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第2話 地獄絵図

「くぅ~~染みるねぇ? やっぱ、白ラベルは…………」


 ショーンは、自宅のリビングで一人、テレビをボンヤリと眺めながら、ソファーに座っていた。


 また、スルメイカをつまみながら、冷たいビールを飲んで、ダラダラとしていた。



 部屋は、白い灯りに包まれており、彼は至福の時を過ごしていた。


 暗闇に包まれた、外からは風が吹き抜ける音が、微かに聞こえるだけの静かな夜だった。



「あっ! やべっ!」


 スルメイカの塩気を、ビールを飲んで爽やかな苦味とともに、喉から胃へと流し込む。


 少しずつ、リラックスしていく、ショーンだったが、彼は深呼吸をすると思い出す。



 残りのビールが足りないことを。



「しまったーー? 面倒だが、買いに行くかぁーー? 明日は非番だし」


 ショーンは、コンビニまで買い物に行くことを余儀なくされた。



「ちっ! しっかたねーーなっ!」


 ショーンは家から出ると、コンビニを目指して、アパートの階段を降りていく。


 ガタンガタンと、彼が歩く度に、鉄の音が静かな辺りに響く。



 この変は、中世を思わせる家屋や近代的な建築物が並ぶ、雑多な地域である。



「ふぁ~~? 眠い、しかし、明日のビールのためだ…………スルメは埋め~~♪」


「きゃああっ!」


「ウオオオオ」


 ショーンは、スルメイカを摘みながら、コンビニへと向かっていく。


 すると、曲がり角の右側から、女性が叫びながら走る音と、唸り声が聞こえてきた。



「どうしたっ!」


「いやああああっ!」


 ショーンが飛び込むと、仕事帰りのOL見たいな女性が、凄まじい勢いで走ってきた。



「へっ! へっ! 姉ちゃん、尻を触らせて~~! ここは、そう言う店なんだろろ? うっ! うおおおお…………」


 そして、ゾンビの唸り声に聞こえた正体は、酒を飲みすぎた、スケベな酔っぱらいだった。



「ああ、オッサン、飲みすぎだぜ? ここは居酒屋じゃねおよ?」


「あ? アレ、部長は何処いったの?」


 ショーンは、酔っぱらいの両肩を揺らして、正気に戻そうとした。



「知らねーーよっ! てか、酔っぱらってるからって、女に手を出したら、セクハラで逮捕されるぞ」


「うひぃ~~? 可愛子ちゃん、どこーー?」


 ショーンの忠告を聞いても、酔っぱらい親父は、深酒により、周りが見えてない。



「まったく、じゃあな、オッサン」


 仕方がないので、ショーンは彼を置いて、コンビニまで向かおうとする。



「あら、可愛子ちゃん、おっ! あは~~~~♥️」


「うぅ?」


 酔っぱらいは、フラフラと歩きながら電柱に抱きつき、キスを始める。


 しかし、そこに怪我をした、ダークエルフの女性が現れた。



「おっ! 可愛子ちゃん~~~~♥️」


「ウアアアアーーーー!!」


 酔っぱらいは、ダークエルフを見た途端、そちらに走っていく。


 すると、彼女の方も、凄まじい奇声を発しながら駆け出していった。



「はあ、酔っぱらいとか、マジで面倒だわ」


 ショーンは、袋から取り出した、スルメを食べながら呑気に呟きつつ歩いていく。



「ぎゃああああああっ!!」


「うわっ! どうしたんだっ!」


 いきなり、酔っぱらいが叫んだので、ショーンは今きた道を急いで戻ってきた。



「た、助け…………ぐあっ!」


「グルルルル」


「この離れろっ!」


 酔っぱらいを助けるため、血塗れとなった、ダークエルフに向かって、ショーンは体当たりした。



「グルルルルッ! ガルルッ!」


「うぎゃああああああーー」


「うおっ! な、なんだ、ゾンビか?」


 ダークエルフは、地面に倒れたが、再び立ち上がった時に、その顔が見えた。


 そして、側では首筋の肉を食い千切られた、酔っぱらいが、苦痛に悶えて転がる。



 ショーンは、これを見て、直ぐに不味いと思った。



「こうなったら、退散だっ!」


 取り敢えず、ゾンビに食われることを避けるべく、ショーンは逃げた。


 酔っぱらいは、首を噛まれていたので、可哀想だが放置する事にした。



「あの酔っぱらいも、直ぐに、ゾンビ化するだろう…………前に、異世界・オブ・ザ・デッドで見たから分かるんだよ」


 急ぎ自宅へと帰った、ショーンだったが、彼は直ぐに剣と盾を持つ。


 そして、玄関に鍵を掛けると、彼は職場を目指して走りだした。



「取り敢えず、リズ達と合流しないとっ!」


「うわあ~~~~!!」


「た、助けてーー!?」


「ヴルアアアアアア」


