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第5話 夜更けの後には……

「いぇぇぇぇい!!楽しんでるかーい?」


 テンション爆アゲで騒ぐギャル。周囲に配慮はしているのか、絶妙な声量で騒ぐという高等芸をさらっと披露してる。

 本当にさっきまで吐いてたのかと思うくらいハイテンションでゲラゲラとしてるけど大丈夫なの?


「後輩くんあっち向いてホイも弱いねぇぇぇ、わたしまた勝っちゃったよぉぉ?」


 まぁ酔っ払いに本気になるのもね?大人気ないっていうか?


「いやいや華を持たせてあげるのがさ、ジェントルマンとして当然という」


「ハイハイ負け惜しみ乙、もういっかいやろー」


 このあま

 小憎たらしい笑顔で言ってきやがって。本当に人を煽るのが上手いねっ!

 ギャルってみんなそうなのか?そうだなきっとそうに違いない!


「ま、まあ俺は大人だから?」


「自信ないんだぁ……?」



 ニヤニヤと見下してくる。


 ほ、ほほぅ?

 俺は大人だからな。


「やってやりましょうよ!」


 舐められっぱなしでなんて居られないよね俺も男だし。


「ほんともうちょろいわぁ……」


「……え?なんて?」


「いや、なーんも。どうせ私が勝っちゃうんだろうなーって思って。あー負けが知りたいわー?」


 にやにやと煽るような笑みが俺のハートに火をつける。


 「そこまで言われたらやるしかないでしょうよぅ?!」


 お互いに拳を構えて、


 「「じゃんけんほい」」


 あっちがパーで、こっちはグー。

 負けた。まぁまぁ、ここは前哨戦。


 知っているか?

 あっちむいてほいというゲームは、じゃんけんで勝っただけじゃ終わらない。

 その後相手の指と、自分の首が同じに方向に向かなければ負けない。2回もチャンスがあるわけだ。


 故に焦る必要なんてこれっぽっちもない。

 ましてや一発目で勝つ確率なんてそれこそ神に愛されてでもいなければ……



 「あっちむいてほい!」


 「ほい!」


 俺が向いたのは下。

 最初は馬鹿正直に首を動かしてしまったのが敗因だったから今回は一瞬横にフェイントも入れた。

 ……だから決して横を向こうとしたら胸の谷間があって、慌てて首を下に向けたわけではない。 フェイントだから。


 ただ念のため言っておくと、あまりにもあれだ。格好がエロい。その大きさを強調させるような服も良くないと思うんだよね、大人だから我慢できてるけど普通なら悩殺だと思う。


 ……それはそれとしてひとまずはあっちむいてほいだ。

 多分彼女は俺の完璧なフェイントに引っかかって横をさしているはず。

 だから次こそはまずじゃんけんで勝つ。



 一発で決めてやる。

 次はパーをまずだし、そのあとは……



 「いえぇぇぇぇい、また私のかちぃぃぃい?!」


 その後なんてなかった。


 「……ほぇ?」 


 前を見れば彼女は左の親指を下に下げている。

 負けた。


 「……って普通に侮辱してるやないかぃぃぃおい!」


 「あ、間違えちゃっててへぺろ」


 「てへぺろじゃねぇぇぇ!」


 可愛らしいポーズで、許して?みたいにやってくるこのギャル。腹立たしい。

 そのポーズをみてふと俺は思った。思っちゃった。


 ……なんで俺こんなことしてるんだろ。


 冷静になってしまった。


 なんかもうあっち向いてほいとかどうでもよくなった。なんで俺はこんなことに熱くなっているんだ。

 というか……


「ちょっときつくない?」


「ぐふっ」


「初めて見たよ、てへぺろがちでやる人。なんというか、うん。いいと思うよ」


「……げふっ」


「ああいうのはネットとかで文字でやるのが正解なんだなうん」



「……し、死体蹴りは酷くない?さ、最初の一言だけでいいんじゃない?」


「ギャルで可愛い人がやってもこうなるんだ……うんなんかあれだね」


 一周まわって俺悪くないのに申し訳なくなってきたもん。 


「てへぺろがきついのなんて分かってるよ?でもこれはその場ののりというか、さ。お酒飲んだもの同士のさ?そういうものじゃない?」


 あー飲み会の雰囲気でやる流れね。

 わかるわかる、でもさ……


「俺素面だもん」


「なんで!!」


「飲んでないからだね」


「飲みなよ!!」



 うわぁめんどくさぁ。



「うわめんどくさ」



「口に出てる口に出てる」



「あ、ミスった」



「棒読み乙」



 真冬に叫ぶギャルと一般大学生。



「くそぅ、恥かいた。もう知らない!もっと飲んでやる!」


 恥かいたって自分からノリノリでやってなかった?

 これ普通に自爆じゃない? 



「いやちょ待て、あんたさっきも死ぬほど飲んで吐いたんじゃ……」 


 俺が止める間もなく、ほろよいをぐびぐびと飲んでいる。


「ちょまてってキムタクさんじゃん古ぅ」


「ちゃんとキムタクにさんをつけてるのは偉い!でも古くない!」


「まぁ他人だからね当然よ」 

 その間もぐびぐび飲んでる。あ、2本目いった。ほろよいならまぁいいよね度数低いし。二日酔いにもならないだろう。


 俺も彼女につられてあんだけ喋ってたからか、めちゃくちゃのど乾いた。



「飲み物なんかもらってもいい?」


 アルコール入ってないのもあるよね?それっぽい缶を適当にとる。


「好きにのみー」


 無事許可ももらったので、適当な缶を一つ。

 とりあえず一本。

 缶プルを開けてプシュと開ける。


「……あ、でも私お酒しか買ってないけどって……もう飲んでるじゃん」


 あ、これ酒かぁ。

 うんまぁ。


 この喉をぐぶぐびと痛めている感じが、たまらない。



「ぷはぁ、うんまぁぁぁ」


「めちゃくちゃいい飲みっぷりだ)!」よっ男前!」


「えーそ、そうかな?はははぁ」


 気分がいい。

 気分がいいぞあははははは。


「って、え?大丈夫?一気にの、飲みすぎじゃない?」


「ライジョーブライジョブ。余裕のピース」


「待って待ってさっきとキャラ変わってない? お酒飲むの止めたほうが」


「なにいってるんどしぇ?余裕よ」


「……余裕、余裕かぁ。ならいっか、のも-!」


 余裕に決まってる。お酒の1本で酔っ払うなんてそんなまさか。


「おーのむぞぉぉ!」


「おーー!」



 かろうじてこんな会話をしたのは、そこまでは覚えている。


 そして現在に至る。


「おはよ?」


「……おは……うえぇ?」




 朝起きたら知らない天井だった。ついでに名前も知らないお隣のギャルが上から覗き込んでいた。




 ひぇ?



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