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第3話 腹黒聖女アリサの視点1

 ダイヤ王国歴1506年10月同時刻。


 ダイヤ王国の国境付近。

 丘の上にはハート皇国の野営用のテントがずらりと並んでいる。ダイヤ王国に侵攻した兵士とは異なる後方支援部隊だ。そこに同行した聖女アリサは、忌々し気にダイヤ王国を眺めていた。

 聖女アリサはダイヤ王国の妖精から拒絶されたため、王都に入ることができない。それを知るのはアリサ本人だけ。それだけでも腹立たしいのだが、それ以上に彼女は現状に不満しかなかった。


「なんで、なんで!? 邪悪なダイヤ王国は滅ぼして、私が女王になるはずなのに! 妖精王オーレ・ルゲイエ、見ているでしょう!? 私を女王にしてちょうだい!」


 アリサは聖女としてダイヤ王国の女王ソフィーリアと対峙し、完膚なきまでに叩き潰した。しかしその手口はお世辞にも聖女と呼べるものではなく、物語をシナリオ通りに進めるため使い魔たちに細々と指示を出した。


 ダイヤ王国女王は、

 そのためハート皇国への食料提供の隠蔽から始まり、様々な裏工作を行った。収納魔法を持っていたアリサは、ダイヤ王国から提供された食料を強奪。もちろん派遣隊は、全て使い魔に食わせた。


 それから食料を丸々手に入れて、ハート皇国の民衆たちの前で配ったのだ。その結果、『聖教会』から聖女認定を得た。

 順調だったが、アリサの不満は尽きない。

 ゲーム内で使い魔は妖精だったのだが、アリサの前に現れることはなかった。その設定の改編バグが余計にアリサを苛立たせる。もっとも『茨に包まれていたダイヤ王国』は存在せず、『聖女が女王として君臨することによって、緑豊かで栄えたダイヤ王国が復活を遂げる』という設定そのものが、ここに来たときから狂っていたのだ。


(何でこの国は茨で包まれていないのよ! 本当あり得ないわ!)


 ゲームクリア後に、アリサが女王になることで茨の呪いが解除されダイヤ王国が復活。

 四季折々の花や果物が常に実っており、食材となる動物は勿論資源も裕福な国へと姿を変える――はずなのだが、すでにダイヤ王国は実り豊かで、女王は君臨しているが暴君ではない。

 前提条件が破綻しているため、アリサはどうにかしてシナリオクリアの条件である『ダイヤ王国女王とシン王子との婚約破棄』と『四か国同盟を白紙』の筋書きを用意した。

 しかしこの二つの条件をクリアしてもゲームクリアにならず、戦争へと発展。

 自分が手に入れるはずの国が劫火に包まれるのを見る度に、苛立ちが募る。廃墟の国などアリサは望んでいない。


 ダイヤ王国の贅沢な暮らしをそのまま強奪したいだけなのに、どうしてこう蹂躙するような戦争になったのかと頭が痛くなった。


(これだから頭に血が上った獣人族は……)


 盛大な溜息を吐きつつ、戦禍を眺める。


(だいたい何が駄目なの!? ハッピーエンドルートでヒロイン聖女がダイヤ王国の女王になるはずなのに、そんな伝承もないし、厄災だとか争いばかりが増えて、フェイもエルヴィンも祖国に戻っちゃうし……)


 なにかもゲームと違う。

 シナリオ通りであればダイヤ王国の玉座も、愛も全てはアリサのものになるはずだったのに、何一つ思う通りに行かない。アリサはこの世界に来てからずっとゲームのバグ、設定が狂っていると思い込んでいた。すでにダイヤ王国が滅びる光景も十二回目で、うんざりしていたのだが今回は今までと違った展開が起こった。


「!?」


 アリサの絶望を払うように、金色の光が突如空の上に広がっていく。次いで光のあった場所に無数の幾何学模様が浮かび上がった。今までにない展開にアリサは目を輝かせた。


「そうそう。私が待っていたのは、こういうのよ!」


 アリサは歓喜の声を上げた。

 しかしそれは彼女が求める展開ではない。十二回目の時間跳躍タイムリープでは操られ、騙された者たちは抗い、僅かに今までと異なる終わりを見せたからだ。

 傍から見れば些細な違い。

 けれど、その僅かな行動は十三回目の時間跳躍タイムリープを大きく覆す。


 十二回目の時間跳躍タイムリープに終止符が打たれ、十三回目の幕がいつも通りの時間軸まで戻り、そこから更に加速し──××年前まで巻き戻った。


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