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第53話:特大地雷皇女

◆ ◆ ◆


 シャッという音が聞こえる。それと共にまぶたの向こう側に光の刺激を感じる。眠い目をこすりながら、上半身を起こす。


 ここはベッドの上だ。ふと、横を見る。シュバルツがいびきをかいて寝ている。


(おはよう、シュバルツ)


 シュバルツはニンジャ・マスクを被っている。その上から彼のほっぺたにおはようのキスをした。反応はない。昨日の疲れがまだ取れていないのだろうと察する。


 ベッドの上で腕を振り上げて大きく背伸びをする。


「おはようございます、クォーツさん」


「!?」


 心臓が口から飛び出しそうになった。窓際にロビンが立っている。もちろん、撮影用の魔導器を手に持っていた。


 金魚のようにパクパクと口を動かす。声がなかなか出てこない。


 ロビンが音を立てないようにして、歩いて近づいてきた。ベッドのすぐ横で立ち止まり、小声でぼそぼそと話しかけてくる。


「寝起きどっきり大成功です」


「んもう! びっくりしたじゃない!」


 こちらも小声で返した。シュバルツにはまだ寝ていてほしいからだ。


「昨晩はずっぽしインでしたか?」


「してないわよっ。わかってて聞いてるでしょ?」


 その時であった。シュバルツが大きく寝返りをした。彼は大の字になった。


「!?」


 もう1度、口から心臓が飛び出そうになった。


 シュバルツの股間を隠すかえでの葉がどこかに行ってしまっていた。そのため、彼のあそこが丸見えだ。さらには大きく太く隆起している。


「これはすごく……大きい……ですね」


 ロビンもシュバルツのあそこに目を奪われていた。


 なんと言って答えればいいのかわからない。生まれてこのかた、男性のシンボルが勃起しているのを見るのは、今この瞬間が初めてだ。


「男のひとって、こんなに……? ちょっと驚きかも……。どう……なの?」


 わからないから素直にロビンに聞いてみた。ロビンがシュバルツのあそこから目を離す。そして、目を閉じた。何か考えているように見えた。そのロビンが目を開けて、こちらに顔を向けてきた。


