【ね、デートしよー】
唐突にLINEでそんな怪文章を送ってくるお隣さん。
【…………え?なんで??】
【…………彼女だからだけど??】
【偽装ですけどね??】
【でも写真とか撮ったりしないとおかしいでしょ? あと最近普通に外出てないから、ふらっとしたいなーって】
普通に付き合いたてのカップルならツーショットとかないのはおかしい、かも。
友達に聞かれたときとかにも必要かぁ。
だかしかし
【……昨日外行きませんでしたっけ?】
深夜にメガ牛丼綺麗に平げられてましたよね?
【…………牛丼食べただけじゃない? しかもすぐ帰ったし】
まあ確かにご飯食べてすぐに帰った。
普通に満腹すぎてすぐにでも横になりたかったから。
ちなみに一ノ瀬さんはあのあとコンビニでお酒買ってた。
ほんとこの人好きだよなお酒。
【…………でも俺にも予定ってものが――】
【――あるの?】
食い気味に被せれる言葉。
何を失礼な、俺にだって立派な予定が。
手帳を開いたけど、見えたのはバイトの予定しか入ってない綺麗な予定表。
【…………程々には】
【内容教えて?】
【バイト等…………】
【他には??】
【ゲームのランク上げ?】
ゲームの新シーズンのランクを上げなければえいけない。
【それはキツくない?】
【…………ですよね】
大学のマドンナろの偽装デートが決まった。
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次の日。
駅前で一ノ瀬さんと待ち合わせ。
一ノ瀬さんも俺はもちろん最寄りは一緒、家もまぁほとんど一緒……だけどこういうのは雰囲気というのが大事ということで駅前待ち合わせらしい。
なるほど、深い。
「おまたせ~、待った?」
どっかの漫画で聞いたようなセリフだ。
今日も一ノ瀬さんは相変わらず完璧にきれいでギャルだ。今日のコーデは黒いひざ丈のワンピースに、赤いチェスターコートを羽織り、黒いロングブーツ。ついでにサングラスもかけている。
「いえ今着いたとこですよ、今日の服装は服装でおしゃれでとても綺麗ですね」
「葵君も、いつも通りかっこいいよ? まぁそんな長い付き合いじゃないからしらないんだけどさ」
「かっこいいだけでいいよ、知らんけど、は余計」
「あはは~ちっちゃいことは気にするな?」
「ワカチコワカチコ?」
「のりいいじゃーん」
「そういうのいいですからそろそろ行きましょー?」
そだねー、と一ノ瀬さんも歩き出す。
今回行くのは、みんな大好きららぽ。
複合ショッピングセンターで、映画館や飲食店、雑貨店、ジュエリーなど様々なものが詰まっている。
「葵くんはららぽってよく来る方?」
「ごくたまに、なのでほとんどないですね〜たまーに友人と一緒に、くらいですかね」
「わたしもよん、なんだかんだ結構都会にでちゃうからね〜、なんだかんだ新鮮かなぁ。いいとこ選ぶじゃん!」
「……それは良かったです」
「あり?照れてる?葵くん照れてるのかい?」
「て、照れてないです!」
「あはは〜慣れないとね〜、これから葵くんの自己肯定感爆上げしちゃうからねん、こんなので照れてたら身が持たんよー」
爆上げしてくれるらしい、すごいギャルって感じさすギャル。
俺の手を引っ張り一ノ瀬さんとアウトレットの中へ。
あぁ女の子の手ってこんなに柔らかかったっけ。
確か柔らかかったな。
昔も手を元カノとつないだ時はドキドキしてあんま覚えてないけど、とても緊張したのだけは覚えてる。
つまり今も緊張してる。
「さて、最初どこ行くー?これだけあると悩んじゃうよね」
「そっすね〜、なんか欲しいものとかあります?」
「ん〜服とかはこないだ買ったし〜、あ!ちょっとアクセみにいこーよ」
「……アクセ?」
「そそ、お揃いのとか持ってたらカップルぽいっしょ?」
「あ〜」
お揃い、ねぇ。
「なんかバカップルぽくないですか? そのハートくっつけたり、みたいなやつですよね?」
ギランギランしたようなネックレスとか指輪とか?
「ノンノンノン、確かに私もそれは苦手なんだけどね? そんな甘いカップルは爆発してしまえて思ってるけどね? しかし世の中にはお揃いにしたいけど主張しすぎないのが欲しい!そんなのがあるのよ、さり気なーい感じで、実はおそろい、みたいなのはありじゃない? 葵君が好きそうに言うと2人だけにしか分からない、てかんじ? 2人だけの秘密、的な?」
どう?とこちらの顔色を伺う一ノ瀬さん。
2人だけ、ねぇ。
なんか、なんというか。
「…………ちょっといいすね」
控えめに言ってそういうのは結構好き。
「でしょでしょー!それじゃ見に行こー、手頃な値段の店もあったと思うし」
早速やってきたはジュエリー店。
中は案外人はいない。
まぁ平日っていうのもあるかも、あ〜大学生最高だ。
「……ここ?」
「そ!あんま大学生はつけてないやつだよ〜安すぎず高すぎず、みたいな?」
「なるほどちょうどいい、ってことね?」
「そゆこと〜!じゃ見てこ?」
率先して、一ノ瀬さんが中へ。
あんまりこういう店は入ったことないから前に言ってくれるとありがたい。
一旦彼女についてきた男、的な立ち位置でいこうかな?
