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第2話 猫耳ギャル

今日の分のテストが終わった。


 「お、終わった」


 いろんな意味を終わった。だけど微かな希望もまだ残ってる。

 不幸中の幸いにして昨日お隣さんが教えてくれたところも問題に出ていて、ちゃんと全部書けたこと。そこは何とかなってるはず。

 あとは祈るのみだ。

 過去は振り返らず明日に備えなくては……そう分かっているのに体は動い鵜てくれない。


「…………きっつううぅぅ」


 それにしてもきつい。

 何がきつい って、今日がテストの最終日じゃないこと。

 まだあと1日残っている。テスト3日目って一番しんどい時だよね。


 しかも残っている科目は、宗教とは何かみたいな話の宗教学と、この絵にはどのような意味が込められているのか、その歴史とはといった美術史の二つの科目。どちらも当時の感性を考えて答えなきゃいけない。

 問題なのは、そう言った感性は授業を聞いていないと分からない、ってこと。

 レポートは、それなりにまとめたつもりだけど、(ぐ〇ぐる先生の解説と、教科書の解説を独自解釈した)、いかんせんテストがわからんぬ。


 「……だけど何とかなるんだなこれが」


 昨日の俺とは違うんだ。

 今日は早めに幼馴染へと連絡を入れた。

 前期にどちらの強化もSをとったって幼馴染の空は息巻いていたからな、教えてもらった通りにやれば問題ナッシング。

 俺の単位は安全なわけだ。


 ao:【なぁ空、宗教学と美術史の写真で送った箇所のこの解釈の仕方を教えてほしい、代わりに近世現代史教えるから!】


 俺がラインを送るとすぐに返信が立て続けに来る。

 通知には写真とコメントが表示されている。

 空のやつ早速写真を送ってくれたってことだ。


 持つべきものは幼馴染、ってことやなぁ

 幼馴染居ないみんなざまぁ!!


 期待を込めて、ラインを開く。

 表示された写真には5人の女性が、某ネズミーランドでいろんな耳をつけ後ろ向きに片手を上げている姿が映っている。

 その姿は某海賊漫画のアラバスタ編で、【最後の俺たちはどこにいても仲間だ】的なポーズ。

 写真に加えて、いえーい✌と楽しそうな文章も追加で入ってる。


 間違いなく俺が望んだテストの答えとは違う写真だ。


 ao:【……これつまり??】


 多分これ友達同士に送ろうとしたのを間違えて送っちゃった感じだな?

 先週の土日とかのやつだろうな。テスト勉強しないで余裕だなー、まったくおっちょこちょいさんなんだから。


 sky:【今夢の国で打ち上げしてるから】


 ao:【え……お前も明日テストだろ?】


 sky:【甘いね、大学のテストは今日の午前まで。高校とは違うのだよ高校とは。いつから自分と私が同じ日程だと勘違いしていた?】


 ao:【なん…………だとっ?!】


 sky:【後ついでに、葵が今季講義受けている講師、私の受けてた先生と違うから内容がさっぱりわからんぬ☆やっている内容違うらしいしねー】


 あれ?

 あれれれぇぇぇx?

 おっかしいぞぉぉぉお?


 ☆じゃねぇぇぇぇぇっ!?


 「……しまったぁぁぁぁぁぁ、この授業二人講師がいるのか!!」


 思ったんだよ途中で。

 こんな眠くなる講師でSの単位なんてとれるのか?って。

 空の話だと講義途中に小話とか入れるって言ってたのに、全然小話入れないなーって。


 他にもおかしな点はあった。

 「結構イケおじだよ?」って言ってたのに、来た男性は禿デブだったし。

 それを見た時、幼馴染である空の感性やばいなって、いけてるラインやばいなってちょっと引いてたけど違ったのか。

 俺が男の趣味選びなよ?みたいなことを進言するかで悩んだ時間かえせぇぇぇ!


 「あの時聞いてついでに進言しておけばよかったっ!!」


 【空ってB専なんだな、そりゃ彼氏作らないわけだ。でも人それぞれ趣味ってあるしな俺は引かないで接してあげよう】、と納得しちゃった俺をぶん殴りてぇぇ!!


 sky:【私は自由だぁぁぁぁぁぁあ】



 そんな言葉を最後にラインを締めくくりやがったくそが。

 多分空は夢の国にさらわれた。俺が一人もがき苦しんでいるというのにネズミランド?それは幼馴染としてどうなんだろ?

