日本のどこかにあるとある寺。
一匹のカラスがバサバサと寺の入り口の前に降り立ち、直後、人間の姿へと変じる。
足元が揺らいでいることから、本物の人間でない、幽霊であることが分かる。
「主様、申し上げます」
「おぉ、二十五番か。よく戻った。どうだい、〝悪霊使い〟は?」
幽霊の言葉に、寺の入り口、その奥の暗闇から返事が返ってくる。男の声だ。
「〝悪霊使い〟は、主様の目論見通り、餌に食いつきました」
「あぁ、そうだろうね。私のストックを消費して作った偽物の都市伝説級仮想悪霊。あの除霊師が黙って見ているはずがない」
楽しげに暗闇の中の男が笑う。
「と言うことは、あの、偽『トイレの花子さん』は無事、〝悪霊使い〟のものになったのかな?」
「いえ、そちらはかの除霊師がストックしました」
「おやおや、それでは〝悪霊使い〟は目的に近づけないじゃないか」
少し不快げに暗闇の中の男が顔を歪める。
「実は、そこに主様がしたもう一つの仕込みが関係してきます」
「ん? あぁ、なるほど。そっちに行ったのか、彼は」
「御意の通りにございます。〝悪霊使い〟と、かの除霊師のコンビは、主様が意図的に流した情報に踊らされたビハインド・ストッカーの一人とかち合いました」
「そうかそうか。そっちの仕込みもうまく行ったんだね。九十八番は褒めてあげないといけないなぁ」
実に楽しげに、暗闇の中の男が笑う。
「ご想像の通りと思いますが、〝悪霊使い〟は、主様に踊らされたビハインド・ストッカーと戦闘に入り、シルバーコードを切断。ビハインド・ノリコをストックしました」
「ふむふむ、素晴らしい! 〝悪霊使い〟はついにストッカー同士の戦いにその身を投じたわけだ!」
暗闇の中の男が拍手をする。
「早く〝悪霊使い〟が霊界とこの世界の間を結ぶ応援をしてあげたいところだが……。あまり露骨にやると、かの除霊師が気付くだろう、あれは厄介だ。可能ならなんとか離間してやりたいねぇ」
ふむ、と暗闇の中の男が思案する。
「まぁ、それはおいおい考えよう。それより、ビハインド同士の戦いに消極的なストッカー達を突くのに、〝悪霊使い〟の事例は実に役立ちそうじゃないか? 今後は霊呪詛師も活用すると言うのはどうだろう、ねぇ、二十五番?」
「御意に」
二十五番は深くお辞儀をした後、再びその身をカラスへと変えて飛び去っていく。
「さぁ、これからもどんどんストッカーを産み出し、戦わせよう! 全ては誰も傷付かない世界のために」
男が両手を広げて宣言する。
その宣言を聞くものは誰もいないように見える。
ただ、寺の周囲の枯れ木に止まっていたカラス達が一斉に飛び立っていったのみである。