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第12話 巨乳の幼馴染は実在する?

 結局一ノ瀬さんは、その後しょうもないことを言って、【あ、ゲームそろそろ戻るねぇ】とか言って自室に戻っていった。


 しかし俺が童貞だということを聞いた時の反応がとてもにこやかだったのは解せぬない。【一緒だねぇ】って男性と女性では価値がちがっ……。

 しかも質問1個だけって言ったのに【ABCどこまでいったの!!】とかとてもしつこかった。あと恋のABCとか言葉ちょっと古くないか?マドンナのセンス古くない?


 人の童貞がそんなに嬉しいかよ…………はぁ。それはそれとしても──


「──一ノ瀬さんが恋愛したことないのは驚きだよなぁ、モテすぎるってのも考えものだよな……俺には縁遠い話だけど」


 好きでもない人から言い寄られるのは嫌……。確かに女性の立場になったら怖いかもしれない。

 でも欲を言うなら、男性としては一度は経験してみたいかもしれない!!


 その日はそんな妄想を元に、うん、何かが、捗った。やっぱハーレムものしか勝たん。


 そして翌日。起きたらもうお昼。いつもの日常。


 今日も今日とて、カフェのバイトをこなし、帰宅。

 久々の出勤で疲れたしクタクタ。



「なにたべよーかなー」



 時刻は22時。

 ガッツリ食べるのは気が引ける。


 そんなことを考えながら、自宅で一息つく。


 コンビニに買いに行くか、はたまた家にあるカップ麺を食べるか。

 でもなぁゲームもしたいしなぁ……


 そんなことを考えてたらピロン、とスマホの通知音が鳴った。

 画面を見れば……


「げっ、一ノ瀬さん」


 YUME:【深夜の牛丼食べたくない??】


 普通なら無視する。

 無視しないにしても、めんどくさいからご飯もう食べました、とか言う。


 だがしかし、空腹の俺にはとて魅力的な提案だった。一ノ瀬さんのに文章にはご丁寧に牛丼の絵文字までついている。

 それを見た瞬間もう俺の口の中はネギたま牛丼になっていた。


 【ありよりのありですね、いつでも行けます】


 返信すると直ぐに既読がつく。


 【んじゃ外で!5分後!】


 やばい5分もまてないかもしれない。


 バイト帰りで外着のままだし、部屋の外で待っておく。ちょい寒い。

 少しして、一ノ瀬さんは出てきた。


 「やっほお待たせ、待った?」


 一ノ瀬さんの服装は下はデニムで上はオーバーサイズのパーカーの上からコーチジャケットを羽織っているラフな格好。

 いつものギャルっぽい服装とは違うラフな雰囲気を感じて、少しドキッとした。


「…………まあ少しだけ」


 少しぶっきらぼう目な答えに、一ノ瀬さんがノンノンノン、と指を降り始める。


「ダメだよー?【そこは全然待ってないよ??】って言わなきゃ」


 でも話す感じはいつもの一ノ瀬さんだった。


「それデートとかで初々しいカップルが言うやつでは? 深夜の牛丼を食べに行く時の待ち合わせで使う言葉では100パーセントなくない?」


「ま、それはそうかも? あはは!ま、なんでもいいや牛丼行こ〜!」


 相変わらず元気な人だ。

 ただすぐに牛丼屋に行くのは俺も賛成。お腹減った。


「いやー深夜に無性に牛丼食べたくなる時ってあるよね〜」


「罪悪感を抱きながら食べるのが最高に美味しいんだよなぁ、牛丼屋が24時間営業なことに感謝ですね」


 今日は家の近場のすき〇へ。


「すき〇はトッピングとか豊富よね〜、でも吉野〇も捨て難い。まあ最近は近さ重視なんだけど」


「やっぱ近いのは正義」


「ちな、葵君はエンペラーいける?」


 エンペラーって……それすき家〇のメニューには乗っていない裏メニューのことじゃね?ていうか──


「──いやそこは普通キングでは?なんでキングの2倍のエンペラー先に行った?」


 エンペラーって裏の裏の非公式のやつじゃん。

 ちなみにキング牛丼のサイズは牛丼ご飯3杯分、お肉6倍分という量のサイズ。

 他にもコブラ、とか、ゴッドなんてメニューもあったりなかったりするらしい。


「いや葵くんならエンペラー行けるかなーって、知らんけど」


 この人知らんけど、って言えばなんでも許されると思ってないか?

