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第11話 Hなハンドサイン

 【──どうせなら私で童貞卒業しとく?】


 去り際の空が言った言葉が頭から離れない!


 「あぁぁぁぁっ?!もやもやするぅぅぅぅぅ……あっ」


 ぱぁん、という軽快な音が聞こえたのと同時に画面上に強武器でヘッドショットをもらい、ダウンしたことが表示される。

 それをきっかけとしてあえなく味方のパーティーも壊滅。


 チャットでは、「noob(ど素人)」とまで言われる始末。


 「あーゲームも今日はダメだなやめだやめ! あーッ、てか何だよ空のやつ、なーにが私で卒業しとく?だ。 どうしてくれるこのもやもや!」


 空の見た目が無駄に整っているからこそ意識してしまう。

 あー今までただの友達で幼馴染で、いや実際今もそうなんだけど意識していないはずだったのになぁ。

 言葉一つでこんなにも認識って変わるものなのか。


 「あぁぁぁぁもうぅぅぅぅ!!」


 次あいつと会う時気まずいやつじゃん。

 あぁどうしよぉぉぉっ……


 今日ゲームの約束、とかしなくてよかっ……ん?──



 ――「んげっ、空から招待きてる……」



 絶対今喋ったらろくなことにならない。

 あいつのことだから俺がこんなに悩んでると知ったら煽りに煽ってくるにきまってる。そうにちがいない。


 となれば……だ


 「……未読スルーでいくか」


 そうと決まったらすることは簡単。


 まずPCの電源をすぐに落とす。

 これでゲーム上では一切俺に連絡を取れなくなる。


 そんで、更にスマホの電源を一旦切る。

 理由はないけど切っておく。


 「ふー、一仕事終わったぁぁ。コーヒー淹れよ」


 春とはいえ、外はまだ肌寒い。

 今は色々あって火照った頭を冷やしたい。

 ぱぱっとコーヒーを淹れて、備蓄していた氷に浸しアイスコーヒーを作ってベランダに。


 「あァぁぁー疲れだぁぁぁ」


 ベランダの淵に背中を預けて、都会の汚い星空を見ながらコーヒーを一口。

 朝からいろいろなことで疲労した頭に、苦みが染み渡る。


 「どうしたどうした~」


 「うおっ」


 横から金髪がにゅっと飛び出してきた。

 なんか前にもみた光景だなこれ。今回はさすがにコーヒーは噴出さなかった。


 「どうしたどうしたしゃがれた声をだしてさぁぁ、お姉さんが話をきいてやろうかぁぁ?」


 「半分はあんたのせいですけどね~」


 「……え、なんかあったっけ?」


 「あんたの偽装彼氏になったじゃん」


 「たしかに私は良かった―で満足したけど、そりゃ少年は悩むか。大変だね~アオハルアオハルあははは」


 「めっちゃ他人事!」


 「まぁ他人事だからね~」


 けらけらと、一ノ瀬さんはお酒を呷りながら、かるく笑ってくる。

 ホント人生が楽しそうだ。


 「あーそれにしても都会の景色はそんなきれいじゃないね~、ただネオンが見えるだけで」


 なんかポエムチックなこと言い始めた。

 ただ顔がいいからか、かっこつけてる感はない。


 「俺は案外嫌いじゃないけどなぁ、風情も何もないこの無機質な感じの空は。自然なんてそんなの田舎でいくらでも見れるし~」


 「ふーん、そういや葵君の田舎ってどこなの?」


 「田舎は長野の方、一ノ瀬さんは?」


 「んー」


 ストロングなゼロを呷り、缶を片手に首をこてんとまげて一言。


 「……秘密♡」


 うざ


 「うざ」


 「声に出てる声に出てる、そういうのは声に出さずに心で秘めておくものだよ少年」


 「さっきから思ってたけど一歳差で少年はどうなのよ?」


 「おっと辛辣だねぇ、でもお姉さんそういう私に興味ない感じはグッドだよ? まぁおっぱいへの興味はすごくあるみたいだけどね?」


男性はみんなおっぱいには興味あるからね。しょうがない。


 「自分に興味ない感じがいいとかモテる女性はちょっと変わってるねー。さすがギャル」


 「それは個人の趣向でギャル関係なくない? モテるモテるいうし確かに私はモテるけど勘違いしてもらっちゃ困るからいうけど私ビッチじゃないからね?私は恋愛経験ゼロのピュアギャルですからね?」


 「へー」


 「興味なっ!まあいいいけど……あ、コーヒーいいねぇホット?」


 「いやアイス…………ん?」


  …………ん?

