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第3話

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 休憩を終えてからの道中。

 オレはガーベラという頼りになりすぎる騎士に守られながら、様々な質問をしていた。


「どうしてニュービーのオレをクエスト攻略に誘う? レジェンダリークエストって、このゲームにおける最高難易度クエストなんだろ」

「お前の協力が必要だと思ったからだ」


「待って待って。ガーベラが何レベルか知らないけど、どう考えたってオレよりずっと強いじゃん。パーティを組むならもっとふさわしい仲間が他にいるでしょ」

「いない」

「なんでさ」

「理由はいくつもあるが、第一に私は基本的にソロプレイヤーだ。余程の必要性がなければそれで大体なんとかしてきた」

「……とんでもない人だなぁ」


 VRMMOにおいて、他のプレイヤーと協力しあうためにパーティを組むのは当たり前といっていい。勿論ソロ――一人で遊ぶのも不可能ではないが、大概のゲームはパーティ前提のバランスで設定されているためデメリットの方が大きいもの。

 それでも一人プレイをするのならば、変人か狂人か。あるいは配信絡みとか? あえて常人が選ばないプレイスタイルによって人を惹きつける手はあるらしいけど。


《フシャア!?》


 木の影から飛び出してきた蛇のモンスターが、ガーベラの大剣で両断されてダメージボイスをあげる。……あっさりやってるけど、今のも一撃だよね。オレを助けてくれた狼のモンスターもほとんど一撃だったので、この騎士にとってはオレが一発で即死する高レベル帯エリアモンスターが雑魚って事になる。

 女神の地平のゲームバランスはまだ分からないが、ガーベラがこのゲーム内におけるハイレベルプレイヤーなのは間違いない。


 うん、ますますなんでオレが仲間に誘われるのかが分からない。


「大丈夫か?」

「おかげさまで!」

「今の戦闘でレベルはいくつ上がった?」

「えーと、3レベルかな」


 何もせずに経験値メーターが数回MAXに到達して、レベルアップのエフェクトが発生したのを見ながらステータス画面を確認する。女神の地平ではパーティを組んでいる相手とは経験値が分配されるようで、行動によって割合は変わるのだとしてもオレみたいな初心者は一瞬で数レベル上がってしまう。

 いわゆるパワーレベリングというテクニックではあるが、今回ソレを提案したのはオレじゃなくガーベラの方だった。


「いいの? こっちは何も返せないのに」

「いい。私に協力してもらうために必要な事だ。ただ、さっきも言ったが――」

「スキルと能力値割り振りはまだしないこと、だね」

「ああ。もちろん私の話しを断るのであれば別に気にしなくていい」


 ある意味至れり尽くせりだ。

 今の時点で既に、オレは本来必要とする長いプレイ時間を大幅に短縮できているのだから。


「じゃあ、一番気になってることを訊くよ。ソロでやってるガーベラがオレみたいなのを誘ってまでお目当てのクエストをクリアしたいのは何故?」

「一言で説明すると…………叶えたい願いがある」

「叶えたい願い?」


 これまたファンタジーな回答だったけれど、ガーベラの口調は至って真面目なもので茶化してるようじゃない。


「女神の地平の謳い文句は知っているな? 話している感じだとフウヤはそれなりのゲーマーのようだが」

「謳い文句って……“女神を救えば、キミの願いが叶う。この世界を滅びから守るあなたを、私達は待っています”って宣伝のこと?」


 それはファンタジー系のゲームにはよくある王道系統のフレーズだった。

 知り合いはありきたりと感じていたようだが、個人的には嫌いじゃなかった。いや、むしろ好きだといってもいい。

 何故なら、その謳い文句には奇妙な都市伝説が付いて回っていたからだ。


 曰く、あのメッセージに嘘はなく、女神の地平には願いを叶えるナニカがある、と。


「アレは本当だ」

「え?」

「女神を救えば願いが叶うのは、真実だと言っている」

「…………真実だって!?」


「変わってるなフウヤは。普通は嘘だの冗談だのと疑うとこだぞ」

「そりゃあ、だって、ほら! オレがこのゲームをプレイする目的は、あの噂話を確かめるためっていうのもあったから!!」


 興奮が冷めやらない。

 こんなにワクワクしたのはいつ以来だろうか。少なくとも現実世界で味わったのはずっと前だったはずだ。


「どど、どうすればいいの? 願いを叶えるためには女神を救い出さなきゃいけないとかそういう話し!? ガーベラはその方法を知ってるんだよね!!」

「……さっきから感じていたが、それがお前の素か? ひとまず落ち着け」


「ご、ごめんなさい……」

「謝る必要はない。警戒してつっけんどんにされるよりずっといいし、大分可愛いく見えるぞ」

「その、素っ気ない話し方は初対面の相手に舐められないようにするための自衛なんだ。いつも子供っぽいって馬鹿にされるから……半分癖になっちゃったけど」

「ロールプレイするかは人それぞれだろう。仮にフウヤの現実(リアル)がとても可愛らしい女の子で、それを隠すために男口調にしていても気にしないし詮索もしない。現実(リアル)の話題はマナー違反だからな」


 そういうガーベラは、オレからすると強くて格好いいイケメンにしか見えない。

 いや多分そうだ。凄い人というのは、現実でも凄かったりするのだから。


「話しを戻そう。このゲームにおいて条件を達成すれば願いが叶うのは事実だ。そして、その事実を知る者は願いを叶えるために日々動いている」

「願いが叶うって……具体的に何をどうすればいいの? 条件を達成する方法は? あ、いや待って! 今のは無し! きっととても大事な情報だろうから、オレなんかに伝えたらマズイ――」

