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第7話 この状況って〈三角関係の修羅場?〉

 あれからさらに5日経ち、その間も私は狩りの合間にゴブリンの巣脱走計画を進めていた。


 〈大分進められましたけどまだ心許ないですね〉


 確かにここ数日で状況はかなり整った。


 けど、相手の方が多くて強いから、幾らあっても足らないんだよな~。


 私は先日捕まえた大物の猪の骨で作った刺突武器を掌の上で回しながら考えていた。


「ギギ~!」


 嬉しそうに声をあげながらゴブゑが抱き付いてくる。今ではすっかりこの状態がデフォルトになっている。


 〈ようやく慣れたようですね〉


 まあ、これだけ一緒にいれば慣れてくるよ。


 そう言いながら私はゴブゑの頭を撫でる。と、そこでゴブゑを見て思い付いた事を聞いてみる。


 二人共進化の為にレベル上げなきゃいけないけど、もし私が敵を倒したら私しか経験値貰えないの?


 〈いえ、正確にはゴブゑはマスターの眷属扱いなので、マスターの近くにいれば経験値は同じだけ入ります。まあ、あまりに離れていると効果はありませんが〉


 じゃあ、わざわざ私とゴブゑが譲り合うことは無くて良いんだ?


 〈大丈夫です〉


 うん、それは良かった。じゃあ、今日もそろそろ帰ろうかな?


 そして私達は帰路に就き巣に帰ると何やらゴブリン達が騒いでいた。


 何かあったのか?


 〈偵察していたゴブリンが何か見つけたそうです〉


 何かって、何?


 〈分かりませんね。この辺は人里も遠いので余り人は来ない筈ですが。少し珍しい花なども在るので薬草を探しに来ている可能性もあります〉


 なるほどその可能性もあるのか、でもなんにしてももし新しく女の人を連れてきたら……。


 〈ゴブリンの成長は早いのでさらに戦力が増え、脱出は難しいでしょう〉


 予定より早いけどその計画に合わせて私達も逃げよう。


 私達は騒がしくなって来た巣の様子を確認するとこれからの大まかな方針を決めてその日は休んだ。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 翌日も私達は普段通りに狩りに出た。


 まだ完璧に準備が整った訳ではないし、騒ぎが起こって直ぐのタイミングで逃げ出しても、下手をしたら全員で追撃してくるかも知れないからだ。


 状況を見て判断しないと。


 〈流石に遠くて巣の様子は分かりませんね〉


 まあ、そうだろうね。取り敢えず休憩しよ。


 そろそろ帰る時間だが私は機嫌よくゴブゑと休憩した。


 〈まさか、また猪が掛かってそれのお蔭でレベルアップするとは思いませんでした〉


 そう、ヘルさんのいう通り私達は今日またレベルが上がったのだ。


 〈ステータスを表示します〉


  名前:白亜改めゴブ子

 レベル:3→4

  性別:女

  年齢:15日

  種族:ミニゴブリン

  HP:90→100

  MP:45→60

  物攻:6→8+5

  物防:6→8

  魔攻:8→10

  魔防:8→10

  敏捷:13→15

  知恵:110→120

  器用:65→80

  運 :20→25

  武器:骨のナイフ

  魔法:無し

  称号:転生者

 スキル:【喰吸LV.2】【鑑定士LV.2】

【魔法の片鱗LV.1→LV.2】

【魔法のコツLV.1→LV.2】

【魔物調教LV.3→LV.4】【集中LV.1(新)】

【野生LV.2→LV.3】【罠師LV.3→LV.4】

【マヒ耐性LV.3→LV.4】【毒耐性LV.2】

【言語LV.2→LV.3】【武器のコツLV.1(新)】

【風魔法のコツLV.1(新)】


 スキルが結構増えてきたな~。

 罠仕掛けまくったり、デバフ効果のある物食べてたかいがあったね! 新しく覚えたのは【集中】と【武器のコツ】かぁ。


 〈そうですね。耐性が上がり少しマヒ効果の強い物に変えたから余計でしょうね〉


 新しく増えた【集中】は集中力が上がり、レベルが上がればより深く集中出来るようになる。


【武器のコツ】はレベルが上がれば攻撃威力、命中率が上がり、武器の性能を全て引き出せるようになるらしい。


 因みに【弓のコツ】は【武器のコツ】に統合された。


 【集中】効果が分かり難いスキルではあるけど持ってるに越したことは無いよね?


 【武器のコツ】は嬉しいスキルだな。この骨のナイフも骨が頑丈で尖ってたから、持ちやすくして、刺し攻撃専用武器として使ってたけど、獲物仕留めるのが格段に楽になったからね。


 武器を持つと、ステータスに+で武器の威力が載るのが分かったのも大きな収穫だったし、ヘルさんもスキル増えたんだよね?