  ……………………んん??


 「あれ?聞き間違いじゃなければ、恋愛経験ゼロとか言わなかった? あとピュアとかなんとか」


 言ってないよね。

 さすがに聞き間違いだよね?


 「え、今更? 反応遅くない? いったけど?」


 言ってた!


 なにかおかしなこと言った?とばかりに首を傾げる目の前の猫耳ヘッドホンの一ノ瀬さん。


 「え、モテモテなのに?」


 「モテモテなのに。私自分で見ても可愛いからね〜。見た目重視の人達はいっぱい寄って来るんよね〜」


 ま、そういうのは求めてないんだけど。


 と嫌そうに顔をしかめて、それをお酒で流し込んでいる。

 それに合わせて、俺もコーヒーを呷る


 「…………逆に考えてみ、男がハァハァ言いながらみんな寄ってくるんだよ? 普通に嫌じゃない? 彼氏にしたいと思わんくない?」


 …………確かに。すごい説得力はある。


 「しかもこう見えて私、恋愛に夢見たいタイプだから!オシャレなデートとかクリスマスだね、とかやりたいタイプなわけで。ぶっちゃけチンポでものを考えるような男はお呼びじゃねーーー!」


 マドンナ、魂の叫びだった。

 まあ深夜テンションだからな。しょうがないね。


 ……ん?

 いや違うな?


 「酒もしかして結構飲んでる?」


 「そりゃ女子の必需品だからね?」


 いやそんな化粧をしない女性なんている?社会人ではほとんどいないよね?みたいなノリで言わないでよ。


 「……たぶんちがうよね!」


 「自信なくて草じゃない? まぁその通りなんだけど。正解は女子の必需品じゃなくて、ギャルの必需品でしたー!」


 「え、ギャルのJKも持ってるの?」


 一瞬一ノ瀬さんはきょとんとして、そして。


 「……うん持ってるよ」


 「まじ……ですか。ギャルこわぁぁギャルの時代だけ世紀末じゃん」


 でも確かに歌舞伎場とかのJKも持ってそうだもんね。世紀末か。


 「うん、ギャルの時代は今北斗レベルだよ」


 「思ったよりヒャッハーしてる?!」


 「まぁそれも冗談だけどね~、てか私が恋愛経験ない事教えたんだし、君のことも教えてよ、ね、ね」


 うっ、やっぱそうなるよなぁ。

 女子ってほんと恋愛話好きだよなぁ……うわぁ一ノ瀬さんのお目眼が輝いてらっしゃる。


 「……ほ、ほどほどにしたかな?」


 「あるんだぁぁ! もっと具体的に!」


 ちらっと一ノ瀬さんを見ればもうお目眼キラキラ。さっきよりも輝いてる。

 猫耳のヘッドフォンも相まって、得物を目にしたときの猫くらい、大きな目がまんまるとしている。


 うわこれクラスの女子が、恋愛話になった瞬間食いついて話さないのと一緒だ。

もう逃げられそうにないな。


 「……………………過去に一人だけ」


 すぐおわった話だ。

 たぶん彼女は俺のことなんてはもう覚えてないんだろう。

 異国で楽しくやってるんだろう。


 「あーあんまり聞かないほうよかった感じ??」


 さっきの威勢のよさとは裏腹に、心配そうにこちらを窺う。


 「あんまりいい思い出ではなかったね」


 ちゃんとした別れも言わしてもらえなかった、きっと彼女は

 一時期元カノの件では、空が落ち込んだ俺のことをめっちゃ心配してた。あの件は空も気を使ってか掘り返して話してこない。

 そのくらい当時は引きずってた。今も消化したとはいえ嫌なことにに変わりはない。


 「そっかそっかごめんね聞いちゃって。じゃあ一つだけきかせてすごく重要なことだから」


 すごく重要なこと?


 「え、ええ。どうぞ?」


 「うんそれじゃ……」


 もじもじとして、でも彼女は決心したように目を合わせてしっかりと言い放った。


「彼女とはやったの? ほんとに童貞なの??」


 しかも、親指を握り拳の中から出すハンドサイン付き。そんなジェスチャーすな。というか、


 「あんたもか!!」


 まるで思春期男子みたいな質問してくるな!


 「ふぇ?」


 今日二回目の質問だった。

 二人してそんなに気になるか俺の童貞事情が!


 やってないに決まってるだろ!!(泣)


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