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第17話:オーク

 シュバルツが壁に設置されている4本のレバーを上げ下げしている。クォーツから見れば、デタラメに操作しているように見えた。


 4本あるレバーに連動するように鏡が乗っている台座が動く。広間の天井の一部から差し込んでいる光が鏡により反射する。鏡から鏡へと反射を繰り返す。


「よし、これで合っているいるはずだ」


 まるでランダムに操作しているかのようだったが、シュバルツの目は鋭く鏡の反射の動きを追っていた。


 シュバルツが最後のレバーを動かす。光の終着点は天井に空いている穴であった。そこに光がと吸い込まれていく。


 光の道が完成したと同時にカッコーンと、竹が石床に叩きつけられたような音が広間に鳴り響く。


 クォーツたちは思わず「おぉぉ……」と感嘆の声をあげる。


 大広間で振り子のように動いていた大鎌がその動きを止める。石橋を安全に通れるようになった。


「よくレバーの正しい位置がわかったわね」


「腐っても元盗賊だからな。法則性がわかれば、ほらこの通りよ!」


 シュバルツが誇らしげに胸を張っている。そんな彼にクォーツはやるじゃないという顔つきになる。


「これ以上の仕掛けは無いと思うが、拙者が先頭を歩こう。異論は無いか?」


 皆はシュバルツにコクリと頷く。彼はそれを了承と受け取り、パーティの先頭を進む。その後をカイル、クォーツ、メアリー、ロビンの順で続いた。


 石橋を渡り終えた一行は、そこで一度、足を止めた。ロビンがそっと皆に地図を差し出す。今まで自分たちが通ってきた道順を確認する。


「降っては上っての繰り返し……のように見えるわね」


「そうだな。そして大きくぐるっと回っている感じがするな!」


「法則性を感じる。ゆっくりと中心に向かっているような……」


「となれば、この通路を道なりに進むだけでよかろう」


 クォーツとシュバルツがそう結論付けた。ロビンは皆の前から地図を引っ込める。


 シュバルツがランタンを前へとかざす。ゆっくりと下り坂になっているのがわかる。


 シュバルツを先頭にまたしてもクォーツたちは通路を進む。通路の途中で木製の扉がいくつもあった


 寄り道せずに通路の奥へと進む。すると行き止まりに鉄の扉があった。明らかに今までと違う雰囲気を漂わせている。


 風の精霊シルフのコッシローが鉄の扉に耳を当てて、中の様子を探る。


「シュバルツの旦那。魔物の匂いがしますぜ!」


 コッシローの発言を受けて、シュバルツは後ろに控えるクォーツたちに顔を向けた。


 カイルは静かに鞘から刀を抜く。メアリーもそれに続く。皆が戦闘態勢に入る中、クォーツだけは顔が曇っていた。


 そんな彼女にカイルがリーダーらしく言葉をかける。


「無理しなくていいぞ。自分の呼吸で動いてもらえばいい」


「カイル……。うん、わかった。出来る限り、落ち着いて動くね」


 クォーツは右手を握ったり開いたりした。手汗がじっとりと浮かび上がる。右手を出発点として熱が少しずつ身体全体へと広がる。


「いけると思う」


「わかった。シュバルツ、扉を開けてくれ!」


「了解だ!」


「敵の種別を確認しだい、シュバルツは一気に距離を詰めてくれ! 続けて俺とメアリーが突っ込む」


「腕が鳴りますわ。さあ、何が待ち構えてるか楽しみですわ」


 クォーツは3人がたくましく思えてしょうがない。彼らに少しでも貢献しようと誓う。


「いくぞ!」


 シュバルツの号令のもと、鉄の扉が大きく開かれる。部屋の中は殺風景であった。正方形の8畳間ほどの広さである。


 そこにブヒブヒと豚のように鳴く豚ニンゲンオークの群れが待ち構えていた。そいつは二本足で立ち、豚のように口からヨダレを垂れ流す。


 まるで餌が向こうからやってきたかのように喜びの顔であった。


 だが、次の瞬間、手刀が風を切り裂く音が鳴る。そのオークの首級くびがひとつ、宙を舞っていた。


 宙を舞う首級くびがオークたちの群れの前へと落ちる。オークたちは思わずあとずさりする。


「うおおおお!」


 そこを真正面からカイルとメアリーが突っこんでいく。カイルは炎を纏う刀でオークの腹を切り裂く。その傷口から炎が噴き出した。


わらわも続きますわよ!」


 メアリーは盾を構えたまま、オークに体当たりをする。オークが吹き飛ばされる。


 それを横で見ていた別のオークが彼女へと大槌を振り下ろす。メアリーはそのオークの両腕をロング・ソードで斬り飛ばす。


 その両腕が地面へと落ちる前に、メアリーは次の動きを見せた。苦痛に歪むオークの喉元にロング・ソードの切っ先を突き刺す。


 彼女の剣はオークの首を刺し貫いていた。オークは声も出せぬままに白目を剥く。口から血の泡を拭く。そして、後ろへと倒れ込む。


「おまえら、何、びびってヤガル! こちらは4倍もいるんダゾ!」


 オークの群れのリーダーがそう叫んでいる。隊列を崩しかけたオークたちはすぐさま体勢を整え始める。


