──コンコン。
──コンコンコン。
──ガンガンガンガン。
「うるさいわ!!」
「……ふえ? もう朝ですか?」
「ふぁ~、おはよぉ……」
「ゴブ~、ク〜……」
「う~ん、今開けるかなぁ」
朝もはよからの来訪者によるノック攻撃に全員が揃って起き出し、この家の主であるコロがドアを開けに行く。
「全く何時まで寝ているんだ!」
「ごめんなさいお父さん。昨日は寝るのが遅かったから」
「まぁ良い。小娘共も居るのか?」
「うん。泊まって貰ったよ」
「……そうか」
「ふぁ~、それで腹は決まったの?」
「ふん、あぁ、悔しいがお前の言う通りだからな。今から話そうと思う……」
そう言ったコロ父は、昨日話し終わった後に見た葛藤は抱えておらず、既に悩んで結論を出した顔をしていた。
それならば私達は邪魔になるだろうから出ていくか? と、気を利かせてみる。
するとコロ父は「いや良い。お前達も一緒に居てやってくれ」と、コロの方をチラリと見た後気遣わしげに言ったので私も「わかった」と、一言答える。
「えと、なんの話しかな?」
「なんでもないよ。それよりお腹が減ったからご飯にしよう」
「うん。じゃあボクが作るよ。アリシア手伝ってくれるかな?」
「はい。任せて下さい」
「よろしく、あんたも食べる?」
「大丈夫なのかコロナ?」
「うん、材料は沢山有るから平気。ちょっと待っててね。今作って来るかな」
「すまんな気を使わせて」
「別に……」
短い言葉を交わした後、暫くするとアリシアとコロが料理を持って来たので全員で食べ始める。
「旨いな……」
「ありがとう。お父さん」
「やはり、気は変わらんか?」
「うん……。ごめんねお父さん。でもやっぱりボクは認めて貰いたいかな」
「……ワシらは皆お前を認めている」
「そんな事無い、じゃあなんでボクだけ此処に居るのかな!」
父の言葉に、コロは心の内に溜まっていたものを吐き出すように声を上げる。
「それは───認めていない訳じゃない! その訳を、今話しに来たんだ……」
「訳?」
「あぁ、そうだ。コロナ……お前はワシの娘ではないんだ……」
あれ? なんかちょっと……。
「すまんな。今まで黙っていて悪かった……しかし……ワシはどうしてもそれが言えんかった……」
「あ、あの……お父さん?」
突然の父の言葉に戸惑うコロ。
しかし、それを横で見てる私は何故か嫌な汗が止まらない。
「慌てるなコロナ、ちゃんと話す。お前はワシの兄の子供でな。義姉はエルフで美しい女性だった。兄夫婦はこの村に住んでいたんだが、鉱山に採掘しに行ってそのままモンスターに襲われ亡くなってしまったんだ」
コロの動揺に気が付かず話続けるコロ父。
「それで、まだ赤子だったコロナをワシが預かったんだ。初めはワシも鍛冶しか知らん身だ。お前にも皆と同じように鍛冶を教えていたが……、お前が初めて作ったあの剣は、調べた結果魔剣クラスでな」
私が嫌な汗を流すのと同様に、何故かコロも汗を流してるように見える。き、気の所為だろう……。
「ソコからお前に出生がばれると思い、あの剣を駄作としてお前をこんな所に遠ざけ、鍛冶師になるのも反対した。それがこんな結果となって本当に済まんかった。これも全てワシが弱かったせいだ!」
コロ父は殆ど独白のように語って、コロは一言も発せずにいた。
しかし、やはり私にはどうにも戸惑いと困惑はあれど、自分の出生を聞いて戸惑っているようには見えなかった。
え~と、コロナさん? 何かなその全身から出てる冷や汗みたいな物は? まさかだよね? 私もちょっと考えたけどさ!? 本当まさかだよね!? ここまでやってそんな事は無いと信じてるよ!!
「……あ、あのさ、少し……良い?」
「なんだ! まだ話しは終わってないんだぞ!」
「いや、え~と、コロさん? もしかして……もしかして、だよ? 最初から自分が本当の子供じゃないなんて知らなかったよね? ね?」
私が恐る恐るコロナさんに尋ねると何故かコロナさんが身体をビビクッと、震わせて顔を逸らした。その横顔には冷や汗がタラりと一雫キラリと光る。
おおい! まじかよ! その反応マジですかコロナさぁん!?
