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エピローグ

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 数カ月後。

 オレはとある大きな病院のベンチで待ち合わせをしていた。

 集合場所の中庭は天気が良いのもあって居心地は悪くない。それでも冷暖房&パソコン完備の広くない部屋の方が落ち着くのは、ゲーマー気質かはたまたインドアならではか。


「フウヤさん!」


 手を振りながら何度も顔を合わせている少女が歩いてくる。

 長らく入院生活をしていたのが嘘のように、その姿は元気いっぱいだった。


「お待たせしましたか?」

「大丈夫。ついさっき着いたところだから」

「ふふふっ……」

「どうかした?」

「いえ、ちょっとデートの待ち合わせみたいだなーって。こういうやり取りってテンプレじゃありません?」

「そうかなぁ……。仮にデートだとしても病院の中庭を待ち合わせ場所にはしないんじゃないかと」


 オレの反応が面白くなかったのだろう。

 少女は「ぶーぶー」と頬を膨らませてしまった。もちろん冗談なんだろうけど。


「……じゃあ行きましょうか」

「うん」


 ガーベラと似ているとは感じつつも、言動がまったく違う年下の女の子に連れられて病院の中へと入っていく。

 向かった先は一種の特別病棟。

 親族や関係者しか入れないその建物の一角。長方形のテーブルと椅子だけが設置された部屋からは、大きくて透明なガラス板を挟んで向こうの部屋が見える。


 殺風景な部屋にベッドは一つだけ。

 いくつも繋がれた管。ピッ、ピッと同じリズムを刻む電子音。

 その中心に寝ている女性は毒リンゴを食べてしまった眠り姫のように、静かに目を閉じている。


「こんにちはガーベラ。来たよ」


 当たり前だが返事はない。

 オレはあのクエストを終えたあと、一度たりとも相棒の声を聞いていなかった。


「お姉ちゃん……」


 案内してくれたガーベラの妹さんが呼んでも、最愛の姉はうんともすんとも言わなかった。ただ呼吸をしていることだけが彼女が死んではいないことを教えてくれる。


「あの、お姉さんの調子に何か変わったところは……?」

「相変わらず、お寝坊さんです。前と一緒ですね」


 沈黙に耐えられずにしてしまった質問に、妹さんはお茶目に返してくれた。その心境は決して明るいものじゃないだろうに……落ち込んだ様子を見せようとしない強さは尊いものだ。


「今日は、キミに報告があってきたんだ。……ガーベラにも」


 ――ガーベラが願いを叶えるために光の向こうへ消えたあと。

 少ししてからオレの下へ一通のメールが届いた。


 送り主は不明。

 内容は、時間とお店の名前のみ。


 以前もらったことのある奇妙なメールに従って、オレはあのカフェを訪れた。そこで出会ったのがガーベラの妹さん。彼女は奇跡的に奇病“V”から回復したようで、今は何ら病気の後遺症もなく元気に過ごしている。


 何故妹さんが店にいたのか。

 ソレは姉が使っていたパソコンに残された伝言が理由だった。伝言にはガーベラ自身に何かあった時のための文言が記されていたらしく、その中にはオレのことも含まれていたらしい。


『これ、お姉ちゃんがフウヤさんに直接渡してほしいって』


 渡されたメモ用紙に書き写されていたのはパスワードキー。

 女神の地平におけるプレイヤーが扱う預かり所のもので、中身はガーベラがこれまで所有していた物品の数々だった。


 多分、それが彼女なりの補填だったのだろう。

 けれどそこには今のオレにとって必要な情報も残されていたのだ。


 時間をかけて読み解いた結果、分かったことがある。

 ガーベラが言い残した世界の真実は、嘘偽りではないということだ。そこには希望があった。


「オレ、お姉さんを起こす方法を探しに行こうと思うんだ」


 女神の地平。

 あのゲームにどんな真実が隠されているのかは分からない。ただ“女神を救えば願い叶う”のは本当なのだろう。その願いは現実で大金が手に入るのではなく、おそらく条件付きで真に願いが叶う代物なのだ。


 そしてもうひとつ。

 あの世界のレジェンダリークエストは、ひとつだけじゃない。オレ達がクリアしたクエスト以外にも存在する。


 だったら、ガーベラの病を治す方法はまだ残されていることになる。

 そこに手を出さない理由はない。


「何を言ってるのか分からないと思うけど、しばらくココには来ないと思う。それだけは伝えておきたかったから」

「……そうですか。気が向いたらいつでも連絡してくださいね」

「うん」


 もう一度、眠っているガーベラを見る。

 言いたい事は山ほどあるけれど、今はひとつだけ言い残すことにした。


「キミに渡せなかった物があるんだガーベラ。起きた時には思い切り叩きつけてやるから覚悟してね。受け取り拒否はできないから」


 鮮やかな花の意匠のアクセサリー。

 そのレアドロップの一種は、今もストレージに入ったままになっている。

 いつか必ず渡す。その時のために。



「それじゃあ、行ってくる!」




 こうして、女神の地平おける目的を胸に。

 オレの一番初めの冒険は幕を閉じたのだった。






To Be Continued














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