ここは、マリンピア・シティーでも、有数の危険区域であるスラム街だ。
海からは、常に海洋生物の襲撃があり、街中ではギャングやマフィア達が、抗争を繰り広げている。
「ふぁ~~? ねむぃ? ってな…………」
「ショーン、また眠っていたのね?」
若き茶髪の青年であるショーンが、
彼は、目を覚ますと同時に、すうっと立ち上がり、後部ドアを開ける。
彼は、青い軽鎧の下に、
また、左腕には
それに続く、銀髪ロングで、碧眼の女性は、灰白いジャケットを着て、青いタイツを履いている。
彼女は、スラリと痩せてはいるが、胸と尻だけは、ムッチリとした体型であった。
腰には、右側にはピストル・ホルスターを、左側には、レイピアの鞘を下げていた。
彼等の他にも、仲間たちが何人か、車から降りて、倉庫へと向かっていく。
「スザンナ、心配するな? 仕事はキッチリこなすさっ! それに、周辺の見張りは、先行しているチームが片付けてくれてるしな」
「本当に大丈夫なの?」
「スザンナ、ショーンなら大丈夫だっ!」
「彼は、信頼できるエースなんだし」
ショートソードと
また、スザンナも左側の壁に身を寄せて、内部に何時でも突入できるように、レイピアを抜き取る。
黒アリ人間の冒険者は、青い防弾ベストを着用しており、自動小銃HK416を持つ。
金髪蒼白なゾンビ族の冒険者は、青い制服を着ており、防弾シールドと拳銃グロック17を握る。
彼等は、冒険者団オーシャン・リザード・パーティーが、雇っている下請け警備会社の冒険者だ。
通常は、警備業務を行うが、今回のように人質救出から、制圧作戦まで幅広く活動する事もある。
「みんな、そう言うけれど、私は無鉄砲なショーンが心配なのよ? いつも、一人で突っ込んでいくし? もし、貴女に何かあったら婚約は…………」
「ああっ! だから危険な傭兵稼業も、これが最後だな? スザンナ、君は家庭に、俺は普通の警備部門に回して貰うよ」
スザンナは、不安気な表情を浮かべて、言葉を詰まらせてしまう。
一方、ショーンも真剣な顔つきで、彼女の方を向いて、第一線から退くと答えた。
「だからと言って、今回も無理しないでね? と言っても、どうせ、敵に突っ込んでいくんでしょうけど」
「悪いな、これが俺の性分なんだ…………でも、本当に必ず今日で終わりにするさ」
スザンナも左側の壁際で、レイピアとピストルを握りしめながら、愚痴を
ショートソードとバックラーを強く握り、ショーンは、倉庫のドア右側で余裕の笑みを浮かべる。
「おいちゃんと、外から警察や冒険者たちが来ないか、見張りはしているんだろうな?」
「分かってるぜ、だが俺達は、そんじょそこらのチンピラじゃねぇ~~クラップスだぞ」
「そうだぜ、マイレス? こんだけの銃があるんだ、何もビビる必要はねぇだろうが?」
マイレスと呼ばれた体格の良い褐色男は、リーダーらしく、かなり威張っている。
彼に対して、チンピラは悪態を吐きながら、アサルトライフル、AK47の弾倉に弾を込めていく。
もう一人の黄アリ人間も、マチェットを肩に担いで、ダラダラと歩いていた。
連中は、何人かで倉庫内で屯しており、内部に侵入者が居ないかと、アチコチを見張っている。
「ふんっ! そう言って、海トカゲ団が来たら、どうするんだ」
「大丈夫だ、人質はコンテナの中なんだからな」
『こちら、チーム1、人質を確認した』
『チーム2、了解だ』
マイレスは、奥にある赤錆びた、コンテナを睨みつけながら子分たちを怒鳴る。
しかし、やる気の無さそうな、リザードマンは、AK47を持ったまま、両腕を広げる。
それを、小さな羽虫ドローンを通して、水晶玉に映る連中の姿を、ショーンは人数を確認する。
また、彼は無線機で、別な場所に待機している仲間たちと連絡を取る。
『突入する…………チーム2、中に入ったら、援護を頼む』
『了解、我々は上からだ』
ショーンと別チームのリーダーは、そう言うと、一気に内部へと、突入していった。
「スザンナ、行くぞっ! フラッシュバンだっ! バルザ、フロイスッ! 後ろは任せたっ!」
「ええっ! 分かったわ、行くわよっ!」
「分かった、目を瞑らないとな」
