「くぅ~~染みるねぇ? やっぱ、白ラベルは…………」
ショーンは、自宅のリビングで一人、テレビをボンヤリと眺めながら、ソファーに座っていた。
また、スルメイカをつまみながら、冷たいビールを飲んで、ダラダラとしていた。
部屋は、白い灯りに包まれており、彼は至福の時を過ごしていた。
暗闇に包まれた、外からは風が吹き抜ける音が、微かに聞こえるだけの静かな夜だった。
「あっ! やべっ!」
スルメイカの塩気を、ビールを飲んで爽やかな苦味とともに、喉から胃へと流し込む。
少しずつ、リラックスしていく、ショーンだったが、彼は深呼吸をすると思い出す。
残りのビールが足りないことを。
「しまったーー? 面倒だが、買いに行くかぁーー? 明日は非番だし」
ショーンは、コンビニまで買い物に行くことを余儀なくされた。
「ちっ! しっかたねーーなっ!」
ショーンは家から出ると、コンビニを目指して、アパートの階段を降りていく。
ガタンガタンと、彼が歩く度に、鉄の音が静かな辺りに響く。
この変は、中世を思わせる家屋や近代的な建築物が並ぶ、雑多な地域である。
「ふぁ~~? 眠い、しかし、明日のビールのためだ…………スルメは埋め~~♪」
「きゃああっ!」
「ウオオオオ」
ショーンは、スルメイカを摘みながら、コンビニへと向かっていく。
すると、曲がり角の右側から、女性が叫びながら走る音と、唸り声が聞こえてきた。
「どうしたっ!」
「いやああああっ!」
ショーンが飛び込むと、仕事帰りのOL見たいな女性が、凄まじい勢いで走ってきた。
「へっ! へっ! 姉ちゃん、尻を触らせて~~! ここは、そう言う店なんだろろ? うっ! うおおおお…………」
そして、ゾンビの唸り声に聞こえた正体は、酒を飲みすぎた、スケベな酔っぱらいだった。
「ああ、オッサン、飲みすぎだぜ? ここは居酒屋じゃねおよ?」
「あ? アレ、部長は何処いったの?」
ショーンは、酔っぱらいの両肩を揺らして、正気に戻そうとした。
「知らねーーよっ! てか、酔っぱらってるからって、女に手を出したら、セクハラで逮捕されるぞ」
「うひぃ~~? 可愛子ちゃん、どこーー?」
ショーンの忠告を聞いても、酔っぱらい親父は、深酒により、周りが見えてない。
「まったく、じゃあな、オッサン」
仕方がないので、ショーンは彼を置いて、コンビニまで向かおうとする。
「あら、可愛子ちゃん、おっ! あは~~~~♥️」
「うぅ?」
酔っぱらいは、フラフラと歩きながら電柱に抱きつき、キスを始める。
しかし、そこに怪我をした、ダークエルフの女性が現れた。
「おっ! 可愛子ちゃん~~~~♥️」
「ウアアアアーーーー!!」
酔っぱらいは、ダークエルフを見た途端、そちらに走っていく。
すると、彼女の方も、凄まじい奇声を発しながら駆け出していった。
「はあ、酔っぱらいとか、マジで面倒だわ」
ショーンは、袋から取り出した、スルメを食べながら呑気に呟きつつ歩いていく。
「ぎゃああああああっ!!」
「うわっ! どうしたんだっ!」
いきなり、酔っぱらいが叫んだので、ショーンは今きた道を急いで戻ってきた。
「た、助け…………ぐあっ!」
「グルルルル」
「この離れろっ!」
酔っぱらいを助けるため、血塗れとなった、ダークエルフに向かって、ショーンは体当たりした。
「グルルルルッ! ガルルッ!」
「うぎゃああああああーー」
「うおっ! な、なんだ、ゾンビか?」
ダークエルフは、地面に倒れたが、再び立ち上がった時に、その顔が見えた。
そして、側では首筋の肉を食い千切られた、酔っぱらいが、苦痛に悶えて転がる。
ショーンは、これを見て、直ぐに不味いと思った。
「こうなったら、退散だっ!」
取り敢えず、ゾンビに食われることを避けるべく、ショーンは逃げた。
酔っぱらいは、首を噛まれていたので、可哀想だが放置する事にした。
「あの酔っぱらいも、直ぐに、ゾンビ化するだろう…………前に、異世界・オブ・ザ・デッドで見たから分かるんだよ」
急ぎ自宅へと帰った、ショーンだったが、彼は直ぐに剣と盾を持つ。
そして、玄関に鍵を掛けると、彼は職場を目指して走りだした。
「取り敢えず、リズ達と合流しないとっ!」
「うわあ~~~~!!」
「た、助けてーー!?」
