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第18話 聞こえちゃった……

「敵に弾が当たらない!!」


 空が朝始発で帰った後無事二度寝して、次起きたらもうお昼だった。


 空とのこともあって、やりづらかったゲームを久々に起動する。


 今日空とゲームをするにあたって、ちょっとはやっておかないとまずい。 最近は色々あってゲームもあんまりできなかったけど、今日は諸々の問題も落ち着いたから、何不自由なくゲームできる!

 そう意気込んでやり始めた。やり始めたんだけど──


 「──ぜんっぜん勝てない!」


 もう死ぬほど負けている。

 初動(最初に降りた街で戦うこと)で全く勝てない。仮に勝ってもまた別のパーティーが来て疲弊している俺らはすぐに負ける。


 そんなこんなをしてたらすでに2時間。かなりのランクポイントを溶かしている。


 このままじゃまーずい、大量にキルポイントを取ってランクポイントを稼がないとまっずい。

 ま、まだ3回くらいチャンピオンとれば取り返せる…………ふふふふ。


そんなおかしなテンションに陥りかけていたら……



 ピンポーン。


 なんかきた。

 また勧誘かな?……無視しよーっと、今日は何も密林で頼んでないし。



 ピンポンピンポンピピポポンン。


 今度はめっちゃ連打。

 鬼連チャンされている。

 そういえば、前もこんなことあった気がするな……しかも最近。


 「はぁ」


 しょうがないので、恐る恐る玄関へ。

 チェーンをちゃんと閉めてからドアを開ける。防犯対策はばっちりよ。


 「……はーい」


 「あ、よかった生きてた」


 「はい?」


 ドアを開けた先には案の定マドンナこと一ノ瀬さんの姿。

 ただ雰囲気はいつもと少し違う。いつもの溌剌とした明るさは鳴りを潜め少し顔色も悪い。


 ……というか、なんでかしらないけど一ノ瀬さんの中で俺死んでるんだと思われてた?


 「いやー私と付き合ったことになった直後に死なれたら、さすがに私も目覚めが悪いからね~。さすがに未亡彼女はやだなって」


 「……だからなんでそもそも死んだ前提?というか未亡彼女って何?」


 もう突っ込みどころが多すぎる。

 未亡人の彼女バージョンみたいな感じ?


 「いやーあはは……だって葵君普通に死にそうじゃん?」


 「すごい失礼なこと言うね?!」


 今までそんなことあんまり言われたことないよ?


 「食事とかカップ麺で基本過ごしてそうだし、飲み物はエナジードリンクとお酒しか飲まなそうだし、部屋は散らかって…………はなかったか、うんそれに賞味期限切れのご飯とか平気で食べそう。そのうち食中毒になって悶えてそう」


 「すごい偏見の目で俺を見るじゃん…………まぁ半分当たってるけど」


 エナドリはFPSをやるうえで欠かせないし、ご飯は出来合いのもので十分。

 あと1日2日なら賞味期限とか気にしない。

 大事なのは消費期限って進研ゼミで習った。あと頑張れば消費期限1日超えても何とかなる。


 「半分はもう全部みたいなものだよ! まぁということで…………」


 ということで、まさか、この流れは前回はポトフ、今回も何か──


 「──健康食を食べに、居酒屋いこ!」


 「いかんわ!」


 昼から酒飲みたいだけじゃねーか。

 居酒屋に健康食なんかないわ!


 「えーいかないのー?」


 心底不満そうな一ノ瀬さん。

 どんだけお酒飲みたかったんだよ。


 「いかないよ!飲みもなんだかんだお金結構かかるしさ」


 お金、と俺がいった瞬間、一ノ瀬さんの顔も曇る。


 「確かにそれは一考の余地があるかもしれないわね」


 「逆に一考の余地しかないんじゃないかな」


 「…………」


 「…………」


 「よし、スーパーにいこっか!」


 「…………俺も?」


 「うんもち、二人で材料費買ったら安いし軽いし、しかも葵君は私のおいしい料理食べれるよ?」


 …………それはいい。

 手作りってなぜかうまいし、あと最近コンビニ弁当とカップ麺にも飽きてきていた。


 「料理のリクエストはしてもよい…………ですか?」


 「一考の余地あり!」


 一ノ瀬さん、そんな異議あり!みたいに言われても。


 「よくよく考えたら俺好き嫌いそんなないし全然問題ないな、ならぜひご相席させて頂いても?」


「よかろう!」


 なぜそんな上から目線。

 あと胸を揺らさないで、視線が行っちゃう。


 スーパーまでは家から徒歩10分。


 軽くジャケットを着て、外へ出る。春先の3月だからまだまだ肌寒い。

 だけどもう3月か。既に休みが始まって1ヶ月近く経ったことになる、時の流れ早いなぁ。


「……あ、そういえば葵くん」


「はい?」


 マスクをして帽子を被った一ノ瀬さんはもう目元しか見えない。

 それなのに関わらず相変わらず隠し切れないこの綺麗さはなんなんだろう。


「……どしたの?ぼーっとして、私に見とれちゃってた?」


「うーん、まあそんなとこですさすがマドンナ、さすマドって感じ!」


 まぁ外見+内面で考えたらあれだねバランス取れてる。酒かすでやにカスだからね。プラスマイナスで考えたらちょいプラスくらい。


「変な造語つくんないのっ! じゃなくてさぁ……あのなんて言うか……」


 なんか一ノ瀬さんが凄い言いずそうにしてる。

 なんだろお腹痛い、とかかな?


