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断章1

 日本のどこかにあるとある寺。

 一匹のカラスがバサバサと寺の入り口の前に降り立ち、直後、人間の姿へと変じる。

 足元が揺らいでいることから、本物の人間でない、幽霊であることが分かる。

あるじ様、申し上げます」

「おぉ、二十五番か。よく戻った。何があった?」

 幽霊の言葉に、寺の入り口、その奥の暗闇から返事が返ってくる。男の声だ。

「また一度ひとたび、霊界への道が開かれたようです」

「あぁ、それなら私も感じたよ。素晴らしい、また一つ我らの目的へと近づいた」

 二十五番と呼ばれた幽霊の言葉に大変楽しげに暗闇の向こうの男が笑う。

「ただ、その時に興味深い現象が発生しまして、特にご報告差し上げねば、と」

「ほほう、言ってみなさい、二十五番。ただし、最初から順を追って、だ」

「はっ」

 暗闇の中の男が問いかけると、二十五番は話し出す。

 霊界への扉を開いたのは、以前から報告していた除霊師の女である、と。

 女は霊呪詛師との交戦の末に民間人を巻き込んでしまい、その民間人を助けるために霊界への扉を開いた、と。

「ほほう。こちらを探っている生意気で邪魔な者と思っていたけれど、まさか我々の目的を助けるような行動に出るとはねぇ。いやはや、人生とは分からないねぇ」

 それで? と男は続きを促す。

「はい、ここからが特に報告申し上げたい部分です」

 二十五番は話を続ける。

 蘇生された男は霊界から悪性生き霊の集合体である霊団を連れて来てしまったこと。

 その霊団を無事調伏し、ビハインド・ストッカーとなったこと。

 そして、そのストッカーには、霊呪詛師に魂を奪われた幼馴染がおり、彼女の蘇生のために戦いを決めたこと。

「ほほーう、素晴らしい。我が秘奥結界以外によってストッカーとなり、しかし、霊界への扉を開くために戦おうとは。実に素晴らしい、是非とも応援しなければならないね、二十五番」

「御意に」

 二十五番は深くお辞儀をした後、再びその身をカラスへと変えて飛び去っていく。

「ふぅむ、悪霊使い、とでも呼ぼうか。魂の蘇生のために戦うなら、歓迎するよ、新たなストッカー君」

 ふふふふ、と男が笑う。

「さぁ、これからもどんどんストッカーを産み出そう。全ては誰も傷付かない世界のために」

 男が両手を広げて宣言する。

 その宣言を聞くものは誰もいないように見える。

 ただ、寺の周囲の枯れ木に止まっていたカラス達が一斉に飛び立っていったのみである。


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