ここは、マリンピア・シティーでも、比較的に新しい建物が並ぶ創庫街だ。
「ふぁ~~? ねむぃ?」
「ショーンッ! また、サボって」
中年茶髪のオッサンが、倉庫前に設置された、ベンチで座りながら、
彼の気だるげな顔には、真面目に剃ってないらしく、無精髭が伸びている。
茶色い軽鎧の下に、カーキ色に染められた服とズボンを着用して、薄茶色いブーツを履いている。
そこに、少々ふっくらとした体型で、金髪ロングテールのエルフが現れた。
彼女は、緑色に染められた、ローブを揺らしながら歩いてくる。
「リズ、サボりじゃねーー! 椅子に座りながら、古賀コーラを飲んで、海を見ているだけだっ!」
「…………それを、サボりと言うのよ」
ベンチに、ショートソードと
また、彼は近くにあった、金網のゴミカゴに赤いジュース缶を投げ入れる。
そんな彼を、リズは金髪ポニーテールを揺らしながら怒る。
「ガタガタ、うるせぇな? ちゃんと、海から魔物が来ないか、見張りはしているから別にいいだろ?」
「でも、ルドマンさんが来たら、どうすんのさ? はたから見れば、サボりに見えるし、体裁が悪いわよ?」
「そうじゃぞ、ショーン? 少しはリズを見習え」
ショーンは悪態を吐きながら、まだ仕事を真面目にする気はなく、リズに文句を垂れる。
しかし、そうやって、だらしない彼が言い訳をする中、雇い主のルドマンが現れた。
「ルドマンさんっ!?」
「ご苦労様ですっ!」
「ああ、もう、そう言うのはよい? リズ、コイツのサボり癖は今に始まった事ではないしな…………それに、目くじらを立てていたら身が持たないわ」
慌てて、ショーンが立ち上がる中、リズも同様に後ろに振り向いた。
しかし、ルドマンは怒る代わりに疲れたような表情を見せる。
「そんな? マッド・ロブスターやシオマネキーが出た時は活躍しているでしょっ!」
「コラッ! だからって、いい訳はしないのっ!」
「そうじゃぞ、戦いでは頼りにしているが、お前は少々、休憩時間が多すぎるっ! と言う事で、罰として、港に漂着した難破船を調べに言ってくれ」
ショーンは、冒険者としての腕前は、確かな実力があるが、平和な出島では激しい戦いはない。
せいぜい、対人戦だと、チンピラ・半グレと言った連中の喧嘩を仲裁するくらいだ。
また、たまに魔物も海から上がって来るが、これも弱い個体ばかりしか陸には来ない。
しかし、真面目なリズは、見張りと称する彼のサボり癖を正そうとする。
そして、ルドマンも彼を遊ばせている訳にもいかず、仕方がないので、二人に仕事を与えた。
「はあ? 何スか? その漂着船って?」
「漂着船? なんで、港に?」
「さあな? しかし、港が騒がしいし、一応は港湾関係者として、ワシの会社からも警備員を回さないと成らん…………だから、西の不当に今から二人で行って調べてくれ」
漂着船と聞いて、ショーンとリズ達は、顔をキョトンとさせたまま質問する。
それに、ルドマンは簡単な説明をしながら、二人に調査を頼んだ。
「チッ! 社長の頼みじゃ断れないか」
「いいから、いくわよっ!」
ショーンは、舌打ちしながらも戦いが起きるかも知れないと、剣と盾を手に取る。
リズも、調査と警備を依頼されたからには、きちんと仕事を果たそうとする。
「では、ルドマン社長、行ってきます」
「私も、調査に向かいますっ!」
「おお、二人とも、頼んじゃぞっ!」
ショーンは武器と防具を両手に、リズは胸に右腕を添えて、堂々と行くと宣言した。
こうして、ルドマンは自信満々な二人を見送ることとなった。
漂着船は、ついに出島の埠頭に到着していた。
埠頭からは、野次馬と冒険者たちが、その船体を見ていたが、それは静寂と孤独に包まれていた。
「押すな、これ以上の接近は、警察や騎士団員が来るまで禁止だ」
「いいから、見せやがれっ!」
漂着船の手前では、冒険者たちが、野次馬が近寄らないように、黄色い規制線を張っていた。
