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第13話 知らないうちに能力者になってた模様

 ライガの直球な問いに、私は脳天を撃ち抜かれた。

 彼はずっと私の考えを読んでいた訳だし、当然の質問だ。


 見た目は今までのわがままで可愛い10歳の少女のままなのに、中身はおばはん、いえ、そこそこ経験豊かな大人の思考をする謎の存在。カジュアルな言葉遣いに、この世界の知識の乏しさも合わさり、怪しさ満点であろう。

 そりゃあ、あんた誰って言いたくもなる。

 なのに、いざ、あなたは誰かと問われると、思っていた以上に焦る自分がいた。


「私は……」


(今の『私』は何者なんだろう。私は上田知花だけど、この体はジェシカのもので、でもオリジナルのジェシカはもういないし、今この瞬間、この世界で生きているのは上田知花の思考・経験をもつジェシカの体な訳で、つまり)


「……つまり……新生ジェシカなのよ」

「……新生ジェシカ……?」


「そう、言わばニュータイプのジェシカよ。Aとエー・ダッシュ、ではなく、AプラスBでOになった。そんな感じよ」

「……エーダッ……、オぉー?」

「まあ、そのことについては追い追い説明するわ。それより先に私に質問させて。私、心威力を持ってるの? なんでわかるの? どれくらいの能力なの?」

「……わかりました、先にお答えします。お嬢様は、俺と同じ、読心力を持っていますよね。俺ほどはっきりと人の考えが声としてまでは聞こえていないと思いますが、何となく感情を察する事ができる」

「……それって、能力なの? ちょっとした微表情や体の動きで、何となくわかるもんじゃない?」

「いや、普通の人間にはわかりません」


(私のその能力は、仕事で鍛えられたものだけど。接客業、特にホテルではホスピタリティが求められる。お客様が言葉にする前に、ご要望を察知したり、まだご本人がわかっていない希望を、先回りして考えて、よりよい選択肢を用意したり。今のビジネスホテルに来る前に勤めていたのは、レストランが7個あってプールやスパもあるような所謂シティホテルだったから、めちゃめちゃマナーとか心理学とか脳科学系も勉強したもんね)


「うーん、ちょっとよくわからない。そんなたいした事してないよ、私」

「選抜会の日、神鳥がやってきた時、お嬢様は俺の後姿を見ただけで、危険はないと判断されました。また、あの時俺の表情を見て、俺がお嬢様の考えを読めると察しましたよね。先程も、俺がお嬢様の考えに反応した事もにすぐ気づいたし」

「さっき、って?」

「……俺が部屋に入って来た時に、なんかさっぱりしてるとか、その、ハンサム……とか」


 自分で自分をハンサムと言うのに照れたのか、ライガの顔がほんのり赤くなった。可愛らしいやん。いやいや、耳栓してもらっといて良かった。また、オカン目線で考えてるのがバレるとこだったわ。


「あんなわかりやすいリアクションなのに、他の人はわからないの?」

「俺はこれでも一族のなかでは表情が読みにくく、兵士に向いていると評価されています。だいたい普通の人間は、他人の細かいところまで見てないし見えないもんですよ」

「そうなのね。心威力というより、経験からくる勘なんだけど。わかった、人にバレないよう気をつけるわ」

「……あと、お嬢様は支配の能力もお持ちです」

「支配?」

「リーダーの能力とも言えます。人を操るというか、うまく自分の意見を認めさせるというか」

「あー……」


(だから、それも仕事柄と気の強さのコンビネーションで、能力とかじゃないと思うんだけど)


「なんか、私、もっと別のすごい能力持ってないの?」

「もっと別ですか? 充分、すごい心威力をお持ちですけど」

「わかった。別の能力はこれから考えて鍛えるわ。あと話しておかないといけない事は、そうね。私の人生計画を言っとかないとね」

「人生計画……」

「私の体、けっこう弱っちいのよ。だから、食事、睡眠、運動で改善していくつもりなの。今すぐに剣の稽古を始める事は出来ないけど、足腰の鍛錬とか、おすすめがあればまた教えてね。剣士というか、戦士として、あと5、6年で傭兵で食べていける位の強さに仕上げたい。カリキュラム組んでみて」

「ちょ、ちょっと待って下さい! なんでお嬢様が傭兵で稼ぐとか考えるんですか? だいたい公爵令嬢が働く必要はない。しかも、5、6年で戦士に仕上げるとか、誰の入れ知恵ですか!?」


 どうも私の発言は、ライガをいたく混乱させたらしい。でも、はじめが肝心。私達は運命共同体。向かうべきゴールを設定したら、それを共有し、きちんと見ている方向に差異がないか確認する必要がある。お互いに同じものを見てるつ・も・り・で、ズレがあると、後からとんでもない事態に陥る恐れがある。


「ライガ、もう一度言っておくわ。私の目的は、とんでもない位強い戦士になって、自立する事なの。年寄りの爺に嫁がされたり、政略結婚でよその国の王妃になって、堅苦しい生活をするのもノー・サンキュー。だから万が一の時には、この国を出て傭兵や用心棒で食べていける位の強さが必要なの。自分の進む道は、自分で決める。私はこれから自分のスキルを上げて、選択肢を増やすわ。誰かのコマとして人生をおくるなんて、まっぴらごめんよ!!」


(あかん、またエキサイトしてしまったわ。ライガが目を見開いて固まっている。デジャヴかしら?)


 自分の事ばかり話して、ライガについて全然聞いてない事に気づき、謝ろうとした瞬間、私の声に扉をノックする音が重なった。


「ゴメン、ライガ。私ばかり話して悪かったわ。あなたの」


 コンコン。


「ジェシカお嬢様、失礼いたします」


 返事もしないうちに扉が開き、マリーが登場した。



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