「いい。フウヤに協力してもらうためには必要な情報だろう」


 信頼。

 その二文字を向けられたようで心が躍る。

 オレは、もしかしなくてもとんでもない人から期待されているのかもしれないと。


「願いを叶えるためには女神を救わなければならない。コレに関しては一定数のプレイヤーが共有している周知の事実だ。問題は、どうすれば女神を救えるのか? その方法や手段が謎だったこと。……少し前まではな」

「じゃあ今は……」


「判明している。正確には私は突き止めたというべきか」

「すごいじゃないか!」

「その答えが最高難易度のクエスト――レジェンダリー・クエストのクリアだ。クエスト名は『封じられた女神の解放』。言ってしまえばダンジョンの最奥にいるボスを倒せばいいんだが……」


 ガーベラが言いよどむ。

 それだけの困難が、そのクエストにはあったことは容易に感じられた。

 だけどそんな事は、今のオレにとってはどうでもいい。


 そう、どうでもよくなるぐらいに、嬉しさが勝っていた。


「ボスを倒すのは私には不可能だったんだ。ボス戦には特殊なギミックが存在して、最低でももう一人パートナーがいないと――――」




「わかった! 仲間になるよ!」



 オレが食い気味にOKを出すと、ガーベラの頭にビックリした時のエモートアイコ

ンが浮かぶ。きっとオレの頭上には鼻息を荒くしているアイコンが出てるはずだ。


「今の説明で足りるのか? 伝えねばいけない事はまだ山ほどあるはずだが」

「十分だよ。とにかくアレでしょ。ガーベラはクエストクリアするための仲間が欲しい。オレがその仲間に適してるって話し」


 そこに嘘は無いだろう。

 でなければ、秘匿すべきクエストの情報を話す理由がない。もしここまで誠意ある態度をしておきながら何らかの罠にハメようとしているなら、それを看破するのは不可能で、そこを気にしたってしょうがない。


 何より……オレはもうガーベラのことが気に入っていた。

 好き、と言い換えてもいい。ラブじゃなくてライクの方で。

 更にモンスターから助けてもらった恩義も上乗せされる事で、断る理由は皆無。むしろ協力できるのなら進んで力を貸してあげたいぐらいだった。


「こっちからもお願いするよ。オレをキミのパートナーにしてほしい!」

「……ありがとう」


 ガーベラと硬い握手を交わして、オレ達は相棒の契約を交わした。

 開始直後はなんてクソゲーかと思ったけれど、こんな出会いもあるからゲームは面白い。


「じゃあ早速だが、まずはフウヤのレベルを上げるぞ」

「レベリングから始めるんだね。さっきボス戦には特殊なギミックがあるって言ってたけど、それが関係してる?」

「いや、単に今のままだとボスはおろか道中で倒れるだろうから。とりあえず最低限モンスターの攻撃から逃げられるようにしておかないといけない」


 最高難易度のクエストに挑むのだから、道中のモンスターも当然強力な相手ばかりだろう。ガーベラの提案は何一つおかしくない真っ当なものだ。


「そっかそっか。まあガーベラが一緒なら順序良くレベルを上げるぐらいなんともないよね」

「そうは言っても鍛えるのはお前自身なんだから、そこは肝に命じておいてくれ。女神の地平での戦い方、動き方、考え方も出来る限り覚えておかないと」

「まあ、それぐらいなら」


 大変そうではあるが、いずれ身に着けるべき技術と知識なのだ。デメリットは特に感じない程度にはオレもゲーマーだ。


「いずれにせよ一旦町に戻る。フウヤの装備を見繕ってからレベル上げに行こう」

「ありがたいよ。その上でオレのレベルに合ったエリアに行くと」


「いいや? それだと効率が良くないから、最初から経験値がたっぷり入るギリギリの場所でやるぞ。長い移動も面倒だし、まずはこの黒き森からでいいだろう」

「ちょ」


 さらっと言いのけるガーベラに絶句する。

 え? つまりオレはこれからレベルを上げるために、一発喰らったらお陀仏のエリアで闘わなきゃいけないと? なんだそのハードモードは。


「待った待った! さすがにそれはやりすぎじゃない? オレが倒れちゃったら元も子もないだろ!」

「大丈夫だ、私が絶対に守る」


 ガーベラさん、かっこよすぎか!


「心配か?」

「……まあ、ガーベラが強いのはわかるけど。オレがトチったら嫌だなぁとは思うよ」

「そうか。私は案外イケると思っているがな」

「なんで?」


「それは、私がお前を誘った理由とセットなんだが。まあ、すぐに分かるさ」

「わ、分からなかったら?」

「諦めて死んでくれ」


 スパルタすぎる!!

 この人、実は他人の生き死にをロクに気にしない人だったり!?


「善は急げ。さっさと拠点に戻って作戦会議をしよう。その後は睡眠が必要になるまで戦うぞ」

「出会って早々にオールナイトする気満々なの?!」


 どうやらこの蒼い鎧の騎士さんは、相当なガチゲーマー……もとい廃人のようだ。

 オレも似たようなものかもしれないが、意気込みとぶっ飛びぶりでは圧倒的に負けている。


 そんな気がした、一日目だった。



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