 やっぱ旅は道連れていうしさ。

 早い話が、そんな幸せなまま夢の国に行かせてたまるかって話だよ。


 ao:【夢の国のマンションには、幽霊が出て、最上階で写真映る時に一緒にピースしてくれるらしいよ】


 最後にそんなお得な情報を送っておいた。

 その後、なんか鬼のように通知がきてる気がするが、生憎と俺はテスト勉強で忙しいため見れないんだよねごめんね☆

 多分空は俺のお得情報に喜んでいるだろうからきっと感謝のラインだうんきっとそう。


 ちなみに幼馴染は幽霊系マジでダメだったりする。

 今頃は楽しく友達と夢の国で遊んでいるだろう、まぁ別の意味で夢の国になってたりしてあはっ。


 「ふぅ、いい仕事したなぁ」


 なんか無駄に一仕事したような満足感がある。

 でもひとつ分かったことがある、幼馴染がいてもしょうがないってことだ。

 幼馴染いない人煽ってごめんなさい、わたしは負けました。


 「よっし、一旦寝よう」


 まだ、時刻は17時。

 焦るような時間帯じゃない。


 今日のテストで脳の灰色の細胞が疲弊しているから休ませないといけないし。

 うん仮眠仮眠。

 ナップタイムは大事ってなんかの論文にも書いてあった気がす……zzz。






 「よっしやるかぁぁぁ!」



 起きたぁぁぁ。

 俺の感覚でいえば19時。2時間の仮眠。

 全然余裕。完全に計画通りである。

 こっからテスト勉強したら明日のテストは万全……おぉぉぉぉぉっ?!


 「……え、い、1時……?」


 明日のテストどころか今日のテストになってるやん!

 目を何度もこすり見直すが目の前の数字は変わらない。


 数字は嘘をつかない、とかどっかの誰かの言葉を謎に思い出してしまった。

 だれだこんな言葉言ったやつ、憎たらしい!!


 「今だけは数字も嘘をついてくれぇぇッ!!」


 力を込めて念を送ってみても結果は変わらず。

 そんなことをしてたら1分が過ぎた。


 「あぁっ貴重な1分がぁぁぁッ?!」


 ってまた嘆いてたら時間が過ぎる!!


 「とりあえずやらねば! 宗教学と美術史でしょ? 余裕余裕、ノートを見れば……」


 開いたノートに見えるのはなぜか白紙のノート。

 なんで?!

 なんで書いてないの?!

 ……そうだ書いてないから、幼馴染の空に頼ったんだったぁぁぁぁっ!


 必死に頭のノートを探るけど、思い出すのはモーゼが海を割った映画を見た記憶だけ。

 なんでこんなどうでもいい記憶だけ……っ!

 余談だけどモーゼの海渡って科学的には起きた可能性もあるらしい、なんかの動画で見た。

 ってそんなことはどうでもよくて!!


 「終わった……」



 絶望感が身体を支配していく。



 「くっ、でも安西先生も言っていた、諦めたらそこで試合終了だと」


 諦めるにはまだ早い。

 俺の脳細胞は完全休養したおかげで準備万端。

 コンディションは最高。後は思い出すだけだ!

 昨日ジョブスは降りてこなかったけど、今日ならイーロンが降りて来る気がする。


 きっと俺なら外の星でも眺めればきっといいアイデアが振ってきて、宗教についても思い出すはず。

 多分昔の人もそうして宗教を考えたと思うし!

 善は急げと早速コーヒーを入れて外へ。



 「うぅ、寝起きに寒空はしみるぅぅっ」



 肌をさすりながら空を眺める。

 そこには満面の星空…………はなくどんよりとした暗雲だけ。



 「なるほど、終わった。 満点の星空が俺にアイデアを下ろしてくれるはずだったし昨日も下ろしてくれたのに……いやまだ諦めるには早い。俺の頭はかつてないほどに冴え渡っている!」




 コーヒーを含んで、飲み込もうとした瞬間。



「やっほ!」


 唐突に隣のベランダからにゅっと、きれいな顔が乗り出てきた。



 「ぅんぐふっ?!」


 「おっ!すっごい声出たねぇ!」


 変なところにコーヒーがはいった。そんな俺の姿をみて笑ってやがるし。

 ただ俺にはそれを怒る余裕もない。


 器官に、器官にはいったぁぁぁ、しぬしぬぅぅぅッ!


