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第10話


 重厚な重い扉を開けて部屋の中に入ると、事前情報どおりの広い部屋があった。

 オレ自身は一度だけ手を挙げた後に急いで柱の裏に身を隠す。じっと部屋の中央に視線をやれば、ゆっくりとガーベラが単独で歩を進めていく。


 頑張れ、と心の中でエールを送った。


 まるでそれが合図になったかのように部屋の中心から赤褐色の光があふれ、床・壁・天井に刻まれた紋様に沿って移動していく。部屋全体に光が満ちて、赤・青・黄色と明滅、巨大な人型が上から降ってきて――全身が揺れるほどの地響きが起きた。


《グオオオオオオオッッ!!》


 ボスモンスターのお出ましだ。

 集中して目をこらせば、頭の上にデッドクリスタルゴーレム“バーサ”との文字が見えた。そして通常のモンスターとは比較にならない本数のHPバーが――――ボスモンスターにはあるはずなんだけど……。

 バーサのHPバーは一本しかない。


「さあ……始めようか!!」


 敵に対する挑発とオレへの合図を兼ねたガーベラの声が上がる。

 だが、オレは動かない。

 まずはボスの意識が完全にガーベラに向いてからじゃないと、余計な攻撃が飛んでくるかもしれないからだ。


『いいか、ボス戦において注意するべきことはいくつもある』


 時間を確認するためのタイマーウィンドウをじっと見つめながら、三十秒ぴったりに動きだせるよう自分自身でもカウントを行なう。ガーベラの作戦を反芻しながらの待ち時間。

 その間に、金属と金属が重く激しくぶつかりあう音が響き続けていた。


『そのひとつが、ボスの特性だ。そもそもその辺のモンスターとは比較にならない強さを持つボスなんだが、ゴーレム系の特徴としてとにかく硬い』


 “バーサ”の攻撃を、ガーベラがただひたすらに耐えている攻防戦。

 人間の何倍も大きい人型人形の拳が勢いをつけて殴りかかってくるたびに、ガーベラが大剣で応戦する。ダメージを与えるのではなく、とにかく防御に重点を置いた耐久線の構えを取って、弾き、受け流し、受ける。


『――そもそもこっちの攻撃が全く効かないといった感じだな。無敵、と言い換えてもいい』


 実際目の当たりにするとクソゲー感が半端ない。

 防御に専念するガーベラのHPはアイテムで回復しつつも少しずつ減少繰り返しているが、攻撃が当たっているボスゴーレムのHPはミリ単位も減っていない。本気で無敵だとしたらどんだけ鬼畜仕様なんだよと物をぶん投げたい気持ちだ。


 ……十五秒経過。

 ようやく半分。今のところ、スキル・装備・アイテムを併用してガチガチに防御を固めているガーベラに大きな変化はない。そもそもレベルが高いのもあるが、彼女は驚異的なプレイヤーテクニックを持って、確実に敵の攻撃をいなしている。


「おおおおおおお!!!」

《ゴアアアアアアア》


 ぶつかり合う拳と大剣。その音は格闘ゲームの達人級な攻防を連想させた。なんていうか硬直無視のスーパーアーマー状態で攻撃し続けてる感じだ。もちろんその一発一発には相当の攻撃力があるはずなので、仮にオレがもらったら一発で消し飛んでも不思議じゃない。


 ……三十秒!

 カウント終了と共に、柱の影から移動を開始。

 オ向かった先は、部屋を俯瞰した際の南側。最も近いところにあるギミック解除のチェックポイントだ。


 この時のために練習していた壁走りと木々の枝を飛び移る跳躍力が大いに役立ち、壁のわずかな出っ張りを飛び移り時には丸みのある壁をひた走り、目指すは室内上部に設置された窪み(小部屋)!


「行ける!」


 登る分には全く問題を感じずに窪みに到着すると、そこには引き下ろすタイプのレバーがあった。


「こいつを起動させればッ」


 急ぎ両手でレバーを下ろそうとすると、やや固さを感じつつも突っかかることなくレバーが動いた。心の中で「よし!」と叫ぶと、壁の向こうからゴゴゴゴッと何かが動く音が聞こえ、部屋の最奥部にある壁の一部が変化する。

 ガシャンガシャンと動いた最奥の壁の向こうから一回り小さいくて色違いの壁が現れ、端々からは淡い色のオーラのようなものが零れ出ているのが分かる。


「あと三つ!」


 オレの役割をまっとうするため、次に目指したのは東側の窪み。

 脳内ではガーベラ先生のありがたすぎる授業が再生されていた。


『このクエストは討伐戦に見せかけた、以下に早くギミックを解くかの謎解きなんだ』

『ボス部屋の一番奥には分厚い壁が四重になっていて、その壁の向こうにある宝珠を入手するのがクエストクリア条件。四重の壁はボス部屋上部の四方にあるスイッチを起動すると排除できて、最後は隠された宝珠が出現。手にすれば戦いは終わる』


 『意外と簡単か?』と感じるかもしれない。実際オレだって少しはそう思ったさ。だけどそんな気持ちは続くガーベラの解説で吹き飛んだ。


『どんなアホが仕込んだのか知らないが、このボス戦においてもダンジョンの仕様が適用される。例の人数に比例して敵が沸くってやつだな』

『つまり、無敵の“バーサ”も人数に比例して数が増える』


 いや、正直一瞬ウルトラクソゲーだと思ったよ?

 クリアさせる気を微塵も感じない。最難関がどうとかってレベルじゃない。


『二体を引きつけている私がよほどの大ダメージを受けた時以外は、ギミック解除に専念してくれ。それこそが何より私の援護になる』

『頼んだぞ相棒』


 轟音を響かせながら戦うガーベラの様子を上部から見下ろしながら、外周上にある狭い足場をひた走る。パッシブ系のスキルによってその速度は中々の物だが、味方が耐えているというシチュエーションのためもどかしさが凄い。


「はやく、はやく!」


 少しでも足を速く動かしてスピードを上げよう。

 そう念じた時、視界の端で何かが光り輝いた気がした。


「フウヤ、避け――――!!」


 刹那の合間にガーベラの声が耳に届き、反射的に声の主の方へ振り向く。

 その瞬間、目の前に迫っている光の筋が目に入った。ガーベラのすぐ近くにいつの間にか出現した、二体目のデッドクリスタルゴーレムからコッチに向けて光線が放たれていたのだ。


「な!?」


 甲高い発射音と弧を描きながら伸びてくるはレーザー光線? え、ゴーレムってそんなロボット兵器みたいな挙動までしてきたっけ?? とゆーかタゲは?? 普通近くにいる人を優先するんじゃないの???


 いくつもの疑問が湧いてくる最中、レーザーによる爆発が巻き起こった――。


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