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第10話:まるみちゃんのインタビュー

「改めまして、うちはまるみちゃんこと、丸美庸子まるみようこっス」


『まるみ』って苗字かーい! 私は、心の中で盛大にツッコんだ。女性を下の名前で呼ぶなんて、とドギマギした私のドギマギを返してほしい。


「ラーメン●●の店長やってます、黒岩と言います」

「黒岩……なにさんスか?」


 早速、嫌な質問が来た。答えたくないけど、こう聞かれたら答えないのは変だろう。


「下の名前は『 一平』です。黒岩一平」

「 一平ちゃん! ラーメン屋さんなのに『一平ちゃん』!」


 そう言われんと思ったから言いたくなかったんです。インタビューは店がオープンする前の店舗内で行われました。だから、まるみちゃんも私もゆっくりした気持ちで臨んでいます。


「店長さんは、どうしてこの中洲でラーメン屋をしようと思ったんスか?」

「えっと、何から話せばいいのか……。色々あったんです」

「今日はゆっくり時間があるから、ゆっくり話聞けるっスよ」


 まるみちゃんは優しい笑顔を浮かべた。こういうのも相手を信用させる要素の一つなんでしょう。色々すごく上手です。


 しばらく雑談をしてたけど、私もまるみちゃんの話術にはまってたんだと思います。私はいつの間にか自分のことを話し始めていました。


「うちは父がすごく厳しい家だったんですが、小学校の時に両親が離婚したんです。なんかちょっと良い家にいたんですけど、ある日、母が引っ越すってことで、私は母に連れられてアパートに行ったんです。でも、父はついてこなかったんです。あの時の私にはそれが『離婚』ってことがわからなかった。大きくなった今だったら分かるけど、当時はなんか母も言いにくいんだな、と子供ながらに空気を読んで聞くこともできなかったんです」


 そう、離婚ってちゃんと分かったのは、もっと後になってからだった。


「母は私を育てるためにパートを掛け持ちして一生懸命働いてくれました。でも、私は……、私は小学校、中学校、高校と学校には行ってたけど、家に帰ったら一歩も家から出なかったし、家の手伝いもほとんどしませんでした。まぁ、 ダメな子だと思います」


 思い出しただけで気が滅入ってきた。


「高校3年になった時に、母が倒れて入院しました。私は『大変だなぁ。早く治ったらいいなぁ』くらいにしか思わなくて。気づけば、癌だったらしくて、それが分かってからは早かったです。3ヶ月後にはもう母はお骨になってました」


 ここで、私の中でこみ上げてくるものがあり、少し言葉に詰まってしまった。まるみちゃんは、急かしたりせず、あのあたたかい笑顔で待ってくれていた。


「母は、私が……大学に行くためにお金を貯めてくれていたみたいで、少しですが財産が残ってました。でも、それはそんなに莫大な金額とかじゃなくて、大学に行くための費用って感じで。でもまだ2年分ぐらいってとこだったでしょうか……」


 再び声に詰まってしまった。こんな話、誰にもしたことなかったのに! 話す相手なんていなかったのに!


「なんか……。母の人生って何だったんだろう、そう思ったら悲しくなったし……。自分のことも なんだかどうでもよくなって、そこから引きこもり生活が始まりました」

「引きこもっちゃったんスか?」

「はい、もう学校も行かなかったし。だから、大学は中退です。そんで1年ぐらい経った時、お金がどんどんなくなって」

「あらー、ヤバいっスね」

「それまでも、唯一 家を出てたのってラーメンを食べに行ってた時だけなんですよ」

「家は出てはいたんスね」

「はい、ラーメンの食べ歩きが好きでした。近所のラーメン屋はもう全部行ってしまったんで、段々遠くのラーメン屋に行くようになって……」


 考えてみたら、母はラーメンを食べるお小遣いは渋らなかったなぁ。私が唯一外に出る時だったからかもしれない。


「隣の県とかまで行ったりしてました。だから、ラーメン店 に行った数って言えば1000件は超えてると思います」

「すごいスね! さすがにラーメン1000件食べに行った人ってそうそういないっスよ! 相当なラーメン好きじゃないっスか!」

「そうなるんですかねぇ」


 こんな調子で、自分の過去をまるみちゃんに話していきました。これがその後、ネットで流されるとかはすっかり忘れて。

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