テスト期間が終われば、無事春休み。

　大学生にとって最高に楽しい時間。

　最っ高に怠惰な日々。

　バイトと遊びに行く以外、家から出ず、エアコンの効いた快適な部屋で過ごす毎日。

　スマホゲームをしたり、映画を見たり。

　「控えめに言って最高過ぎる、一生春休みだったらいいのに」

　『……何バカなこと言ってんの？　日常があるから休みが映えるの。ずっと休みなのはそれはそれで辛いものよ……聞いた話だけど』

　返答してきたのは、幼馴染の空。

　「って聞いた話かよ！そんなの1個人の感想だろー？」

　『絶賛自宅警備員中の我が愚兄からの一言だから信用度高いよ？』

　それは信頼度高いわな？

　幼馴染の空には一人兄がいる。

　もう10年以上引きこもっているのに、なぜかお金は定期的に家に入れているという不思議な兄上。

　俺の予想では多分株とかやっていると思う、昔から無駄に天才だったし。

　「それは確かに……」

　『あ、即答したねいっとこーっと。それよりも敵どこにいるの』

　「ぜーんぜん分からん」

　今俺は空と共に、最近流行りのFPSゲームAPE○をやっている。

　俺も空も無駄にやりこんでいるので、結構強い。

　結構やっているおかげで、いつも上から2番目のマスターというランクまではいっていた。

　1時期はプレデターという全世界で750人しか入れないランクで2桁にもなっていたが、時間がきつすぎてやるのをやめた。

　今は俺と空ともう1人で3人楽しくエンジョイ勢。

　いつもは3人一緒にやっている人もいるが、生憎と今日はいないので二人でランクを回している。

　『ってうわ、敵地のど真ん中に入っちゃった、ダウンするダウンするぅぅぅ』

　ちょっと前にいた幼馴染のいきなりの悲鳴。

　俺も慌てて、空を助けるために敵をみつけて球を撃ってカバーしにいく。

　空のことを撃っている敵を気絶させ、別パーティーにもちょっかいをかけて相手の体力を削る。

　ここまでやれば、空も体力とかを回復できるはず。

　『ないカバ、せんきゅっ、chu♡』

　「おえっ」

　『ぶっ○すぞこの野郎……あ』

　「なんだその不穏な声」

　『敵全部、そっち行った……かも……？』

　「……は？」

　空の声で言われて、撃った敵の方向を見れば一目散にみなこちらへ向かってきている。

　どうやら全員分の殺意が俺へと向いたらしい。

　ちょうど別パーティー同士膠着状態になったらしく、横から撃ってはダメージを与えてくるうざい俺をやりに来た模様。

　まぁ持ってた武器もそういうちくちくする系だったしな、気持ちはわかる気持ちは

　まぁそれはそれとして……

　「カバー、カバーplzぅぅぅぅう」

　とりあえずヘルプミー！！

　しんじゃうしんじゃうしにたくなーい！！

　「ごめん無理」

　即答かよおい。

　総勢、6人による俺への集中フォーカス。集中とフォーカスが被ってるけどそんなこと気にしないそれくらい焦ってるわけ。

　それでも何とか倒そうと必死に立ち回るけど……

　「俺のキャラそもそもデブキャラで立ち回れねぇぇぇんだよぉぉ、というかチーミングじゃね？変な連携見せないで貰っていいですかねぇ？？」

　チーミングとは本来敵同士のはずなのに、お互いに協力して一人の敵を倒したりする害悪プレイのこと。

　2－3人ダウンを取り、他の敵キャラも5分に1回しか使えない必殺技の爆撃で体力を削るもそこであえなくダウン。

　俺をやったあと、敵どうしももお互いやりあいはじめるだろうから、空が来ればなんとか倒し切って、俺は何とか生きられ……ってぇぇぇッ。

　「確殺厨かよぉぉぉ」

　俺あえなく死亡。

　思ったよりも敵の殺意は高かったらしい。

　「後はまかしとき？」

　疲弊している相手を全部綺麗に平らげていく空。

　さすがプレ2桁。世界でも100人しかいないクラスの上手さだ。

　蘇生された敵も合わせて美味しく奴が頂いていく。

　そしてすべてを取り切り、一言。

　『うんまぁぁぁぁっ』

　多分今空の脳内はアドレナリンドバドバだと思う。

　これが脳汁出てるってやつだね。

　【そんなちくちくする武器持ってるからヘイト向くんだよ。ちくちくするから】

　今お前も俺にちくちくしてるけどね？？

　まぁでも空の言うことも事実なんだけどね。

　ちくちくは、プレイヤーからは嫌われてるし、俺も撃たれたらいらつく。

　でもなぜか自分が打つときは最高に気持ちいいんだよなぁこれ。

　【だから彼女出来ないんだぞ？】

　「おっとそれは喧嘩かな？戦争かな？……というかお前だっていないじゃん」

　「えーでもわたしまぁまぁ可愛いし……控えめに言って。だからいないけど告白はされてる。つまり私は選択的ソロプレイ。そしてあんたは非選択的ソロプレイ、オナニスト。おーけー？」

