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第11話

/8.5


「フウヤ!!」


 大爆発が起きるのを目の当たりにしながら仲間の名を叫んでしまう。

 戦慄が走った。

 私はずっとデッドクリスタルゴーレムのヘイトを稼いでタゲをこっちに向け続けていた。追加で出現した二体目に対しても同様だ。

 しかし、二体目の“バーサ”は突然フウヤに向かって攻撃をしたのだ。


 おそらくギミック解除のレバーを下ろすと、解除を試みているプレイヤーを優先的に狙うようになるのだろう。ターゲットを完全に切り替えるために私へのヘイトをゼロになったのかもしれない。

 それにしたって攻撃するために移動するならともかく口からレーザーを吐くとは、予想の斜め上だ。


「このっ!!」


 思い切り振りかぶった一撃を二体目の“バーサ”の足に叩きつける。

 ダメージが入らずとも衝撃は伝わるため、少しだけ足をぐらつかせたゴーレムの無機質な顔がこちらへ向く。予備動作であろう光の収束が始まり、チュイン! と超スピードのレーザーが放たれる。


「ッッ!」


 剣の腹で受け止めると、勢いよく後退はさせられたものの防ぐことに成功する。ただコレは防御重視の私だから可能なのであって、回避特化のフウヤには無理。彼に許されるのはとにかく避けの一手のみなのだ。


「だが、あいつなら……!」


 レーザー攻撃が満足に打てない至近距離まで間合いを詰め、タゲを取るために何度も攻撃を打ち込む。その合間に室内上部の爆発跡を確認すると、爆発の煙にまぎれて二つ目のレバーを下ろす少年の姿が見えた。


 ――さすが!


 内心ホッとしながら称賛をする。

 シビアなタイミングのレーザーすら回避してみせたそのテクニックにだ。


「フウヤ、気を付けろ! まだまだ攻撃パターンの変化やそれに準じた妨害が起きる可能性はある!」


 自分にも言い聞かせるように声を張り上げる。

 私自身もそう余裕があるわけではない。“バーサ”達の攻撃は大ダメージこそ防いではいるものの、着実にこっちのHPを削ってきているのだ。


 スキルの使用タイミングに再度使用するためのクールタイム。下手に受けたら根こそぎHPを持ってかれかねない重い攻撃に、距離を空けたらレーザーときた。近づきすぎればより威力の高い踏みつぶし攻撃が来るため、適切な距離を保ちつつ決してタゲをフウヤに向けさせないヘイト稼ぎも続行する集中力が絶え間なく求められる。


 しかも、それが二体分。


「ここまで集中力が必要なのは、初めてかもな!」


 どれだけ斬りつけようと手に伝わる硬く重い感触に変化はない。

 レバーを下ろして追加攻撃パターンが出たところで、事実上の無敵が解除されるわけではないようだ。攻撃部位によっては少しはダメージも通るかもしれないが、安定した防御の構えを崩すのは無謀に過ぎるだろう。


 ただ、それもずっとは続けられない。


「HPが……ッ」


 自身のHPバーが削られ続けて、色が変わってゆく。

 この世界のHP表示は減少につれて緑・黄・赤と変化していき、一番危険な赤に突入するのは避けなければならない。だというのに私のHPバーは黄色になっていて、しっかり回復を挟む必要があるタイミングに来ている。


 回復アイテムを使用するとしたら三秒は欲しい。

 しかし、二体の“バーサ”が繰り出す攻撃の間にそんな余裕は無かった。こうなるとリズムが崩れるの覚悟で大きく距離を取るしかないが――――失敗した場合のリスクは大きい。 


「くっ」


 早くも賭けに出るか否か。

 思い切って行動に移ろうとしようとした、その時。


「ガーベラ!!!」


 上方から回復アイテムが飛んできて、私のHPを一気に回復させた。

 他人をアイテムで回復させるためには多くの場合、アイテムが使用可能となる距離まで対象に近づく必要があるが、アイテムが上から飛んできたということはフウヤは私のキャラクターの上――足場も何もない空間にいることになるわけで。


「!」


 ボスゴーレムの拳を大剣で押し返している私の真上を、素早く移動するフウヤの姿横切った。

 今回のために準備してきたワイヤーアクションで空中を移動して!


 フウヤは私の回復とギミック解除を同時に行うために、上層の円周上をぐるりと回って移動するのではなく直線状に突っ切ることを選んだのだ。AGI極振りの能力値からくる素早さと空中跳躍スキルとワイヤーアクション用いて、柱の側面や“バーサ”の体の一部を利用しながらの曲芸移動。跳躍で届かない分はワイヤーが仕込まれた小手を見事に使っている。

 さながらアクション映画のヒーローのような、それは私にも出来ないフウヤならではの移動方法だった。


「無茶をする!」


 だが、助かった。

 私のHPバーは安全域まで増えており、これでまたしばらくは現在の闘い方をキープできる。


「まったくとんでもないヤツだお前は」


 声が届いたかどうかは分からない。

 ただ、フウヤは真っすぐに三つめのレバーを下ろそうとしていた。

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