「あー……遠慮しなくてもいいよ」


 なんなら言わなくてもいい。

 もう俺はちゃんとわかっている。


 一ノ瀬さんがトイレに行きたいってことは。


 優しい顔を浮かべておく、一ノ瀬さんがトイレに行きやすいように。

 マドンナだってするよねトイレ。

 トイレとかしないアイドルがいたのは昭和までだもん。


 「何いきなり変顔してどしたの?」


 俺変顔してないけどね?優しい顔浮かべていただけだけどね?


 「変顔とは失礼な、一ノ瀬さんの緊張をほぐそうと優しい顔してただけなのに」


 「優しい顔……間抜けな顔じゃなくて?……まぁいいや、なんか力抜けちゃった!」


 …………トイレなら踏ん張ってたほうよくない?

 力抜けちゃだめじゃない?漏れちゃわない?


 え、そういうかんじ?関白宣言ならぬ放尿宣言みたいな?

 俺としてはもう一回力入れてほしいかも。


 だけど話された言葉は全く別のことだった。


「あのさ、葵君最近ストーカーとかに困ってない?」


「うんいってきていい…………え?…………なんて?」


「だからストーカーとかに困ってるんじゃない?って」


 そうだよね、そういったよね。

 ……俺がストーカーに?


「……なんで?それ一ノ瀬さんの話じゃなくて?」


 それならありそうだけど。

 というか俺もてたことないのになんでストーカーがいるんだよ。

 ストーカーになる前にそのこと普通に付き合うよ!


「まぁ私もこういうのは私の方がされそうだなあっておもったりはするけどね! しがない少年の君にストーカーって物好き、というかかなりの物好きだなぁとかは思うけどね? どこがいいんだろうね、ほんとにうーん」


 自分で言ってて悩まないで?今かなり失礼なことナチュラルに言ってるよ?気づいてないかもだけど。

 もれなく俺に大ダメージ与えてるよ今。


 やばいこれ以上考えたらメンタルが終わる。


「ないと思うけどなぁ…………なんかそう思う原因でもあったの?」


「いや、朝方なんか声が聞こえたんだよね〜」


「声?」


「そう、声」と一ノ瀬さんは頷く。


「私も寝ぼけてあんまり聞こえてこなかったんだけど、ね?確か【死んでも……ゆ……さない、絶対に】とかだったかな?」


 血の気が引いた。

 幽霊とか無理なんですけど俺。


「え、それストーカーじゃなくて、幽霊じゃん。怖、呪われてますやん」


「で、でも安心していいよ!」


「な、なにを?」


 あれか。私が一緒にいるとかそういう話か。

 心強いかどうかは別としてもなんて優しい。

 さすが大学のマドンナ。性格もやっぱり……


「足はちゃんと生えてたから実在してると思う!」


「見たんかい!いやてことは生霊か実在するやつじゃん! え……なんか恨まれるようなことしたかな?」


 というか朝は空がいたはずなんだけどなぁ。

 もしかして空のこと言ってる?


「かなり玄関を睨みつけてた気がするよ、まぁ寝ぼけてたしコンタクト入れてなかったからあれだけど、すごい念を感じた」


 ……ほな空とは違うかぁ。

 空に睨みつけるほど恨まれた覚えは無いしな。なんなら昨日和解してるしね


「ま、まぁ大丈夫でしょ、今のところ実害は無いので。家の鍵ちゃんとチェーンまでかけとくようにしますし…………まぁ全く関係ないですけどこのあと神社行かない?いや全く関係ないけどね?なんか唐突にお参りしたい気分だなぁって。あと塩でも買いますか、いやー1キロくらい盛りたいなぁ」


「あ、じゃあついでにニンニク入れる? ニンニクの匂いって幽霊を寄せつけないっぽくね?」


「……それ吸血鬼とかじゃ」


「まぁ吸血鬼も幽霊も同じようなもんしょ! いやぁにしても意外だわぁ私の彼氏ってバレてからストーカーとか闇討ちとかの問題は起きると思ってたのに、まさかこんなに早く来るとはよっ人気者!」


 なんかすごい物騒な言葉出てきたな。

 てかこういうこと起きる可能性あるの?一ノ瀬さんと付き合ってたら


「……将来的にそれお守りで何とかなりますかね?」


 一ノ瀬さんはうーんとひとつ悩み、


「……有名な神社のならワンチャンある……かも?」


「いま絶対テキトーにこたえたでしょ」 


「そんなひどいよ、1秒くらい真剣に考えたから!」


 はぁ、まぁ気にしても仕方ない。

 いざとなれば隣の家に駆け込もう。


 ちなみに昼ごはんはペペロンチーノだった。

 とてもおいしかったけどその日は人前に出れなくなった。




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