「色んな種類あるね〜、葵くんはどんなタイプがいい、とかあったりするー?」
どんなタイプ、とな?
なるほどなるほど。
「ちなみにタイプ、と言いますと?カッコイイ系かカワイイ系か?みたいな感じ?」
自慢ではないけど、オシャレは基本分からない。
服装はダサくない程度に、幼馴染に見繕ってもらうか、無難にジーパンに無地のシャツみたいな感じにしてるからなぁ。
「確かにそういうのもあるね!あとはごつい系がいいか、飾らない控えめ系がいいか、とかかな?ネックレスにこだわりはある?」
その2つで言うなら……
「飾らない系かなぁ?」
「ふむふむ。おっけ、じゃあこれとこれだったらどっちがいい?」
ふたつの選択肢を出してくれる。
十字架と、なんか長方形の石、というかそんな感じのやつ。
それでいくと……
「長方形のやつかなぁ」
「プレート系ねぇ、おっけ。それじゃこれとこれは?ちなこれは私にどっち似合うと思う?」
今度はピンクのハート型か、プレートにハートが入ってるやつか。
うーんどっちが一ノ瀬さんに似合うかなぁ。
でも最終的に彼女は自分で決めそうだし、好みだけで言うかぁ。
「そうだなぁ、一ノ瀬さんにに会うとしたら、ハートかなぁって思うけど……どう?」
一ノ瀬さんの顔を伺うと本人は真剣にうーんと、ふたつを見比べてる。 しげしげと見つめて、そして少しして、うん、と頷く。
「やっぱそうだよね!感性合うねぇ葵くん!」
ひまわりのような笑顔を浮かべてくる。
良かったどうやら間違えてなかったらしい。
「ソロでも使いやすいし、ペアでもいけるし、あんまこういうの持ってなかったのよね〜」
しげしげと物を眺める。
目を輝かせて見る姿は普通に可愛い。
「…………これにしよっか」
「そうしよー」
外に出て、二人眺める。
「いいもの買ったね?」
「ですね」
実はネックレスなんてほとんど持っていなかったので、地味にうれしい。
「じゃあつけて写真でも撮ろっかぁ」
「えー顔写さないでくださいよー?」
「はいはい」
そやってお互いに、ネックレスをつけて自撮り。
なんというか、身体がちかい。
「ちょっともうちょっと近くによって~写真に入んなーい」
え、これ以上?
もうすでに結構近くないか?
ちょっとずつ、にじり寄っていく。
「なんでそんなゆっくりなのよ、ほらもっと寄って!」
腕をつかまれ、抱き着かれる。
そのまま驚いた顔をパシャリとされる。
「……ど、どう?」
「うーん、葵君顔真っ赤だね、しかも固い!」
ふふふ、と笑い始める一ノ瀬さん。
「ちょっと見せてくださいよ」
「いいよーはい」
スマホをよこして一ノ瀬さんが写真を見せてくれる。
そこには可愛く俺の腕に抱き着く一ノ瀬さんの姿。
一方、驚きにかを固まらせ、頬を赤くする俺の姿。
控えめに見て間抜けである。いかにも陰キャと陽キャって感じの構図。
いやちょっと待て。
「一ノ瀬さんもちょっと赤くない?」
「そりゃそうよ、男の子に抱き着くなんて初めてだもん」
すごい堂々と言い切った。
「……でも可愛いっしょ?」
「くやしながら……」
「ながら??」
ニヤニヤとこちらにの顔を窺ってくる。
「控えめに言って、めっちゃかわいい」
「ふえ??」
「すごいね、流石大学のマドンナの名前を好きにしただけあるよ」
もう他人事ながらやっぱり納得だわ。
「ほ、ほめすぎじゃない?」
「いや普段のみまくりギャルだからあれだけど、うん画像だけ見たらすごい。リアルの性格やばいけど」
「……………………んー?」
「確かに写真とか外から見てるだけだったら、染められた、と思われてもしょうがないか、実際は自分で染まっただけなのにね」
「なんかもう分析し始めてない?というか余計な一言多いね!つまり結論は!!」
結論。結論か。
「一ノ瀬様マジマドンナ!!IMMやね」
「うん却下!センスなし!童貞って感じ!」
「ぐふっ」
最後の第五に解く大ダメージを受けた。
「でもま、楽しかったね!」
「はい楽しかったですね」
「じゃ」
「……じゃ?」
え?これで終わりじゃないの?
気持ちよく帰る流れだったよ?
「のみいこー!!」
こののんべぇが。
今日一番の笑顔してるじゃん。