「ヴルアアアアアア」
「ギャアアアアアーーーー」
街中を走る、ショーンの手前にある十字路では、漁師とサラリーマンが追いかけられている。
もちろん、彼等を狙うのはゾンビ達だったが、連中を攻撃するべく、ショーンは後ろに回った。
しかし、連中はゾンビ化してから、そんなに時間が立ってないのか、素早く走っていった。
「早く走るタイプか? フレッシュなのか? ん?」
ショーンは、逃げていった二人とゾンビ達が、夜の暗闇に紛れてしまうと、不意に呟いた。
そして、彼は次なる異変に気がついて、そちらに目を向けた。
「いやああっ!?」
「きゃあっ!?」
「グオオッ!」
木造アパートの二階から声が聞こえたから、ショーンは目を向ける。
そこでは、廊下の所で叫ぶ母娘と、二人に迫るゾンビ男が見えた。
「こっからじゃ、間に合わないっ! んっ!! これならっ!」
辺りを見渡して使える物がないかと、目をキョロキョロさせた、ショーンは直ぐに動いた。
彼は、樽の上に置かれた漬物石を両腕で掴むと、砲丸投げをするように、体を回転させた。
「いや、いやっ!」
「ああ…………」
「グオオッ!! ガアっ!?」
「よっしゃ、当たったぜ」
諦めかけていた、母親と娘たちはゾンビに怯えていたが、そこに横から石が飛んできた。
当然、それは奴の頭を直撃して、ショーンは何とか二人を助ける事ができた。
「おいっ! お前ら、危ないから今すぐ逃げろっ! そいつも、簡単には死んでないかも知れないからなっ!」
「助かったわ、ありがとうっ! 私達も避難するわっ!」
「分かったわ、貴方も気をつけてっ!」
ショーンは、二人に安全圏へと避難するように伝えると、自身も会社を目指して走っていく。
母親と娘たちも、素早く木造アパートの階段から何処かへと逃げていった。
「グオオッ!」
「ぎゃあ~~~~!!」
「いやああ」
「グルルルルーー」
「はあ、はあ…………クソ、何処も唸り声と悲鳴だらけだ」
そんな中、ショーンは会社を目指して、ひたすらに走っていく。
「ウガアーーーー」
「グオオッ!!」
「キィィィィッ!」
「うわっ! しまった…………三方を囲まれたか」
真ん中のゾンビは、体格の良い冒険者らしく、かなり強そうな見た目だ。
右側のゾンビは、漁師らしく、こちらも少しは強そうな感じがする。
左側のゾンビ化した、サキュバスも手足は細いが素早そうな外見をしている。
ショーンは、両脇のゾンビは、剣と盾を使えば防げるが、真ん中から来られたら面倒だと思った
「クソッ! 囲まれたか、どうしろって言うんだっ!」
「ハアアッ!!」
ゾンビを前にして、ショーンは出方を伺うため、何もせずに後ずさるしか無かった。
しかし、連中の背後から銀色に光る、ロングソードが胴を切り裂いた。
「無事かい? アンタも冒険者だろう?」
「ああ、助かった、ありがとう…………」
謎の女戦士は、刃に付いた血を振るうと、ロングソードを、背中に背負う大鞘に閉まった。
赤色の鎧を着た、彼女を前にして、ショーンは礼を言い、脱力すると溜め息を吐いた。
「はぁ~~」
ショーンは安堵したので、下を向いて、ため息を吐きながら彼女を見た。
どうやら、胸当て&スカートアーマーの下には、黒い夏用タイツと赤いブーツを履いているようだ。
「俺は、ショーン、ショーン・ボンドだ」
「私は、フリンカ・ラッシュだよ」
彼女を良く見ると、紫ロングヘアの褐色肌であり、背が高くて筋肉質な美人であることが分かった
頬は少しゴツくて、大きな鼻と下顎から生えた小さな牙が目立つ。
しかし、鋭い眼光を放つ瞳は黄色く光り、長い睫毛と赤紫のアイシャドウも相まって美しく見える。
謎の女戦士は、刃に付いた血を振るうと、ロングソードを、背中に背負う大鞘に閉まった。
紅色の鎧を着た、彼女を前にして、ショーンは礼を言い、脱力すると溜め息を吐いた。
どうやら、胸当て&スカートアーマーの下には、黒い夏用タイツと赤いブーツを履いているようだ。
「なあ、俺は先にある会社に行きたいんだが…………」
「止しなさい、あっちの倉庫街はゾンビの群れで埋め尽くされているわ」
ショーンの言葉に、アメジスト色に光る瞳を、フリンカは背後に向ける。
そして、忌々しげに夜闇が包んでいる埠頭を睨むのであった。