「べぇつに、珍しいんなら珍しいって言えばいいじゃない。黙ってられるほうが気色悪い」
俺はふと眉をひそめた。綺麗な外見の割に、口が悪い。
「で? また俺をどっかにこのまま連れてくつもりかよ?」
「連れてく?」
ああ、と奴はその俺の答えを聞いて、気付いたように何度かうなづいた。
「お前も、護送されたんだ」
「そうだが」
「へえ。じゃ俺と同じじゃん。何やったんだよ?
形の良い、髪と同じ色の眉をぴん、と上げ、奴はいきなり俺にぽんぽんと問いかけた。
俺はその答えを遮るように、口を挟んだ。
「単に、敵さんに捕まっただけだ」
「敵さん、ね。ああお前、アルビシン同盟の奴なんだ」
「ああ」
今度は逆に、俺の方が答えるのが億劫になってしまう。
「じゃお前、こないだのコウトルシュ星域の都市ゲリラに加わった奴の一人なんだ。何だとろいの。捕まったのかよ」
「悪かったな」
俺はやや大人げないと思いつつ、言い返す。
歌姫は真っ赤な耐寒服のポケットに手を突っ込みながら、初めてにっ、と笑った。
「もしもお前が、コウトルシュはコウトルシュでも、オゲハーンの軍の奴だったら、殺してやろうと思ってた」
オゲハーン。それは俺の住んでいた星域の正規軍であり…… 敵方の軍の総司令官の名だった。俺はその名のついた軍と、丁々発止の戦争をこれまでやっていたのだ。そして一応俺達の軍勢は、オゲハーンの正規軍に対し、アルビシン同盟という名がついている。
敵軍からは「敵」ではなく「テロリスト」呼ばわりしている。まあそんなものかな、と俺は考えている。どう大義を振りかざしたところで、破壊行為だ。
だったらいっそのこと、レジスタンスとか同盟軍とかという自己正当化するような名よりは、そう呼ばれたほうが気楽というものだ。その腕が下手に良ければ良い程。
で、あいにく、俺はその腕は良かったのだ。その瞬間まで。
ただこいつの言う通り、どうもその時、俺は「とろかった」らしい。
捕まった時、俺は対戦しているコウトルシュ星域の、ある都市に戦闘機で攻撃をしかけていた。
普段なら、あっさりと爆撃目標に上手く攻撃をし、さっさと引き上げてきていたはずだ。とりあえず俺は、本意不本意はともかくとして、空戦隊の撃墜王の名はそれなりに背負っていた。そして彼女もそれを嬉しがったものだ。
ところがその時は違った。
いつもの目標のような、人が居ない、軍関係の無機物の建物ではなく、一般市民の住む都市だったのだ。判っているつもりだった。なのに俺はそれを見た瞬間、自分の中の何かが萎えてしまったのだ。
無論、死にたくはないから、その萎えた気持ちでも、とにかく目の前に飛んでいる敵、真横を通り過ぎる銃弾、そういったものに対しては、容赦なく攻撃を加えた。
だが、気持ちの下降線は、明らかに俺の判断能力や、一瞬の勘すら狂わせたらしい。
俺は落とされ、そのまま敵軍の捕虜になった。
まあさすがに「撃墜王」はなかなかそのままその場で殺すのは惜しいと思ったのだろう。とりあえずは本星へと護送されることになっていた。
そのまま洗脳され、戻され、使われるという可能性を俺は考えていた。そのくらいのことは敵軍はするのだ。無論俺達もやっていた。
ありふれたことだ。
それでも、この「銀の歌姫」からその類の言葉があっさりと流れると、動揺する自分が居たらしい。
「物騒だな」
「当然だろ。やっと自由になったと思ったのにいきなり何だと思った」
肩をすくめ、不遜な笑い。俺は苦笑する。
一体この細腕が、どうやって俺を殺すというのだ?