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第36話 剣大会 2日目後半

 剣大会に出ると決めてからこの2週間弱。私は今までと違う、多様な攻撃と防御の練習を行った。

 ライガは、特に私が倒すと宣言した、西の民や傭兵達への対応を細かく指示した。


 簡単に言うと、と、、をマスターした。


「力のある相手に、力で対抗しようとするな。全身対全身では勝ち目はないが、相手のいち部分にチカの全力を打ち込めば、勝てる。てこの原理を使え。チカの世界でいうところの『アイキドー』の技術を活かすんだ」

「チカは子供達を庇った時、相手が蹴りを入れてくるのがわかったと言ってただろ。前から言うように、チカには相手の心をなんとなく感じる能力がある。相手の次の行動を読むんだ」


 そう言って、ライガは何度も何度も私に、くるりんパとはじき飛ばす、の練習をさせた。


(どうやら、必殺技をださないと勝てない相手がご登場のようね。なるべくサンダとブルガ以外には使いたくなかったけど)


 私は相手の次の行動を感じようと、意識を集中させる。


 その男、サンボはにやにやしながら、自身の体のまわりで、大きな剣をブンブンとふりまわす。

 私は常に足を動かしてはいるものの、男に近づけない。


(……近づけない……あの勢いよくまわしている剣に当たったら、終わりだわ。持久戦ね)


 私は男の剣が当たらない位置をウロウロしながら、相手の疲れるのを待つことにした。


「おいおい、どうしたよ、小僧。打ってこいよ。試合にならねえじゃねえか」 


 私は彼の挑発には一切答えない。


 しびれを切らしたサンボは、しばらくすると剣をふりまわすのをやめた。


(打ってくる……! チャンスだわ)


「じゃあ、こっちからいくぜ!」


 彼は、私が彼より先に攻撃をしかけるとは、夢にも考えていない。そこに、私の勝機がある。


 彼が私に向かって剣を突いてくるその瞬間、私は体を斜めにズラしながら自分の剣を彼の剣先にピタッと合わせた。腕ごと、くるくるくるくるとまわして相手の剣を絡めとり、パっと遠くへ飛ばす。


 普通なら、彼が剣を手放すなんて事はまずないだろう。だが、私は彼の動きを先読みし、相手が油断しているその一瞬の虚をつき、遠心力を利用して、彼の手から剣を離すことに成功した。


「キャー!」

「あ、あぶねえーー」


 サンボの剣は、幸いな事に警備の剣士の盾に防がれ、観客に命中せずにすんだ。


(マジであぶねーー、だわ……。本当にケガ人を出さずにすんでよかった)


 私が冷や汗をかいていると、サンボの呟きが聞こえた。


「なんだよ……ありえねえ……。こんなこと、ありえねえ……」


 彼は茫然としながら、剣を失った自身の手を見つめている。


「勝者、ウエダ! 勝者、ウエダーー!!」

「ちょっと待てよ、まだ打ち合ってもいねえ。こんなもん、試合じゃねえぜ!!」


 サンボが鬼の形相でこちらを睨んでくる。


「剣が手から離れれば、負けだ。残念だが、今回の勝者はウエダだ」

「こんなの納得できねえーー! もう一度やらせろ!!」

「サンボ、2回目の試合が間もなくはじまる。今ここで失格になるのがいいか、2回戦で勝ってベスト8に残るのか、選びたまえ」


 私は大人しく、一言も発せず、立会人の騎士に感謝しながらこの場を見守った。

 サンボは悔しそうに歯ぎしりしながらも、立会人の言葉に従う選択をした。


「おい、小僧、次は痛い目にあわせてやるからな! 覚悟しとけよ!!」


 大声で私に怒鳴りながら、自分の剣を拾い上げ、彼は取り囲む観客にも悪態をつきながら、トーナメント表の方向へと歩き去った。


「おい、スゲーな、坊主」

「がんばりなよ、あんた。応援してるからね」


(うわあ、びっくりする程、ライガの作戦ばっちりハマったわね。よし、この調子で、次も勝つわよ!)


 私は立会人と応援の言葉をくれた観客に頭を下げながら、次の試合へ闘志を燃やした。


 1時間後、ベスト8を決めるための2試合目の試合が終わった。

 トーナメント表が新しくなり、残った8名の、明日の試合が記載された。


 準々決勝

 1組 ロン  VS サンダ

 2組 ブルガ VS ピーターソン

 3組 ウエダ VS アイガン

 4組 ピョートルノ VS コフィナ


 いよいよ、明日は最終日。


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