ショーンが慎重に、コンテナに入った瞬間、とつぜん両側からドアが閉められた。
「どうしたっ! ライルズ、敵の奇襲があったのかっ!」
「ショーン、死んでくれと言ったよな?」
ショーンは中から、ドアを必死で叩いて、外に居るであろう、ライルズに声をかけた。
「ショーン、お前の死は無駄にしない」
「これで、終わりだ…………こう言う稼業だ、裏切りなんて、日常茶飯事だろっ! ククッ!」
「恨むなら、無力な己を恨むんだな」
「じゃあね~~! ショーン、バイバイ」
黒アリ人間のバルザは、わざとらしく、格好をつけた台詞を呟いた。
冷たい言葉を発しながら、ゾンビ族のフロイスは、笑いを堪える。
さらに、ライルズが率いる部隊のメンバー達も、ショーンは罵倒し始めた。
オーガー族の戦士グロースによる、無慈悲で低い声が聞こえてくる。
明るく馬鹿にした態度で話す女性は、ネクロマンサーのマリッサだ。
「下等生物め、手こずらせるなっ! 私のために、大人しく死ぬのだ」
「戦士なら、潔く散れっ! 弱き者に価値など無いに等しいっ!」
「ショーン、済まない…………娘が病気なんだ、どうしても金が居るんだ」
「家族を人質にされてな? 俺達は無力だった…………」
エリート意識の高い、エルフ族である、ヨハンソンは傲慢な態度で、ショーンに冷たい言葉を吐く。
忍者やアサシン見たいな格好をしている、コウゾウは、見下したような感じで罵倒する。
吸血鬼族のクライドは、無念そうに呟きながら、コンテナを叩いた。
ワニ型リザードマンのガビアルも同じく、弱々しい声で、言葉を淡々と述べる。
「スザンナ、コイツ等は裏切り者だっ! 君も早く逃げるんだっ!」
「は? 何を言ってるの? 逃げるワケ無いでしょ…………」
その場に居た、仲間全員が敵になった事で、ショーンは慌てて、スザンナを気にかけた。
「何を言って、はっ! まさかっ!?」
「そのまさかだよ、ショーン、それが最後の遺言だな? そこの死体は、ヘマをやらかした馬鹿だっ! お前と一緒だよ? じゃあな、我が社のエース」
ショーンは、スザンナも裏切りに加担していた事を悟り、驚愕の事実に焦ってしまう。
ライルズは、罵詈雑言を吐いたあと、右手に握る起爆スイッチを押してしまった。
「ぐわああああああっ!?」
爆発音が鳴り響き、ショーンの背後から爆風と炎が一気に襲ってきた。
それから、かなり時が立ち、二人組が歩きながら倉庫内へと入った。
「ギャング同士の抗争が、付近で起きたらしいが? 全く面倒な話だぜ」
「だな~~? まだ、ここにも残党が残っているかも知れないさら調べなきゃ、成らんし?」
ここに来た、何者かの正体は、何と事件現場に駆けつけた、警官隊であった。
「ん? おい、誰か居るぞ? 死体かっ?」
「黒焦げになっている? 死んだのか」
「がは、ぐ…………」
痩せた警官と太った警官たちは、黒焦げ死体に駆け寄ると、まだ息がある事が分かった。
「おいっ! 生きているのかっ!」
「確りしろ、救急病院に運んでやるからな」
「うあ?」
痩せた警官は、大急ぎで死体に駆け寄り、太った警官は、無線でレスキュー隊を呼ぶ。
もちろん、黒焦げに成っているのは、ショーンであり、彼は短く呻いたあと再び気を失った。
「はっ! ここは? 病院…………」
「起きましたか? 私は弁護士のメルロスと申します」
ショーンは、ベッドの上で目を覚ますと、いきなり白い天井が目に入った。
そして、左側にある窓の側には、弁護士を名乗る男性が椅子に座っている。
「早速ですが、ショーンさん? 貴方には、黙秘権があります」
「黙秘権だと?」
メルロスは、まるで犯罪者であるかのように、ショーンに対して、話を説明しようとする。
それを聞いて、彼は驚きのあまり、上半身を起こしてしまった。
「ええ? 業務上の横領、犯罪組織との取引、武器の横流しや密売、麻薬取締方違反など」
「はあ、何の話だっ!? ライルズの野郎かっ!!」
全く身に覚えの無い罪状を語る、メルロスに対して、ショーンは自らに罪が
「まあ、落ち着いて聞いて下さい…………実は」