「銃弾は、俺のシールドで弾いてやるから、安心しろ」
閃光手榴弾を転がすように、ショーンは下から倉庫内へと投げ入れた。
それを見ると、スザンナは左腕で顔を隠して、眩い光から両目を守ろうとした。
黒アリ人間のバルザは、HK416を構えたままドアから離れた。
金髪蒼白なゾンビ族のフロイスは、防弾シールドで、即座に顔面を隠す。
「うわあっ! 襲撃だっ!」
「何処の奴等だっ!」
「お前ら、落ちつけっ! がっ!」
「ぎゃあーーー!?」
炸裂した閃光手榴弾は、眩く発光して、強烈な爆音を周囲に轟かせる。
次いで、ライフル弾やピストル弾などに撃たれて、チンピラ達は、次々と倒れていく。
「撃ち返せっ!」
「近寄らせるなっ!」
「そう言ってる間に、俺は近づいてるんだよっ!」
「ショーンを殺らせはしないっ!」
チンピラ連中も、テーブルやドラム缶を遮蔽物として使い、AK47を撃ってくる。
その銃撃に真っ向から近づいてき、あっという間に、ショーンは敵と距離を積めてしまった。
彼が、注意を惹き付けている間に、スザンナは片手で、ベレッタ拳銃で敵を射殺しまくる。
また、背後からは、バルザとフロイス達が、HK416やグロック17で援護射撃してくれる。
「あの野郎を撃ち殺せっ!」
「とにかく、止めろーー!」
「させるか…………やれ」
「死ねっ!」
チンピラ連中の注意は、完全にショーンに向いており、アサルトライフルは銃火を吹き続ける。
その銃撃に紛れて、倉庫内を照らす二階両窓から、一斉に弓矢と魔法が放たれた。
「よっしゃ、このまま死んでくれよっ!」
「ぐゃっ!?」
「げあ…………」
「うわあ、く、来るなっ! ぎゃあっ!?」
「来たら、撃ち殺すっ! ぐぇ」
一見すると、無謀な突撃に見える、ショーンの行動は意味がある。
それは、自らに注意を惹き付けるのと、突然の奇襲を受けた敵は、銃を撃つ前に混乱するからだ。
弓矢と様々な魔法を喰らった、チンピラ達は、次々に倒れて数を減らしていく。
また、不意を突かれて怯んでしまった連中を、ショートソードの刃が襲う。
「ぐ、このっ! おらあっ! ぐわっ!」
「殺られるワケね~~だろっ! とりゃあ」
残り一人となった、マイレスは敵を近づけまいと、長い真っ赤なバールを振りまくる。
それを軽く避けまくり、ショーンは奴の胸に深々と、ショートソードを突き刺した。
「ごばああああ、が…………?」
「終わったな、人質を救出するぞ」
「分かっているわ」
リーダーのマイレスは、血を吐きながら倒れてしまい、これで敵は完全制圧できた。
ショーンは、剣に着いた血を振り払うと、奥にあるコンテナに歩いていく。
辺りを警戒して、まだ残敵が隠れていないか、スザンナは周囲に、レイピアとベレッタを向ける。
戦いは終わったが、すぐに気を抜いては、何処から奇襲されるか分からないからだ。
そこに、他のチームを率いる隊長が、ロープを伝って、倉庫内に降りたった。
「ショーン、警察より先に手柄を取れたなっ!」
「ライルズ、ああっ! これで、また出世できるなっ!」
ライルズは、精進な顔つきのショーンとは対照的に、爽やかなハンサム・イケメン顔だ。
おとぎ話に登場するような騎士を思わせる、かなり明るい金髪に、碧眼の持ち主だからである。
服装は、青いバフコートを着ており、水色のジーンズと黒いブーツを履いていた。
また、腰の鞘には、フェンシングソードと言われるフルーレを帯刀している。
「これで、また俺達の名声は高まるなっ!!」
「だなっ! 周りは任せてくれ、コンテナは頼むぞ」
ショーンは、そう言いながら笑顔で、ライルズと拳を突き合わせる。
彼等は、正式には警備員だが、冒険者パーティーや賞金稼ぎとして、警察より先に犯罪者と戦う。
もちろん、目的は報酬や出世するためであり、今回の人質救出作戦も同じ理由で、行われている。
そして、コンテナのドアを開かれると、そこには椅子に拘束された人間が見えた。
「人質を確認っ! これから、救助に移る」
「ショーン、その前に死んでくれ…………」
ショーンは中に入り、トラップが無いかと慎重に人質に近づいていく。
その時、ライルズは不穏な言葉を呟き、いきなり、両側からドアが閉められた。