 〈はい。私は【俯瞰LV.1→LV.2】になり、マスターから半径100メートル程離れた位置まで見渡せるようになりました〉


更に【聞き耳LV.1】スキルが増え、聞き取りづらい声も聴こえるようになったらしい。


 今回のヘルさんの能力アップはかなり凄い。


 これで、諜報活動が大分やり易くなったからね。流石はヘルさん、次はゴブゑだね。


  名前:ゴブゑ

 レベル:3→4

  性別:女

  年齢:16日

  種族:ミニゴブリン

  HP:70→80

  MP:100→110

  物攻:3→4+2

  物防:2→3

  魔攻:15→20

  魔防:15→20

  敏捷:8→10

  知恵:60→70

  器用:40→50

  運 :15→15

  武器:木の棒

  魔法:風魔法LV.1→LV.2

  称号:眷属

 スキル:【風魔法LV.1】【言語理解LV.1→LV.2】

【野生LV.1(新)】【罠師LV.1(新)】


 私……レベル4でようやく普通のゴブリン並みなのに……。


 〈魔法が使えるようになったら良い戦力になりそうですね。マスターのお蔭で順調にスキルも増えているようですし〉


 そう、今回のレベルアップでゴブゑにも【野生】と【罠師】が増えていた。


 因みにゴブゑが装備している木の棒は、その辺に落ちていた太めの棒なので攻撃力があることにびっくり!


 〈マスター……〉


 いやだって、そんなんでも素手よりましだから渡しただけだし、そんな言い訳をヘルさんにしながら休憩を終え巣へと帰っていく私達。


 〈騒がしいですね。何かあったみたいです〉


 昨日よりも騒がしいゴブリン達を見てヘルさんがそう言った。


 ごめん状況分かる?


 〈どうやら偵察に出ていたゴブリンがエルフの女を捕まえたそうです〉


 それって!?


 〈昨日の騒ぎはこの事だったようですね。奴隷商の馬車を襲い、商品の中で唯一の雌だった彼女を連れ帰ったようです。他の人間は皆雄だったようで、今はあそこに居る三匹以外で遊んで居るようです〉


 遊んでいる──か。この世界のゴブリンは本当に最悪だね。でも、この状況を利用しようとしてる私も最低だ。


 〈どうしますか?〉


 取り敢えず一旦帰るよ。あの三匹には私達の事見えてる。このまま逃げても追い付かれるだけだ。


 〈分かりました。いつでも動けるように周辺の状況は探っておきます〉


 お願い、ゴブゑも大変だろうけど手伝ってね?


 〈ギギ~!〉


 全員で状況を共有して、何が起こってもすぐに対処出来るよう心構えをして巣へと近づいていく私達。


「いやぁ!! 助けて!! 姉さん!! やだぁっ!! 誰か助けてぇ!! きゃあ」


 巣へと近づく私達の耳にエルフの悲鳴が響く。


「ひぐ! ウゥー!! ひっ!?」


 帰ってきた私達を見てさらに絶望的な声を上げるエルフ。


 ここからじゃよく見えない、そんな私達に一匹のゴブリンが近づき早く寝床に行くように命令する。そして、私の耳に悲鳴を残し、エルフは残りのニ匹に巣穴の奥へと引き摺られて行った。


「いやぁぁぁ~!! 誰かぁぁ~!?」


  私は寝床に急いで帰りヘルさんに確認を急いでとる。


 周りはどう?


 〈今のところ本隊が帰ってくる気配はありません。最低でも三十分の余裕はあるでしょう〉


 なら、今がチャンスだね!


 私は脱出計画を実行に移す。


 本来なら私が門番を黙らせてから敵が来た事を知らせ、反対側に誘導した後、逆に逃げ時間を稼ぐつもりだったが。


 今回門番は居ないので、ゴブゑにこの役を頼み先に逃げてもらう、合流場所はいつもの休憩場所だ。


「ギギ~、ギ~~」


 不安そうな鳴き声で私の手を引いてくるゴブゑの頭を撫でてあげる。そして、精一杯の気持ちを込めて大丈夫だと伝える。


 それがちゃんと伝わったのか、ゴブゑは何度も振り返りながらも出口の方へ向かってくれた。


 〈あの子なら上手くやって合流場所に逃げてくれます〉


 ヘルさんの言葉に私も気持ちを切り替える!


 〈やはり、あのエルフを助けるのですか?〉


 確かにこのまま逃げれば気付かれずに済むかも知れない。


 けど、それも絶対じゃないし少しでも戦力を整えた方がいい。と、本音か建前か自分でも分からない事を考える。


「ギ~、ギギギ~!?」


 ゴブゑの声が聞こえて奥の方からゴブリンが走ってくる。


 数はニ匹、正直一人で三匹相手に出来る気はしなかったので有難い。


 〈エルフはこの通路を左に行った突き当たりです〉


「キャーー!?」


 奥に着くとゴブリンとエルフがいた。


 まだ、エルフは何もされていないようだが、この場所は今までも何人もの人が連れ込まれたのか壁が赤黒く染まっていて、エルフは頭を抱え震えていた。


 あのゴブリンのステータス分かる?


