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「だああああああ!!?」
《シャアア!!》
襲い掛かる大蛇(毒持ち)!
「ひいいいいいい?!」
《ぐるるるる!!》
腹を空かせてる巨大狼!
「あわわわわわわわ!?!」
《ごるぁああああ!》
棍棒をぶん回す四本腕のゴリラ!(?)
そして――
「しっかり避けろよ。避けないとめっちゃ痛いぞ」
――必死に逃げまくるオレに対して、メガホンで声を飛ばしてくる鬼畜。
もとい蒼い鎧の騎士ガーベラ。
「痛いとかそういう問題じゃなく、問答無用で死一択でしょこれ!?」
「大丈夫だ」
「どこが!」
「即死級の攻撃を喰らっても、私がなんとかする」
「喰らう前になんとかしてえええええええ!!!!」
殺意満々でオレを狙ってくるモンスターの攻撃を、とにかく避けて避けて、そして逃げる。これのどこがレベリングだというのか! こんなのオレが知ってるレベリングじゃないよ!!
「わあーーーーーーーーーーー!!」
涙をちょちょぎらせながら大声で叫ぶ。
絶賛ピンチなオレの脳裏に、鬼畜なガーベラさんの言葉が蘇る。
『いいか、フウヤ。女神の地平ではモンスターを倒した経験値でレベルアップする他にも強くなる方法がある』
『同じ分野の行動を繰り返して技能を磨いていくことによって、数字では言い表せない強さが身に付くんだ。ゲーム的に言えば隠しパラメーターみたいな』
『フウヤはとにかく足が速くて避けるのが上手い。コレはAGI型の能力値も関係はあるが、そもそもお前自身が回避能力に長けている』
『私達がクリアすべきクエストでは、お前の速さが何よりも必要となる。だから、出来る限りそこを伸ばしていこう』
森の木々にぶつからないよう全力ダッシュをするのは危険が伴う。
このゲームにおいては、高所からの落下やオブジェクトへの激突もダメージになるし(ソレだけで即死する事は稀だけど)モンスターから逃げ回る今の状況では転倒の昏倒なんかもヤバイ。
「が、ガーベラ! ガーベラああああ!! もうそろそろ助けてくれないと、本気で、マズイ気がするんだけどおおおおお!?」
「はー、喉が渇いたなっと。ごくごく」
「呑気にお茶飲んでる場合かバカぁーーーーーー!!!」
まさか本気で助ける気がないとか?
いやいや、そんなはずは。
「オレが敬愛するガーベラは、人をモンスター達のエサにして愉悦を感じるような鬼畜愉悦野郎じゃないよねーーーーー?! ぜえ、ぜえ……や、やばい、叫んだら息が……」
《ぐるぁあああああ!!》
「ぎゃーーーー!!?」
迫りくるゴリラ(?)の棍棒。その一振りは余裕で大岩を砕く威力があるため、オレの頭部なんて一発でくしゃりだ。っていうか頭が飛ぶどころか、外国アニメのコミカル表現のように潰れたパンケーキみたいになるだろう。
「そんなのは――ごめんだっての!」
無我夢中で、オレは前方にあった大木に向かってスピードを上げた。
火事場のクソ力というやつかな。人間数人が乗っても折れなさそうな幹がいくつも突き出したその大木の表面に足をぶつける勢いで踏み込む。
「おおおお!!」
走る先は前でも横でもなく、“上”だ。
現実とは異なる世界でなら出来る、っていうかやらないと死待った無し! そんな想いが爆発したのか、オレの小柄な身体はしっかりと大木を両の脚で駆けあがっていた。
「おおおおおおおおっでえい!!」
さすがにいつまでも駆けあがるのは不可能だったため、勢いが落ちて落下する直前に近くの太い幹へと飛び移る。荒い息を吐きながら見下ろした先には「降りてこいやごらあああ!!」と言いそうな狼とゴリラ(?)が右往左往していた。
「ぜえぜえ、はあはあ……た、助かっ――」
《しゃああ!!》
「ってないーーーーーー!!」
そういえば蛇もいたんだった!
脚が無いこいつにとっては樹上だろうが大して地上と変わんないよね!?
目前で大きく開かれた大蛇の咢が、オレを飲みこもうとする勢いで被りつこうとしたその直後。
ズバババッッ!!
そんな激しい音がして、モンスターが光の粒子に変わった。
おそるおそる地上を確認すると、他のモンスターもまとめて倒したのか。モンスターの残骸の中心で、ガーベラが大剣を振り切った姿勢になっている。
「いいぞフウヤ。その調子だ」
「……な、何がその調子だ、だよ! 危うく死ぬとこだっただろうが!」
「そこは私が助けると言っていただろう」
「助けるならもっと早くして!?」
こんなの残機が何個あっても足りないからね!!
「まあまあ、落ち着け。それよりもやっぱりフウヤはすごいじゃないか、まさかいきなり木を駆け上がるなんて」
「ええ……それのどこがすごいのさ。確かに現実だったらすごいだろうけど、ガーベラだってやろうと思えば出来るだろ」
すごいっていうなら、おそらく範囲攻撃のスキルでモンスターを一網打尽にしたガーベラの方がずっとすごいだろう。そういう認識で口にした言葉に対して、ガーベラは首を振った。
「出来ない」
「出来ない……って、冗談でしょ?」
「冗談なものか。重い鎧と剣を装備している私が、そんな身軽な芸当が出来るはずがないだろ。それはお前の誇るべき長所だフウヤ」
「長所?」
「少なくともニュービーの時点で木を駆け上がるなんて軽業は、私が知る限りお前しか出来てないよ」
「ほ、ほんとに?」
「ああ。正直驚いている」
……どうしよう。
なんかストレートに褒められて、とんでもなく嬉しい。
「もしかしなくても、お前なら案外早く必要な技能を身に着けるかもな」
「え、え、必要な技能って――」
「それは後のお楽しみだ。ゲーマーなら早々のネタバレは面白くないだろ?」
表情こそヘルムで見えないものの、ガーベラは愉し気だ。
もしかしてこの先には余程面白いものが待っているのだろうか。
「よし、それじゃあ適当にモンスターを連れてこよう。次はさっきの倍に数を増やすか? 敵に囲まれた分だけ回避精度は落ちるが、まあフウヤならなんとかな――」
「一匹! まずは一匹だけでお願いします!!」
「分かった、じゃあ一匹増やして四匹にしよう」
ちがーーーーう!!
オレが言ったのは一匹増やしてじゃなく、一匹だけにして欲しいだよ!!
慌ててそう告げようとしたが時すでに遅し。
ガーベラはあっという間に新手のモンスターを見つけてきて、オレにけしかけた。
「これってモンスターPKじゃないの!?」
「PKされてないんだから違う」
そんなこんなで無情なレベリングは続き……オレのレベルは爆速で上がっていったのだった。