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第12話 運命共同体だと了承してもらえましたが

 勢いよくそう力説した私を、ライガは唖然あぜんとした表情で見つめている。


(ちょっと、言い過ぎた? 会って間もないのに、家族だとか言って、重すぎる? もしかして私、引かれた?)


 やり過ぎを後悔しながら、私はじっとライガの返事を待った。

 少しするとライガは下を向き、そのまま固まってしまった。いや、比喩でなく、本当に微動だにしない。

 私は辛抱強く、黙ってひたすら待った。


 しばらくすると、彼の肩が小刻みに震えだした。

 何事かと焦る私を尻目に、その震えはだんだんと大きくなり、やがてライガは吹き出した。


「……っ……クックッ、プハッ……だめだ、我慢できない……!」


 彼は声を押し殺しながらも、腹を抱えて体をくの字に折って、大笑いしている。

 今度は私が呆然とする番だった。


 無表情だった彼が、こんなに表情豊かに、感情を表に出していることに。

 そして、この世界に来て以来、こんなに大笑いする人を初めて見たことに。

 本当にビックリした時、人は言葉を失い、思考はストップし、ただ固まるしかないという事を体感した。


 心ゆくまで大笑いしたライガは、ゆっくりと顔を上げた。


「すいません、笑ってしまって。我慢できなくてつい……」


(どの部分が笑いのツボにハマったのかメモを取りながら詳しく聞きたいところだけど、そこは後日にまわして、今は言質げんちをとるのが先よね!)


「それで、ライガ」


 私が言いかけると、彼は無言で跪き、私の手を取った。

 ゴツゴツした大きな手で、私の両手を彼の額にもっていき、何かを呟いた後、こう切り出した。


「ジェシカお嬢様、運命共同体の件、承知いたしました。これから、俺達は家族です。いついかなる時も、あなたを守り、あなたの盾となることを、改めてここに誓います」


 そっと私の手を離すと、彼は真剣な眼差しで私を見た。


「先程、あなたが言ったようにあなたにだけ耳栓をしたので、非常時、またはあなたの許可がない限り、俺にはあなたの考えは読めない。だから、今後はお考えを全て声に出して下さい」


 そう言われて、私はまたもや驚いた。


(ダメ元で言ってみたけど、本当に特定の相手にだけ耳栓するとか出来るんだ? それってすごくない?)


「有難う、ライガ。え―っと、では、最初の運命共同体ミーティングを行います。略してUMです。私がUMと言ったら、早急に二人きりで話す必要があるって事だし、覚えといてね」

「わかりました」

「では、始めましょう。ライガも椅子に座って」

「さすがに、俺が座るのはちょっと……」

「いいから座ってってば。対等な立場で話すには、同じ目線で話さないと」

「……わかりました。座ります」

「はい、ではお互いに理解しておくべき最重要事項から話しましょう。私から質問するわね。さっきの、特定の人にだけ耳栓をするって、簡単にできるものなの? そもそも、人の考えが読める人ってどれ位いるの?」

「耳栓をする相手は、同時期に一人だけです。今はジェシカお嬢様がその対象なので、他の人間に対して耳をふさぐ事はできません」

「そうなのね。そんな貴重な耳栓を、私にしてくれて有難う」

「いえ……。あと、人の考えを読める人間は……。俺が実際に知ってるのは、叔父と兄だけです。死んだ祖父とその父も、同じ力を持っていたと聞いています。歴史書には、特例で騎士になった平民の心威力者しんいりょくしゃが1人、読心力を保持していたと書かれています。それ以外では、聞いた事はありません」

「そう。ほとんどいない、希少な能力なのね。私も歴史書で読んだわ」

「あれは俺達一族の祖先です」

「そうなんだ! すごいじゃない」

「だから、この力については、極秘にしないといけないんですよ。バレたら、各国から狙われて、囚われて、死ぬまで働かされるハメになるから」

「……え?」

「人の考えを読めるだけじゃなく、どの能力をもつ心威力者も皆、息を潜めて生きている筈です。騎士だなんだと持ち上げられても、結局国の為に奴隷として馬車馬の様に働かされて、要らなくなったら、殺される。それが、それのみが心威力者に与えられる道であり、歴史なのです」


 思ってもみない話に、私は血の気が引いた。


(ヤッバ! 私、誰にも心威力を鍛えたいとか話してないよね?)


「だから、この件については、決して他人に口外しないで下さい。例えそれがご家族であっても」

「わかった。口外しない! 絶対しない。……それで、心威力は、やっぱり遺伝的なものなのかしら?」

「半分イエスで、半分ノーですね」

「……? ということは、北の一族でなくても、例えば私でも、鍛えれば身につける事ができるってこと?」

「はい。自分の意志を強く持つ事で、心威力は強まります。北の一族以外の人種にも、心威力者はいますよ。本当に力のある能力者はほんの一握りでしょうけれど」


 自分の意志を強く持つ。

 そんな簡単な事で、能力者になれるなら、皆なれちゃうんじゃないかな。


そんな事を思った矢先、ライガは声をひそめてこう聞いた。


「ジェシカお嬢様も心威力者ですよね。というか、あなたは何者なんですか?」


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