 〈いま出します〉


 ▶【鑑定士】スキル失敗

 レベル:3

  HP:150

  MP:0


 失敗!? やっぱり失敗とかあるんだ。


 〈スキルのレベルが低いようです。HPだけ頭上に表示します〉


 ヘルさんはそう言ってゴブリンの体力を数字で表示してくれる。


 ゴブリン

 HP:150/150

 MP:0/0


 〈ここからどうしますか?〉


 どうしようか考えようとした時、ゴブリンがエルフにのし掛かろうとする。


 エルフは腰を抜かし、洋服の前を破かれ、必死に引き裂かれた服の布とスカートで胸元と下着を隠しながら壁際へと逃げている。


 そんな努力がなんとかなるわけでもなく、ついにエルフはゴブリンに捕まってしまう。


「ひっ!? いやぁ!! 誰かぁ!?」


 必死に叫ぶエルフ、私はそれを聞きながらナイフを構えゴブリンの背後にゆっくりと回り込む。しかし──。


「ヒィ! ふ、増え!!」


 うわっ、ばか!? 


 エルフからしたらもう一匹増えたようなものだから仕方無いとはいえ、私は心の中で悪態を吐きながら振り向こうとするゴブリンの背中に、心臓目掛けてナイフを突き刺す。


「ギ~!?」


 ゴブリンはなんとか心臓への攻撃は避けたものの、深い傷を負った。私はそれを確認するとバックステップで距離を取る。


 ゴブリン

 HP:150/150→75/150

 MP:0/0


 動物狩りをして分かった事だけど、このHPのある世界でも心臓や、脳が破壊されると、どんなに力の差があってもHPが全損するようだ。


相手のHPの減り方からして、私の攻撃力だと恐らく心臓を擦ったのだろうと推測する。


「な……なんで……」


 エルフは状況に付いてこられないようだ。


 でも、今構ってる暇無いから黙ってて!


 相手のゴブリンは傷の痛みと驚きで慌てている。


 そんな隙を見逃す筈もなく、私は腰だめにナイフを構え正面から突っ込む振りをして拾った石を投げつけると、運良くゴブリンの目に当たり、ゴブリンは武器を落とす。


 チャンス!! 


 私は再び背後に回り込み、両手で掲げたナイフを心臓目掛けて降り下ろす。


「ギギャ~!?」


 その悲鳴を最後にゴブリンは事切れた。


 ▶ゴブ子のレベルが5になりました。

 HPが120に上がりました。

 MPが50に上がりました。

 物攻が11に上がりました。

 物防が11に上がりました。

 魔攻が13に上がりました。

 魔防が13に上がりました。

 敏捷が20に上がりました。

 知恵が130に上がりました。

 器用が85に上がりました。

【集中LV.1→LV.2】になりました。

【武器のコツLV.1→LV.2】になりました。

 スキルポイントを10獲得しました。


 ▶称号【同族殺し】獲得しました。

【同族殺し】の称号によりスキル【背後攻撃LV.1】習得しました。


 ▶使い魔ヘルの【聞き耳LV.1→LV.2】になりました


 おぉ、いきなりレベル上がった。あれ、私レベルだとまだゴブリンって格上だから経験値効率良い?


 〈そのようですね〉


「ひう! な……何が……どう……なって」


 エルフの怯えた声に、そういえば居たな。と、思い出し。ふと気が付く。


 怯える女(エルフ)私に背を向けて倒れる男(ゴブリン)ナイフを手に屍体を見つめる女(私)


 うん、なんの説明も無しに状況を活字にするとこの状況って。


 〈三角関係の修羅場の現場?〉


 ですよね~!! でも、私はヤンデレ路線じゃないよ! まあそんな事より。


「ひっ! たっ……助けて……」


 あ~、そうだよね? 喋らないといけないんだよね。うぅ、メンドクサイなんで人間同士って会話しないといけないの? 私ゴブリンだけど!! ゴブリンみたくギッとかギ~で良いじゃん。


 〈早くしてください〉


 しょうがない。ここは腹を括って喋るか、唸れ私の言語能力!!


「お、お願いします……。な……なんでもするから殺さないでっ!!」


 人が必死に喋ろうとしているのに捲し立てるエルフに苛ついて。


「ダ……マ、レ」


 この世界最初の知性ある会話は脅迫めいた言葉から始まった。


 しっかり仕事しろ言語能力!

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