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第4話 夜の公園で楽しいことを


 「でさー、【あんたはいいよねー、男の方から寄ってくるから】だってさ。いやなんなん? 別に寄ってきてほしいわけじゃないし、この髪だって服だって私が可愛いと思ってるから今回やってるだけだし! それが何で大学のやつらに男に染められた、とか噂されなきゃいけないのよばーーか!」



 一息切れたと同時に、片手に持っていたストロングをぐびっと飲むお隣さん。

 中々に荒れてらっしゃる。


 まぁ要は男なんていないのに好きでイメチェンしてあらぬことを言われるのが癪だってことか。

 それに合わせて女友達に言われるのもめんどい、と話を聞くとそんな感じだ。



 「っあああ、シミわたるぅぅぅぅ!」


 さっきからお隣のギャルはこんな調子でふちを言い酒を飲みまた愚痴を言うその繰り返し。

 このギャルかれこれ30分ぐらいはこのまんま。


 最初こそおっぱい大きなノートかしてくれるギャルだったのに、今じゃただの飲んだくれである。


 「ほれほれ飲んでないな青年!?お主も飲みたまえよ?青年」


 挙句の果てには絡み酒までしてくる始末。


「はぁもう飲みすぎじゃないですか?お酒結構飲んできたんでしょ?というかそろそろやめて家に戻りません?」


 ぶっちゃけ近くの公園で話を聞いているが、そろそろ寒くなってきた。

 まーじでダウンきてきてよかった。薄着だったら死んでたね。


 それにしてもこのお隣さん、寒くないのかな?

 冬には寒そうなミニスカだぞ? 一応黒タイツにロングコート来てるけどそれでも寒くない?


「えー?もう家に帰りたいのー?お姉さんと公園で楽しいことしよーよー?」


 公園で楽しいこと?

 この酔っぱらいと?


 嫌な予感しかしない。

 でも期待に胸を寄せてしまうのは男の性か。


「た、楽しいこと?」


「あー気になるんだぁ……それはも・ち・ろ・ん」


「も、もちろん?」


「お」


「お?」


 ゴクリ。


 お、ってなんだよ!

 お、おってまさか ……お、お、ぱーい?


「お・し・ず・も・う?」


 無駄に吐息のかかる甘ったるい声で言いやがった。

 なんだよ押し相撲って!

 でもなんかそういう感じだとは思ってたわくそ!!

 まんまと乗せられたのも腹立たしい。


「いや酔っ払ってるんだから、まずあなた立てないでしょ?」


 残念半分、呆れながら諭すが…………


 ブチッ。


「……酔っ払いなめんなよ?」


 どうやら変なキレポイントを踏んだらしい。


「酔っ払いが危ないから言ってるんだが??」


「ほらやるよ!!」


 えー……ほんとにやんの?


 あなたミニスカヒールでブーツなの覚えてらっしゃる?

 ほら今もフラフラしてるし。


「男なのに逃げるのー?このへっぽこー」


 は、はい?

 まあこっちは大人だ。

 酔っぱらいの戯言くらい軽く聞き流して、家に送り届けてやるさ。


「あ、わかった!怖いんだァ女の子に負けるのが。でもそっかァそうだよねぇ?君ひょろっとした体型してるもんねぇ?」


 ほ、ほほう。

 カームダウン。

 ステイマイビッグボーイ。

 ユーは強し!


「は?俺のこの服の下には立派にシックスパックに割れた筋肉の塊があるんだが?」


「へぇじゃあ証明してみぃ?」


「やったりましょうとも!」


「いいよ!?」


 絶対勝ってやるからな!


「よーい……はい!」


 スタートと同時にどん、と手の平を思い切り押された!

 彼女の手は意外にも小さくて……じゃない!?


「ぬぉっ!?」


 体勢がぐらつくがぁ、気合いで立て直す。

 舐めるなよこれでも俺の体育の成績は調子良ければ4あったんだからな!?


「おー、耐えた耐えた!じゃもっと行くよ?」


 よっ!ほっ!


 彼女が押し込もうとする度に俺の手とギャルの手が当たる。


 今気づいた。

 ついでに、彼女から香水の香りなのかめちゃくちゃいい匂いがする。

 まずい。これはまずい。

 お酒のせいかボディとボディの距離が近く、なんか女性の艶めかしさも感じちゃうんだけど。


 しかし負ける訳にも行かない。

 身体は目の前のギャルの一挙手一投足に目を凝らしながら、しかし思考は目の前のギャルの香りに全集中。


「ふふふゥ、集中が切れてきたようだね?少年?」


 目の前の人は運動したからか顔に赤みが少し増してる。

 まあ恥ずかしがってるってこともないだろうし、運動したからだろう。


「今だからこそこれが効くのよ!!ほいっ!」


 そうして、彼女は押してきた。

 俺の乳頭を的確に。


 「ぐふっ!?」


 思わず自分の胸をおさえたところに、


 「はいどーん!」


 トドメの一撃で思いっきり押される。


「くおっと!?」


 たえろ。

 耐えてくれぇぇぇぇ。


 思いっきり耐えるように仰け反り仰け反り、仰け反り続ける。


「おぉぉ、体柔らかいねぇ。手を使わないでそこまで逸れるなんて。じゃあえいっ!!」


 お酒の勢いなのか俺が必死に耐え、余裕のない状態なのをいいことに今度は脇に手をおいてくる。


 っておいまさかあんた!?

 お、鬼か!?


 まさかこちょこちょなんて……


 顔が見えないからどんな表情はしているかは分からないが多分きっとろくな顔をしていない。


 こちょこちょ。


 「あははははっ!」


 くすぐられてあえなく俺は撃沈。

 こう見えて、俺はこちょこちょにめっぽう弱い。


 「いぇーい私の勝ちぃぃぃぃぃふぅぅぅっ!」


 いい大人がずるして買って喜んでいる。

 しかも割と本気で喜んでやがる。


 な、なんだこのくそぎゃるがぁぁ。


 と思ったら今度は、いきなりしゅんと黙る。

 さっきまで笑顔だったから急に黙られると困るんだが?


「…………きもちわるい」


「……うぇ!?」


「き、きもてぃわるいて……」


 ま、まじ?

 良く見れば顔もさっきまでは赤かったのにうっすら青い気がする。


「とりあえずトイレあるからそこまで行くよ?」


「うん……」


 公園のトイレまで送り、吐いてる音は聞かれたくないだろうからその間に水を買っておく。

 ちょうど自販機で買い戻るのと彼女がトイレから出てくるのは同じタイミングだった。


「水一応買ってきたけどいるー?」


「いりゅ!」


 奪い取るように水を取り、ごくごくと豪快に。

 半分ほど飲んで、ようやく水を手放す。


「生き返ったァァァ、ありがと後輩くん!」


 赤みが少し増し、その笑顔はとても魅力的だった。


「しゃぁぁぁ、のみなおすぞおぉぉ!私の怒りは止まらない!!」


「やめれ!!」


 やっぱさっきの笑顔憎たらしくなってきた。

 そんな感じで夜は更けていく。


 あれ、なんか忘れてるような気が……まぁいっか!

 未来のことは未来の俺が考えるでしょ!


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