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第14話 マドンナとのサシ飲み

 「かんぱーーーーい!」


 「かんぱーい」


 一ノ瀬さんは最初からフルスロットルで、ぐびぐびとジョッキを呷っていく。


 「どうしたどうした少年のんでないぞーーーー!!」


 はぁもうそれ女子大生の飲み方じゃないんよ、いい年した企業戦士の飲み方なんだよ。

 親父がよくそんな飲み方を家でしてたのを思い出す。


 「………お酒のおかわりいります?」


 「いりゅ!」


 うーん、もう酔いが回ってない?


 「いや~、1日動いた後のお酒は体に染みるねぇぇ」


 パクリと、フライドポテトを一本頬張る。

 そのまま一ノ瀬さんは唇についた油をちろりとひと舐め。

 お酒で赤みがかった頬と、油でてかりを帯びた唇が扇情的でえっろい。


 「なーに私の顔じっと見て、ほれたか ー?」


 「いやそんなわけないけど」


 惚れるわけない。

 だけど外見に見ほれてはいた。内面には一切ない。


 「なんでよ、さっきも可愛いって言ってたじゃない、あむ」


 「いや確かに一ノ瀬さんお綺麗だとは思いますけどね? なんというか現実感が薄い、というかなんというか」


 いまだに偽彼女である、ということすら信じられない。

 あと内面が飲んだくれってのも信じられない。信じたくない。夢見て対。


「ふむふむ、ここでお酒を呑んで美味しそうにつまみをたべている私を、幽霊かなにかだと葵君は思ってるわけだね?」


「まぁ学園のマドンナが、つまみ片手にビール飲んでる姿は夢であって欲しいよかもしれない」


「あはは、純朴な少年の夢を壊してしまってごめんねぇ? 私も生きてる人間だしアイドルでもないからねぇ? 大学のマドンナとはいえ、彼氏も作ればsexもする…………予定だよ」


 予定なのが絶妙に台無しだ。


「葵くんは冗談で言ってるからいいけど、大学とかではガチで私に夢見てるやついるかりゃなぁ、はぁきっつ。去年とかひどかったぁなぁ」


 少しトーンを落とす一ノ瀬さん。

 去年ていうとあの時か、髪染めてきた時。

 俺もその様子を遠巻きに見てたけどあれはすごかった。


「一ノ瀬さんがイメチェンした時は大学が阿鼻叫喚でしたからね〜」


「ホントだよ、たかが髪染めて、ピアスして、ファッションを変えただけだよ?」


 ……それたかがだろうか?結構じゃない?


「男の影響だぁってみんな嘆き悲しんでたね」


大学の雰囲気もちょっと暗かった。


「そんなわけないっていうのにね……ちなみに興味本位で聞くけど、君はあの時どう思ったの?」


「一ノ瀬さんが髪染めた時、ですか?」


「そ!」


 あの時かぁ。

 あの時は確か……


「なんも思ってないっすねぇ、まあ強いていうならおっぱいの大きな気立ての良い、優しい常識的な彼女が欲しいなぁってくらいです」


「え、それ私じゃん。私をほしいってことじゃーん」


「おっぱいのところは合ってますよね」


「はい?気立て良くて、常識的で、清楚で、くっそかわいくて優しい女性だろうがい」


なんか俺がいったよりも属性追加されてない?


「気建てのいい女性はくっそとか言わない気がするなぁ」


「あら失礼あそばせ? わざとでございますわよ? もちろん」


「そらそうだよね?」


「そらそうです事よ?」


 うわぁー、お酒のせいでクッソ意味の無い会話してる。

 一ノ瀬さんはその間も枝豆をパクリと食べている。

 というかさっきからおつまみのチョイスが華のJDぽくないんよなぁ。

 企業戦士なんだよね。


「でも思ったのよ」


「なにを」


「葵くんは、私にドキドキしなさすぎではないか、と」


 ふっ何を今更。


「すごいドキドキしてるよ?」


「いや全くしてないめ! たまに私のおっぱいに視線いくだけで、私の顔とかみても【おっふ】ってならない!」


「いや「おっふ」は現実ではいないのでは?」


 あとおっぱい見てたの気付かれてたのか!


「まぁ流石にそれは居ないけどさ。私の顔みて赤らめたり、あからさまに口説いてきたり、キョドッたり、そんな感じよ? 世間の男どもは…………まさか」


「まさか?」


「この葵君の反応が気になってしょうがない感じ、これが…………恋?」


 なんか一ノ瀬さんが初めて恋をした人みたいなこと言い始めた。


「それだったらいいねー」


「なんで他人事なの、しかも割とどうでも良さそう」


「だって絶対違うし、多分その感情は初めて得体の知れない異分子とか宇宙人に出会った、みたいな感じよ。ギャルと陰キャの邂逅、見たいな?」


 てかこれがまんまじゃね?言ってて悲しくなってきたな。


「宇宙人、うん言い得て妙だねぇ」 


 そこは否定しようね?