「ギャアアアアアーーーー」


 街中を走る、ショーンの手前にある十字路では、漁師とサラリーマンが追いかけられている。


 もちろん、彼等を狙うのはゾンビ達だったが、連中を攻撃するべく、ショーンは後ろに回った。



 しかし、連中はゾンビ化してから、そんなに時間が立ってないのか、素早く走っていった。



「早く走るタイプか? フレッシュなのか? ん?」


 ショーンは、逃げていった二人とゾンビ達が、夜の暗闇に紛れてしまうと、不意に呟いた。


 そして、彼は次なる異変に気がついて、そちらに目を向けた。



「いやああっ!?」


「きゃあっ!?」


「グオオッ!」


 木造アパートの二階から声が聞こえたから、ショーンは目を向ける。


 そこでは、廊下の所で叫ぶ母娘と、二人に迫るゾンビ男が見えた。



「こっからじゃ、間に合わないっ! んっ!! これならっ!」


 辺りを見渡して使える物がないかと、目をキョロキョロさせた、ショーンは直ぐに動いた。


 彼は、樽の上に置かれた漬物石を両腕で掴むと、砲丸投げをするように、体を回転させた。



「いや、いやっ!」


「ああ…………」


「グオオッ!! ガアっ!?」


「よっしゃ、当たったぜ」


 諦めかけていた、母親と娘たちはゾンビに怯えていたが、そこに横から石が飛んできた。


 当然、それは奴の頭を直撃して、ショーンは何とか二人を助ける事ができた。



「おいっ! お前ら、危ないから今すぐ逃げろっ! そいつも、簡単には死んでないかも知れないからなっ!」


「助かったわ、ありがとうっ! 私達も避難するわっ!」


「分かったわ、貴方も気をつけてっ!」


 ショーンは、二人に安全圏へと避難するように伝えると、自身も会社を目指して走っていく。


 母親と娘たちも、素早く木造アパートの階段から何処かへと逃げていった。



「グオオッ!」


「ぎゃあ~~~~!!」


「いやああ」


「グルルルルーー」


「はあ、はあ…………クソ、何処も唸り声と悲鳴だらけだ」


 彼方此方あちらこちらから、叫び声や獣たちの吠え声が木霊する。


 そんな中、ショーンは会社を目指して、ひたすらに走っていく。



「ウガアーーーー」


「グオオッ!!」


「キィィィィッ!」


「うわっ! しまった…………三方を囲まれたか」


 真ん中のゾンビは、体格の良い冒険者らしく、かなり強そうな見た目だ。


 右側のゾンビは、漁師らしく、こちらも少しは強そうな感じがする。


 左側のゾンビ化した、サキュバスも手足は細いが素早そうな外見をしている。



 ショーンは、両脇のゾンビは、剣と盾を使えば防げるが、真ん中から来られたら面倒だと思った



「クソッ! 囲まれたか、どうしろって言うんだっ!」


「ハアアッ!!」


 ゾンビを前にして、ショーンは出方を伺うため、何もせずに後ずさるしか無かった。


 しかし、連中の背後から銀色に光る、ロングソードが胴を切り裂いた。



「無事かい? アンタも冒険者だろう?」


「ああ、助かった、ありがとう…………」


 謎の女戦士は、刃に付いた血を振るうと、ロングソードを、背中に背負う大鞘に閉まった。


 赤色の鎧を着た、彼女を前にして、ショーンは礼を言い、脱力すると溜め息を吐いた。



「はぁ~~」


 ショーンは安堵したので、下を向いて、ため息を吐きながら彼女を見た。


 どうやら、胸当て&スカートアーマーの下には、黒い夏用タイツと赤いブーツを履いているようだ。



「俺は、ショーン、ショーン・ボンドだ」


「私は、フリンカ・ラッシュだよ」



 彼女を良く見ると、紫ロングヘアの褐色肌であり、背が高くて筋肉質な美人であることが分かった


 頬は少しゴツくて、大きな鼻と下顎から生えた小さな牙が目立つ。


 しかし、鋭い眼光を放つ瞳は黄色く光り、長い睫毛と赤紫のアイシャドウも相まって美しく見える。



 謎の女戦士は、刃に付いた血を振るうと、ロングソードを、背中に背負う大鞘に閉まった。



 紅色の鎧を着た、彼女を前にして、ショーンは礼を言い、脱力すると溜め息を吐いた。


 どうやら、胸当て&スカートアーマーの下には、黒い夏用タイツと赤いブーツを履いているようだ。



「なあ、俺は先にある会社に行きたいんだが…………」


「止しなさい、あっちの倉庫街はゾンビの群れで埋め尽くされているわ」


 ショーンの言葉に、アメジスト色に光る瞳を、フリンカは背後に向ける。


 そして、忌々しげに夜闇が包んでいる埠頭を睨むのであった。

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