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第31話 呪われた世代3人目

「紅色の髪の御方。貴方お名前は?」


 次に口を開いたのはユリマさんだった。彼女は男に名を聞く。


「俺の名前は“フーリン・イデント”。もしやお前も強者か?」


 フーリンと名乗った男は槍の切っ先をユリマさんに向けながらそう言った。実力も然ることながら見た目や雰囲気からも相当の実力者であると伺えるが、そんな見た目とは違ってやはりコイツは相当頭が弱いとみた。


「成程。貴方はフーリンさんと言うのですね。1つお尋ねしますが、貴方は何故グリムさんを襲うのでしょう。 ただ強者との戦いがお望みなのですか?」

「ああ。俺は強者との戦いを求めるのみ。弱き者は相手になどしない。ただ己より強い者と戦いたいだけだ」


 もう俺だけでなくエミリアもユリマさんもハクでさえも分かっただろう。この男がシンプルにアホだという事に。そして、俺がそんな事を思っていた矢先、同じくフーリンという男がアホだと気付いたであろうユリマさんが驚きの提案をした。


「そんなに強い者と戦いたいのならば、私共に付いてきますか?」

「お前達に……?」

「え、ユリマさん!?」

「私は今強い者を大勢集めておりますので、一緒に来てくだされば貴方の望む強者と好きなだけ手合わせ出来ますよ」


 ユリマさんの言葉に、フーリンは驚いた様な表情を浮かべている。これはある意味ユリマさんの作戦勝ちだろう。この人もやはり侮れないな。


「その話は本当なのか?」

「勿論。信じるかどうかは貴方次第ですが、私は実際に強者であるグリムさんとエミリアさんを連れています。これから私共が向かおうとしているフィンスターには何百人と強い冒険者が集まっております」

「強者が何百人だとッ!? それは是非手合わせ願いたい! 最近は人通りも少なくった上に外は芋虫の様な弱いモンスターばかりで呆れていたところだ」


 人通りが少なくなったのは多分お前のせいだぞ。


 ……と、俺は心の中で静かにツッコんだ。


「そうでしたか。因みに、貴方の仰っている芋虫のモンスターとやらは恐らくノーバディの事かと思いますが、相手が強ければ人でなくても手合わせを望みますか?」

「勿論だ」

「でしたら尚更貴方にはピッタリでしょう。今フィンスターに甚大な被害を加えているノーバディは、誰よりも強いですから」

「そんな強いモンスターまでいるのか。ならば絶対に手合わせしたい。俺も連れていってくれ」

「ええ。ただし条件があります。貴方を連れて行く代わりに、フィンスターに着くまでグリムさん達と争わないで下さい。そうすれば焦らずとも好きなだけ強者と戦う事が出来ます故。約束頂けますか?」

「分かった、それで構わない。約束はしっかりと守る」

「ありがとうございます。では交渉成立という事で──」


 こうしてまさかの展開を経て、噂の夜叉ことフーリンも俺達に同行する事となった。そして、動き出した馬車の中で始まった何気ない会話から驚愕の事実を知る事となる。


**


「えぇぇぇ!?」


 真っ先にそう声を上げたのはエミリアだ。


「じゃあお前がもう1人の?」

「そんな呼ばれ方は今初めて知ったがな」

「嘘、まさかこんな所で会えるなんて……!」


 これは俺もちょっと驚いた。とは言ってもエミリアに聞くまで俺も全然知らなかった事だけど、まさかコイツが俺とエミリアと同じ“呪われた世代”の1人だったなんて。


「って事は俺達と同い年か?」

「俺は今18だ」

「やっぱ一緒だな」

「凄い驚きだよ! まさか私と同じ呪われた世代の人にまた会えるなんて! 噂も本当だったんだ……」

「その噂とやらがどう伝わっているの知らないが、確かに俺は5年程前では王都にいた。騎士団の訓練生としてな」


 以前エミリアが話していたもう1人は、間違いなくこのフーリンだった。


 彼は今言った通り、5年程前までは王都で騎士団の訓練生だったそう。勿論スキル覚醒者ではあるみたいだが、フーリンは俺やエミリア同様にスキルに特殊な制限がある様で、彼は“土”の槍しか扱えないと言う。


 土の槍は木の杖と同じで最弱ランクの武器。

 フーリンは槍術のレベルこそ騎士団の中でも秀でていたそうだが、土の槍せいでずっと訓練生だったらしい。だが本人は特に正式な騎士団になりたいという気持ちはなく、ただ強者とやらと手合わせをしたかっただけだそうだ。


 フーリンは騎士団の訓練生と戦いまくった挙句に遂に訓練生の中で1番強い存在となったが、フーリンはスキルのせいで戦う度に槍が壊れてしまう。土の槍の耐久性では彼の槍術に耐えられない為、1度きりの戦闘で終えるか常に槍を用意しておかなければならなかった。


 騎士団では、何時からか彼の秀でた槍術よりもこれまでに聞いた事もないその特殊な力が悪目立ちしてしまい、結果使い物にならないと見切りをつけられた為に正式な騎士団となれなかったそうだ。


 とは言っても、元からフーリンの目的は騎士団になる事ではなかったので、これ以上強者と戦えないならばと自ら王都を出たらしい。そして新たな強者と手合わせするべく自由気ままに動く事3年――。


 何時からか、最近はこのラドット渓谷で強者と手合わせしていたらしいが、そんなところに通りかかったのが俺達という事だ。


「それにしても、エミリア以外にもまさかそんな変なスキル持ってる奴がいるとは」

「だからフーリンは土の槍を一杯背負っているのね」

「ああ。別に何ら苦はない。始めのうちは兎に角手合わせ願う為に今の倍以上持ち歩いていたが、次第に強い相手かどうか感じられる様になったから今では5本もあれば事足りる」


 自然とそう語っているフーリンを見れば、これが彼の当たり前なんだろうという事が直ぐに分かる。ただ強者を求めている純粋な人間だという事も。当然変わり者だとは思うが。


「なんか俺とも似てるな。エミリアやフーリンみたいにこれしか使えないって言う制限はないけど、俺もよく武器が壊れる。探すのも集めるのも手間だから気持ちが分かるよ」

「そうだったのか。確か名はグリムと言ったな。お前は最近出会った中で一際強者と感じ取った。彼女と約束をしたから今は勿論戦わないが、全てが済んだら再度手合わせ願う」

「マジかよ……」

「そっちの“白銀の犬からも”強者の気配を感じるな。是非手合わせ願いたい」

「バウ!」

「それはダメだよ。ハクちゃんは戦いません」

「フフフ。貴方達がどこまでノーバディを追い詰めてくれるのか楽しみです」


 馬車の中でそんな会話をしながらフィンスターまで向かっていた俺達。それからのラドット渓谷の道中はと言うと、なんとも静かで順調な旅となった。特別モンスターと遭遇する事も無く、馬を休ませながらゆっくりと渓谷を進むばかり。そして日が少し沈んできたタイミングで、ユリマさんが「今日はこの辺りで休みましょう」と言った。


 俺達は簡単に寝床や火の準備をし、流石王家と言わんばかりのとても野営とは思えない豪華な食事をユリマさんから振る舞ってもらい、俺とエミリアとハクは連日お腹一杯という贅沢なまま眠りについたのだった。

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