第三王子に急襲された次の日、私は夕食後にライガを呼び出した。第2回目のUM(運命共同体ミーティング)を行う為だ。
昨日の第三王子の急襲は私をいたく疲れさせた。
今日の午後は、ダンスの練習をキャンセルしてもらい、ひたすらベッドに寝転び一人脳内会議を開催していたが、モヤモヤはおさまらず、色々な謎が深まるばかりで、それがまた余計に私を疲弊させた。
プリンスからの求婚。
お伽話や漫画なら盛り上がるところかもしれないが、正直迷惑以外のなにものでもない。
王族など高位にある者には、それ相応の義務もついてくる。常に人の目に晒され、嫉妬やっかみ噂の対象にされ、言動が制限される。
元の世界では、女男同権を求め、GLBTQのallyとして、ジェンダーバイヤスの解消やマイノリティが生きやすい社会に近づける為に、地味に活動してきた。
とてもじゃないけど、生き残る為とはいえ、ずっと公爵令嬢の仮面をかぶったまま、訳のわからん貴族ルールに従って大人しく生きるなんて、それこそ私には無理ゲーだ。
面倒な事には関わりたくないのに、なんだってあのキラキラな王子様は、私にロックオンしてきたのだろうか?
あー、もう、ライガに会いたくて、色々話したくて仕方がない。
ライガとは昨日私が一方的に話しただけなのに、あの爆笑姿を見たせいか、もう私にとっての彼は手放せない身内同様の大きな存在になった。
こちらに来てから、生き残るのに必死だった。
何とか順応しようと、一人ぼっちの不安や恐怖をみないようにしてきた。
家族や職場の皆や友達はどうしているのか。私が行方不明になった事をどうとらえているのか、もしかして、私は最初からいなかった事にされてるんじゃないかとか、そもそも、上田知花という人間は存在するんだろうか。
一度考えだすと、次から次へと恐い考えが浮かんできて、叫びだしたくなる気持ちを抑えるのに苦労した。
帰りたい、帰りたい、帰りたい!!
何故、私がこんな目に合うの?
私が何をしたというの?
どうか夢だと言って!!
いくら私が40歳のそこそこ経験豊富な大人といっても、異なる境遇に1人で放り込まれたら、病んでもおかしくないと思う。
今日の昼間も、鬱々ウダウダと考えていて、結論として私は3つの事に心から感謝した。
1つは、私が持つ『生き残ってやる』という本能的な強さに。
私は死にたくない。こんなところで、死んでられない。とにかく、生きる。生き延びてやる!!
無意識にそう願う動物的本能を持つ、自身の図太さを頼もしく思う。
2つ目は、『どんな時でも冷静さを忘れず理論的思考を手放すな』という、自身が学び、部下にも再三言い続けてきた教えだ。
人は想定外の事に直面すると、パニックになり、感情的になり、その物事の本質が見えなくなってしまいがちだ。結果、最適な判断が出来なくなる。
常に大局を見る。
鳥の眼を持つ。
目の前の事象だけにとらわれず、落ち着いて全体をみて、安全確保やトラブルを最小で抑える為の最優先事項を判断し、必要な行動をとる。
どんな時にも、そのように考え、行動できるように、日々学び続けてきた。その私に染み込んだ姿勢が、人生最大の困難に対している今の私を支えてくれている。
3つ目は、ライガに出会えた事。お互いの人に言えない弱みを見せあえ、一蓮托生の同志となれた事。
昨日、ライガと話をした時に、久しぶりに上田知花である自分を全開にして話せる爽快さを感じた。
お嬢様のフリをせず、自分が思ってることをそのまま言えるって、本当に気持ちいい。
ライガの存在は、真っ黒な夜の海を航海中にみえた、灯台の光のように感じる。
彼がどんな人間なのか、良い人なのか、本当は悪事を企む悪人なのか、本当のところはわからない。
ただ、何となく彼を好ましいと感じる、自分のカンを信じたい。そう考えている。
彼ともっともっと話をして、知識を共有したい。彼の事を知りたい。私の事も知ってほしい。
これは、恋愛感情ではない。
だが、人として、私は彼とより良い関係を築きたいと思う。
もうすぐ、ライガがやってくる。
こんなに心をときめかせるのは、こちらに来て初めてかもしれない。