　「のっとおっけ！！」

　控えめに言ってそれかよ。まぁ美形なのは事実だから余計癪に障る。

　性格は男っぽいけど。男っぽいけど！！

　「いや過程は大事じゃない！大事なのは結果！恋人なしという結果のみ！！」

　「ふっ、まぁまぁそういうことにしときましょうかぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ！くそきもぼけかすぅぅぅぅぅぅ！！」

　空も調子に乗ってたから、無事遠距離から狙撃されて空様無事発狂。

　ふっ天罰だ……

　「あ、エナドリ切れたわ。俺ちょいエナドリ買いにコンビニいってくる」

　『りょ―適当に弾撃ってるねー』

　一旦ゲームから落ち、軽く身だしなみを整えて部屋を出る。

「うーさっむ……」

　春休みとはいっても季節は2月。そりゃまださむい。

　手をこすりながらエレベータを待っていると、すぐに下からやってくる。

　どうやら誰か乗っているらしい。

　俺の階で降りるらしく、。出てくる人が外に出やすいように脇によけておく。

　が、一向に目の前の気配はエレベーターを降りた後、動く気配がない。

　不思議に思って目を前に向ければ、こちらを見やる一人の女性。

　「よっ！」

　「……えっ」

　誰？

　こんなきらきらギャルみたいな人知らないんだけど。

　「……ども」

　うわこわぁ絡まれないようにしよ。

　多分会話してあげたから1万くれとか言われるんだ、そんなことがあったと友達が言っていた。

　お金払いたくないし、はやくエレベーターに乗ろっと。

　ギャルの横をすり抜け……ようとしてできなかった。

　「どーこいくの？」

　おっぱいでブロックされた。

　どん、と。

　もにゅんとした感触がした気がする？したか？したはずだ。

　「……こ、ここコンビニですけど？」

　一瞬どもったけど、即座に切返す。

　けしておっパイにドギマギした訳では無い。ないったらない。

　「そっかそっかちょどいいね、じゃあ私もいこっと」

　「な、なんで？」

　ほんとに何で？

　「私もさっきまで友達と飲んでたんだけどさー、みんな彼氏のとこ行くーって言って帰えられちゃって……。私まだ飲み足りないからやけ酒？のためのお酒とか買い足したかったのよ？」

　「そうなんですね、じゃじゃあどうぞ？」

　とりあえずエレベーターにのり下へ。

　｢てかこないだのテストどうだったー？大丈夫だったとは思うけど……？｣

　テスト？

　テストってなに？なんのはなし？

　｢え？｣

　｢いやだからこの間私が見せたノート！のはなし！大丈夫だた？ちょっと心配だったんだよねぇ自分が酔った状態で教えたやつだったから。あの時私チルタイムだったから若干、というか結構ふわってしてたし｣

　テストを……教えた？

　……え？まって？

　｢もしかして……お隣の名無しの猫耳ギャル？……さん？｣

　｢どんな覚え方されてんの私！ウケる｣

　あははとお腹を抱えて笑う彼女。

　その拍子に軽くフラッとよろけたのを肩を抑える。

　だ、大丈夫だよね？セクハラにならないよね？

　人命救助だよね？

　あれ？でも昨今の世の中は、心肺蘇生のために、服を開いたらつかまったりもしたような……

　ぐーで触れば指紋は残らないよな？

　「ありがとー、お酒のせいでちょっとよろけちゃった？」

　「ちゃんと立ってくださいねぇ」

　しゃんと立たせ、出来る限り早く手を放す。

　離そうとしたんだが……

　「にひっ、つーかまえた」

　酔っ払いに腕をつかまれた。

　セクハラが怖いので離してほしくてもこのギャルなかなか力が強い。

　……あれ？これ逆にセクハラで行けるか？

　嫌だめだ！世間の小うるさいやつらはダブルスタンダードで女性にだけ優しい。

　この状態からでも、セクハラにされるはず！（確信）

　だめだ、迂闊に離せない！

　「コンビニ一緒にいこっか、方面一緒だし」

　「離す気ないじゃないですか」

　「んじゃはなそっと」

　お、素直にはなしてくれた。

　ならこのまま別の方向に。

　「テスト教えてあげた人の誘いは、ふーつーう断らないよねぇ？」

　エレベーターを出て反対方向に行こうとしてた俺に、後ろから無視できない声。

　「ギャルな私は悲しいなぁ……私の努力がにじむ、年月の結晶ともいうノートも貸してあげたのになぁ……」

　うぐっ。

　よよよと袖口で涙を見せる鳴きまねまで。

　「どうせ私は使い捨てられるのね……うぅぅ」

　と物騒なことまで言い始める始末。

　「うぐっ……いきましょう……か？」

　「なんでそんなに苦虫をつぶしたような顔してるの？　大丈夫本当にただコンビニ行くだけだから！」

　なにそのちょっと休憩するだけだから！みたいな嘘っぽい言葉は。

　こ、これはギャルに襲われる…的な奴か？

「ほら、いこー？」

　不覚にもその屈託のない笑みにどきりとしたのは内緒だ。