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第71話 新たな能力が開花してしまったのでしょうか

「ええ、えええええーーー?」

「ア、アーシヤ様……? なぜ、ここに……?」 

「ジェシカ……、ライガ……? いったい、ここは……」


 私とライガは、目の前に突如現れたアーシヤを食い入るように見つめた。

 アーシヤも、茫然として、見つめ返してくる。


ーー……いやいや、え? 本当に? アーシヤなの?! もしかして、私また新たな能力を開花させちゃった? いやあ、人間を遠い土地から瞬間移動で呼び寄せるとか、マジで魔法使いというかチート能力が過ぎるというか、やばくない? どうやって、誤魔化すべき? しかも、上半身ハダカだし。まあ、そこは兄妹だしいいんだけど。


 私が焦りながら一人脳内会議をしていると、アーシヤは目を閉じ大きく深呼吸をしてから、にっこりと笑顔をみせた。


「とにかく、久しぶりだね、ジェシカ。元気だったかい?」


 そう言って、彼は私をハグして額にキスを落とした。

 彼の落ち着いた態度ににホッとしながら、私もアーシヤの背中をギュッと抱きしめた。


「お久しぶりです、アーシヤお兄様。ご無事のご帰還、心から嬉しく思います」

「本当に驚いたよ。私は浴槽で汗を流して着替えていた最中だったのだ。……会えて嬉しいが、なぜ私はナルニエントにいるのだろうか、という話は後にしよう。ライガ、私の衣服を用意してもらえるかな?」

「……かしこまりました。すぐにご用意致します」


 ライガが部屋を出ていき、お兄様と二人になった。

 何から話すべきか迷ったが、とりあえずこう口にした。


「お兄様、どうぞ、こちらの椅子におかけください。お手紙では伺っておりましたが、最近のご体調はいかがですか?」

「ありがとう。とてもいいよ。君からの報告書を読んで、ここに帰ってくるのをとても楽しみにしていたんだ」

「それなら良かったです。ナルニエント公国も、今のところ、順調です……」


 そう言いながら、ついため息をついてしまった。

 だってさっきまでは、本当に全てが順調だったのだ。


「順調そうにはみえないな。何かあったのかい?」


 私は兄を見つめた。以前より、体も顔つきも逞しくなったようだ。髪も短髪で、以前よりキリッとした感じがする。


(よし、ここはひとつ、お兄ちゃんに甘えてみるか)


「アーシヤお兄様。とりあえず、今私に一番必要な事をお願いしてもよろしいですか? 私の今後の人生を揺るがす一大事で緊急を要します」

「そ、それは、大変だな。私に出来ることであれば、勿論協力するよ」

「わかりました。では、お兄様を信じて言いますよ。驚かないで下さいね」

「わかったよ。何かな?」

「実は、私とライガは2年前に極秘に結婚しました」

「……え?」

「諸事情により、もしかしたら私に結婚するよう王命が下るかもしれません。今日中に、お兄様に公爵代理の役目をお返しします。ですので、お兄様とお父様に、私とライガの結婚を正式に認めて頂きたいのです。その後、私はナルニエント公爵家から抜けて、平民となります。そうすれば、危機を回避できるので……。お兄様、聞いてらっしゃいますか?」


 あ然としているアーシヤの肩に触れる。

 と、彼は両手で顔を覆い、震える声で言った。


「ジェ、ジェシカ。……すまない、よく意味が理解できないのだが、もう一度言ってもらえるかな? 誰が誰と結婚したと……」

「ですから、私とライガです。2年前から、私達は夫婦なのです」

「ライガ、ライガ……。ライガは君の専任剣士のライガの事か? 平民の? 北の一族の? いや、まさか、そんな事が……」

「その、まさかです。でもね、お兄様、私はライガを愛しています。彼と結婚して、とても幸せなの。彼以外の人間は絶対にイヤ。無理なの、受け付けないの、ライガじゃなきゃだめなの」

「ちょ、ちょっと、待ってくれ。気がつけば、私はなぜか急に故国ここにいて、その事でも動揺しているのだが。いや、しかも公爵令嬢である妹が両親に内緒で勝手に結婚しているなどと……。そんな事はあり得ない。しかも相手は使用人の、爵位もない平民で、しかも北の一族……。ダメだ……私の許容範囲を超えている……」


 そう言って、アーシヤは気を失った。


(もう、中身は全然逞しくなってないじゃないのよ~! でも、これが普通の貴族の反応なんだろうな。ああもう、お父様とお母様にも説明するの、気が重くなってきた。……でも、イヤな報告こそ、早めにしておかないとね。仕事でも、言いにくい事や苦手な人への連絡から先にしろって言うもの。まあ、たいていの場合において、その法則は有効だったし。よし、今日中に勝負を決めてやるわ!)


 私は部屋に戻ってきたライガに手伝ってもらい、とりあえず椅子で気絶しているアーシヤに服を着せた。

 そして、彼を叩き起こし、両親の元へと連れていった。


 想定外のアーシヤとの再会に、2人は大喜びし、そして私とライガの結婚の告白を聞いて、お父様は案の定気を失った。


 だが、意外な事にお母様は淡々とこうおっしゃった。


「あなたがライガを好いている事には気づいてました。でも、まさか結婚していたとは。ライガは本当にポーカーフェイスが得意なのね。神鳥のお告げをきいた時から、あなたが普通の令嬢の人生を歩むとは思えなかったわ。だいたい、国王の御前で試合をして、男性騎士達に勝つなんて、まあ痛快だこと……。ではなくて、そのような型破りな令嬢に普通の貴族婚など我慢できる訳がないでしょう? そういえば、フランツ王子の求婚も断っていたわね。……そんなあなたを花嫁に迎えようと考える家門は、現在のヨーロピアン国内には皆無よ、皆無」

「は、母上……」

「お母様……」


 案外骨太な母の物言いに、私もアーシヤも押され気味だ。

 そして、母はニッコリと笑いながら、こう言ってくれた。


「ジェシカが幸せなら、私は反対はしないわ。全て覚悟の上でしょうから。とにかく、結婚おめでとう。ライガ、これからもジェシカをよろしくね。この方が目を覚ましたら、今後の計画をきっちり立てましょう」


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