「フーリン、そっち側頼む!」
「ああ」
俺は右。フーリンは左。
真横を走る両側の団員目掛けて俺とフーリンは攻撃をした。
――ガキィン、ガキィン!
「ぐあッ!」
「がッ!」
俺達の攻撃を受けた団員は落馬し、勢いよく転がり落ちた。しかし、やはり速度が遅いこちらはどんどん騎馬に追いつかれていた。それでも俺達は逃げながら馬車に寄って来る団員達を次々に返り討ちにする。
「このまま渓谷を抜けられるかな?」
「どうでしょう。グリムさん達の強さならやられる心配はないと思いますが、当然出口にも関所がありますから」
「そうだった。だとしたらヤバいぞこれ」
このまま関所に着いたら間違いなく止められる。かと言って関所までにコイツら全員を倒しきれるか? フーリンのお陰で数は半分になったがまだ多い。さっきみたいな奇襲も何度も上手くいかないだろう。だがやっぱり関所で止まったら終わり。そうなるなら今賭けで勝負を仕掛けるべきか。
俺達にはもう選択肢が限られていたが、不幸中の幸いと言うべきか。それは奴ら騎士団も同じ様な状況であった。
「何をしているんだお前ら! どうしてあんな馬車1台仕留められん! 数は圧倒的に勝っているだろう! ちょっと波動が強いだけで大した事ないんだから早く殺せッ!」
「で、ですがラシェル団長! あの剣の奴も槍の奴も両方強いです……!」
「やはり馬車を止めて他の団にも応援要請をした方が……!」
「おい。団長の俺の指示に文句があるのかテメェら」
「い、いえ、決してそういうつもりではッ」
「だったらそんな戯言吐いている前に奴らを殺せ! 仮に強かったとしても、こっちはこの人数だぞ! あんなガキ共簡単に始末出来るだろうが! 他の団なんか呼んだら手柄を取られちまうぞ!」
「わ、分かりました!」
団員達は明らかに迷いが生じている様子であったが、団長であるラシェルに逆らうことが出来ずに再び一斉に向かって来た。しかし何の変化もない奴らの攻撃に対して結果は変わらない。騎馬で突っ込んで来る団員達を俺とフーリンで薙ぎ払った。
――バキィン!
「あ、やべ。遂に1本壊れた」
「俺もこれで3本目だ。そろそろケリを着けないともたないな」
「“ディフェンション”!」
次の瞬間、エミリアが騎馬の突撃を防ぐように防御壁を繰り出した。
――バァァン!
「「ぐあッ!」」
突如現れた防御壁に勢いよく衝突した団員達は馬と共に地面に倒れ、周囲の騎馬も巻き込まれる様に倒れていった。
「ナイスエミリア!」
「ううん、全然だよ。私はこの防御壁しか出せないし連続でも使用出来ないから、グリムとフーリンにばかり負担掛けちゃって……」
「いや、今の防御壁でこっち側は大分まとまって片付いた。それでもまだ少しだけ多いがな」
俺達も奴らも互いに消耗戦だがこっちの方がまだ不利だ。何とかこの状況を打破しないと。
関所が迫る中で必死に策を考えていると、ラシェルにまさかの動きがあった。
「ったく、役に立たねぇ奴らだな。もういい、お前らは全員引っ込んでいろ! 俺が直々にガキ共を殺す!」
ラシェルは団員に大声でそう言うと、波動を練り上げながら剣の切っ先を俺の方に向けた。
「おいクソガキ! こんな下らねぇ追いかけっこは終わりだ!降りて来い! 俺とサシで勝負しようじゃねぇか、この間のケリを着けてやる」
この間のケリって……。あれはもう完全に勝負着いただろ。だがこれは思ってもみなかったチャンスかもしれない。
「勝負なんて完全に着いてるだろ。やる意味あるのかよ」
「黙れクソガキ。あの時は全く本気じゃねぇ。 油断したが今回は本気だ!それに戦意のねぇ部下など最早邪魔なだけだからな」
ある意味ラシェルの言う事も一理ある。確かに他の団員達からはもう余り戦意を感じられない。士気が下がっている上に実力差をちゃんと体感しているんだろう。この己の実力を見誤っているラシェルを除いて――。
「グリムどうするの?」
「勿論受けるさ」
「弱き者はやはり頭も弱かったか。これで形勢逆転出来そうだな」
「フフフ。では馬車を止めて宜しいでしょうかグリムさん」
「はい。お願いします」
そう言って、ラシェルの決闘を受ける為に俺達は馬車を止めた。少なからず罠の可能性も考えられたが、団員達の戦意が無い事は明らか。その証拠に馬車を止めたにも関わらず誰も追撃してこなかった。
俺達が馬車を止めた事により周りを走っていた騎馬も全員動きを止め、ラシェルを乗せた馬だけが静かに前に出てきた。
「へッへッへッ! やはり初めからこうしておけばよかったな。確かに前回は油断しちまったが、もうそれは2度と起きない。俺は騎士団の団長だぜ? 他の奴らとは才能も実力も違うんだよ。
団長として前線に立って早10年以上……俺は団長クラスでも僅か一握りの者しか辿り着く事の出来ない“超波動”の使い手だ。この技でお前も白銀のモンスターも殺してやるぜ!」
ラシェルは不気味な高笑いと共に、先程フーリンが出した波動と全く同じ青白い波動の気が溢れ出ていた。その波動はフーリンのものより色濃く強い輝きを放っており、より強い事が一目瞭然であった。
「どぉぉぉだッ! コレが選ばれた者にしか会得出来ない、波動の更に上の力である超波動だ! 俺でさえコレを会得するのに10年近く掛かった。この超波動の力を持ってすればお前らなど一瞬でッ……「それは超波動と言うのか。名前は今“初めて知ったな”――」
次の瞬間、ラシェルの言葉を遮る様に言ったフーリンは、ラシェルの超波動を見るなり突如自らも波動を練り上げた。
――ブォォォォン!
