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第7話

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 ガーベラと会えなくなってから数日が経った。

 オレは以前と変わらず毎日ログインしていたけれど、ガーベラが姿を現す気配はない。

 まさか本当にあれだけで会えなくなるの……? 振り払っても浮かび上がってくる不安が消えない。そんなバカなと思いつつも、ありうるかもしれないと考えてしまうのはオレがネガティブだからなのだろうか。


「ガーベラ……何してるんだよ」


 空中に浮かぶウィンドウに表示されたフレンド画面を見ながら呟く。

 ガーベラのログアウト表示に変わりはない。二十四時間張りついているわけではないけれど、いつもこの世界にいるガーベラがここまでログインしない事は今まで無かった。


 普通に考えておかしい。うん、おかしい。

 どう考えてもあの騎士様はゲーム世界で生きてるといっても過言ではない類いのプレイヤーなはず。なのにここまでログインすらしてないなんて。


「まさか引退……いやいや、そんな馬鹿な」


 あーでもないこーでもないとうんうん唸りつつ、最早日課になりつつあったレベリングは続けている。ガーベラがいないから効率を求めた無茶はできないが、自分が倒せるギリギリのモンスターを相手に経験を積むのは怠っていない。


 スパルタに鍛えられたおかげで、今のオレは黒き森のモンスター相手でも(時間はかかるけど)そこそこイケるレベルに到達していた。光風翼の靴に関しても大分使い慣れてきており、練度は格段に上昇してるといっていい。


 その恩恵に預かりながら、大木の枝から別の枝へと飛び移る。

 特定のモンスター以外は高い木の上まで登ってこれないため、サーカス団員や忍者のような曲芸じみた動きをする余裕すらあった。


「ほっ。とっ。ハッ!」


 跳んで、飛んで、遠くへ翔ぶ。

 三段ジャンプをするように、空中を滑るかのように。

 早くガーベラに成果を見せたいと、そんな想いを抱えて。


「ふぅ……とりあえずメッセージだけは送っておこ」


--

 ガーベラへ。

 このメッセージが届いたら返事をください。

 あんなやつらの言うことなんか気にするな! オレはガーベラの事だけを信じてるから! 一緒にレジェンダリークエストを攻略しよう!

 っていうか、とにかくもう一度会って話がしたいんだよよよよよ!!

-- 


 何十回目になるかわからないメッセージを送信する。

 念の為、文末にはリアルで使っているアドレスも付けてだ。

 ネットリテラシーなんか今はどうでもいい。これでガーベラが返事をくれるなら……。


 そんな想いが届いたのか。

 ある日の夜。見たことがないアドレスからフウヤ宛てのメッセージが届いていた。

 現実のオレに対してその名を使う人物は一人だけしかいない。


 ただ、内容は奇妙なもので。

 とある喫茶店の名前と、日付と時間だけが書かれていた。


 ココで会うつもりだと仮定しても、なんでリアルでわざわざ???

 普通ならそんな風に考えるところだろうけど、オレはその理由に心当たりがあったのですぐに出かける準備が出来た。


 その心当たりとは、

 ――VRMMO『女神の地平』に付き纏う謎のひとつ。


 このゲームにおいて、ゲーム内で得た情報の交換はインターネット・SNS・アプリ等を使ってすることは基本不可能。この秘匿性と情報の価値を上げるだけで、不便極まりない不思議なルールを破ったからといって罰則が発生するわけではないだろう。


 だけど、この理由を持ち出しているのが女神の地平を生み出したゲーム会社そのものだ。

 もし破ったら、ゲーム攻略に支障が出るレベルのペナルティが発生する?

 あるいはゲームそのものがプレイできなくなるのか?

 真相は分からない。


 変な真実味があるのは、女神の地平についてネット上で調べても簡単な概要とタイトルしか分からないからだろう。どんなゲームであれ発売日以降は何らかの情報であふれるネット社会においては信じられない現状が、噂が噂を呼び、謎に拍車をかけている。


 そのせいで女神の地平のプレイヤー達は情報交換のハードルが高い。

 最も単純だが実行するには難がある、“リアルで直接会う”方法が要求されるためだ。


 メッセージを貰った二日後。

 現実のオレは、指定されたカフェに指定時刻の三十分前に到着していた。


「ここか……」


 家にいる時間の長いコミュ障気味な十代が入るには勇気がいる、大人でシックな雰囲気があるカフェ。その一番奥の席が指定された場所。


 そこには誰かが座っており、もしかしなくても絶対遅刻しないよう早く着すぎたのが裏目に出たかと内心慌ててしまう。それもこれも席に座っているのがガーベラかどうかの判断がつかないからだった。

 待ち合わせ場所に座っている人が、ガーベラである保証はない。待ち合わせ前なら他の人が座っていてもおかしくないのだ。


 って、今更気づいたけど向こうもオレがどんなヤツかわからないんじゃ?

 やばい、待ち合わせとしては穴がありすぎるじゃないか!? どうしようどうしよう。


 一度慌てるとリカバリーが難しい。

 このままだとお店の入口でぼっ立ちしている変なヤツになってしまう。


「御一人ですか?」


 キョドっているオレに声をかけてくれたのは、カフェの女性店員さん。


「いや、えっと……このお店で待ち合わせをしてて。一人じゃなく、最低でも二人になるといいますか」

「失礼致しました。ご予約のお客様のお名前をよろしいですか?」

「え”」


 よ、予約だって?

 お名前を言われても、向こうが現実の名前で予約していたのならオレにその名前が分かる術はない。


 ああもう、こうなったら言うだけ言ってみよう。

 やけっぱちにオレは会いたい相手の名前を口にした。


「が、ガーベラで……予約はありますか」

「はい、ガーベラ様ですね。それではこちらへどうぞ」


 通じた!?

 ありがとうガーベラ! キャラクターネームで予約してくれて助かったよ!


 救われた気持ちになりながら店員さんに付いていくと、カフェの奥にある扉をくぐってさらに奥にある個室へと辿りつく。


 こういうお店もあるんだな~なんて気の抜けたことを考えながら、個室のボックス席に座る。すると、何故か店員さんが向かいの席に腰かけた。


 意味が分からず、頭の上をハテナマークが乱舞する。

 え、何? もしかして何かのサービスでも始まる???


「あの……?」

「どうかなされましたか」

「どうかされたも何も、なんで店員さんが座るのかって話しでは?」


 素直な疑問をぶつける。

 すると、接客態度として大変いい出来栄えだったにこやかなたれ目気味スマイルが、


「なんだ。待ち合わせをしている相手が座ったら問題でも?」


 切れ長のツリ目へとトランスフォーム。

 口調も様子も、明らかに客にする態度じゃない凛々しいものへと変化していく。


「え、いや!?」

「カフェではお静かにお客様」

「もしかしなくても、き、キミが、ガーベラ……?」

「ああ、こうやって会うのは初めてだな。現実のフウヤがお前みたいな若者だったとは、まったく驚いたぞ」


 それはこっちの台詞だ。

 大体、店員ならあらかじめそう言っておいて欲しいし。

 いや、いや違う。それよりも何よりも、オレが驚いたのは別のところだ。


 そう、それは。


「ガーベラって、女の子だったの!!!??」


 これに尽きる。

 なお。

 このあとすぐにオレの口を塞いだのは、でっかい大剣を振り下ろすように強襲してきた彼女の鉄拳だった。


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