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アクセサリー店を出た後は寄り道せずに1軒目の情報屋に向かう。情報を金で売っている店に入ると、熊のような大男がのっそりと自分たちの目の前に現れた。
「なんだ、シュバルツか。金を払わないと情報は売らないぞ」
「心配するな。払うものはしっかり払う。だが、料金に見合わぬ情報なら、覚悟しておけ?」
情報屋の威圧感がすごい。シュバルツが自分の前に立って、防波堤となってくれている。自分はシュバルツの背中に隠れながら、2人のやりとりを見守ることになる。
「ああん!? 天空の城への行き方だとぉ!?」
とんでもない威圧的な声だ。思わず、身体が縮こまってしまった。それと同時にシュバルツの身体から威圧感があふれ出すのを感じた。彼が一歩、前へと踏み込んだ。
「シュバルツ……」
「すまない。キミがいるのを忘れていた。怖がることは無い」
シュバルツがそう言うや否や、彼の身体から溢れていた威圧感がスッと消えていく。それにホッとしてしまう。
熊のような大男が熱波を放っているというのに、シュバルツがそれを自分に届かないようにガードしてくれている。
「こちらはレデイが2人いるのだ。それ相応の態度を取ってくれないか?」
「けっ! 紳士ぶりやがって……。いつもならとっくに手が出てるだろうがよっ」
「挑発には乗らんぞ?」
「ちっ……。1万ゴリアテだ」
大男がどっかりと椅子に座り、シュバルツに手を突き出した。その手の上にシュバルツが銀貨10枚を乗せている。大男が銀貨を1枚1枚、丁寧に数えている。
「きっかりだな。じゃあ、話してやる。天空の城の行き方だが……とあるアイテムを手に入れないといけないらしい」
「そのとあるアイテムとは?」
「そこまではわからん。ぐぉ!」
「知っていることを全部話せ。1万ゴリアテ分だ」
驚いて、目を丸くしてしまった。シュバルツが音もなく大男の首根っこを右手で鷲掴みした。シュバルツの右腕に血管が浮き出しているのが見える。相当に力を込めている証拠だ。
「うががが!」
「話す気になったか?」
大男がバンバンとシュバルツの右腕を叩いている。シュバルツが手を離すと同時に、大男が床に倒れ伏せた。首元を手でさすりながら、シュバルツを睨んでいる。
「ったく……最後まで話を聞きやがれ。どんなアイテムかはわからんが、それを秘匿している相手なら知っているんだ」
「回りくどいな。最初からそう言えば良い」
「ぐっ……。転送門を管理している神官たちだ。あいつらに聞け」
「ふむ……。これまた一筋縄ではいかぬ相手だな。ありがとう、また世話になる」
「もう二度とくるんじゃねえよ!」
シュバルツが
だが、そんなことはする必要はないとばかりに、無理矢理、情報屋の店から外へと連れ出されてしまった。
「もう! いつもあんな感じなの!?」
つい、シュバルツを咎めてしまった。
「すまん、すまん。あいつはいつもああでな? 身体で教えてやらねばならぬ類の奴なのだよ」
シュバルツは先ほどまでの刺々しい雰囲気をどこかに飛ばしていた。なるべく言葉を選んでいるのが見ていてわかる。こちらを気遣ってくれている。
「私、シュバルツが怖い」
感じていることをそのまま言葉にした。シュバルツなら受け止めてくれると信じているからだ。
シュバルツが身体をかがめ、こちらと視線の高さを合わせてくれた。そして、優しく頭を撫でてくれる。
「怖がらせて悪かった。だが、わかってほしい。これがニンジャなのだと」
「うん、ごめんね。私こそ。シュバルツはニンジャだもんね。こういう荒事にどうしても関わっちゃう職だもんね」
「ああ。ニンジャがゆえにだ。クォーツには見せたくない姿だ」
「大丈夫。私はシュバルツの一面を見れて、嬉しいよ?」
「そうか……」
シュバルツの手が頭から離れていく。彼は身体を伸ばす。彼に促されるままに並んで歩きだす。
◆ ◆ ◆
シュバルツはしばらく無言であった。その雰囲気に飲まれて、言葉が出ない。
どうにかして、沈んでしまった気持ちを奮い立たせなければならない。これはデートなのだ。デートは楽しんでこそだ。