「やらせない! 麻痺の雷竜よ! 鞭となれ!」


 オークたちに向かって、クォーツが動く。


 シュバルツたちに遅れること30秒。やっとクォーツは荒れる呼吸を整え終えた。それと同時に麻痺の魔法を放つ。


 その群れのうち2匹に横殴りに黄色い鞭がぶち当たる。


「お、オカシラ! 身体がし、しびれて!」


「なにぃ! あの女からヤレ! あいつは厄介ダ!」


 クォーツはオーク・リーダーから直々にご指名を受ける。クォーツは一瞬、ひっ! と悲鳴をあげてしまった。


 彼女はじりじりと後ずさりする。それに合わせてオークが3体、のっしのっしと身体を揺らしながら、近づいてくる。


(動いて。わたしの身体!)


 クォーツはオークたちの圧に負けて、どんどん後退していく。何かやれることは無いかと必死に考える。


 オーク・リーダーの的確な指示により、シュバルツ、カイル、メアリーは分断されている。


 だからこそ、今、クォーツへと近寄ってくるオークは彼女自身がどうにかしなければならなかった。


(目を開けなさい。私! ここが私の分岐点なのよ!)


 恐怖で身体が震える。それでも必死に両手を前へと突き出す。そんなクォーツに対して、オークたちは舌なめずりしている。


 クォーツは負けてたまるか! と詠唱を開始する。しかし、オークがクォーツの細枝のような左腕を掴んできた。


 さらには「ブッヒッヒ!」と邪悪な笑みを浮かべている。クォーツは大きな手で左腕をねじられる。


「痛い!」


 クォーツは思わず叫んでしまう。それがさらにオークたちを喜ばせた。


 別のオークが鼻息を荒くする。のっそりと手を伸ばす。クオーツの胸を白衣越しに揉んでくる。


「いやぁぁぁ!」


 彼女はさらに恐怖に歪みそうになった。


「グフフ!」


 オークは丹念に右手を動かす。クォーツはあまりの恐怖で歯をがたがたと鳴らす。


「グフ? ウン? ウウーーーン?」


 突然、オークが不思議そうな顔をしだした。クォーツは一瞬、何が起きたのかわからなかった。


 オークの手は一度、完全に動きを止める。


「え?」


 しかし、何かあるはずだと、もう1度まさぐる。


「痛い! 強く揉まないで!」


「ウーーーン」


 それでもなお、オークの顔は不可思議だとも言いたげである。


「ウーーーン? ナイヨナ?」


 クォーツは失礼すぎるオークの発言を耳にした。彼女の心の中で、恐怖が次第に怒りに塗り替わっていく。


 次の瞬間、ブツンと頭の中で糸が切れる音がした。


「あんた、今、私をバカにしたでしょ!」


「ぶべあ!」


 胸を揉んできたオークの顔面にクォーツが右の手のひらを押し当てた。クォーツの怒りが乗り移ったかのように彼女の右手が真っ赤に染まる。


 その途端、オークの顔が酸で焼けた。ブスブスと音を立てる。タマゴが腐ったような匂いが発生する。ただでさえ醜いオークの顔が崩れ落ちる。


 クォーツのおしとやかすぎる胸を揉んだオークは天罰を受けた。


「あんたたち許さないわ……」


「何ヲーーー!」


 仲間がやられたことでオークは激昂する。


「全てを腐らす赤錆の王!」


 クォーツは続けて、左腕に赤錆色のオーラを纏わせる。彼女の左腕を掴んでいたオークはすぐさま手を離す。


「ぶひいいい」


 オークの右手は酸によって焼けただれていく。まるで高熱の炎に触れたかのように。肉がドロドロと溶け出す。手の骨が剥き出しになる。


 オークは右腕を左手で抑えながら、その場でうずくまる。


 もう1体のオークはあとずさりしていく。今の今までクォーツを辱めようとしていたはずなのにだ。


 クォーツは激昂していた。彼女の両方の腕先には赤錆色のオーラがまとわりついている。


「許さない。絶対に許さないんだから!」


 クォーツはまるで仇敵でも見ているかのような視線を飛ばす。その瞳には怒りの色がはっきりと映る。


 詠唱をゆっくりと開始する。それに合わせてオークたちが慈悲を乞う表情となっていた。


「た、たすけてくれエエエ!」


 だが、クォーツは絶対に許さなかった。


「アッシド・ブレス!」


 クォーツがそう叫ぶや否や、両手をオークたちへと向ける。その手から赤い酸を噴き出す。


「ぶひいいいい!」


 オークたちの身体がみるみるうちに酸で溶けていく。体中の肉がスライムのように溶けていく。哀れみをと願う表情がいっそう強くなる。


「たすけて、たすけて」


「うるさい! 黙って骨になりなさい!」


 オークの懇願など、いっさい受け入れるつもりはなかった、クォーツは。


 魔法で作り出した赤錆の酸をこれでもかと破廉恥なオークたちにぶっかけた。


 1分もしないうちにオークたちは骨だけになってしまう。クォーツはそのオークの頭蓋骨を思いっ切り右足で蹴っ飛ばす。


 そして、クォーツにそうしろと指示していたオーク・リーダーを怒りの目で睨みつけた……。

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