだけで、誰も存在しなかった。
夜の闇は、冷たい潮風を吹かせ、ホームレスすら寄せ付けない雰囲気だった。
「くぅぅ? 寒いぜ…………」
ショーンは、弁護団から保護すると言われたが、それを断ってしまった。
彼等を、信用していないワケではないが、婚約者や仲間に裏切られた彼は、希望を捨てている。
そのため、一人孤独に成りながら、今は追ってから逃がれようと、必死に逃亡生活を続けている。
この逃走劇も、いつかは海トカゲ団や暗殺者に見つかり、終わりを告げるだろう。
「もう、行く場所もない、帰る場所もない? 希望もない…………いや、アレなら」
ショーンは、道端で歩道を椅子にしながら座ると、ふと茶色いビール瓶が見えた。
これを叩き割り、喉を掻き斬ろうとして、彼は背中を丸めると、右手を伸ばした。
「きゃああああっ!!」
「なっ! なんだっ! 何処から?」
誰かが叫ぶ声が聞こえて、ショーンは驚きのあまり、立ち上がってしまった。
「誰か助けてーー!! 襲撃よっ!?」
「不味い、社長を退避させろっ!?」
「ウヒャヒャ、アヒャヒャッ!」
「取り囲めっ! 奴等を逃がすなっ!」
路地を戻って見ると、道路で壊れた自動車を楯にして、女性エルフが、火炎魔法を放っていた。
また、同じ場所から赤いターバンを巻いた男性が、大声で叫んでいた。
反対側では、ピックアップの裏から、黒人チンピラが、ピストルを撃ちまくっている。
もう一人のアジア人チンピラは、ショットガンを何度も撃ちながら、ポンプを引いていた。
どうやら、よく見ると、チンピラ達は他にも居るようで、街路樹や樽の裏に隠れている。
「不味い、このままでは…………仕方ない、行くしかないかっ!」
ショーンは、チンピラ達による強盗か、暗殺だろうと思い、一気にピックアップへと駆け出した。
どうせ、殺されるのなら命は惜しくないと、ビール瓶を片手に、彼は猛烈な勢いで走っていく。
「このっ! お前は、こうだっ!」
「ぐあっ!?」
「げぇーー!!」
走りまくった、ショーンは、ピックアップに近づいて、黒人チンピラの頭をビール瓶で叩きつけた。
次いで、アジア人チンピラの首を割れた、ガラス片で、思いっきり引っ掻いた。
「な、なんだ、この野郎はっ!」
「奴も、標的だっ! 撃ち殺せっ!」
「させないわっ! 火炎攻撃を喰らいなさいっ!」
「この野郎は、俺の台詞だっ!」
ショーンに注意を向けた、黒人チンピラは、エルフ女性による火炎魔法を受けてしまう。
ピストルを乱射する、アジア人のチンピラに、ターバンを巻いた男性は走っていった。
「うわっ! ぎゃああああっ! 燃える、あちちちちっ!」
「うぎゃあっ! このっ! がふっ!」
「させないわっ! 火炎攻撃を喰らいなさいっ!」
「この野郎は、俺の台詞だっ!」
黒人のチンピラは、ピックアップに隠れていたが、顔に火炎魔法が直撃してしまった。
アジア人のチンピラも、ターバンを巻いた男性が、振り下ろした鉄球で顔面を潰された。
「お前らも死ねっ! 俺は死ぬのが、怖くないぞっ! どうせ、命を狙われているんだからなっ!」
「な、なんだ、この野郎はっ! 死ぬのが怖くないだとっ! ぐわわっ!」
「怯むな、撃てーー! 撃ちまくれっ!!」
デーモン族のチンピラは、ピストルを握り、街路樹に隠れていたが、ショーンに顔面を殴られる。
弓を持つ、マンドラゴラのチンピラにも、彼は真っ向から走っていき、鋭い蹴りが放たれた。
「こっちは、ずっと突撃役を果たしていたんだっ! 今さら、銃や魔法で死ぬのが怖いなんて、言ってられるかっ! うおおおおっ!!」
「ぐっ! アイツを狙えっ!」
「射ちまくれ~~~~!」
元来の無鉄砲な性格と、自暴自棄になっており、命が惜しくないショーンは、ひたすら走り回る。
彼は、チンピラの死体から拾った、ピストルを滅茶苦茶に発砲しながら、派手に暴れまわる。
ラテン系のチンピラは、両掌から次々と、雷撃魔法を放ちまくる。
人間型スライムのチンピラは、アサルトライフルを射ちまくり、彼を四方八方から襲う。
「うらああああっ! 殺せるものなら、殺してみやがれっ!」
「あの野郎、野獣かっ!」
「狂暴な奴だっ!」
ショーンは、ピストルを射ちながら、野獣の如く咆哮を上げているため、かなり目立っている。
そんな隙だらけである彼を狙って、白人と黒人のチンピラ達は、アサルトライフルを連射する。
「ぐあ、痛えっ! しかし、ようやく死ねるな…………」
当然ながら、派手な動きをしていれば、必ず敵の注意を引いてしまう。
そうなれば、ショーンの脇腹を、ライフル弾が何発か、貫いてしまう事も仕方がない。
「撃ちまくれっ! 救助隊だっ!」
「警察も連れて来たぞっ!」
「うわっ! 分が悪くなって来たぞっ!」
「退散しろ~~! もう逃げるんだーー!」
地面に崩れ落ちるように横たわった、ショーンの目には、何者かが叫ぶ姿が目に移る。
それは、たくさんの警官隊を引き連れた、人食い花とインキュバス達だ。
警察から銃や魔法を射たれまくって、分が悪くなったのをチンピラ達は悟り、一斉に逃げ出した。
蜘蛛の子を散らしたように、狭い路地やバイクに乗って、連中は撤退していく。
「ぐぶっ!? ああ…………また、同じような感じで、死ぬのか…………でも、今度は誰かを助けたんだ? 悔いはないっ! ごばああっ!」
「ねえっ! 貴方、大丈夫っ! 止血しないとっ!」
「救急隊は、まだかっ! はやく、コイツが死んでしまうっ!」
脇腹を押さえながら、焼けるような痛みを弾痕に感じて、ショーンは仰向けになる。
しかし、ようやく悲しみや苦しみが終わると思い、彼は誇らしげな顔で、満足していた。
そこに、少々ふっくらとした体型で、金髪ロングテールの女性エルフが現れた。
彼女は、黒色に染められた、ロングコートを揺らしながら走ってくる。
赤色のターバンを被る、褐色男性も同じく、応急措置をしようと向かってくる。
彼は、上下に黒スーツを着ており、漆黒の短靴で地面を蹴る音を響かせる。
「今度は、味方が助けてくれるのが、せめてもの救いか?」
そう言って、ショーンは意識を無くし、深い闇の中へと沈んでいった。
「おい、起きてくれ? 意識は有るか?」
「ふしゅーー? ふしゅ~~?」
青い救急衣を着ている、医者らしき人物が、病院の集中治療室で、ショーンに話しかけてきた。
今の彼は、呼吸器を取り付けられており、まだ喋られる状態ではない。
そのため、コクコクと頷きながら、静かに答える事しか出来なかった。
また、麻酔ガスを吸わされたため、直ぐに深い眠りについてしまった。