次の情報屋に向かうルートに屋台が並ぶ地区がある。ちょうど、目の前にその屋台が見えてきた。
「シュバルツ、何か食べたいものある?」
シュバルツが足を止めた。きょろきょろと辺りを見回している。その動きが止まり、こちらに顔を向けてきた。彼の目は真摯な色だ。思わず、後ずさりしてしまった。
「あ、すまん。あまり屋台で何か買うことをしなくてな? どれがいいのかわからんのだ」
「そうなの? ニンジャだから、ぱぱっと済ませれる屋台の食べ物とか似合っていると思ってたのに」
意外だった。ニンジャは多忙だ。情報収集だったり、暗躍だったり、多岐の仕事に携わっている。
そうであれば、こういう屋台で食べ物を買って、エネルギーを取るのは当たり前だと思っていた。
「じゃあ、私が選んでいい?」
「頼む」
クォーツは宿屋でルート決めをしていた時点で、屋台で買うものは決めていた。お目当てのものが売っている屋台の前へとシュバルツを案内する。
「いらっしゃい!」
「カボチャパフェを3つ、お願いします! トッピングはパインで!」
「あいよ! 3分ほど待ってくれ!」
心はもうこの時点でうきうきだ。カップルがデートで屋台に寄るとなれば、パフェは絶対に外せない。
「おまちどう! 落とさないようにな!」
ピンク色の紙で包まれたパフェを店員から手渡された。それをシュバルツとロビンに手渡す。シュバルツがパフェを目の前にして固まっている。
「こうやって食べるの」
彼の気持ちを汲み取る。ガブッといきおいよく、パフェにかぶりついた。口をもぐもぐさせて、美味しそうに食べてみせた。シュバルツが自分を真似して、パフェにかぶりつく。
「美味いな……。面妖なものだと思って、今まで敬遠してたのだ」
「そうなんだ! じゃあ、これが初パフェなんだね?」
嬉しくなってしまう。彼の初めてを一緒に体験できた。これだけで、今日のデートが終わってしまっても後悔はないほどの喜びが胸の中に湧き上がってくる。
パフェを食べながらシュバルツと並んで歩く。幸せな時間だ。この時間が永遠に続いてほしいとさえ思ってしまう。
シュバルツが突然、立ち止まった。どうしたんだろうと思いつつも、自分も足を止める。
「クリームが口についてるぞ」
シュバルツがこちらの唇の近くに指を持ってくる。途端に身体が金縛りにあったかのように固まってしまった。
彼は指でクリームを拭い取る。さらにはそれをパクっと食べてしまった。さらには指についたクリームを舌で念入りに拭っている。
彼のその仕草を見ていると、顔から火が噴きそうになった。耳に熱が急激に籠る。真っ赤になっていることは鏡で確認しなくてもわかる。
「シュバルツ……。恥ずかしくて倒れちゃいそうだよ……」
「うお!? すまん。無意識にやってしまった! これは失礼に当たる行為だったのか!?」
「うん……。私以外にやっちゃダメ。絶対にだよ……」
「わかった。注意しよう」
こんなことになるとは予想外だった。パフェを食べ終わった後、手が自由になったので、シュバルツの腕に自分の腕を絡めた。
シュバルツが愛おしくて、彼の腕に絡めた自分の腕をほどきたくない。頭もシュバルツの身体に寄せた。
「シュバルツ。また、パフェを一緒に食べようね」
「ああ、もちろんだ。こんなに美味いものを今まで食べていなかったことが恥ずかしく思えてならない」
「んもう。そうじゃないよ。一緒に食べるから美味しくなるの」
「そうか……。一緒だからさらに美味しいというわけだな?」
「そういうこと!」
デートはまだまだ続く。途中で情報屋に寄らなければならない雑音は混ざるが、それはそれで、ひとつのアクセントだと割り切れば良い。
屋台通りを抜ければ、次は噴水広場だ。いつもは冒険者たちが集合場所に使っている場所だが、今の時間帯なら、ひともまばらであろう。
噴水広場についたら、ロビンにテーブルと椅子を出してもらう予定になっている。確認のために、後ろをついてくるロビンにちらりと視線を向ける。
ロビンがこちらの視線に気づき、サムズアップで応えてくれた。心配はなさそうだ。あとはシュバルツと何を話すかをまとめておくだけだ……。