「しかも仮にもし恋とかしてたら、つまみをぽりぽりしながらそういうこと平然と言わんでしょ?」


恋のこのじも感じ取れない。


「……照れ隠しかもしれないよ?」


「大胆な隠し方だぁ」


「「ぷっ」」


 流石に無理があって、2人して軽く笑う。

 この中身のない会話、意外とストレスフリーで気持ちがいい。

 なーんも考えない空っぽの会話だ。


「楽しいね」


「まぁそうだねぇ」


「もういい時間だし一旦でよっかぁ」


 2人してお金を払い、帰途へ。


「ねね!コンビニいこ?」


 もうその言葉だけで分かったこの人酒買いたいんだろう。

 だんだん行動がわかるようになってきちゃったよ……。


 最寄り駅から帰る途中のコンビニでまたお酒を買い、そのまま帰り道でぐいっとする。


「あぁしみるぅぅ」


「さっきも飲んでましたけどね?」


「別腹よ別腹、いやアルコールは肝代謝だから別肝かな?」


 なんか新しい造語を作り始めてるよこのマドンナ。


「それデザートとかで言うやつでは?」


「アルコールは主食でありデザートであり、おやつだよ?」


「ちょっとこのマドンナ何言ってるか分からない」


「まだお子様には早いかぁ、あータバコ吸いたいなぁ」


「そういえば吸ってましたね」


「あ、今さらだけどタバコダメな人?」


 本当に今更過ぎる。


「いえ、親吸ってましたし。昨今じゃ嫌いな人多いですけど、僕は案外嫌いじゃないんですよね、昔を思い出しますので」


「へー変なの〜」


「吸う人に言われたくないよ!」


「吸ってるからこそ偏見浴びることを知ってるんだよ。 大学の喫煙所じゃまだ遠慮して吸ってないしねー、それこそさっきの話だけど男子の夢壊しちゃうかなって」


吸ってるからこそ、ねぇ。


「俺は嫌いじゃないけどね、けだるそうにタバコ吸ってる姿、あ、一ノ瀬さん単体の話じゃなくて全体的に」


「そこは単体って言えよ少年、まぁいいけどそれじゃあ遠慮なく今度ベランダで吸わしてもらうわぁ」


「ほーい」


というかたまにベランダ出て来てたのはタバコのためなのね。

確かに部屋で吸うと匂いとかついちゃうって聞くし。

「……あ、そだ葵くん」


「はい?」


 彼女はさっきまでと同じテンションで、サラッと


「わたしのおっぱい触りたい?」


 「へ?」


 少し前かがみでしかも胸の谷間を寄せながら聞いてくる。


「えっ!?」


 その光景に思わず頭が真っ白になる。


「……ふふじょうだーん」


「なっ!?」


 からかわれた!?


「でも良かった~」


「良くは無いですよ? 触らしてください!」


「いやー!目が獣〜、でも良かったよ君もちゃんとドキドキするんだね?」


「そりゃするよ、触りたいよ!てか触らせろー!」


「そっかそっか」


 そう言って満足そうに、一ノ瀬さんは笑う。

 一方俺大不満足。


「いやーもう大満足だわ今日は、これで気持ちよくねれるー」


「こっちは寝れなそうですが?」


「しょうがないなぁ」


 おっ?


「…………さっき見たもので、抜くことくらい許してあげるよ?」


 なんて私は寛大なのか、この女はほざいてやがる。

 せめてもうちょい見せてくれよ全く。

 もう家は目の前。


 さて、どうしてやろうか。


 そんなことを考えていて、あとアルコールを飲んでいて、意識が散漫としていて、だから、俺は気づかなかった。


 いいやそんなのは言い訳かな。

 多分これはどうしようもなかった。


 「……じゃーおやすみ葵君」


 「はいはい、おやすみおやすみー」


 「むー雑だなぁ、仮にも私は彼女なんですけどー??」


 「はい。分かってますよ、お・や・す・み♡」


 「うわぁきm……、おやすみ」


 「ちょっひいたまんま閉じるな閉じるな」


 「引いてないよひいてない、うんおやすみー」


 「ちょおーいッ」


 全然感情乗ってないんだよなぁ。

 酔った勢いにしては、やりすぎたな、と少し反省。


 するとすぐにスマホが鳴る。



 【おやすみ♡】



 マドンナの何と素直じゃないことか。

 ふっと笑い、振り替えろうとして、目の前の階段で誰かが座っているのが見えた


 暗がりに誰かいる、誰か座っている。


 スワッテイル?


 こんな時期に???


 そいつはぼそりと呟いた。



「……あお」



 俺の名前を。


 え、なにこわ!

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