チカの人生でもしたことのない真っ向勝負の告白をした私は、つい恥ずかしさのあまり目をつぶってしまった。
(ウワァー……。言っちゃったわよ。それも皆の前で! あーもー、今すぐこの場から逃げ出したい……!!)
こちらが恥ずかしさのあまり身悶えてるというのに、ライガは何も言わない。聞こえてくるのは、店の外からの喧騒だけ。店内はあまりにも静かだ。
静寂を破ったのは、ロンだった。
「えーーー! 何だよ、マジかよ? 公爵令嬢かリーザー族のメンバーに求婚って……。いやいや、あり得なくない? それに、ライガ! 何でお前、チカの考えが読めてないんだよ。まさか、お前チカに誓いを与えたのか?!」
……ロン。今聞きたいのはあんたの声じゃないのよ、でも誓いってなんだろうと思いながら、勇気をだして目を開く。
ライガはさっきと同じ表情で私を見ていた。まるで、私の告白が聞こえていないみたいに。
ライガは直立不動だ。
(……え、ライガ、まさか本当に聞こえてないの? いや、もう一度言うとか、無理なんだけど……)
私とライガは、言葉もなくお互いに見つめ合う。
「よお、ライガ何とか言えよ! おあ……! いてっ!」
視界の端で、ロンがビーにシバかれたのが見えた。
ライガは、微動だにしない。
「ライ……ガ……? 私の声、聞こ……えてる?」
私は、痺れを切らして、話しかけた。
ライガはハッと目を見開き、はじかれたように動いた。
彼は私の手を引き、店の出入口の方へと向かう。
「ら、ライガ……?」
「ちょっと、ライガ! どこ行くんだい?」
「おいおい、待てよライガ!! チカへの返事は? オレの質問の返事は?」
ライガは私の背中を押し、メシ屋から押し出した。ドアを閉める直前に、店内の皆に向かってこう告げた。
「ビー、悪いがオレは一族を抜ける。またあらためて話をしに来る」
「ライガ!!」
「まじかよ、ライガ!!」
ピューピューと口笛や、うおオオオーという歓声が後ろから聞こえた。
私は、ライガに肩を押されながら一緒に歩く。
「あの……ライガ? どこに行くの?」
(って言うか、返事は? 今これ、どういう状況……?)
「ボル川沿いの小屋に行こう。話はそれからだ」
私達は預けていた馬で、林へと向かった。
メシ屋から馬で30分。ボウ川の近くの林には、私所有の小さな漁師小屋がある。いざという時の隠れ家用に買っておいたのだ。
月に一度は人を雇って掃除を入れているので、いつもわりあい小奇麗だ。
小屋に入るなり、私はライガに腕を強く引かれた。
ギュッと、ライガの胸に包み込まれる。
「え……ッ……。あ……の、ライガ?」
「……頼む。少しだけ、もう少しだけ……このままでいさせてくれ……」
彼の鼓動と、熱い息づかいを近くで感じる。
絶対に離さない、というように強く抱きしめられ、上手く息ができない。
「ライガ……苦しい……」
「……っつ! すまない……。チカ、大丈夫か?」
ライガはすぐさま拘束を解き、心配そうに私の顔をのぞきこんだ。
至近距離で、目が合う。
潤むライガの眼に、欲望が宿っているのがわかった。
言葉が出てこない。