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第59話 嬉しくて嬉しくて 前半

 チカの人生でもしたことのない真っ向勝負の告白をした私は、つい恥ずかしさのあまり目をつぶってしまった。


(ウワァー……。言っちゃったわよ。それも皆の前で! あーもー、今すぐこの場から逃げ出したい……!!)


 こちらが恥ずかしさのあまり身悶えてるというのに、ライガは何も言わない。聞こえてくるのは、店の外からの喧騒だけ。店内はあまりにも静かだ。


 静寂を破ったのは、ロンだった。


「えーーー! 何だよ、マジかよ? 公爵令嬢かリーザー族のメンバーに求婚って……。いやいや、あり得なくない? それに、ライガ! 何でお前、チカの考えが読めてないんだよ。まさか、お前チカに誓いを与えたのか?!」


 ……ロン。今聞きたいのはあんたの声じゃないのよ、でも誓いってなんだろうと思いながら、勇気をだして目を開く。


 ライガはさっきと同じ表情で私を見ていた。まるで、私の告白が聞こえていないみたいに。

 ライガは直立不動だ。


(……え、ライガ、まさか本当に聞こえてないの? いや、もう一度言うとか、無理なんだけど……)


 私とライガは、言葉もなくお互いに見つめ合う。


「よお、ライガ何とか言えよ! おあ……! いてっ!」


 視界の端で、ロンがビーにシバかれたのが見えた。

 ライガは、微動だにしない。


「ライ……ガ……? 私の声、聞こ……えてる?」


 私は、痺れを切らして、話しかけた。

 ライガはハッと目を見開き、はじかれたように動いた。

 彼は私の手を引き、店の出入口の方へと向かう。


「ら、ライガ……?」

「ちょっと、ライガ! どこ行くんだい?」

「おいおい、待てよライガ!! チカへの返事は? オレの質問の返事は?」


 ライガは私の背中を押し、メシ屋から押し出した。ドアを閉める直前に、店内の皆に向かってこう告げた。


「ビー、悪いがオレは一族を抜ける。またあらためて話をしに来る」

「ライガ!!」

「まじかよ、ライガ!!」


 ピューピューと口笛や、うおオオオーという歓声が後ろから聞こえた。

 私は、ライガに肩を押されながら一緒に歩く。


「あの……ライガ? どこに行くの?」


(って言うか、返事は? 今これ、どういう状況……?)


「ボル川沿いの小屋に行こう。話はそれからだ」


 私達は預けていた馬で、林へと向かった。

 メシ屋から馬で30分。ボウ川の近くの林には、私所有の小さな漁師小屋がある。いざという時の隠れ家用に買っておいたのだ。

 月に一度は人を雇って掃除を入れているので、いつもわりあい小奇麗だ。


 小屋に入るなり、私はライガに腕を強く引かれた。

 ギュッと、ライガの胸に包み込まれる。


「え……ッ……。あ……の、ライガ?」

「……頼む。少しだけ、もう少しだけ……このままでいさせてくれ……」


 彼の鼓動と、熱い息づかいを近くで感じる。

 絶対に離さない、というように強く抱きしめられ、上手く息ができない。


「ライガ……苦しい……」

「……っつ! すまない……。チカ、大丈夫か?」


 ライガはすぐさま拘束を解き、心配そうに私の顔をのぞきこんだ。

 至近距離で、目が合う。


 潤むライガの眼に、欲望が宿っているのがわかった。

 言葉が出てこない。


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