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やり直し悪役女王は腹黒聖女が来る前に『婚約破棄』を目指します
あさぎかな
異世界恋愛恋愛ゲーム
2024年10月20日
公開日
22,063文字
連載中
「ダイヤ王国女王ソフィーリア・ラウンドルフ・フランシス。貴女との婚約およびダイヤ国とスペード夜王国との同盟を白紙に戻させてもらう」
婚約者であるシン・フェイ王子に裏切られ、ダイヤ王国ソフィーリアは悪役女王として国を滅ぼし殺される。13回目のタイムリープも彼女が即位する18歳から繰り返すと思ったら、まさかの8歳からのスタート!? 
フェイ王子との婚約破棄が運命の転機と気づきソフィーリアは「恋なんかしない」と決意。13回目は恋慕の情は捨て「ダイヤ王国の滅亡を回避する!」そう決めたはずなのに「ソフィ、私を選んで欲しい」なぜか猛烈なアタックをかける婚約者のフェイ王子。「この人、本当にシン様?」と困惑している間に、外堀も埋められて婚約してしまう。さらに学でフェイ王子と一緒に暮らすなんて今までなかった展開に発展。
ソフィーリアを悪役女王に仕立て上げた聖女の姿も不在?12回目までと全く異なる展開に、いつの間にか隣国の皇太子や王子たちに求婚されまくることに。


甘々溺愛×両片思い×逆ハーレム

第1話 終わりの始まり・前編


「ダイヤ王国女王ソフィーリア・ラウンドルフ・フランシス。貴女との婚約およびダイヤ国とスペード夜王国との同盟を白紙に戻させてもらう」

「――ッ(結局、……)」


 ダイヤ王国歴1505年12月。

 私にとっては通算十二回目の時間跳躍タイムリープした世界。

 ダイヤ王国の国境付近に建てられたアルギュロス宮殿は、四か国同盟会議を行う場所で十二回とも同じ光景、同じセリフが私に向けられる。

 婚約と同盟破棄を告げたのは、婚約者であるシン・フェイ様だった。


 スペード夜王国の第十王子、シン・フェイ。

 宵闇のような黒紫色の長い髪、前髪は額の中央で分かれており、アメジスト色の双眸が露わになっている。陶器のように白い肌は少し血色が悪そうだ。


 すらっとした背丈の青年は細身ではあるが、カンフクと呼ばれる絹で作られた民族衣装はダイヤ王国のデザインとは異なり、襟を交差させ袖口が広くて長い。黒の羽織には金と銀の刺繍が施されており、それらを着こなす彼は物語に出てきた異国の王子そのものだ。


(シン様に拒絶させられるこの局面は、何度味わっても……胸が痛いですわね)


 本来会議に出席できるはずのない聖女が同行している時点で、私の勝ち目はない。

 今回も彼女はシン・フェイの隣にいた。自然に彼の腕に密着して、華やいだ笑みを浮かべる。


「フェイ様、嬉しいです」

「……ああ、ずいぶんと待たせてしまってすまなかった」

「いいのです。分かってくれただけで私は……」

(私にはフェイ様と呼ぶことができなかったのに……)


 彼女は、この世界で一人しかいない聖女アリサ・ニノミヤ。ピンクの髪に愛らしい彼女は白の法衣を身に纏っている。私から見れば聖女とは到底思えない腹黒女だ。

 四か国同盟を崩壊させて、世界を渾沌に導く破滅の悪女。それに抗っても失敗に終わった。そして今回も。


「スペード夜王国と同様、ハート皇国も契約を破棄だ!」

「クローバー魔法国も同盟解消せざるを得ないですね。ごめんね、ソフィちゃん」

「みなさん、私の言葉に立ち上がってくれて嬉しいです」


 四か国のうち、三か国が一斉に同盟破棄を口にする。

 会議の部屋は白で統一されており、本来なら伝統ある建築物でとても美しい所なのだが、私にとっては、もはや「断罪の部屋」である。


(友人だと思っていた、幼馴染みだった……同じ国を担う者として良い関係を気付こうと足掻いたけれど、もうここから展開が覆ることは無い)


 聖女を取り囲むように私の前に立ち塞がるのは、三か国の代表者たちだ。時代を担う彼らの年齢は私と大差ない。けれど彼らの眼差しは侮蔑、殺意、敵意のみ。婚約者のシン・フェイ様ですら咎めるような視線を向ける。

 分かりやすい構図。

 聖女と悪女。


 この瞬間からダイヤ王国の平穏は瓦解し、滅亡まで止まらない。

 私の傍に

 泣きそうになるのを堪えてギュッと、ドレスを掴み耐える。


 スペード夜王国の婚約者も、クローバー魔法国の友人も、ハート皇国の幼馴染も私の傍にはいない。いつも途中で聖女の味方になる。

 彼女に全てを奪われるのだ。


(今回はちょっとずつ三人との関係も改善していたと思っていたのに……)

「何か申し開きはあるか? ソフィーリア」


 鋭く睨むシン様に、じくじくと胸が痛んだ。


(シン様……。凛々しく、表情が読めなかったこともあったけれど、甘いものが好きだと話していた時間も、一緒の思い出も……無駄だった)


 十二回目のこの世界はシン様の心がほんの少し動いて――それが嬉しくて、幸せだった。だから婚約者として交流があっただけに、この結末は絶望の何ものでもなかった。自分の心が完全に砕け散るような音がした。


 それでもダイヤ王国の。毅然とした態度で「承知しました」と短く答えて、会議室を去る。


(シン様……、愛しておりました。もし十三回目の世界があるなら、その思いごと捨ててしまったほうが良いのかもしれませんね)


 十二回目の世界で、ようやく私は愛しい人への思いに区切りをつけることにした。

 会議終了の鐘が鳴り響く。

 それは今まで絶望と終焉の音色に聞こえていたが、今回は私の決意を祝福しているように聞こえた――気がした。


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