 大学のマドンナどこいった?


「キング、で超無理してぎり。死闘1時間でした」


 あの時は食べ物をなぜ人は食べるのか、なんて哲学まで考え始めてた。

 普通にきつかった。満腹過ぎて椅子から立ち上がれなかったもんね。


「おー、男の子だねぇ、私なんてメガでおなかいっぱいだよ」


「ヒィヒィ俺が言ってる中、隣では幼なじみがペロリと平らげてましたけどね? なんなら追加注文までしてました…………でもメガ食べれるって先輩も結構食べれるんですね〜」


「友達からは【よく食べるのにそのスタイル、それはどこにいってるのよ】ってよく半ギレされるけどね…………葵くんはどこだと思う??」


 艶っぽい表情で一ノ瀬さんが聞いてくる。


「え、そりゃまあ…………」


 それは当然答えはひとつしかないわけで。


「お腹、でしょ?」


「は?」


 艶っぽさが消え、一気に氷点下になった。

 春のはずなのに、冬より寒いぞ??


「誰のお腹がぷにぷにだって?? 普通そこドキドキしながら、【む、胸、とか?】っていうとこじゃない?? なんでお腹?? ん?触ってみるかい?? ぷにぷにしてないから!!」


 な、なんで俺は怒られてるの。

 これがギャル!

 理不尽!!


「じゃ、じゃあ胸?」


「じゃあって!!まあ自分で言っといてなんだけど、その通りだよ!! 胸は少しは大きくなるよ」


 ただでさえ大きいのにもっと大きくなるのか……。じゃあ無限に食べさせたら無限におおきく……


 「あほなこと考えてそうだから言っとくけど胸にだけ行くわけじゃないからね?割合多いだけで! 普通に食べまくってたら太るし、これでも体型維持には気を使ってるからね!ちゃんとジムとかで食べた分運動してるだけ」


「つまり…………自慢?」


「いやちがうよ? 胸が大きくていいことなんてそんなないからね? 普通に肩凝るし服は選択肢減るし」


 昔空もそんなこと言ってたな。


「あーそういや幼馴染も言ってましたね、【大きすぎても困る、胸は結局c-dがちょうどいいんだ】とかなんとか、あ。すき〇着いた」 


「……………………」


「ってあれ? 一ノ瀬さん入らないんですか?」


「……いや入るけど。一つ……いい?」


 何故か入口前で止まり質問してくる一ノ瀬さん。

 俺お腹減ったんだが?


「…………はぁ」


「え、葵くんさっき話してた幼なじみと今の幼なじみ一緒? それとも別??」


 さっきってあれか。牛丼の時のエピソードと今の胸の話か。


「…………一緒ですよ??」


 それがどうしたというのか?

 というか幼馴染なんてそんな数いるもんじゃなくない?


「…………もしかして女の子?」


「ええ」


「…………しかも巨乳の?」


「見たことないから知りませんけど本人曰く」


「しかも胸のサイズ言うってことは結構仲良いし、なんなら家とかも遊びに行く間柄よね?」


 長野の時は家が割と近くだったから漫画とかよく借りに来てたり、ゲームして遊んだりしてた。

 まあ仲良いか仲悪いかで言ったら──


「──ほどほどには仲いいかな?」


 ───【私で卒業しとく??】


 空の話してたら昨日の光景がよみがえってきた。

 赤みがかって少し照れたような表情。いつもの悪友って顔じゃない、女性の顔をしていた空の顔が思い浮かんだ。



 あぁ思い出してしまったぁぁぁッ!!せっかく忘れてたのにぃぃ!



 頭を振りかぶりこないだの記憶を消す。

 そして前を見ると、一ノ瀬さんは一言。


「巨乳の幼なじみって実在したんだ」


 なんか変なこと呟いてた。

 牛丼は2人してメガを頼んだ綺麗に平らげました、と。


 本当にめっちゃ食うなこの人。

 全然キツそうじゃないじゃん。


 そりゃ胸大きくなるよね……。牛みたいに。

 あ、殴んないでごめんなさい冗談です!


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