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第7話 朝帰りと偽彼女襲来

「……一体何だったんだ」


 ホテルからなんとか自分の部屋に帰って来た。

 これが所謂朝帰り…………ってやつか。


 シャワーを浴び、布団に寝転んで、ぼーっと部屋の天井のシミを数える。

 ……まあ天井にシミなんてないんだけど、穴がいくつもあるだけなんだけど、なんのためにあるんだこの穴。


 まぁそんなことはどうでも良くて、今日は色々あった。

 なんかめちゃくちゃ密度の濃い時間だった。

 どれ位かって言うと、二郎系ラーメンくらい。

 いや、うーん流石に濃すぎかな、じゃあインスパイア系か?


 現実逃避をやめて今日あったことを思い出してみる……


 朝起きたら、大学のマドンナが横で寝てた。

 気づいたらなんか偽彼氏になってた。


 以上。


 ……あれ?文にするとなんか薄い。

 ニンニクなしのインスパイア系みたいなもんか?

 …………なら大したことないな?


 いや。

 わっかんね、何が何だか。

 というか頭痛いし動くしないな、これが朝帰りの影響かぁ……。

 まじで今日が休みでよかったぁ、二度寝できるし。

 まだお昼の12 時だ。


 夜まで寝たらこの頭痛もまぁ何とかなるかな?


 とりあえず全て忘れよう、いいことを考えよう!いいことそうだ、いいこと良いことそうだ今は春休みだった春休み最高!!


 いろいろ問題山積みだけど、こんなぼやけた頭じゃ何も考えられないし、寝よ。

 寝たらまぁなんとかなるでしょ(希望)


 おやすみ!


 布団に入ると、まだぬくもりがあってすぐに眠気がやってくる。

 あぁいい夢見れそうだ……。


 なんか流行りの女優でも夢に出てこないかな。

 まぁ流行りの女優とか知らないけどさ。

 ……全盛期の深キョンとか出てこないかなぁ。




 そんなしょうもないこと考えたら徐々に睡魔が襲ってくる……。

もう少しで寝れそう……そんなときに。



 ピンポーン。


 ……なんか来た。

 いや来てない。

 聞こえない聞こえない。


 でもなんかたのんでたかな?

 最近密林で買い物した覚えないけどなぁ。


 でも出ないと悪いかなぁ……。

 配送員さんも大変て昨今よく聞くし……でもなぁ。

 そうなのは分かってるんだよなぁ?

 分かってるんだけど!


 「でも布団がなぜか俺を離してくれないからごめん!」 


 再配達の時はちゃんと出るので許して。今回は居留守しよう。

 しょうがない、だってまだお昼だもん。

 大学生はお昼は全員寝てます(確信)


 というかそもSも俺が配送頼むときは絶対夜にしてるし、ちゃんと考えたら違うなこれ。

 じゃあきっとどっかのテレビ局の集金かなんかやろ。

 うん、そうだ。

 よし無視しよう!


 そのまま布団をかぶってすべてを拒絶する。

 夢の続きでも見よう。えーっと深キョンが出てきて俺に惚れるとこまで見たよなたしか。


 ピンポーン


 もう一回来た。

 この集金の人諦めが悪い。


 ピンピンピンんぽーん


 あ、連打してきやがった。

 お、落ち着け俺。

 あの人たちも派遣か何かなんだ。

 必死で営業してるんだ、ある意味無敵の営業マンなんだ。

 多分どっか見習わなきゃいけないところがきっと…………


 だから俺の素晴らしい夢の続きを邪魔するのも…………


 ピンポーン


 見習わなきゃいけないところなんてないよねぇぇぇぇぇつ?!

 見習うところなんてあるわけないじゃん。こんなピンポンする人から!


 もう無理。

 一言文句言ったろ。


 うるさいって!

 近所迷惑だって!お隣のギャルがブチ切れるぞって知らんけど。


 「…………もうなんですかうるさいな!いくら営業だからってやっていい事とだめなことが──」


 「―─なんだ、やっぱりいるじゃん!」


 営業マンにしてはめちゃくちゃ明るい声が聞こえてきた

 というか聞いたことあるぞ。

 なんなら昨日嫌というほど聞いた気がする。


 「…………あ、お隣のギャルになったマドンナ先輩」


 「……ん~なんて? 葵くーん?」


 「あれ?染められたって噂のギャル先輩……ですよね?」


 朝のすっぴんに近い状態と、今の化粧しているときで変わるけど、元が美人だから流石にわかる。

 やっぱり、素顔を活かすようなメイクになるんだろうなぁ、あんまわかんないけど。


 「そう呼ばれてはいるけど!そうじゃなくて、名前で呼んでくれないと!一応ガールフレンド(偽)なんだから!」


 「うわぁ懐かしいですねそのアプリ、昔はやってましたよねぇ」


 「はやってたねぇ……私はやったことないんだけどさ」


 「基本男性用ゲームでしたしねぇ…………そういえばあれの男の人版もありましたよね、たしか」


 「あったあった、でもすぐサービス中止にならなかった?」


 「なりましたなりました」


 まぁなんかわからんけど、やっぱり男性受けと女性受けはなんか違ったんだろうなぁ。


 「……じゃなくて!そんな古のゲームの話はどうでもよくて!」


 ガールフレンド(偽)はもう古なのかぁ……


 「あ、そういえば何しに来たんですか?」


 「話題を逸らすなぁぁぁぁ」


 ばれた。

 なんかめんどくさくなりそうだから、逸らしたのに、ギャル先輩は許してくれない。


 「……なるほど」


 「なるほどじゃなくてー!!」


 「………………」


 二コリ。

 とりあえず笑顔だけ浮かべておく。


 「なんでそんなに名前呼びたくないの~」


 マドンナの純粋な疑問。

 そんなの理由は一つしかない。


 「……葵君別にコミュ障ってわけじゃないし、昨日前に彼女いたこともあるって言ってたから、女の子の名前呼ぶのが苦手っていう訳でもないでしょ~?」


 昨日の俺はどこまで話してるんだ馬鹿野郎。個人情報バレバレやないかい。というかやばい。

 なんか分析が始まった。


 やばい。


 ばれたくない。


 ……名前を呼びたくない、とかじゃなくて、ただただ名前が分からないだけなんて。

 だからさっきからマドンナ先輩とか、ギャル先輩とかよんでいるわけだし。


 だからそんなギャル風なのに論理的に詰めてこないで!


