「あなたが今回の騒動の主犯だということはわかっている。ケガをしたくなければ、大人しくなさった方が身のためよ」
うっそうと茂る森のなか、月明りでお互いの顔はなんとか見える。
私とロバートはそれぞれ剣を握り、にらみ合った。
聞こえるのは、風に揺れる木々のざわめきだけ。
騎士達は、まだ到着しそうにない。
「悪いが、捕まるわけにはいかないんでね。隣国へ続くこの地下道の入口を知っていることは褒めてやるが、お嬢様がのこのこ一人で追いかけてくるなんて、自信過剰もいいとこだろ」
ロバートがニヤリと口を歪めながら、吐き捨てるように言う。
そして、ジリジリと間合いをつめてきた。
「ジェシカお嬢様、あんたに俺が止められるのか?」
そう大声で叫びながら、ロバートは私に向かって切り込んできた。
私はヒラリと側面に体を捌きながら、彼の刀身の付け根に渾身の力をこめた一撃を加えた。
ガキィーン、と重みのある鉄の音がなる。
とばされた剣が木に突き刺さるのがみえた。
「う、嘘だろ……。そんな、馬鹿な……」
信じられないという顔で私を見つめるロバートの首に剣先を当てながら、私はきっぱりと宣言する。
「これが最後よ、ロバート。大人しく騎士団の到着を待ちなさい。もし逃げる素振りをみせたら、わかるでしょう?」
私はさらに声を低くして続ける。
「例えあなたが極悪人で、百戦錬磨の傭兵だとしても、命はひとつだけだもの。大事にしないとね」