彼女が軽い気持ちで言っているのではないと直ぐに分かった。奇しくも似た境遇に置かれ、彼女もまた周りから軽蔑された目で見られていたのだろう。8年前の俺と全く同じだ。
あの時、誰かが手を差し伸べてくれていたらもっと違う未来が待っていたかもしれない。根本は自分にも原因があるのかもしれないが、それでも俺は誰かに助けてもらいたかった。
エミリアは今まさにその真っ暗闇の中。
自分がそれだけ頑張って足掻いても変えられない状況。周りの目はどんどん冷たく冷酷になっていくにも関わらず、誰も助けてくれないどころか笑われ馬鹿にされてしまう。
昔の自分とそっくりだ。
「エミリア……。俺は剣士だから魔法は使えない。だから強くなりたいと言われても、魔法が使えない俺は魔法なんて到底教えられないんだ。
だけど、今エミリアがいる暗闇から抜けだす方法なら、俺でも少しは教えられるかもしれない。これでもエミリアと似た道を歩んできた呪われた世代の1人だからな」
「グリムさん……」
「きっとエミリアも、その暗闇から抜け出せば自分の力で強くなれる筈だよ。それなら俺にも助言が出来るしな。
だからエミリア、こんな俺でもいいなら君の助けになる。だが、何度も言うが俺は狙われている身だ。当然危険があるだろう。それでも仲間になって来るか? 俺と一緒に――」
俺がエミリアにそう問うと、彼女は微塵の迷いもない真っ直ぐな瞳を俺に向けて頷いた。
「はいッ!」
♢♦♢
「全然帰ってこないな……」
「バウ……」
俺とハクは、エミリアが向かって行った方向を見ながらそう話していた。
あれから、一応エミリアは俺と仲間?になったみたいで、俺が王都に向かうと言ったら快く了解してくれた。だがさっきの洞窟でのノーバディとの戦闘と壁の破壊で剣がまた壊れてしまっていた。
何処かで剣を調達しないといけないなと話していたら、エミリアが「この近くに街がありますよ」と教えてくれた。
だが俺とハクは人目の多い場所を極力避けたい。まだ辺境の森からそう離れていないこの場所では、騎士団や魔法団の奴らが近くにいても可笑しくないからだ。だけど進むにはどうしても剣は必須。
どうしたものかと悩んでいたら、エミリアが「私が行ってきます!」と張り切って申し出てくれたのだ。
俺は流石に申し訳ないと思い断ったが、彼女もハクもお腹が空いたらしく買い物がてらに行ってくると言って本当に行ってしまった次第である。
「まぁ確かに助かったけど、それにしても遅くないか? もう日が沈み始めてるぞ」
「バウ」
エミリアが向かって早くも何時間が経っただろう。俺の都合で街に行ってもらっているのだが、幾らなんでも時間が掛かり過ぎじゃないか? 俺が思っている以上に街との距離があったのか、それとも何かトラブルに巻き込まれたんじゃ……。
「ワウ!」
「お、来たか」
そんな事を思っていると、向こうから音が聞こえてきた。ハクも気付いたらしい。しかし近づいてくる音はエミリアの足音ではなく、何故か馬の走る音とガタガタと車輪が転がる音だった。
一瞬騎士団や魔法団かと思い慌てて道の向こうを確認したが、そこには1頭の馬が馬車を引いており、その馬車の荷台の上にエミリアが乗っていた。そして彼女は俺達に向かって大きく手を振っている。
「おーい、グリムー! ハクちゃーん!」
「ん、どういう事?」
「バウ」
取り敢えず騎士魔法団でない事に安堵したと同時、エミリアのまさかの登場の仕方に驚いた。同い年だから名前も呼び捨てでいいし敬語も止めてくれと言ったのは俺だが、いざ呼ばれると少し恥ずかしい。
そんな事を思っていると、エミリアを乗せた馬車は俺とハクの前で止まった。
「ただいま! 遅くなってすみませ……じゃなくて、遅くなってごめんね。ハクちゃんもお腹空いたよね。コレなら食べられるかな?」
「バウ!」
「グリムはコレどうぞ。街に売ってる双剣がコレしかなかったんだけど……」
そう言いながら馬車から降りてエミリアは俺に剣を渡した。
「コレで十分だよ。ありがとなエミリア。それよりも……」
買い物は確かに助かった。だが、それよりも気になったのが馬車を運転していた1人のお爺さんだ。
「ああ。こちらは街の町長さんです! 」
「初めまして」
「あ、初めまして……」
「実はねグリム。町長さんがなんか困っているらしくて、強い人を探しているらしいの。だからここまで送ってもらうついでにグリムと1度会ってみたらどうかと思ってね」
エミリアの事だから全く悪気はないんだろう。経緯は分からないが、目の前にいる町長さんが本当に困っているから助けたいと思っての行動だと思う。
だがエミリアよ……。さっきも言ったが、俺達はもう追われているという事を自覚しなければならない。目立つのは良くないんだ。君にもちゃんとそう言ったよな?
え、俺のこの考えで間違ってないよね? 合ってるよね? 状況理解してるよね?
俺はそう思いながら慌ててエミリアを引き寄せ、小声で確認した。