 「ごほごほごほほっ?!がーっはっ?!げほげほっ?!」


 「あはは、だいじょーぶ?てか今日もほんとにいたよこの子」


 何か言ってる気もするがこっちはそれどころじゃない。

 胸を何度もたたいてようやく息が整ってくる。


 「はぁっはぁっはぁぁぁ、死ぬかとおもたぁぁぁ」


 「ごめんごめんそんな驚くと思わなくて……ぷっ」


 謝ってる割に、笑いは止まっていない。

 あげく彼女は笑いすぎて涙まで出している。絶対この人反省してないぞ。


 ひぃって言って笑ってるし。


 落ち着いて横をみたら彼女の頬は赤みを帯び、手にはお酒も持っている。

 これ酔っ払てるな?


 「そりゃ誰だっていきなりぬって出てきたらこうなりますよ、コーヒー顔面に吹きかけなかっただけ感謝してほしいくらいです」


 「乙女を汚すつもりだったってこと?いやらしー」


 「語弊がありすぎる、それでいうならと自分から汚されに来たでしょ!」


 「人を被虐趣味みたいに言ってくれちゃって!このえっち」


 よよよ、と鳴きまねをする酔っ払い。

 全く付き合ってられないよ、俺にはやらなきゃいけないことがあるんだから。

 テストという大海を乗り越えなきゃいけないんだから。


 「なんなんですか、こっちは美術と宗教テストを乗り切る名アイデアが降りてきそうだったのに」


 実際コーヒー飲んでただけだけどね?

 でもいいショートブレイクにはなったと思う。


 「いやそんなもの簡単に降りてこないでしょ、しかもサラッと自分の記憶捏造してたけど昨日も名アイデアは降りてきてないからね?私が教えただけだからね?」


 「昨日降りて来なかったからと言って、今日降りてこないとは限らないわけで……」


 「はいはい、そう焦んないの。コーヒーを吹き、叫び続けた黒歴史の作成現場を昨日に引き続き見せ続けてくれた君にとってもいいものをみせてあげまっしょう、ちょいまち~」


 いうや否や酔っ払いさんは部屋へと戻ったかと思うと、何かを胸に抱いてすぐに戻ってくる。

 というか俺今黒歴史作ってるんか??

 え、まじ??


 「ほれこれかしたげるー、これで明日は乗り切れるんじゃなーい?」


 大学ノートの中身をぱらぱらと見れば、宗教学と美術史それぞれの要点が。

 ノート持ち込みおっけ―だからこれさえあれば乗り切れる。


 「…………」


 「お、お?感動に震えて声も出ないかにゃぁぁぁ?」


 「ありがとうございます!持つべきものはやっぱ良き隣人ですね!あなたは神だギャル神だ!!うわぁぁこれで気持ちよく寝れるぅぅぅ」


 俺が感動に打ち震えていると、酔っ払いさんはなぜか尺残としない顔。

 そして今気づいたけど、この先輩今日もなかなかに刺激的な格好をしている気がする……。

 でも今は眠気があるから、なんも思わんけど。


「変な呼び名つけないでよ、あとあのテストどっちもノート持ち込み禁止だから、それ覚えないとだよ?」


 彼女が指さすノートはぱっと見どちらも1冊分丸まる書かれている。

 これを1日で……?覚える……?


「え?」


「だから寝れないよ?」


「…………なるほど、ちょっと部屋で今すぐやることを思い出したのでこれにて失礼」


 そそくさと部屋へ戻る。

 まずいこれはまっずいぞ。


 あ。


 「……お礼は今度!本当にありがとう名もなきギャル神先輩!俺に出来ることならなんでもするから!」


 慌てて部屋の窓を占めて机へ。

 だから俺はお隣さんの言葉が聞こえなかった。


 「ギャル神ってなによ…………私名前あるんだけども……」


 静かな響きだけが場に残った。


 「ほんと、変な子というか昨日と態度違いすぎない??…………でもふーんなんでもしれくれるんだぁへぇ」


 そんな風に隣人が妖しく笑ったのは見えなかった。


 ちなみにテストはなんとか詰め込んだおかげで解けた。

 お隣さんマジギャル神。

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