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第35話 剣大会 2日目前半

    剣大会、2日目。

 私の1回戦の相手は、ヨーロピアン国の高位の剣士だ。


 彼は勿論、仮面で顔を隠しているが、剣や着ている服が庶民のものとは明らかに違う。また、その立ち居振る舞いからも、軍人かつ貴族らしき佇まいがみてとれた。


(顔を隠していも、その人となりは案外わかっちゃうものね。私はどう見えているのかしら?)


 試合会場に立つのは、180㎝はあろう筋肉質で立派な服装の剣士と、165cm程の小汚い格好の小柄な少年。


 向かい合った相手からは、安堵と侮蔑の様子が感じられた。私の変装は完璧に機能しているようだ。


(今日の第一優先事項は、常に動く事、足を止めない事。相手は、多分正攻法の戦い方に慣れているだろうし、途中までは普通に相手をして様子を見てから、リズムを崩すような攻め方に変えてみよう)


 2日目の第1試合。20組、計40名が同時に試合をする。

 1日目には、各試合に1名のみだった立会人が、今日からは2名に増える。


「それでは、2日目、第1試合11組。レフィルとウエダの対戦を始める」


 メインの立会人の掛声で、試合がスタートした。

 私と対戦相手、レフィルはお互いに剣を構えながら、様子を伺う。


 ジリジリと、少しずつ間合いをつめる。


 既に周りからは、他の剣士達の剣を交える音が聞こえている。

 金属音、土埃、そして少し離れた場所から試合の様子を眺める観客達の熱気。


「いいぞー! やっちまえ!!」

「アヤハン、がんばってー」

「スゴイぜ! あいつは勝つぞーー」


(集中して、チカ! 常に動く。足を止めない。途中から、変化球で攻める)


 私は呪文のように、頭のなかでそのフレーズを繰り返す。


 レフィルが我慢できずに仕掛けてきた。彼の真っすぐな突きを、こちらも剣ではじき返す。さらに、勢いよく上段から剣を振り下ろしてくる。

 ガキンガキンとしばらく剣の攻防が続く。このままでは埒が明かないと思い、私はよろめいた風を装い、一旦彼から離れた。


 彼の動きはスムーズで、隙がない。さすがは有段者だ。できればまだ目立ちたくないので、あまり強くない少年が、運良く勝った体にしたい。


 私の先程のよろめきが効いたのか、彼は小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら私にこう言った。


「ここまで残ったのは褒めてつかわそう。だが、それももう終わりだ」


 レヒィルの表情からも、彼が何か大技を仕掛けてくる事が感じられた。


(落ち着いて……。常に動いて、変化球で攻めるのよ)


「うおおおーー」


 彼は声をあげながら、剣を体の横に構えて勢いよくこちらに向かってくる。

 私はとっさに、彼の剣と反対側にコサックダンス的にしゃがみこみながら片腕を伸ばした。腕にグッと力をいれて棒状にし、彼の足首に引っ掛け倒す。


「わっ……っ! 」


 驚きを含んだ叫び声と、ドサッと体が地面に倒れる音がしたと同時に、私は立ち上った。

 レフィルが倒れている場所から少し離れて、彼の剣が転がっているのを確認し、私はホッと胸をなでおろした。


(よかった……彼が自分の剣で傷ついてなくて……)


「11組、勝者ウエダ。第1試合11組、勝者ウエダーー!!」


 立会人が大きな声で、私の勝ちを告げた。

 サブの立会人が、勝敗結果を伝えにトーナメント表の受付場へと向かうのが見えた。


 レフィルは呻きながらゆっくりと立ち上がる。


「……ウ、ウッ……卑怯だぞ。騎士なら正々堂々と、剣の腕で勝負しろ……!」


(いや、私は騎士じゃないし。そもそも、これ、異種格闘技みたいなもんで、正式な騎士の試合じゃないし。そう言われてもね……)


 私を睨みつけるレフィルの視線に困惑しながら、私は無言で頭を下げた。

 立会人を見ると、問題ないというように頷いてくれたので、私は立会人にも頭を下げた。


「おい、なんとか言え! あ、待て! 小僧、逃げるな……!」


 長居は無用とばかりに、私はその場を小走りで逃げ出した。


 少し休憩をとり、第2試合の為に早めに大広場に着くと、女性剣士を見かけた。自分以外で初めて会う、女性剣士だ。


 割と露出多めの異国風の戦闘着を纏った、身長170cm程のがっしり体型、昔読んだ漫画にでてくるアマゾネスのような、目力の強い、見るからに特別なオーラの漂うめちゃめちゃカッコいい人だ。


(すっごく素敵! この女性ひと、強いわ。……戦ったら、私は負ける……)


 自分より強い女性の存在を知ることが出来た喜びと、優勝を逃してしまうかもしれないという恐怖を同時に感じた。


(いけないいけない。まずは、目の前の試合に集中よ! 常に動く、足を止めない)


 第2試合の相手は、ヨーロピアン国の用心棒をしているらしき大男だった。彼も、1試合目のレフィルと同じく、小柄で非力な少年相手だと油断した為、同じ戦法で虚をつき、勝利した。


 私はベスト10に残った。そして、これからその10人で2試合を行う。試合後、戦績の悪い下から2名が脱落する。


 上位8人のみが、明日の準々決勝戦に出ることができるのだ。


 そして、今、私の目の前には……。


「それでは、ベスト8を決める第1試合。サンボとウエダの対戦を始める」


 あの日、私が剣大会に参加を決めた日。ヒューロンとララーを馬鹿にし、私に蹴りを喰らわせたブルガとサンダの隣にいた男がいる。


 あいつ等と同じような、プロレスラーのような体格に、長く伸ばしたアゴ髭。長い三つ編みにした髪は腰まで届く。彫りの深い焼けた肌に凶悪な人相。見るからにヤバい、職業軍人経験者だ。


「よお、小僧。ここまで残るとは、テエしたもんだな」


 男は下卑た笑みを私に向けた。

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