「どうしたハク!」
俺は反射的にハクを追いかけ、エミリアもそれに続いた。
「バウワウ!」
この開けた場所の丁度真ん中ぐらいの位置だろうか。ハクはそこで止まるや否や、そこに聳え立つ大きな岩に向かって吠えている。
「何だよハク」
「バウ、バウ!」
「この岩が何かあるの?ハクちゃん」
ハクは何かを訴えかけている様子。俺とエミリアはいまいちピンとこなかったが、ハクが吠える目の前の大きな岩を何気なく見た。すると、エミリアがまた何かを見つけた、
「あ、グリム見て!」
エミリアはそう言いながら大きな岩の上部を指差す。そこにはさっきの3神柱とはまた違う模様が彫られていた。だがさっきの模様より明らかに見覚えがある。だってこれは……。
「魔法陣……?」
「うん。そうみたい」
3神柱の模様なんかより、圧倒的に見覚えのあるコレは魔法陣。勿論俺は使えないが、小さい頃に見た事がある。魔法陣はあらゆる形で応用されているから珍しいものではない。
ただ、魔法陣はあらゆる形で応用されている分、その発動の仕方やや効果も幅広い。シンプルであり、ややこしいのだ。
「エミリア。さっきから俺が知識に乏しいという事は理解出来た思うが、コレが魔法陣だという事は分かった。だがそれ以上の詳しい事は分からん。コレは何の魔法陣だ?」
「確かに魔法陣だけど……コレは見た感じ結構複雑ね。何が発動するか私も分からない」
魔法陣の効果は多岐に渡る。
逆に言えば、この魔法陣が発動したらどんな事が起こるのか想像も出来ないという事だ。しかもこんな所にあるとするならば、その怪しい連中のトラップだとも十分考えられる。
「分からない以上不用意に触るのを危険だ。コレは一旦無視して……「バウ!」
皆まで言いかけた刹那、ハクが思い切りジャンプして魔法陣に触れた。
「お、おいッ!」
ヤバいと思ったが、時すでに遅し――。
発動してしまった魔法陣は瞬く間に眩い光を放ち、一瞬で目を塞いでしまう程の強い光が視界を覆い尽くした。
そして、次に目を開いた時には見知らぬ場所へと飛ばされていた。
「大丈夫か!」
「バウ!」
「取り敢えず大丈夫みたい。それより、ここは一体……」
俺達の目の前はさっきまでの岩と森林が広がる光景ではなく、明らかに“別次元”が広がる空間だった。
足元には見た事もない形や色の草木。空は黄色っぽい色で得体の知れない生物が飛んでいる。横を流れる川はピンク色に輝いており、水中の生物もまるで見た事がない姿形をしていた。
余りの異質な世界に一瞬言葉を失ったが、ここが魔法陣で飛ばされた別次元である事を直ぐに理解させられた。
「どうやらコレが魔法陣の効果みたいだな」
「ええ。恐らく転移魔法の類ね。しかもかなり強力な魔力が施されたものみたい」
「ハクが魔法陣に触れた時は少し焦ったが、どうやら“当たり”みたいだな――」
ここに来た瞬間から俺達以外の気配を感じている。
「じゃあここに町長さんにが言っていた怪しい人達が?」
「ああ。何者かは分からないが確かにいるぞ。まぁこんなコソコソした場所で何かしている奴らなんて絶対普通じゃない。怪し過ぎるぜ。早く気配の感じる方へ行ってみよう」
俺はハクを抱え、エミリアと共に気配の感じる方へ向かう。すると、俺達の視線の先に1つの建物が見えてきた。あの建物が何なのか分からないが、唯一分かった事があるとすれば、建物の前に人がいるという事。
確認出来た人影は1人ではなく全部で13人。
奴らは全員黒いマントの様なものを羽織りながら円状に並んでおり、足元には淡く光る魔法陣が浮かび上がっていた。
「何者だアイツら。あれが町長さんの言っていた怪しい奴らだよな?」
「きっとそうよ。というかそれ以外考えられないわ……」
「しょうがない。ここで見てても埒明かないから行ってくる。ハクとエミリアはここで待っててくれ。とても平和に解決出来そうな雰囲気じゃなさそうだ。まぁ人を見た目で判断しちゃいけないけど」
「気を付けてね」
「ワウ」
ハクとエミリアに危険が及ばないよう待機させ、俺は思い切り地面を蹴って奴らの元へ跳んだ。
――ザッ!