「見比べるほど、男性のを見ていませんが……」


「あ、そうなのね」


 安堵してしまった。ロビンが「コホン……」と咳払いをした


「仕事柄、どうしてもそういう場面には出くわしますので……」


「なるほど。で、どうなの?」


「はっきり言いますと、今まで見た中では、シュバルツさんのは1番大きいです」


 ちょっとだけ誇らしい気がした。しかし、それをシュバルツに告げるのは誤解を生みそうなので口を滑らさないようにしないといけない。


 目の毒なので、シュバルツの身体に毛布を掛けた。


「……これ、余計に卑猥じゃない?」


「そう……ですね」


 毛布がシュバルツのあそこによって、その部分だけ異様に盛り上がっていた。シュバルツはかえでの葉の向こう側にとんでもない暗器を忍ばせていることが判明した……。


◆ ◆ ◆


 シュバルツをスイートルームに残し、音を立てないように部屋の外に出た。そこにはにんまりと含みがある笑顔のメアリーが立っていた。


「昨晩はずっぽしインできましたの?」


 メアリーとロビンは本当に良いコンビだと思ってしまう。肩をがっくりと落とす。


「あら、その様子だと違うみたいですわね?」


 自分が取った所作を違う意味で捉えられた。そういう意味では無いが、言ってることは当たっているので、どう言い返すべきかに悩む。


言葉が出てこない自分をメアリーが促してくれる。


「では、女を磨きに行きますわよ、朝風呂で」


「クォーツさんとシュバルツさんには結ばれてほしいですからね。気持ちだけじゃなくて、肉体でも」


 ここでふと、疑問が湧いた。風呂場へ向かう途中で、前を歩く2人に聞いてみた。


「メアリーたちはシュバルツ派なの?」


「いいえ? はっきりと言えば、カイルとシュバルツによる泥沼に発展してほしい派ですわよ。見てる分には……ですけど」


「そちらのほうが映えますので」


「そ、そう……」


 自分の予想とは違っていた。てっきり、シュバルツと自分の仲を応援してくれているものだとばかり思っていた。


「ひとつ、ご忠告しておきますわよ。あなたとシュバルツがベッドの上で結ばれても、そこがゴールではありませんわよ」


「あっ……」


 メアリーの一言がぐさりとナイフのように胸に刺さった。足が止まってしまった。そもそもとして、シュバルツとは一度、別れている。


 その後悔を払拭したいがために、自分はシュバルツに熱をあげていることを悟る。精神的な繋がりだけでは不安なのだ。前に付き合っていたときは、肉体の繋がりは無かった。


 だからこそ、余計にシュバルツに抱いてほしいと願っている……。


 肉体の繋がりが二人の仲を強固にするのは間違いないだろう。


 でも、そうしたからと言って、生涯を誓いあう仲になれるのかと言われれば、疑問が湧いてきた。


「あらあら。今頃、気づいたという顔をしていますわね。ミサが言っていた通り、処女だったのですのね」


 正直、ムッとした。眉にしわが寄るのを自覚できる。まるで夢を見るだけの小娘だと言われた気がしてならない。


「なによ……。じゃあ、メアリーは経験があるの?」


「いいえ? ありませんわ。皇女ですから、相手はしっかりと選ばないといけない立場なので」


「ふーーーん。じゃあ、私と同じで処女じゃないの。なんで、そこまで言われなきゃならないの?」


喧嘩腰でメアリーに言ってみせた。だが、彼女は胸を張り、踏ん反り返る。さらには手を胸に当てて、宣言を始めた。


「言いましたわよ。わらわは相手をしっかりと選ぶと。そして、一度、繋がりを得たのならば、国家権力を使ってでも、その殿方は逃がしませんわ」


 ゾゾッと背中に怖気が走る。自分は重い女だという自覚があったが、ちゃんちゃら甘かった。メアリーは超特大黒魔法クラスの尋常じゃない重い女になる覚悟を持っている。


「美の女神さえもうらやむわらわを抱くのです。それで逃げるなんて、決して許されないことですわ」


恐ろしいほどの風格だ。思わず、後ずさりしてしまった。自分は的外れなことを言ってしまった。彼女に向かって素直に頭を下げた。


「メアリー。ごめん、男のことをわかってない処女って言われた気がしたから、正直、ムカッとしたけど……。メアリーにそう言われて当然だった」


「わかれば良いのよ。じゃあ、未来の旦那様のために、しっかり女を磨きに行きましょう」


 16歳とは思えないほどの言葉の重さだ。彼女は生まれてきた場所によって皇女になったのではない。皇女となるべくして生まれてきたと思えてしまう。


 メアリーは威厳と自信の塊であった。彼女は遊びで男と付き合うつもりは毛頭ない。


 自分にふさわしいと思った男性を見つけたならば、相手の出方を待つことはせずに、彼女の方から言い寄るだろう。


 そして、そのまま押し倒し、さらには絶対にその男を逃すつもりはないだろう。


(私、自分のことを重い女って思ってたけど……。まだまだね。上には上がいるって、思い知らされちゃった)


◆ ◆ ◆


 メアリーたちと風呂場に到着する。脱衣所で衣服を脱ぎ、生まれたままの姿となる。風呂場で気合いを入れて、身体を入念に洗う。


 そのついでに、メアリーたちにどうすれば、女をもっと磨けるのか聞く。


「美容はもちろんとして、心の持ちようも磨かなくてはなりませんわね」


「心か……。どうすれば、強くなれるんだろう?」


 背中が丸くなってしまう。隣には堂々と身体を洗っているメアリーがいる。生まれ持った美しさのみが彼女を支えているわけではないことは、先ほどのやりとりで判明していた。


「だからこそ、シュバルツとカイルの間に巻き込まれて、揉まれておきなさい」


「それって、どういうこと?」


 メアリーの言わんとしていることがわからないので、素直に聞いてみた。彼女はしっかりとした自分を持っている。学べるものは全部、学ばせていただこうと思えた。


「女を磨くのは女だけの問題ではないのですわよ。女がキレイになるためには、男の方にも責任がありますの」


「へえ……。それは考えもしなかった。全部、自分の責任だとばかり思ってた」


「貴女の悪いところですわよ。自省できるのは本来、良いことなのだけど……。思い詰めすぎると、自信を無くしますわ」


「うん。よくわかる。すぐ思い詰めちゃう」


 メアリーが優しく微笑んでくれた。なんだか、こそばゆい。心の中を覗かれている気がしてしまう。


「その点、わらわにはロビンがいますわ。ロビンはわらわの行き届いていない部分を忌憚無く指摘してくれるの。貴女の場合はその役目はシュバルツやカイルになりますわ」


「そっか……。わかった気がする。あの二人には迷惑かけちゃうけど、面倒見てもらうことにしよう」


「そうしなさい。貴女はもっとキレイになれますわ」


 メアリーのおかげで、自分は気にしすぎだと教えられた。もっと、皆に迷惑かけて良いんだと思えるようになった。


 それでシュバルツとカイルを振り回すことになるが、それでも、自分が成長するためには必要なプロセスなのだ。


「ありがとう、メアリー。私、もっとわがままになれるように努力するね」


「頑張りなさい。わがままは女の特権よ」

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