弁護士メルロスは、今ショーンが無実の罪に囚われており、裁判が近い事を淡々と語った。
そして、彼の体調が回復したため、裁判当日は直ぐにやってきた。
「被告人、ショーンッ! 業務上の横領は、物的証拠が残っており、犯罪を犯したのは明白っ! よって、これに関しては懲役刑に処す」
「被告人か」
厳ついトロールの裁判長が、ショーンを睨みながら判決を下そうとしている。
「裁判長っ! しかし、彼の人柄や功績から考えて、このような事をするとは思えませんっ!」
「黙れっ! こっちには証人が居るんだっ! それに、証拠もあるっ!」
反オーシャン・リザード・パーティーを掲げる弁護団員が、ショーンを擁護しようとする。
彼等は、表向き大規模な冒険者パーティーであり、裏ではマフィアである連中と法廷で闘う気だ。
対する、OLP幹部団や傘下の企業社長などは、自分たちが行ってきた悪事を並べたてる。
それらを、無実な彼に押し付けるべく、こちらも有能な弁護士を大量に雇っていた。
「静粛にっ! オーシャン・リザード側は、その証拠と証人を示しなさい」
「裁判長、分かりましたっ! おい、奴等を連れてこい」
「はい、今行きます」
「裁判長、私達が証言します」
裁判長の命令により、OLP幹部は、部下を呼び出して、証言台に立たせる。
そして、二人の人間が前に出てきたが、それはライルズとスザンナ達だった。
「ライルズ、スザンナ…………ぐう」
「被告人、ショーンは我々の部隊を誘き寄せて、自らの配下であるギャング団と、纏めて殺害しようとしました」
「彼は、支給される弾薬や防弾ベストなどを、複数のギャング団に横流ししていました」
「分かったっ! 殺人未遂に関しては、証拠資料も残っているな? 横領の件は、やや証拠が不十分だ」
「裁判長、宜しいでしょうか?」
ショーンは、自分を裏切った奴等の姿を見て、頭に血が登り、
当然ながら、ライルズとスザンナ達は、真顔で淡々と作り話を述べていく。
そんな中、裁判長は、彼等の言葉と用意された資料を読み上げ、それを信じてしまう。
また、弁護士のメルロスは、静かに呟き、右手を上げて発言する許可を求めた。
「はああ…………」
「仮に、被告人による殺人未遂が事実だてしても、他の証拠には、おかしな点が多数散見されますっ! よって、被告人には実刑ではなく、執行猶予と減刑を嘆願します」
「うむっ! 犯罪組織との取引、武器の横流しや密売、麻薬取締方違反などっ! これらの証拠は不十分であるっ! だが、仲間たちへの背信行為である犯罪者との内通、および殺人未遂は事実であると考える」
ショーンの怒りなど関係なく、裁判は進んでいくが、彼は取り乱したりはしない。
どうせ、暴れれば自らが余計不利になると、事前に弁護団から教わっていたからだ。
メルロスは、裁判を有利にするため、何とかして、刑を軽くしようと、舌を動かして奮闘する。
その意見に耳を傾けながら、裁判長は暫く目を瞑っていたが、ようやく口を開いた。
「よって、これらを考慮した結果、被告人には執行猶予を付ける」
「は…………」
裁判長は、かなり重い刑罰を下すかと思いきや、その逆で寛大な判決を宣言した。
反OLP弁護団の努力と、フルルンク王国が制定した犯罪者に甘い司法制度によるものだ。
ショーンは、あっさりと下った自身への軽い処罰に対して、呆気に取られてしまう。
皮肉にも、凶悪犯や犯罪組織などを活発化させる法律が、彼もまた守ってしまったのだ。
「ふぅ? 外は寒いな? 季節は秋か」
こうして、ショーンは無罪とは行かないまでも、弁護人の活躍により、執行猶予を勝ち取った。
しかし、一度前科が付いてしまえば、冒険者ギルドの仕事や一般職にすら就職しづらくなる。
「これから、どうすれば良いんだ? と言うか、何処に行けば良いんだ?」
裁判に勝ったとまでは言わないが、ショーンは少なくとも、自由にはなった。
とは言え、これから彼は、ライルズ達が放った刺客に追われ続ける事に成るのだった。
「トラウトマン大佐やM達なら、答えてくれるんだろうか?」
ショーンは、映画に登場する上司を思い浮かべて、自らも主人公のように救って欲しいと願った。