「死ねぇぇぇぇ!」
男は安っぽい言葉と共に剣を振り下ろしてきた。
受けるまでもない。
「遅い――」
「ッ!?」
男の振り下ろした剣を簡単に躱し、俺は剣の柄を思い切り男の腹部に撃ち込む。男は悶絶するようにその場に崩れ落ちたが、ガクガクと脚を震わせながら何とか堪え立ち上がってきた。
「ぐッ、貴様……!」
「だ、大丈夫ですかイズム様!?」
「何だコイツ、もしかして騎士団じゃないだろうな」
怪しい連中は攻撃を受けたイズムとかいう男を心配して駆け寄ってきた。そしてそれに続くように他の者達も不気味な儀式とやらを止め集まって来る。
儀式も運よく中断したみたいだから、このまま全員まとめて片付けるか。
そう思った矢先、イズムという男が再び不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。
「落ち着くんだお前達……! 私達がずっと儀式を行ってきた事によりもう蓄えは出来ている。グハハハ! お前達、遂に“究極体”の召喚をする時が来たぞぉぉッ!」
イズムが高らかに天を仰ぎながら叫び、手にしていた剣を上に掲げた。すると、マントを被った他の者達も剣を取り出して上へと掲げる。
マズい。
魔法陣や召喚魔法なんて詳しくないから発動の仕方が分からないけど、コレは何かヤバい感じがする。
「やられたくなかったら全員大人しくしろ」
「グハハハ、もう“遅い”」
次の刹那、イズムを含めたマントの者達13人が全員上に掲げていた剣の切っ先を己に向け、そのまま躊躇することなく胸へと突き刺した。
「なっ!?」
「グハッ……ハハハ……ッ!」
余りの予想外の行動に動けなかった。
剣を刺した者達のマントの下からは夥しい量の血が流れ、次々にその場に倒れていく。
「マジかコイツら。もしかしてコレが召喚する方法とか言うんじゃないだッ……『――ブォォォォン』
そう思ったのも束の間、今度は奴らが儀式を行っていた場所の魔法陣の光が急激に強くなり、倒れていたイズム達の体が1人また1人と消滅していった。
そして13人全員の体が消滅すると同時、より輝きを増した魔法陣……いや、大地が大きく揺れだした。強い揺れと地響きが鳴り響く中、更に魔法陣が描かれていた地面がバキバキと割れ次の瞬間、見た事のない禍々しい存在が突如現れた。
『ギヴヴォォォォォォォォッ!!』
これはまた凄いのが出てきた。
奴らの儀式によって召喚されたソレは、地上や洞窟で見たノーバディととても似た姿をしていた。だが、目の前のコイツは本体と思われた洞窟のノーバディを優に凌駕する存在。奴らが“究極体”と呼んでいたに相応しい格の違う魔力の強さを持つノーバディだった。
「取り敢えず連中は片付いたけど、アレも倒した方がいいのかな? このままこの空間に閉じ込めたり出来ないんだろうか」
ここが地上なら勿論始末するが、良くも悪くもここは魔法陣で生み出された別次元の空間。もし閉じ込められるなら無駄に戦う必要ないよな。
そんな事を思った直後、召喚されたノーバディが俺に気付いたのか、威嚇する様に雄叫びを上げてきた。
『ギギヤァァァァァッ!!』
「……!?」
まるで衝撃波。
奴から発せられた雄叫びは凄まじく、まるで衝撃波の如く周りの岩や木々を吹き飛ばしてしまった。
「ハク、エミリア! 大丈夫か!?」
俺は奴を無視して直ぐにエミリア達の元へ向かう。
「う、うん……何とか大丈夫」
「バウ!」
「良かった。それにしても、とんでもない奴が出てきたな」
エミリアとハクは少し離れた位置にいたお陰で何とか今の衝撃波から身を守れていた。洞窟で倒した4つ頭のノーバディより一回り小柄でどちらかと言えば人型に近い姿をしている。オークみたいな感じだな。まぁアレより圧倒的に強いし、4つ頭と比べても魔力が桁違い。
「あんな恐ろしいノーバディがまだいたなんて……。あの人達は余程この召喚に時間を費やしてきた様ね」
「ああ。それに最後の最後の自分達の命まで使ったからな。最早イカれ集団だよ。
それよりエミリア、アイツをこの空間に閉じ込めて置く事とかって出来るのか?」
「どうかな……。この空間を魔法陣で作ったのがさっきの人達なら、ここが消滅するのも時間の問題かもしれない」
「って事は、もしそうなったらアレは外に?」
「分からないけど多分。どの道あのノーバディの魔力が強過ぎて、この空間に留めるのは難しいと思う」
成程。やっぱりアレは倒しておかないとヤバそうだ。万が一にも地上に出たらと考えただけで恐ろしい。今まで出会った中で1番強いモンスターかもしれないな。
「よし。俺はアイツの相手してくるから、エミリアとハクはなるべく離れて自分達を守る事だけに徹してくれ」
「え、グリム1人で大丈夫? 私なんかが行っても確かに足手まといだけど……」
「大丈夫だよ、ありがとう。正直今までとはレベルが違うけど、多分倒せる。それよりも自分の事とハクを頼む」
「うん、分かった。気を付けてね。行こうハクちゃん」
エミリアはハクを抱えて更に離れた場所へと移動する。俺はそれを確認して再び奴の元へと戻った。
「さてと……。見た感じ中ランクぐらいの剣だよなコレ。持って“5~6”。本気なら“2”が限界か。どうか剣が壊れる前に倒せますように」
そんな事を軽く祈りながら剣を双剣を抜くと、最強のノーバディも俺に気付いた。そして得意の雄叫びを上げるや否やノーバディはさっきの威嚇とは違い、今度は確実に俺を“敵”と認識して襲い掛かって来た。