「そ、そう、なのか、コロナ?」
私の言葉はコロ父にとってまさかの言葉だった。しかしコロの反応から恐る恐ると言うようにコロに尋ねると、またもビクッと身体を震わせ──。
「えっ、え~と……、その話ボクちゃんと知ってた……よ?」
「い、いつからだ……?」
コロ父にとって衝撃の告白をしたコロは、全身から冷や汗を流しながら話し始める。
「ボクがお兄ちゃん達と違うのは分かってたし、他のドワーフ同士の両親の友達ともボクが違うから……その、割と最初から?」
とても申し訳なさそうに告白するコロ。
「それに……兄弟でボクだけ魔法使えるし、背だって高いし、耳も少し長いから本当の両親はエルフとドワーフなのかな~? とも……」
「……そ、そう、だったのか?」
まぁ、そこまで分かれば、ばれるわな! むしろ雑過ぎるだろ! そこはケアしといてやれよ!?
「それよりもボクはこんな所に遠ざけられたのは、本当の子供でもないし武器を作るのが下手だからなんだと──」
「ち、違うぞ! むしろワシはお前の才能はワシ以上だとも思っとる」
「えぇ~、そうだったのかな?」
まぁなんだ、一応一件落着だな。
でもまあ、とりあえず。
「最初からもっとちゃんと話せや! この勘違い親子が!」
「ご、ごめんなさいかな!」
「す、済まんかった!」
こうして真面目な会話になると思っていた親子対談は、グダグダで終わった。
下らんわ~。最初から問題なんて一つもねぇじゃん!
▼▼▼▼▼▼▼▼
「──それでどうすんの?」
あれから暫く親子対談を続けさせ、お互いの考えをあらかた話し合わせた後、私は質問した。
「どうって、どういう意味ですかご主人様?」
「いやだって、コロの依頼の原因自体が誤解なら、依頼自体する意味無いじゃん」
「あぁ確かに」
「えと、それなんだけど依頼はこのまま継続で良いかな?」
「私は構わないけど……良いの?」
「うん、誤解は解けたけどやっぱりボクは武器作りをしたいからね。最後に作ったのは一年位前で、お父さんからも許可貰ったし、すぐにでも作りたいかな」
「ワシからも頼む」
「まあ、昨日から言ってるけど、最初から依頼は受けるつもりだったからね」
「そうか。ならこれを持っていけ」
そう言うとコロ父は全員分のピアスを渡してくる。
何これ?
「それは石化を防止するアクセサリだ」
「石化を?」
「あぁ、鉱山内には石化を使ってくるバジリスクと言うモンスターがいるからな。それを持っていけば対策になる」
う~ん、でも私【状態異常無効極】あるから必要無くない?
〈そうですね〉
「私はスキルで状態異常効かないから要らないや」
「「なっ!?」」
あれ? コロとコロ父が驚いてる。何故に?
「二人が驚くのも無理はありませんが本当です」
「まぁ、気持ちは分かるよ」
あれ? 私の仲間が向こうに賛同してるよ!?
「ふむ、何者なんだ嬢ちゃん達?」
「ただの冒険者」
「おねちゃんは転生者」
珍しくアクアが言った!
「なるほどそういう事か、転生者なら不思議ではないな」
この世界の転生者の認識とは如何に?
〈聞きたいですか?〉
なんか聞きたくないから良いや。
〈賢明です〉
「ならお前もチートスキルとかいうものを持ってるのか?」
「なんで?」
「転生者や召喚された奴なら大概持ってんだろ?」
さて、どうするかな信用しても良さそうだけど【喰吸】まで教えるのは危ないな。ここは犠牲になって貰おう!
「私、此処に来る時女神と言い争いして、転生先モンスターにされたから」
「んな! そんな事あるのか?」
「うん……。あれ、実は性格悪いから……」
はい。必殺、被害者のフリです!
『女神様:ちょっと!? なに勝手に人の悪評流してるんですか!? 自分のスキル知られたくないからって、人の事巻き込まないで下さい!』
感謝してあげよう女神様(笑)。お前の犠牲は忘れるまで忘れない。
『女神様:こんな時だけ感謝とか!? 何処まで上から目線で言ってるんですか!? しかもまた(笑)とか入れてて感謝が感じられない!!』
「ハクアは苦労してたんだね。ボクも出来るだけ協力するかな」
「ありがと」
『女神様:ひ、人を貶めておいてぬけぬけと!? 最低、最低ですよあの女!?』
うるさいですよ~。女神様。
そもそも人の事、四六時中見てるストーカーに言われたくないし。
「まぁ、種族がどうあれ中身が人間なら問題ねぇな」
「私は私の好きなようにやるだけだしね」
「なんで上手く纏まりそうだったのにそんな事言うのハクアは!?」
いやぁ、だってそれが私だし。
「あはは、ハクアらしいかな! それじゃあ改めてよろしくかな、皆」
「「「よろしくコロ」」」
こうして改めてお互いの事を話した私達は、鉱山に出発したのだった。
『女神様:これ、私だけが損してませんか!?』