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第61話 結婚の誓い

「チカ、今ここで、結婚しないか?」

「今、ここで結婚...って? 」


 ライガの言う意味がわからず、顔を上げて彼の顔を見る。

 彼が言いにそうに言葉を続ける。


「チカが俺と結婚したいと思ってくれてるのは嬉しい。だけど、公爵様や国王様が認めてくれるとは思えない。フランツ様だって、いつまた気がかわり、チカを妻として迎えると言い出すかわからない。いくらチカが俺を好きだと言ってくれていても、権力者からすれば俺みたいな北の民との話など潰すのは簡単だ」

「それは……確かに、そうね……」

「だけど、俺はチカを他の誰にも渡したくない…。この場で、二人だけで結婚してしまえば」

「つまり、ライガはこの場で既成事実をつくりたいのね。私がライガと結ばれ、清らかな乙女でなくなれば、フランツ王子や他の貴族との結婚は事実上不可能になるから」

「すまない。狡い方法だな。でも、俺はもうチカを手放すなんて出来ない。チカは手の届かない身分のお嬢様だと自分に言い聞かせ、ずっと気持ちを抑えてきた。互いの気持ちがわかったのに、今更チカを失うのは耐えられないんだ」


 彼の表情から、自分の言葉を恥じているのがわかる。

 貴族の結婚には、約1年間の婚約期間が必要だ。婚約期間中に家族や親戚への根回し、夜会でのお披露目を経て双方のコミュニティの人間と親交を深め、皆に認められてから結婚式を行うというのが一般的な流れだ。

 結婚届を役所に出したらOK、という簡単なものではない。


(だけどまあ、たしかにライガの心配もわかる。私はよくも悪くも目立ってしまったもんね。国王が私を使い勝手のいい駒として、他国の王族と結婚させようとする可能性は高くなってしまった。王命だと私も断ることは出来ないし。ライガの言う通り既成事実をつくってしまうのが、一番の安全策かも……)


「ライガ、もうひとつ聞いておきたいんだけど、一族を抜ける事に後悔はないの?」

「一族を抜ける事は前から考えていた。俺達にとってリーザーの掟は絶対だ。掟は、何よりも優先しなくてはならないものだが、俺は既に掟よりチカを大切に思っている。抜ける事に抵抗は全くない」


 ライガの揺るがない真っ直ぐな瞳と言葉に、私の心も決まりつつある。


「ねえ、ちなみに一族では、結婚の儀式はどんな風に行うの?」

「そうだな。リーザーでは、互いの家族と族長に報告をした後に、結婚披露の祭を近くに住む一族をあげて行う。子供も大人も、皆で食べたり飲んだりしながら、天と地に感謝の舞を夜通し捧げる」

「へえー、楽しそうなお祭りね。天と地には、何て言うの?」

「天の神、地の神へ。我らが出会えた導きに感謝する。我らは今日、家族となる。この命ある限り、共にに生きることをここに誓う」

「すてきな誓いの言葉ね」


 彼も私を愛してくれている。二人が一緒にいる為に、一番確かな方法がこの場で既成事実をつくる事ならば、何を迷うというのか。

 貴族のルールやマナーや、プロポーズはもっとロマンチックにしてほしかったとか、初夜は美味しいお酒を飲みながら蜜蝋キャンドルを飾ってムーディーな感じで迎えたかったとか、そんなの関係ない。

 大事なのは、お互いを愛している私達の気持ちだ。シュチエーションではない。


 私は、覚悟を決めた。


「ライガ、私は誓うわ。天の神、地の神へ。我らが出会えた導きに感謝する。今日、私達は家族になる。それから……」

「……この命ある限り、共に生きることをここに誓う」

「この命ある限り、ライガと共に生きることをここに誓う」

「チカ……」

「ね、ライガも誓って」


 ライガの頬に手を伸ばし、そう促すと、彼は満面の笑みをみせた。


「天の神、地の神へ。我らが出会えた導きに感謝する。我らは今日、家族となる。この命ある限り、チカと共にに生きることをここに誓う。チカ、愛している」


 そう言って、ライガは私の体を引き寄せ、口づけた。

 優しく、羽に撫でられるようなキス。それから、だんだんと彼の体温が伝わるような力強いものへとかわっていき……。


「チカ、本当にいいのか? 本当にこの場で俺と結婚しても……」

「ライガ。私もライガを愛しているわ。ずっと、あなたと一生一緒にいたい。結婚しましょう」

「……ありがとう、チカ。俺のわがままを受け入れてくれて。……一生、側にいる。俺の命を、チカに捧げると誓う」


 ライガの熱い手と体に包まれて、愛していると何度も何度も囁かれながら。


 私とライガは、二人きりで結婚を誓った。


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