「アレか? なんだよ、敵は居ないのかよ」
漂着した船を見ながら、ショーンは疲れ切った表情を浮かべながら、埠頭に足を踏み入れた。
出島は、交易拠点であり、このように幽霊船と化した漂着船が打ち上げられる事は滅多にない。
「アレが噂の幽霊船か?」
「そうだな、気味が悪いぜ」
船員たちは誰も居らず、埠頭のコンクリート上を見物にきた、野次馬たちが歩き回る。
しかし、船体は朽ち果て、マストは嵐にやられたのか、完全に折れ曲がっていた。
やがて、野次馬や冒険者たちは、アンデッド系モンスターが出てこないかと、警戒し始めた。
「退け、騎士団の到着だっ!」
そこに、騎士団員が来たらしく、冒険者たちに代わって、船内の探索を始めることにした。
銀色の鎧を着た彼等は、かなり目立ち、野次馬たちを強引に退かしていく。
しかし、ここで、さらに魔術師や科学服に身を包んだ、調査隊が現れた。
「騎士団の皆様、ここは王立科学調査隊と教会、そして魔術協会が共同で、船内の浄化を行うことにしました」
「ん? 分かった、では我々も埠頭の警備に当たろう」
騎士団員は、漂着船が幽霊船と化しており、アンデッドが出てくるかも知れぬと、気を引き締めた。
だが、そこに科学防護服を身につけた調査隊と、紫色の法衣を纏った聖職者が現れた。
また、黒いローブを着て、フードを被った魔術協会員も彼等に続く。
「こりゃあ? マジで、アンデッドが出るかもな?」
「本当に出たら、私も魔法を射ちまくって、敵と戦うわっ!」
「危険ですから下がって下さい」
「さあ、下がって、下がって」
ショーンは、呑気に漂着船を眺めて呟き、リズは敵が現れたらと、船体を睨む。
また、彼女は両手で、オレンジ色の円形宝石を先端に取り付けた、マジックロッドを強く握る
そんな二人を他所に、野次馬たちを近づけまいと、騎士団員たちは立ち入り規制を始めた。
荒れ果てた、漂着船を調査するために、調査隊は薄気味悪い船内を散策するべく、タラップを歩く。
やがて、調査隊員たちは怪しい気配を感じながらも、勇気を振り絞って探索を続けた。
「お? 出てきたな」
野次馬の一人が、調査隊が船内から出てくる姿を見て、不意に呟く。
「それで…………内部は、どうだったんだ?」
「船内に怪しい物はなかった」
「だが、良からぬ雰囲気があるため、船を焼却処分します」
騎士団員の質問に、科学調査隊員は坦々と答え、険しい顔で聖職者は説明する。
「分かった、後は任せる」
「では、やらせて貰いますよ」
騎士団員が後ろに下がると、魔術師たちが前に出て、火炎魔法を放った。
それにより、一斉発射された火球は、船体を焼き付くしていく。
「呆気なかったな~~? ま、しかし、これで良かったんだ…………アンデッドが出なかったしな」
「そうね、これで、また港は平和に戻ったわ」
踵を返して、ショーンは能天気な声を出しながら、倉庫の方へと向かっていく。
その前を、リズは歩くが、彼女は少し太り気味だが、パイオツと丸尻は、かなりデカイ。
「ふぅ~~? 目の保養になるぜ」
「ん? なんか言った?」
ショーンは、鼻の下を伸ばしながら呟くが、リズは尖り耳に届いた声を聞き逃さなかった。
「いや、何でもないよ? それより、ルドマンさんに報告しないとな」
「まあ、それは私が伝えるから、貴方は倉庫番に戻ってて」
セクハラ発言を何とか誤魔化せた、ショーンは仕事を優先しようと話題を変える。
それに、リズは答えながらも、デカ尻を振りながら相変わらず、前を歩いていった。
「しかし、本当に何にも無かったんだろうか?」
「港の警備は、しばらく騎士団や警察が行うから心配は要らんだろ」
「…………」
野次馬に着た、漁師や冒険者たちは、船が完全に燃やし尽くされた後、埠頭から離れていく。
しかし、その海底では不気味な者達が人知れず、密かに蠢いていた。
この時、まだ彼等は知らなかった。
これから、フルルンク王国の出島が、地獄絵図と化すことを。