 「ってなると、別の理由だよねぇ……うーん後なんか理由あるかなぁ?うーん、私が可愛すぎる……とか?いやー流石にないよねぇ」


 俺の顔色を伺いながら、違うかぁと頭を悩ませるマドンナ。 


 確かにまぁ可愛いけど。

 性格はなかなかぶっ飛んでいるため一概に何とも言えないけど。でも顔は可愛い、あとおっぱい大きい。


 「…………あ、私の名前分からない!とか?」


 んぐっ……。

 真顔真顔。

 前を向け、こういう時は先に眼を逸らしたほうが負け。


 これでこの人の窺う視線をやり過ごせれば…………


 「え、がち?私の名前知らない?お隣さんだよ?」


 なんか秒でばれた。なんでばれるんだよぉぉぉ!


 「い、いやいやそ、そんなそんな。まさか大学のマドンナの名前分からないなんてあるわけないじゃないですかぁあははははっ」


 あるわけあるんだよなぁ

 苗字はまだいける気がする。

 凛々しいような、お洒落なようなそんな感じだった。

 【い】から始まってちょっと長かった気がする。


 「ならいってみぃ」


 ニヤニヤと底意地の悪そうな笑顔を浮かべる。

 もう完全に名前が分からない、と思い込んでいるナ?


 「い、市ヶ谷…………ですよね?」


 そう答えうろ、オッとなった顔になった。


 「おぉ、いいじゃんその調子。じゃあ下の名前は?」


 なんかしらんが当たったっぽい。奇跡!!

 だけどもはや下の名前についてはもう検討すらつかない。

 もう後は顔つきからこんな感じと割り当てるしかない。


 よし!


 「うるは……ですよね?」


 そう言った瞬間、目を見開く。

 まるで当たるとは思わなかったみたいに。


 「まじか……」


 そういいたいのはこっちのセリフである。当たっちゃったよ……。

 もしかしなくても、俺占い師とかで儲けられるんじゃないか?


 「じゃあ正解いうね、私の名前は~」


 ドキドキ。

 当たってると分かっていてもこういうのってドキドキする。


 「私の名前は一ノ瀬 夢でした!一文字しかあってないよーん!」


 「…………ほぇ?」


 「あははは、なにその間抜けな顔、面白い!」


 一方こちらはそれどころではない。


 「え?市ヶ谷うるはじゃないの?」


 「誰よそれ、どこの女と間違えてるの!!」


 ど、どこの女。

 どこの女と言えば……


 「あ、頭のなか?」


 「はいはい、このセリフ1回使ってみたかったんだよね~。というか今度は覚えておいて〜、自己紹介2回もするのなんか恥ずいんだから!」


 「す、すんません」


 「おっけ、じゃあこの流れで行ってみよ!」


 い、いってみよ!?

 なにを?


 「な、なにを?」


 「だーからーなまえ!」


 なまえ、名前ね。

 おっけ。

 それくらい余裕。


 「あ、彼氏っぽく呼び捨てでいかにも呼び慣れてます感でよろ?」


 いかにも呼び慣れてます感!?!?

 なんぞやそれ。

 注文が多いな!


 「ほらほらはやーく」


 男だ俺。

 これくらい、なんともない。


「い……ゆ、ゆめ」


 少しだる目に、でもハッキリと。

 雰囲気は良い声の声優さんを意識して。


 どうだ!


「ぶふっ!?」


「なにわろてんねん!!」


「ごめんごめん、自然にって言ったのにあんまりにもキメ顔だからつい、か、かっこよかったよ?」


 ただあまりに面白かったのかずっと笑ってる。

 終いには腹を抑え始めて笑い始める。


 もうそこには、お淑やかなマドンナの姿は無い。これが大学のマドンナか。


 というか笑いすぎじゃね?



「それで結局なんの用ですか?用終わったなら帰って欲しいんですけど?」


「ごめんごめん、そんな拗ねないで?来た用件はちゃんとあるから」


「じゃあさっさと済ましてください」


 もうなんか疲れた。朝から何故かとっても疲れた。


「はいはい、じゃちょっとまってて」


 パタパタと一旦部屋から出ていく一ノ瀬さん。

 一瞬鍵を閉めるかも悩んだがさすがに辞めた。あとが怖い鬼ピンポンされそう


 直ぐに戻ってきた彼女の手にはひとつの鍋。


「なにそれ?」


「これ渡したくて、さ」


 鍋の中身は何かの料理っぽい。


「朝体調悪そーにしてたからぱぱっと作っといたんよ、ポトフ!」


「て、手作り?」


「もちよ!私料理できる系なんで!」


 確かにマドンナならできそうだけど、ギャルの今だと何故かギャップがある。


「……料理できる女、偽彼女役に良くない?」


 上目づかいでいうその姿に…………ちょっとグッときた。

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