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第2話 コンテナの中で…………


 ショーンが慎重に、コンテナに入った瞬間、とつぜん両側からドアが閉められた。



「どうしたっ! ライルズ、敵の奇襲があったのかっ!」


「ショーン、死んでくれと言ったよな?」


 ショーンは中から、ドアを必死で叩いて、外に居るであろう、ライルズに声をかけた。



「ショーン、お前の死は無駄にしない」


「これで、終わりだ…………こう言う稼業だ、裏切りなんて、日常茶飯事だろっ! ククッ!」


「恨むなら、無力な己を恨むんだな」


「じゃあね~~! ショーン、バイバイ」


 黒アリ人間のバルザは、わざとらしく、格好をつけた台詞を呟いた。


 冷たい言葉を発しながら、ゾンビ族のフロイスは、笑いを堪える。



 さらに、ライルズが率いる部隊のメンバー達も、ショーンは罵倒し始めた。



 オーガー族の戦士グロースによる、無慈悲で低い声が聞こえてくる。


 明るく馬鹿にした態度で話す女性は、ネクロマンサーのマリッサだ。



「下等生物め、手こずらせるなっ! 私のために、大人しく死ぬのだ」


「戦士なら、潔く散れっ! 弱き者に価値など無いに等しいっ!」


「ショーン、済まない…………娘が病気なんだ、どうしても金が居るんだ」


「家族を人質にされてな? 俺達は無力だった…………」


 エリート意識の高い、エルフ族である、ヨハンソンは傲慢な態度で、ショーンに冷たい言葉を吐く。


 忍者やアサシン見たいな格好をしている、コウゾウは、見下したような感じで罵倒する。



 吸血鬼族のクライドは、無念そうに呟きながら、コンテナを叩いた。


 ワニ型リザードマンのガビアルも同じく、弱々しい声で、言葉を淡々と述べる。



「スザンナ、コイツ等は裏切り者だっ! 君も早く逃げるんだっ!」


「は? 何を言ってるの? 逃げるワケ無いでしょ…………」


 その場に居た、仲間全員が敵になった事で、ショーンは慌てて、スザンナを気にかけた。



「何を言って、はっ! まさかっ!?」


「そのまさかだよ、ショーン、それが最後の遺言だな? そこの死体は、ヘマをやらかした馬鹿だっ! お前と一緒だよ? じゃあな、我が社のエース」


 ショーンは、スザンナも裏切りに加担していた事を悟り、驚愕の事実に焦ってしまう。


 ライルズは、罵詈雑言を吐いたあと、右手に握る起爆スイッチを押してしまった。



「ぐわああああああっ!?」


 爆発音が鳴り響き、ショーンの背後から爆風と炎が一気に襲ってきた。



 それから、かなり時が立ち、二人組が歩きながら倉庫内へと入った。



「ギャング同士の抗争が、付近で起きたらしいが? 全く面倒な話だぜ」


「だな~~? まだ、ここにも残党が残っているかも知れないさら調べなきゃ、成らんし?」


 ここに来た、何者かの正体は、何と事件現場に駆けつけた、警官隊であった。



「ん? おい、誰か居るぞ? 死体かっ?」


「黒焦げになっている? 死んだのか」


「がは、ぐ…………」


 痩せた警官と太った警官たちは、黒焦げ死体に駆け寄ると、まだ息がある事が分かった。



「おいっ! 生きているのかっ!」


「確りしろ、救急病院に運んでやるからな」


「うあ?」


 痩せた警官は、大急ぎで死体に駆け寄り、太った警官は、無線でレスキュー隊を呼ぶ。


 もちろん、黒焦げに成っているのは、ショーンであり、彼は短く呻いたあと再び気を失った。



「はっ! ここは? 病院…………」


「起きましたか? 私は弁護士のメルロスと申します」


 ショーンは、ベッドの上で目を覚ますと、いきなり白い天井が目に入った。


 そして、左側にある窓の側には、弁護士を名乗る男性が椅子に座っている。



「早速ですが、ショーンさん? 貴方には、黙秘権があります」


「黙秘権だと?」


 メルロスは、まるで犯罪者であるかのように、ショーンに対して、話を説明しようとする。


 それを聞いて、彼は驚きのあまり、上半身を起こしてしまった。



「ええ? 業務上の横領、犯罪組織との取引、武器の横流しや密売、麻薬取締方違反など」


「はあ、何の話だっ!? ライルズの野郎かっ!!」


 全く身に覚えの無い罪状を語る、メルロスに対して、ショーンは自らに罪がなすり付けられたと悟る。



「まあ、落ち着いて聞いて下さい…………実は」