「「……!?」」」
「何してるんだ?」
突如現れた俺に対し、その場にいた13人全員が一斉に俺の方へ向いた。
「何者だ貴様」
男が頭を覆っていたマントを下げながら俺に言ってきた。その男の顔には不気味な模様が描かれておりとても冷酷な目をしている。
「先に聞いたのはこっちだろ。お前らか? この場所に住み着いてるとかいう奴らは」
男から躊躇なく放たれている殺気を真正面から受け止め、俺は奴を睨み返しながら再び聞いた。すると、男は不敵に笑いながら口を開いた。
「ククククッ。住み着いているだと……? 何の事だか知らんが、私達は今大事な“儀式”を行っている。ガキに構ってる暇などない」
「儀式? こっちだってお前達に時間を使っている暇はない。何してるか知らないけど早くこの場所から出て行けよ」
「急に現れて生意気なガキだな。人の魔法陣にまで勝手に入り込んでおいて」
「街の人達が大事にしている場所にお前らが先に勝手に入り込んだんだろ。早く後ろの連中がやってる儀式とやらを止めさせろ」
「グッハッハッハッ! 止める訳ないだろうが馬鹿が。私達の儀式は世界を創り変えるのだ!
まずはこの世界を1度壊す為に“終焉”を訪れさせるのさ。そしてこの終焉によって世界はリセットされ私達が再び新たな世界を創る――!」
高らかに笑う男は完全にイカれていた。
終焉だと……? もしかしてあのノーバディとかいう触手はコイツらが。
「おい。あの気持ち悪い触手はお前らの仕業か?」
「グハハハハハハ! だったら何だと言うんだこのガキィ!」
「こりゃとんでもない当たりだ。町長さんに感謝しなくちゃいけないかもな。この話を受けたエミリアとハクにも」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる」
「でもよ、お前らあんな触手程度で世界を終わらせられると本気で思っているのか?」
確かに数も多くてどこの騎士魔法団も困っているみたいだが、これだけで世界を変えようなんて不可能だ。
「グフフフ。やっぱり馬鹿だなガキ。私達があの程度の下級モンスターだけ召喚する訳ないだろう。アレはお試しだ。
私達がこれから召喚するのが本物であり、最も強力である奴の“究極体”モンスターなのだッ! コイツの存在によって世界は瞬く間に滅びるだろう――!」
「最初と違って随分ノリよく話すじゃねぇか」
「貴様1人が知ったところで今更どうにもならん。それに貴様の言う通り、私はもう興奮を抑えきれないのだよ! 何故なら新たな世界がもう目の前にあるのだからな! ハッハッハッ!
あ、そうだ。いい事思いついちまった。召喚祝いに最初の餌を貴様にしてやるぞガキ。良かったなぁ、偉大な歴史の最初の餌だ!」
男はゲラゲラと笑いながらそう言い勢いよくマントを脱ぎ捨てた。手には剣が握られており、どうやら俺を殺す気らしい。
「悪いがあんな気持ち悪い奴の餌になる気なんてない。お前に譲ってやるよ」
「どこまでも舐めたガキだ。格好つけて剣2本もぶら下げているからって俺に勝てると思っているのか? あぁ?
そんなランクの低い安物持ってる時点で実力が知れるなぁ。前に殺しそこなった冒険者の方がまだマシだ! グハハハ!」
確かに、ランクの高い武器をまともに扱えているのならばそれはかなりの実力者だろう。弱い奴では使えない。
だが残念。
弱者は強い武器を使いこなせないが、その“逆”は幾らでも可能。
全ては本人の実力次第だ。