「なに!?」
「おお」
「す、凄い波動……」
「ワウ!」
再び全身から波動の気を溢れ出させたフーリンのそれは、先程のフーリンの波動を上回るラシェルの超波動を更に上回っている超波動であった――。
「これは面白いですね」
ユリマさんが小さくそう呟いていた事に、俺達は誰も気付いていなかった。
「お、お前ッ、それは……!」
「コレがそんな大層な力であるなど、俺は微塵も思わなかったな。やはりお前達は手合わせする価値のない弱き者だったか」
自信最大の力だったであろうラシェルの表情は、フーリンの強大な超波動を見て瞬く間に波動よりも青白くなっていた。
「ば、馬鹿な、有り得ないッ……! 超波動が扱える者ですら限られているというのに、こんな事がッ!」
「なんか落ち込んでいるところ悪いけどよ、早く勝負しようぜ。俺達も急いでいるんだ」
「ふ、ふざけやがってッ……! お前のその超波動など何かの間違いに決まっている! それに、俺の相手はコイツではなくお前だ! 貴様を殺してそっちの犬コロも始末してやる!」
半ば開き直ったラシェルは練り上げた超波動を纏った剣で俺に斬りかかってきた。
「死ねクソガキィィィィッ!!」
俺はラシェルが剣を振り下ろす前に即座に距離を詰め、空いた腹部に思い切り膝蹴りを入れた。食らったラシェルは悶絶の表情で体を苦の字に曲げている。
「がッ⁉」
「今度こそ終わりだ――」
俺は超波動の気が弱まっていく奴を横目に剣を振るった。その衝撃でラシェルの甲冑は粉々に砕け散り、流れる血と共に地面へ崩れていった。先の戦いよりもダメージは深い。今度こそ容易に立ち上がれない傷を負わせ、この戦いに終止符を打った。
何時からか周りの団員達はすっかり静まり返っている。
「まだやるか?」
俺は団員達にそう言い放ったが、もう誰1人として向かって来る者はいなかった。団員達は倒れたラシェルや他の団員達の元に駆け寄り、皆静かに身を引いていった。
「何とか終わったな」
「もしあのまま攻撃され続けていたら危うかった」
「やっぱ強いねグリムは。フーリンも!」
「バウバウ!」
「まさか騎士団を追い返してしまうとは。やはり強いようですね。1度直に見られて確信しました。これはノーバディも倒してくれそうですね」
「危険な目に遭わせてしまってすみませんユリマさん。正直ヤバかったので助かりました」
あのまま本当に続いていたら、俺達が負けていたかもしれない。
「それにしても、フーリンお前凄い波動持ってるんだな。驚いたよ」
「それだけの実力があるのに騎士団になれないなんて……」
「俺は元々騎士団になりたかった訳じゃない。それに今しがた奴が言っていたこの超波動とやらは、王都を出て幾度となく強者と手合わせした結果得たものだ。あのまま騎士団に入るよりも俺にとってはずっと意味がある」
迷いのない真っ直ぐな瞳でそう言うフーリンを見て、俺は何故だか微笑んでいた。
「さて。じゃあ気を取り直して向かおうか、フィンスターへ」
「バウワウ!」
こうして、図らずも呪われた世代が3人集まり、騎士団からのピンチを無事退けた俺達は、再びフィンスターを目指して出発した。