 弁護士メルロスは、今ショーンが無実の罪に囚われており、裁判が近い事を淡々と語った。


 そして、彼の体調が回復したため、裁判当日は直ぐにやってきた。




「被告人、ショーンッ! 業務上の横領は、物的証拠が残っており、犯罪を犯したのは明白っ! よって、これに関しては懲役刑に処す」


「被告人か」


 厳ついトロールの裁判長が、ショーンを睨みながら判決を下そうとしている。



「裁判長っ! しかし、彼の人柄や功績から考えて、このような事をするとは思えませんっ!」


「黙れっ! こっちには証人が居るんだっ! それに、証拠もあるっ!」


 反オーシャン・リザード・パーティーを掲げる弁護団員が、ショーンを擁護しようとする。


 彼等は、表向き大規模な冒険者パーティーであり、裏ではマフィアである連中と法廷で闘う気だ。



 対する、OLP幹部団や傘下の企業社長などは、自分たちが行ってきた悪事を並べたてる。


 それらを、無実な彼に押し付けるべく、こちらも有能な弁護士を大量に雇っていた。



「静粛にっ! オーシャン・リザード側は、その証拠と証人を示しなさい」


「裁判長、分かりましたっ! おい、奴等を連れてこい」


「はい、今行きます」


「裁判長、私達が証言します」


 裁判長の命令により、OLP幹部は、部下を呼び出して、証言台に立たせる。


 そして、二人の人間が前に出てきたが、それはライルズとスザンナ達だった。



「ライルズ、スザンナ…………ぐう」


「被告人、ショーンは我々の部隊を誘き寄せて、自らの配下であるギャング団と、纏めて殺害しようとしました」


「彼は、支給される弾薬や防弾ベストなどを、複数のギャング団に横流ししていました」


「分かったっ! 殺人未遂に関しては、証拠資料も残っているな? 横領の件は、やや証拠が不十分だ」


「裁判長、宜しいでしょうか?」


 ショーンは、自分を裏切った奴等の姿を見て、頭に血が登り、はらわたが煮えくり返った。


 当然ながら、ライルズとスザンナ達は、真顔で淡々と作り話を述べていく。



 そんな中、裁判長は、彼等の言葉と用意された資料を読み上げ、それを信じてしまう。


 また、弁護士のメルロスは、静かに呟き、右手を上げて発言する許可を求めた。



「はああ…………」


「仮に、被告人による殺人未遂が事実だてしても、他の証拠には、おかしな点が多数散見されますっ! よって、被告人には実刑ではなく、執行猶予と減刑を嘆願します」


「うむっ! 犯罪組織との取引、武器の横流しや密売、麻薬取締方違反などっ! これらの証拠は不十分であるっ! だが、仲間たちへの背信行為である犯罪者との内通、および殺人未遂は事実であると考える」


 ショーンの怒りなど関係なく、裁判は進んでいくが、彼は取り乱したりはしない。


 どうせ、暴れれば自らが余計不利になると、事前に弁護団から教わっていたからだ。



 メルロスは、裁判を有利にするため、何とかして、刑を軽くしようと、舌を動かして奮闘する。


 その意見に耳を傾けながら、裁判長は暫く目を瞑っていたが、ようやく口を開いた。



「よって、これらを考慮した結果、被告人には執行猶予を付ける」


「は…………」


 裁判長は、かなり重い刑罰を下すかと思いきや、その逆で寛大な判決を宣言した。


 反OLP弁護団の努力と、フルルンク王国が制定した犯罪者に甘い司法制度によるものだ。



 ショーンは、あっさりと下った自身への軽い処罰に対して、呆気に取られてしまう。


 皮肉にも、凶悪犯や犯罪組織などを活発化させる法律が、彼もまた守ってしまったのだ。



「ふぅ? 外は寒いな? 季節は秋か」


 こうして、ショーンは無罪とは行かないまでも、弁護人の活躍により、執行猶予を勝ち取った。


 しかし、一度前科が付いてしまえば、冒険者ギルドの仕事や一般職にすら就職しづらくなる。



「これから、どうすれば良いんだ? と言うか、何処に行けば良いんだ?」


 裁判に勝ったとまでは言わないが、ショーンは少なくとも、自由にはなった。


 とは言え、これから彼は、ライルズ達が放った刺客に追われ続ける事に成るのだった。



「トラウトマン大佐やM達なら、答えてくれるんだろうか?」


 ショーンは、映画に登場する上司を思い浮かべて、自らも主人公のように救って欲しいと願った。

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